ユーザー、メーカー、デザイナ―の3者が交わる場所
「燕三条トライク」は、三条市の一ノ木戸商店街、昭栄商店街、中央商店街の3つの商店街が交わる交差点にあり、かつて「とらまつ」という愛称で親しまれていた旧商店。昔は三条の象徴的な建物だったそうだ。そこをオフィスとして使えるシェア空間へと改築した。
「『衣食住』をコンセプトにしたスペース、被服室と調理室と工作室を作り、そこに商品の使い手であるユーザーが集まる。集まったユーザーにメーカーは商品を使ってもらい、もっとこういう道具があったらいいね、という意見をデザイナーが形にしていく。ユーザーとメーカーとデザイナー。この三者が交わって新しいものづくり、新しい価値が生まれる場所にしていきたいというのが一番大きなコンセプトです。」
「トライク」という名称は、元々は虎松商店なので「トラが待つ」だったのが、新しくここが出来て「トラが行く」というダジャレだと小山さんは笑う。よくよく聞いてみると、三条市の「三」や、「三つ」の商店街の交差点に位置する所、ユーザーとメーカーとデザイナーの「三者」、オート三輪を「トライク」ということなど、「3」を意味する「トライ」と、挑戦するという意味の「トライ」。そんな思いが込められているということだ。
巨大な本棚が人と人をつなげる
1階はメインのフリースペースの他、和室、キッチン、DIYルーム、被服室、ショップ、暗室、そしてなぜか防空壕がある。2階は広い和室と個別のブース席が用意されている。
ここがものづくりの現場になるように、パソコン、スキャナー、プリンター、FAX、プロジェクター、スクリーン、ラミネーターなどのオフィス用品や、裁断機、レーザーカッター、カッティングマシンなどの工具類も用意されていて、自由に使うことができる。
1階のフリースペースには「人と人がつながるライブラリー」をコンセプトに、巨大な本棚を設置。ひとり5冊以上の本を置くことを条件に、ひと棚をレンタルできる。どういう本を置くのかは本人の自由。本棚を通して自分をプレゼンすることができる。
「後々、こっちに仕事場を作りたいから、本だけ置かせてほしいという人もいます。移住したいクリエイターは多いけれども、東京に比べると仕事が少ないから、2拠点で行ったりきたり。できるだけここで宣伝して、仕事につながるような役目をできたらいいなと思っています。本棚から移住ができそうな気がしています。」
燕三条との出会い
小山さんは埼玉県出身。東京で別の仕事をしていたが、ものづくりに関心があり、日本のものづくりを支援するNPO「メイド・イン・ジャパン・プロジェクト」で活動していた。そこで燕三条の方と会う機会があり、一緒に何かやらないかというお話を頂いたのが、燕三条との出会いだった。
2008年から月に一度は燕三条に通うようになり、2009年には「燕三条プライドプロジェクト」という地域ブランドのプロジェクトに関わるようになる。それがきっかけとなり、翌2010年に、大学院に入り直すことになり、先生や仲間とも話をするうちに、考えが変わってきたという。
「技術のある地場産業に、いろんなクリエイターが入っていく場を作り、若いプロダクトデザイナーが、自分のブランドを発信していくような仕組みを作っていくのがいいと思うようになりましたね」
より深く地域に入り込んで研究、活動したいと考え、2011年3月に大学院を休学し、燕三条に移住した。当初は仕事も決まっていなかったが、アルバイトをしながら可能性を探っていった。
物件発見!
2013年10月に現在の物件に出会う。以前は、明治時代から時計や宝石、写真などを扱っていた商店だったところ。秘密基地的な雰囲気があって、ずっと気になっていた。そこが賃貸物件として貸出されることになり決断した。
開店資金はクラウドファンディングで集めたのと、三条市の古い建物を活用する助成金をもらうことができた。
「燕三条出身で将来Uターンしようと考えている人が、クラウドファンディングを見て、今後こっちに戻ってくるときの拠点に使いたいという話はすごく多いです。」
店内のレイアウトは、「燕三条トライク」に賛同したクリエイター達がアイディアを出し合い、実際の改築では、友人の大工さんが手伝ったり、みんなで作業した。細かい設計図を作らずに「ここからここまで壁をぶち抜く」など、イメージとフィーリングを重視して行われた。
情報のハブとなるスペースに
「燕三条トライク」ができて完成というわけではなく、まだまだ展開していきたいことがあるという。
「まず情報の格差をなくして、最先端の情報をここで得られるような場所にしていきたいですね。技術ライブラリを作りたいと思っていて、こっちの技術を東京に届けるような仕組みを作ります。コワーキングスペースやシェアスペースが、これからハブになっていくと思っていて、そこの連携は増やしていきたいです。」
「将来的には、東京側にも同じようなスペースをつくりたいなとも考えています。モノを作って、使いながらためして、その場で販売もできるような場所を作りたいです。さらにそこで燕三条をアピールして移住してくれる人を増やしていきたいなと考えています。」
次々と面白い手を打っていく小山さん。「燕三条トライク」も現状で完成ではなく、昨日はなかったものが今日はあったりと、どんどん進化しているようだ。いろいろ考えてから行動するのではなく、まず動くという小山さんが、次は何をするのか楽しみだ。
取材日、「燕三条トライク」では会員の方々でクリスマスパーティが行われていたので、参加させてもらった。会員の方同志でも、この日初めて会うという方もいて、この出会いが新しい価値、新しい商品を生み出すと思うと、非常にワクワクする会だった。