北海道沙流郡日高町に移住して気づいた、環境に逆らわず活かす暮らしの魅力。

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北海道沙流郡日高町は山に囲まれた「日高地区」と、馬産地として知られる海側の「門別地区」がある日本一離れた飛び地のある町です。様々なアウトドアアクティビティが楽しめる「日高地区」に移住して、現在フリーランスとして自然ガイドの仕事をしている鈴木宏紀さんに日高町に移住した経緯を伺いました。

身辺に起こる出来事に逆らわず、受け入れながらも好きなこと、やりたいことに向かって進もうという生き方の鈴木さん。肩ひじ張らずに自然に人生を歩むその姿は、一見、舵を持たずに流れるままに進む舟に乗っているようにも感じました。

『風の人』が憧れる『土の人』

20代の頃は東南アジアを中心に国際協力の仕事をしていた鈴木さん。日本に帰ってくる度に、日本の都会に対する違和感があったといいます。

「たまに日本に帰ってくると『ここにいる自分は仮の姿で、本当の自分は海外で過ごしている自分』と思えるほど、漠然とした違和感がありました。」

帰国後は、埼玉県で自然体験活動を行うNPO法人に8年間勤めていました。そこでは自然学校と称して、都会の子どもたちを山梨や長野、栃木などの自然の中に連れ出し、一緒にキャンプやスキーをする活動を行っていたといいます。そんな活動をしていた鈴木さんが日高町に移住するきっかけはなんだったのでしょうか。

「自然学校という仕事をしながら、都会の子どもたちを集めて自然の中へ連れて行くより、自分が自然の中に暮らして、都会の人たちに来てもらうようなライフスタイルで暮らしたい、と考えるようになりました。そんな時、北海道日高町への赴任の話がありました。初めての場所で戸惑いもありましたが、山に囲まれて自然が豊富な日高町は自分に合っていると直感的に感じて、ここへ来ることを決意したんです。」

元々、海外も含めて様々な場所で暮らした経験から、転居することに対して心理的なハードルは低く、移り住んだ場所でその地域の人と交流しながら暮らすことが好きだった鈴木さん。現在も日高町にいる期限を決めずに、ここでしかできないライフスタイルを模索しながら暮らしています。

そんな話の中で、『風の人』『土の人』という表現方法を使い、移住と定住についての概念を語ってくれました。住む環境を変えることや、移住に対する抵抗感の少ない鈴木さんは自分のことを『風の人』だったと話します。

「行った先々で『風の人』である自分は、地域の文化や伝統を継承し自然の中で農業などの生業を営む『土の人』に憧れを持っていました。年齢を重ねるごとに転居を繰り返すことへのモチベーションが低下して、同じ土地で腰を据えて暮らしていきたいと思っていたタイミングで赴任の話がありました。仕事は3年間の契約だったのですが、契約終了後も日高町の素晴らしい環境や、知り合った魅力的な人達に囲まれて暮らしたいと思い、定住を決めました。」

北海道の厳しい冬を経験してみて

鈴木さんがそこまで日高町や北海道の環境を素晴らしいと感じるのには、どんな理由があるのでしょうか。

北海道を訪れた経験がなかったことから、鈴木さんがイメージする北海道は当初、『とても遠く』『とても寒い』ということだけだったそう。肉親からは「北海道は人が住むところじゃない」と反対もされたそうです。『自然が多く、北海道全部が国立公園みたい』なイメージしかなかった鈴木さんが、少ない情報で北海道に来ることを決めたのも、『旅は行き当たりばったりだから面白い。どんな場所でも住めば都』というポリシーからでした。

「北海道は本州と比べてとても寒いのですが、日高町で暮らしてから一番好きな季節が『冬』になりました。雪や氷が一面を覆う景色は今までの人生で経験したことがなく、厳しいけれど美しい景色に感動しました。幸い、厳しい環境を快適にして楽しむコツは日頃の自然体験活動で持ちあわせているので、北海道の冬も楽しむことができるのだと思います。冬はスキーを楽しんだり、スノーシューで雪の中を歩いたり、雪の中で焚火をしてキャンプしたりなど、雪があるからこそ楽しめる活動も大好きです。本州でもスキーはやっていましたが、、いつでもスキーができる環境は素晴らしいです。仕事が終わってスキーを1時間ほど滑って、温泉に入って帰るような環境は北海道ならでは。冬は週に3、4回は通っていました。この生活は幸せすぎます!」

元々寒い場所が苦手だった鈴木さん。今では、北海道ライフを満喫している様子。鈴木さんは、何かを強く決意したり、心配したり、綿密に計画を立てたりすることなく、流れが赴くままに行先を決めているようですが、自分の好きなことや「やりたい!」という気持ちには非常に敏感であり正直です。その本能的な感性が、楽しく人生を生きていくうえで大切な要素であるようです。

フリーランスとして日高町で独立して 現在の仕事、これからの目標

2018年にフリーランスとして独立した鈴木さんに、現在の仕事とこれからの目標についても聞いてみました。

「現在は、前職で担当していたキャンプ場の夏場の運営管理や、近隣の自治体での自然体験活動のサポート、日高町に来る方々へのガイドやキャンプのサポートなどを行っています。今後は、日高町の自然を活かしたガイドの仕事を増やしたいと考えていますが、現在のところ”自然ガイド”としての仕事はまだまだ少ないのが現状です。一方で、日高町には素晴らしい体験が可能な場所がたくさんありますが、その魅力を伝えられる人が少ないことが課題だと考えています。観光協会のようなコーディネート組織があっても、その仕事を引き受けるガイドや事業者がいなくては、地域の観光は発展していきません。今後は日高町の自然やそこで営まれている暮らしや文化を案内する役割を担っていきたいと思っています。」

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鈴木さんの将来の目標は、宿泊と自然体験を組み合わせ、田舎のライフスタイルをディープに体験してもらうプログラムを企画していくこと。清流で釣りをしたり、雪の森の中を歩いたり、自分で収穫した食材を料理して食べたり、より深い体験ができるフィールドを創りたいと話してくれました。

移住したからこそわかる都会と田舎の違い

都会と田舎の双方の暮らしを経験し、その違いを身をもって体感した鈴木さん。都会の人にこそ自然の中での体験や、田舎で暮らす体験が必要だと感じているといいます。

「都会はサービス業が中心で、技術やサービス、金融などによる複雑な経済活動を行っていますが、自然の変化やサイクルを感じながら暮らしている人は少ないと思います。田舎では本業が別にあったとしても野菜作りや山菜採りなどをやっている人が多く、地域の行事に参加するなど住民間の交流も活発に行っているので、生活の基盤がしっかりしています。そのため田舎では、災害に見舞われたとしても、自給自足や地域の助け合いで被害が軽減されます。都会では経済活動に依存している人が多いので、創造的である一方、災害時などのリスクは高いと思います。」

また、田舎の暮らしは自然や季節の変化をダイレクトに感じることができ、仕事に疲れた都会の人に対して、体と心を休めてリフレッシュし、創造性を取り戻す(Re-creation)機能があるとも話します。
今後、日高での体験プログラムが充実して、自然ガイドを含む観光関連の仕事が増えていき、同じようにフリーランスや小規模事業者として働く若い世代が日高町で増えることが望ましいと鈴木さんは考えています。

「移住者を含む住民一人一人が事業者としての自覚を持ち、お互いを補い合うような仕組みを作ることが理想です。田舎にはビジネスチャンスが少ないと考えている人が多いと思いますが、アイデアやデザインで新しい仕事を作っていくことが可能なフィールドだと思います。顔が見える関係が築きやすいのも田舎の良さです。厳しい場所でもチャンスは必ずあるので、日高町に同じ想いを共有できる人が一人でも多くなると嬉しいですね。」

鈴木さんが語る夢は、日高町のメリットを最大限に活用することで多くの人に幸せをもたらすことでしょう。

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鈴木宏紀/自然考房Nature Designing代表 Suzuki Hiroki

愛知県出身。宇都宮大学農学部(林学)卒業後、青年海外協力隊植林隊員としてタイで活動。以後、国際協力NGOや国内の野外教育NPOで青少年の環境教育や自然体験活動に取り組む。2015年4月に北海道日高地区に移住し、国立施設での勤務を経て、2018年に自然考房を開設。現在は自然ガイドや野外活動施設の運営を行うほか、体験ツアーやイベントの企画・運営を通じた観光まちづくりに取り組んでいる。

HP:https://nature-designing.business.site/
facebookページ:https://www.facebook.com/naturedesigning/

ココロココ編集部

ココロココ編集部cocolococo

ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。
目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。
東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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