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2018年10月31日 ココロココ編集部

移住者たちが大活躍。秋田県大館市は若者たちによって変わっていく

秋田県の内陸にある街、大館市。青森と県境を接するこの街は、秋田犬、きりたんぽ、比内地鶏など数々の秋田名物の宝庫です。現在、大館市では新たな仲間を「地域おこし協力隊」として募集しています。毎年10月には大規模な「きりたんぽまつり」が催され10万人が集まるこの地では、今、移住者たちによるささやかな変革が起こりはじめています。
一体なにが変わりつつあるのか、その実態を探りました。

サテライトオフィスを開設。大館に仕事を

わっぱビルヂング

2018年8月JR大館駅から徒歩1分の立地に、複合ビル「わっぱビルヂング」が誕生しました。曲げわっぱの体験型観光や癒し空間、大館で新しくオフィスを構える人たちの拠点にしてもらおうと民間でリノベーションした複合ビルです。
1階には商業施設、2階にはシェアオフィス・コワーキングスペースと大館に拠点を作ろうとしている企業のためのサテライトオフィスのスペースが用意されています。

あしたのチーム 塩崎泰良さん

わっぱビルヂングのオープンと同時に、人事コンサルタント企業である「株式会社あしたのチーム」が居を構えました。勤務しているのは東京都出身の塩崎泰良(しおざき・たいら)さん。

実は塩崎さんは2018年の7月末まで、大館市の地域おこし協力隊として活動していました。
「移住プロデューサー」のほか、「大文字まつり」や「きりたんぽまつり」の運営などにも参加し、3年間大館の人と交流をしながら活動を続けてきた塩崎さんは、気がつけばすっかり大館に居心地の良さを感じ、そのまま住み続けたいと願うように。今回、ご縁があって、大館市がサテライトオフィスとして誘致した株式会社あしたのチームの社員となりました。

「僕が『ここに残る』という決断をしたときに、大館のいろいろな人たちが喜んでくれました。地域おこし協力隊として活動していたときにお世話になった人たちに恩返しできるように、サテライトオフィスの規模を広げて地元の人たちに働く場を提供していきたいですね」

さらには人事コンサルタントとして給与形態の考案などに携わる企業の一員として「大館で働く人がより豊かに暮らせるようにしたい」とも話します。

おしゃれなシェアオフィスに学生やクリエイターが集う

MARUWWA

わっぱビルヂングの2階にはシェアオフィス「MARUWWA(マルーワ)」があります。Wi-Fi利用やフリードリンクがついて3時間500円で利用できるこのスペースは、当初はフリーランスで活躍するクリエイターの利用が想定されていましたが、現在は中高生も勉強をするために利用するようになりました。適度に緊張感のあるおしゃれな空間が人気の理由のようです。

「MARUWWA(マルーワ)」の登場により、大館に新しい生み出す場、学ぶ場が誕生しました。

家族との時間も大切に。多様な働き方ができる街

いしころ合同会社

幸坂雪(こうさか・ゆき)さんは、2016年に東京からUターンしてきました。現在は「MARUWWA(マルーワ)」を運営しているデザイン会社・いしころ合同会社のデザイナーとして働いています。

「東京では主に印刷物のデザインをしていました。大館に戻ってくると同時にフリーランスになり、東京で受けた仕事を継続しつつ新たな仕事にも着手しています。大館に帰ってきてよかったことは色々あります。まずは、家族と一緒に食事ができるようになったこと。次に、ご近所の人がちゃんとどんな生活をされている方なのかわかること。そして、一日の時間の移り変わりが空を見て分かることです。また、東京に比べデザイナーの数が少ないので印刷物のデザインだけでなく物品の意匠や、『秋田犬検定』といった仕組みそのものを考えるような仕事も手掛けていて、幅広い仕事に携われるのも魅力的ですね」

主婦のクリエイティブチーム・ママプランも「MARUWWA(マルーワ)」を利用。ウェブサイトやチラシ制作、ライティング、デザインの仕事に取り組んでいます。秋田市からのUターン移住者であり、ライターとして活動する島田真紀子(しまだ・まきこ)さんは、

「大館市にはライターが非常に少ないので、あらゆる依頼が来ます。とにかく毎日仕事はあるので、地元のために頑張りたい人にはチャンスが多いのではないでしょうか」と話します。

ママプランのメンバーの中にはまだ小さなお子さんがいる方もおり、シェアオフィスができるまでは自宅で仕事をしていましたが、自宅にいると家事や育児につい追われてしまうところを、シェアオフィスがあることで集中して仕事ができるようになったと喜んでいるそう。大館にも、個人の生活スタイルに合わせた働き方をする人が現れはじめているようです。

Iターン・Uターン移住者が働く大館の新スポット

S.witch cafe

わっぱビルヂングの1階には、曲げわっぱの専門店とカフェが入居。佐藤姉妹が開いた「S.witch cafe(スイッチカフェ)」は地元の人の評判のスポットとなり、ひっきりなしにお客さんが訪れています。

佐藤姉妹は2人ともが関東からのUターン移住者。姉の佳菜(かな)さんはITの勉強をした後に関東の企業で働き、妹の菜穂(なほ)さんは横浜でパティシエをしていました。
2人で大館に戻ってくるにあたり、「せっかくなら大館にまだないものを作ってみよう」と開いたのが本格的なスイーツとコーヒーを提供するカフェ。バリスタの資格を持っている菜穂さんが淹れるコーヒーは丁寧に作られたスイーツにぴったりな香り高く深い味わいです。

明るくスタイリッシュでかわいらしいデザインのS.witch caféに訪れるのは女性客が中心になるかと思いきや、意外にも男女ともに幅広い世代のお客さんが訪れているそう。佳菜さんは現在の状況は、少し想像以上の反響だと話します。

「地元の人の憩いの場にしたいので、ゆっくりランチをとってもらえるようにしたいのですが、想像以上にケーキが好評でまだフードメニューまで手が回りません。でもこの店に来ることが地元の人の喜びになってくれているなら嬉しいですね」

歴史や伝統工芸を伝える仕事も移住者が担う

柴田慶信商店 清水彩さん

曲げわっぱの専門店「柴田慶信商店」で働く清水彩(しみず・あやか)さんは、岩手県出身の移住者。東京芸術大学を卒業後、東日本大震災を機に岩手へ戻り、2015年に大館を拠点にプロジェクトを展開するアートNPOゼロダテで働くために大館にやってきました。

NPO職員としての任期は半年のみだったのですが、もっと大館の文化資源を活かしたいと、柴田慶信商店で働いています。柴田慶信商店のわっぱビルヂング店の主軸は、自社製品の販売と創業者の慶信さんが収集した世界の曲げ物の展示、曲げわっぱの制作体験、3つのコンテンツです。清水さんはここで接客と販売を担当しています。

大学では現代アートを専攻していたという清水さんですが、もともと伝統工芸にも興味があったため、柴田慶信商店での仕事にも大変なやりがいを感じているそうです。「ここは次世代につなげられる『ものづくり』を目指す想いが詰まった場所になっています。私自身の今後の目標はお客様との会話を通じ、第二の作り手になることです」

また、プライベートでは、地場の食品や産業をPRするパンフレットなどの制作にも、ライターとして関わっています。「取材やインタビューをする際に、人々のオーラルヒストリーの重要性を感じます。その中にある大館の記憶を掘り起こし、後世に残していきたいですね」

移住者を支えるプロジェクトが稼働中

大館 移住者

街に変革をもたらす移住者を積極的に受け入れ、充実した暮らしを送れるようサポートしたいと考えている大館市では、移住者を支援するプロジェクトを複数同時に実施しています。

その中の一つが、地域おこし協力隊による支援。移住者同士の交流会「大館びとの会」を開いたり、大館の面白さをより深く知ってもらうために登山会を催したりするなど、移住者の繋がりづくりのサポートもしています。
自らも移住者である地域おこし協力隊は、生活の相談に乗ることも。

「雪かきや雪道運転の経験はなかったのですが、協力隊の先輩である佐々木さんが丁寧に教えてくれて助かりました」

そう話すのは愛媛県出身の小笠原美弥(おがさわら・みや)さん。移住して1年経った今でも、大館の魅力を知り始めた当初と変わらず、この街の人の温かさがとても好きだと感じています。

一緒に車に乗って雪道での運転を教えたという佐々木美佳(ささき・みか)さんは

「移住してきたばかりの人に、大館の魅力を伝えながらいろいろなことを教えるのは楽しいですよ。ぜひ頼ってもらいたいです」

と移住者を受け入れる喜びを語ってくれました。

大館の知られざる魅力・ミニシアター&温泉

大館 ミニシアター

大館 ミニシアター

あまり知られていませんが、大館は温泉とミニシアターの街でもあります。

特に温泉に関しては「街中どこを掘っても出る」に近い状態だそう。しかし、地元の人いわく「当たり前すぎてそれが特別なことだと思いませんでした」とのこと。街中に有名な温泉宿などはありません。これは今後の移住者たちが広めていくべき鉱脈かも……。

わっぱビルヂングのすぐ側には歴史を感じるミニシアターがあり、よりすぐりの1本を、レトロな空間で鑑賞することができます。音楽イベントなどもここで開催されることもあるそう。表のメイン看板は手書き、館内には飼育されている白ウサギが1羽、自由に跳ね回っているというなんとも不思議な空間です。ここも、これから移住を考える人にとっては何かとキーになる場所かもしれません。

新しい仲間を募集

数多くの移住者が活躍している大館市では、新たな仲間を「地域おこし協力隊」として募集しています。2018年11月から募集するのは、個人事業主であるクリエイター。大館の魅力を発信し、サテライトオフィスを呼び込みながら、クリエイティブな仕事を大館で続けていける人を募集しています。詳しい募集内容は下記の関連情報からご覧ください。

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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