記事検索
HOME > つながる > 体験滞在 >
2019年10月3日 岩手移住計画

地域資源を活かした仕事にふれ働き方を見直す
岩手県移住交流体験ツアーレポート

全線開通した三陸鉄道に乗って岩手県沿岸部の暮らしを体験した第1弾ツアーに続き、9月には「県北de ほっこり暮らしを体験ツアー」と題し2泊3日で岩手県北部にある4市町村(二戸市、一戸町、軽米町、九戸村)をめぐりました。このツアーに参加後に二戸市に移住した先輩移住者おふたりを訪ねたツアーの様子をご報告。今回も、岩手県北観光とともにこのツアーを運営している岩手移住計画の手塚が担当します。

地域の暮らしを楽しむ「先輩移住者」たち

今回の「先輩移住者」は、2015年に県移住交流体験ツアーに参加し、その後に二戸市に移住した五日市綾子さんと後藤佐紀子さん。五日市さんはフリーランスでマーケティングリサーチの仕事を受注しています。

五日市さんとツアー受け入れの協力をしてくれた3人の方々

一番右が五日市綾子さん。ツアー受入れの協力をしてくれた皆さんと

後藤さんはツアーで漆塗りの工房・滴生舎(二戸市)を訪れた際に漆のとりこになり、数ヶ月後には滴生舎で塗師(ぬし)として修行を始めました。

漆塗りのうつわを手にする後藤佐紀子さん

漆塗りのうつわを手にする後藤佐紀子さん

後藤さんはツアーで初めて岩手を訪れ、半年もたたないうちに移住した行動力の持ち主です。おふたりとの出会いを通じて、参加者の方々にも移住へのステップについて考えてもらいたい、とおふたりとの交流の時間も盛りだくさんのツアーになりました。

「先輩」五日市綾子さんと地域食材の料理体験

JR二戸駅に到着した一行は市内の集会所へ。そこでは五日市さんとそのお友達がエプロン姿で迎えてくれました。もともと料理が好きだった五日市さん。二戸市に住み始めてからは、ロケーションのよいところで地域食材を味わう「どこでもラウンジ」という活動を始めました。今回はその活動の一環で、少しだけ参加者も体験しながらランチを作りました。

近くで採れたとうもろこしやかぼちゃを使用したランチ

この日のランチ。どれも近くで採れた野菜やお肉を使っています

参加者が体験したのは、岩手県の郷土料理「ひっつみ」。ほうとうに似た汁もので、「ひっつみ」は「ひきつむ」のなまったものだとか。小麦粉を練ったものを引っ張ってつまんで小さなかけらにし、熱い汁の中でゆでます。ほかにもナスやズッキーニ、トマト、とうもろこしなどを使い、二戸の野菜の美味しさを引き出すお料理が並び、参加者は感激。この日の野菜(一部)の生産者さんから農業の苦労や楽しさに着いてお話を聞くこともできました。

雑穀のまち軽米で文化と農業にふれる

軽米町に移動すると、町中心部の近くに大勢の人が。この日は町最大の年中行事「軽米秋まつり」の日でした。地元のご厚意で参加者も山車を引かせてもらうことに。

軽米秋まつりの様子。ツアー参加者もおそろいの法被で参加。

ツアー参加者もおそろいの法被で参加

地域の方にお祭りの歴史や長い行列について説明してもらい、立派な山車を引っ張りました。少子高齢化に伴って、山車を小さくしたり、郷土芸能の団体が活動を中止したりと、人口減少は地域のお祭りの運営にも影を落としていると言いますが、ツアー参加者は「静かな町だと思ったけれど、祭りが始まるとこんなにたくさんの人が出てくるのか」と祭りの熱気に驚いていました。

この日の夜は、二戸市、一戸町、軽米町、九戸村の4市町村の移住定住促進の担当職員に来てもらい、それぞれの自治体の特徴や移住促進の取り組みについて紹介。二戸市の漆、一戸町と九戸村の農業担い手促進の取り組み、軽米町の雑穀や再生可能エネルギー……、各自治体の特徴が見えてきました。

翌朝は、町内の「尾田川農園」の尾田川勝雄さんの案内で、契約農家のアマランサス畑へ。

鮮やかな赤色のアマランサス畑

色鮮やかなアマランサスが一面に

尾田川さんは娘さんのアレルギーをきっかけに無農薬栽培に関心を持ち、無農薬の雑穀と加工品の販売に取り組み始めました。今では無農薬に限定して雑穀を栽培する契約農家が近隣の市町村に約300軒に増えました。「冬場は凍てつく厳しい寒さの地域だからこそ病害虫も少なく無農薬栽培が可能。自分たちで作ったものを食べて暮らせる価値はほかのものには代えがたい」と尾田川さん。地域の環境を壊さず持続させていきたいという強い思いに触れ、参加者からも質問が相次ぎました。

地域の手仕事の担い手を訪ねる

その後の二戸地域雇用創造協議会作成の「カシオペアクラフトマップ」を手に、手仕事の現場を訪ねまる。最初は、九戸村の「高倉工芸」へ。ここは高級なものだと1本100万円以上するというほうきを作る工房。

大手百貨店で販売されているほうき

大手百貨店で販売されているほうき

ホウキモロコシの畑や制作現場を見学し、商品へのこだわりや職人育成の苦労についても伺いました。

ホウキの原料・ホウキモロコシの畑を見学する様子

ホウキの原料・ホウキモロコシの畑を見学

そして、後藤さんの勤務先・滴生舎へ。滴生舎のある二戸市浄法寺地区は、漆の木の栽培がさかんです。現状、漆の自給率は3%で安い外国産の漆が圧倒的に多い中、国産漆の70%が岩手産でその全量が浄法寺地区を中心に二戸市周辺で採取されています。

滴生舎のショールーム。奥で職人たちが漆を塗る様子も見られる

後藤さんは4年前、このツアーで滴生舎を訪れ、木材で作ったうつわに漆という樹液を塗り重ねるという手法に魅せられたと言います。ツアー後に自身で二戸市や滴生舎に連絡を取り、就職することが決定。「最初はまったく知らない土地で生活することに不安もありましたが、積極的に自分が動けばどんどん知り合いも増えます」と話します。

漆の説明と見学の後は、後藤さんの指導のもと、使い込んで磨くほど美しいつやが出るという漆の特徴を体験。磨き粉と油をつけた布で漆塗りの根付を磨いて光らせます。

一生懸命、漆を磨く参加者たちの様子

一生懸命、漆を磨く参加者たち

この日の夜は名湯・金田一温泉に五日市さん、後藤さんを招いての夕食交流会。

参加者たちと女性同士で交流する先輩移住者のふたり

参加者たちと女性同士で交流する先輩移住者のふたり

ツアー参加者がそれぞれの視点で暮らしや仕事についてふたりに質問し、夜遅くまで盛り上がりました。

ツアー参加者の集合写真

無駄なく広葉樹を使い切る「岩手木炭」

いよいよ最終日。九戸村で長年、木炭を生産・販売する「七戸産業」へ。飲食店やアウトドアむけに首都圏、関西を中心に全国にナラの炭を出荷している同社。岩手県内で作られた「岩手木炭」は木炭生産量全国1位で、さらに九戸村を含む県北部が県内生産量の9割を占めています。

参加者は3グループに分かれて、炭窯の中に入ってナラの木を並べる作業や出来上がった炭を取り出す作業などを体験しました。七戸智弘社長は「木炭生産は専業はもちろん、農業や林業などとの兼業もできる」と説明。参加者は、一次産業の働き方の多様性に驚いた様子でした。

七戸産業での作業の様子

今回は、ツアー参加後に移住した「先輩移住者」との交流や、一次産業、ものづくりを担う地元の方々との交流を通じて、地方だからこそ実現できる暮らしや仕事について考えていただきました。

第3回ツアーも申込受付中!

岩手県移住交流体験ツアー第3弾は11月2日~4日、岩手県八幡平市、雫石町、盛岡市を舞台に「岩手山を望む『岩手型サステナブルライフ』のすすめ」と題して実施します。エコや地産地消といったサステナブルな暮らし・取り組みを行う地域を訪れ、先輩移住者とも交流します。

岩手移住計画
記事一覧へ
私が紹介しました

岩手移住計画

岩手移住計画岩手移住計画は、岩手にUターン・Iターンした人たちの暮らしをもっと楽しくするお手伝いをし、定住につなげていくために活動している任意団体です。県内各地で、「岩手移住(IJU)者交流会」と題したイベントを開催しているほか、岩手県などが主催するUIターンイベントにメンバーが参加し、移住希望者の相談にも対応しています。首都圏と岩手をつなぐ活動にも力を入れています。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む