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2018年2月27日 ココロココ編集部

人が集い、つながる場所にしたい。鹿角市でボルダリングジム&カフェ「アンロシェ」をオープンした伊藤栞里さん

突起物がランダムに設置された人工壁を、自分の手足だけでバランスよく登る「ボルダリング」。2020年開催の東京オリンピックでスポーツクライミングの一種として追加された競技ということもあり、今話題のスポーツです。今回は秋田県鹿角市に2016年10月にオープンしたボルダリングジム&カフェ「アンロシェ」を訪ね、東京から移り住んだオーナーの伊藤栞里さんに、ジムを開くまでの経緯や、秋田での子育てや暮らしについて聞いてきました。

偶然が重なり、ご主人のふるさと秋田県に移り住むことに

秋田県小坂町に移住し、すぐ隣の鹿角市でボルダリングジム&カフェ「アンロシェ」をご夫婦で営む伊藤栞里さんは東京都出身です。現在のブームになる以前からボルダリングが趣味で、長野県や山梨県の岩場で何度も登っていました。「アンロシェ」とはフランス語で「ごろっとしたひとつの岩」という意味です。

伊藤さんは同じくボルダリングが趣味だった秋田県出身のご主人と結婚し、東京都内で生活。子宝にも恵まれましたが、生まれつき体の弱かったお子さんをよりよい環境で育てたいと、移住先を探し始めていました。

「移住を考えるきっかけは1人目の子供の体のことがありましたが、本格的に動き出したのは、2人目を妊娠したタイミングでした。移住先は沖縄などのあたたかい場所がいいのではないかと探していたのですが、そこに夫の親戚が所有していた今の家が空き家になって、取り壊すかもしれないという話がたまたま出て。結婚してから、お盆やお正月はこちらに遊びに来ていましたから、知らない土地ではない。妊娠もわかっていたし、住まわせてもらえるならまわりに親戚が多いほうが楽だし安心というのもあって、2015年の冬に小坂町に引っ越してきました。」

伊藤さん

移住を考え始めてからはとんとん拍子に話が進んでいるように見えますが、お店を開くまでの経緯をうかがいました。

「東京では20代前半からボルダリングジムに通っていたのですが、そこの居心地がとてもよくて。ジムではあったんですが、人が集う場にもなっていました。私たち夫婦もそんなボルダリングジムを開くのが夢でした。それに東京オリンピックでスポーツクライミングが正式種目に追加されたこともあり、ビジネスチャンスともとらえていました。オープンまでに一番難航したのが屋根の高い物件探し。半年くらいあちこち探し、鹿角市でこの場所を見つけました。ここはもともと電機会社の事務所兼倉庫だった場所。義父や義弟が大工なので、改装については全面的に協力をお願いしました。」

工事中の様子

東京より北では初の多面体壁を設置している「アンロシェ」

アンロシェの利用年齢は小学校1年生から70歳代までと幅広く、大館市など近隣のエリアから通う方もいます。夫婦や親子、仕事帰りに訪れる20代、30代の会社員で賑わい、併設するカフェには子供用で難易度の低い壁があるので、お子さん連れのお母さんたちの憩いの場にもなっています。ボルダリングスペースの1回の利用料は1,600円、月間パスだと約1万円。オープンしてから2年2カ月で延べ1,445名の方に利用されてきました。

「利用者にはつきっきりで教えるわけではなくて、まず利用者自身がこの壁をどう登るか考えて動きます。質問やアドバイスを求められれば対応しますが、どちらかというと利用者が自分自身と向き合いながら挑んでいる時間のほうが長いですね。ボルダリングは、そういう、自分との戦いでもあるので。」

ボルダリングをする伊藤さん

秋田県内では秋田市に専門のボルダリングジムが1軒ありますが、多面体の壁があるジムは、東京より北ではアンロシェが初。伊藤さん曰く「壁が変わると気分も変わる」ので、定期的なメンテナンスに加えて、石の位置も変えるそうです。多面体の場合だと、よけいに維持管理にコストと手間がかかりますが、そこは大工である義父や義弟たちに支えられています。まさに親戚がそばにいるありがたさを感じているようでした。

壁に登っても登らなくても歓迎!人が集うボルダリングジム&カフェにしたい

伊藤さんに、ボルダリングの魅力と、これからアンロシェでやりたいことについてうかがいました。

「ボルダリングは不思議なスポーツで、仲間が自然にできる競技。人が登っているのを見て応援したり、お客さんどうしで教えあったり、助言したり。そういうコミュニティが自然にできるんですよ。それで仲良くなって、ほかのジムに遊びに行ったりされる方々もいらっしゃいます。」

ビジネスとして考えると、競技人口が増えるような取り組みを真っ先に考えますが、伊藤さんによると、ボルダリングを別の観点で浸透させたいと考えているようです。

ボルダリングジム&カフェ「アンロシェ」看板

「お客さんどうしが同じ会社の部署違いの同僚だったり、取引相手だったりして、アンロシェで改めて知り合って、つながりができた、深まったというケースもあるんですよ。そういうのは見ているこちらもなんだか嬉しくなります。」

「ボルダリングがつないだ縁をそうやって見ていると、競技そのものを浸透させたいという気持ちはあるのですが、それ以上に、壁に登っても登らなくても、人が集うようなジムにしていきたいなと思っています。それもあってカフェを併設しています。こういう店をやっていると、いろいろな人とつながれるのがいいですね。仕入れている珈琲豆は、オープンするからと挨拶にきてくれたカフェ『ことりうさぎ』さんのもの。店主の細井さんは、東京からUターンして起業された方なんです。美味しいというのもありますし、そういう出会いがあって取引させてもらっています。」

ジムに併設されているカフェ

子供がのびのび育ち、水も食べ物もおいしい小坂町

最後に、現在住んでいる小坂町での暮らしについてIターン者としての視点で話を聞きました。

「遊ぶところや買い物をするところは少ないですが、食の豊かさと子育て環境の良さは素晴らしいですね。小坂町は福祉や子育て支援が手厚いんですよ。保育士さんにも好い方が多くて、うちの子供ものびのびさせてもらっています。人と人とのつながりが近いので、そういうことが苦手でなければ子育てにはいい環境だと思います。こちらに来てから口にする食事と水が変わってきたせいか、ぜんそくや花粉症も軽くなりましたし、子どもたちもほとんど風邪をひかなくなりました。」

「大変だったのは雪道運転ですね。こちらに来てから運転免許をとったので、去年が初めての雪道体験でした。びっくりしたのは、ある日玄関に野菜と鍋が置いてあったこと。近所の方が料理したものをおすそ分けしてくれたんですよね。ありがたいです。」

伊藤さん

ご夫婦で秋田に移住し、長年の夢だったボルダリングジムを開設した伊藤さん。しかし、それは決して気負った起業ではなく、近くに住むご親戚の力も借りて、楽しみながら取り組んでいるように感じます。充実した子育てとも両立させ、ただのボルダリングジムではなく、人が集い、つながる場として次のステージを目指す伊藤さんの笑顔は、キラキラと輝いて見えました。

聞き手:藤野里美(株式会社キミドリ)

取材先

アンロシェ

秋田県北部の町、鹿角市にあるボルダリング&カフェのお店。利用年齢は小学校1年生から70歳代までと幅広い。多面体の壁があるジムは、東京より北ではアンロシェが初。

https://www.un-rocher.com/

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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