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2019年11月22日 ココロココ編集部

クリエイティブな力を社会貢献に。「宝塚大学」が「下駄の水鳥」と取り組む異色の擬人化プロジェクト

「宝塚大学」は芸術と科学の協調を掲げる芸術大学です。芸術にITやマルチメディアを取り入れ、マンガやアニメーション、ゲームといった分野を学べる東京メディア芸術学部と、大阪梅田にキャンパスをもつ看護学部からなります。そんな宝塚大学では、学生のクリエイティブな力を生かして、様々な地域で企業や自治体など産・官との連携を強化しています。

地域や地場の中小企業にとっては、その活性化のためにコストを抑えながら新しい視点を取り入れることが可能となり、大学にとっても、その経験をもとに学生がスキルアップ、さらには社会に出た後も活躍していくことが期待できます。

これまで、兵庫県川西市や宝塚市、キャンパスを置く東京・新宿区など多くの自治体と連携事業を展開しています。また、各地の企業や商店街などともその連携の輪を広げています。こういった実績が成果をあげ、宝塚大学は2018年度入試以降、入学者数が増えているとのことです。

今回は、そのうちの一つ、静岡市で下駄づくりを行う「株式会社水鳥(みずとり)工業」との産学連携事業についてお話を伺ってきました。この事業では、株式会社水鳥工業の下駄を擬人化したキャラクターを制作、水鳥工業もこれを活用することで新しい客層を取り込もうとしています。

お話を伺ったのは、今回の事業でプロデューサーを務めた宝塚大学メディアデザイン分野の渡邉哲意(わたなべてつい)教授、キャラクターデザインを担当した東京メディア芸術学部助手の和田歩美さん、そして株式会社水鳥工業(以下、水鳥工業)の社長、水鳥友紀子さんです。

渡邉哲意(わたなべてつい)教授、和田歩美さん,水鳥友紀子さん

このプロジェクトで制作されたキャラクターが「水鳥ここん」。水鳥工業が展開する「m2(えむに)」というブランドから生まれた『KOKON(ここん)』という商品がそのモデルです。

「水鳥ここん」

「水鳥ここん」は2017年の業者向けギフトショーで発表後、企業広報用のTwitterアカウントでの活動を中心に、宝塚大学の広報誌内で連載されている漫画や、大学主催のアートイベントとコラボレーションしてきました。ネット上で2次創作やコスプレの題材にされるなど、確実にファンを獲得し、予想以上の広がりを見せているといいます。現在では、「水鳥ここん」をきっかけにファンが来店するなどプロジェクトを通じた効果も少しずつ見え始めています。

「長時間履いても疲れにくい、日本一履き心地のいい」水鳥工業の下駄

1937年創業の水鳥工業がつくる下駄の最大の特徴は「足と一緒についてくる」という履き心地です。水鳥工業の履き心地のよい下駄のルーツは、友紀子さんの祖父である水鳥太一氏がサンダル材料の加工を始めたことに端を発します。

友紀子さん「祖父の代では、平面の下駄の「部材」、つまり木の原料のところを切って、販売していたのがスタートです。その後、サンダルシューズの部材屋さんになった時期もあったようです。その時に、足の裏に当たる中敷きの部分をつくっていたことから、足の裏にどういうふうにフィットしたら履き心地がいいのかっていうアイディアを持っていて、それと下駄の部材をミックスさせて、商品として下駄を製造・販売しはじめました。」

枠にとらわれない商品

その後、通常の下駄以外にも、洋装にも合わせやすいようにヒールのある下駄や、デザイナーとのコラボレーション、織物や刺し子といった他の伝統工芸を組み合わせた商品を発表するなど、枠にとらわれない商品をつくってきました。

今回、擬人化の題材となった『KOKON』もそういった商品の一つです。台の部分が漆で塗られ、鮮やかで光沢のあるグリーンとゴールドのラインが映える『KOKON』。様々な商品の中で最も高い20万円という価格がつけられた高級下駄です。

友紀子さん

友紀子さん「塗りは、会津若松の坂本乙造(さかもとおとぞう)商店さんです。もともと展示会などで一緒に出展していたお店で、漆塗りのジュエリーなど、漆の新しい商品をつくっているところなのですが、それがすごく素敵で。『うちの下駄も塗ってもらえたらいいな』とをぼんやり思っていたんです。

当時は、『とにかくびっくりさせるものをつくって、株式会社水鳥工業という会社の、“新しいものにチャレンジする”というイメージを伝えたい」のが目的でした。漆塗りの20万円の下駄をつくったら、お客さまに「水鳥、次はこんなことをやったのか!」って驚いていただけるかな、と。そういう、「看板になる商品をつくりたいんです!」ってお願いをしたんです。」

こうして積み重ねてきた「チャレンジする株式会社水鳥工業」が、今回の擬人化プロジェクトにもつながります。

擬人化プロジェクトのはじまり

宝塚大学と水鳥工業がプロジェクトに取り組み始めたきっかけをつくったのは、水鳥工業の企画・広報担当として擬人化プロジェクトの旗振り役を担った島田さんです。

島田さんは、宝塚大学の出身、渡邉教授の教え子にあたります。その島田さんを通じ、株式会社水鳥工業の販売イベントへ学生を派遣したり、逆に下駄を題材にデザインのレクチャーをしたりと、以前から相互交流があった両者。2016年、島田さんが、社長である友紀子さんに下駄を擬人化してはどうか、と提案をもちかけます。

 擬人化プロジェクト

友紀子さん「最初は、下駄を擬人化する意味がまったく分からなかったんです。静岡ではこれが流行っていると、ほかのキャラクターを見せてもらっても、ぴんとこなくて。ただ、プロのイラストレーターに頼むのではなく、学生との共同プロジェクトにして進めれば面白いんじゃないか、という提案に少し興味を持ちました。」

「結局、やることを決めた理由は、擬人化してキャラクターをつくること自体というよりは、学生さんとの関わりの中で下駄の認知を広げられるかも、という部分と、『チャレンジする水鳥工業』という部分ですね。島田のかなり粘り強いところも影響したかもしれませんが(笑)」

擬人化のビジネスモデルと「宝塚大学」の強み

こうして動き始めたプロジェクト。プロデューサーである渡邉教授には”産学連携”ならではの戦略を立てていました。

渡邉教授「まず、モノの擬人化にはすでに確立されたビジネスモデルがあるんです。ネット上で絵師(イラストレーター)さんの公募をかけ、集まった中から一番を決めて企業に選んでもらう。それをグッズ展開するというモデルです。ただ、我々はビジネスでやっているわけではありませんし、水鳥工業さんもそれを求めていなかったので、企業にはできないことをやりましょうと提案しました。

ただのPRで終わらせないようにするためにも、つくったキャラクターが人間のように、会社での立ち位置を持って役立つことが必要です。それには、キャラクターは下駄の良さを広げていくための存在、そのためのメディアとして、読み物の漫画を選びました。」

渡邉教授

このようなプロモーションを企業に依頼した場合、キャラクター制作と漫画とのコラボレーションだけで、相当な金額になるのだそう。それを、メディアも扱う芸術大学の”研究”として企業と連携できるのが宝塚大学の強みです。

ストーリーによって動きを出すことができる漫画を採用することで、キャラクターの性格やブランドイメ―ジをより伝えやすくなる、という狙いもありました。

キャラクターデザインを担当したのは、当時大学院の研究室で漫画の研究をしていた和田さんです。大学の広報紙内で、グルメ紹介の漫画を担当していたこともあり、研究室を通じて話が回ってきましたが、擬人化は初めての経験だったといいます。

和田さん

和田さん「最初は、下駄のキャラクターということで、思いっきり和に寄せて黒髪和服を作ってみたりしたんですけれど、水鳥さんの『洋服でも合わせられる下駄』っていうテーマもあり、型にはまらないキャラクターをデザインできないか、という話になりました。」

キャラクターの考案、制作期間は2016年9月からギフトショーの行われる2月までの約半年間で行うことが決まりました。

キャラクターの考案、制作

「水鳥ここん」のお披露目、その反応は

そのほかにも、会社のブランドイメージを損なわないよう、渡邉教授や島田さんと細かくやりとりしながら生まれた「水鳥ここん」。ギフトショーで発表すると、業者からの反応はよかったといいます。

友紀子さん「ギフトショーでは良い評価をして下さる業者さんが多かったですね。『やっとやってくれたんだ』って言ってくださって。その後は、個人でもうちを知ってくださる入口として『ここんちゃんがかわいいから』という方が増えてきて、面白かったですね。ギフトショーは業者向けですが、発表した翌年の展示会は個人のファンの方が見に来てくれたり、秋田県や群馬県からお店に会いに来ました、って自作の消しゴムハンコを作ってきてくれたかたもいらっしゃいました。」

ギフトショー

「正直、どんな反応があるのかわからなかったので、ここんちゃんがいなければ、縁のなかったであろう方が下駄のお店に来てくれることは、すごくありがたいですし、チャンネルが一つ増えたという認識があります。」

水鳥工業が運営するTwitterアカウントでは、思わぬ反応もありました。

和田さん「あるキャラクターをお題で出して、みんなで絵を描くっていう企画があるんです。そこにここんちゃんが取り上げられて、全国の絵かきの方が二次創作を書いてくださったんです。そうやって広がっていくのが見られたのは、嬉しかったですね。」

このように「水鳥ここん」によるプロモーションに、多くの反応があったのには、渡邉教授のさらなる戦略があったから。実は、開始後2年目となる昨年、キャラクターを合計7人に増やしたのです。

キャラクターを合計7人に増やした

渡邉教授「おそらく、『ここん』という1人のキャラクターだけでは、ここまでの反応は強く出なかったのでは、と思っています。80年代のアイドルと違い、現在のアイドルは大量のメンバーを持つ方式になっています。そのチームの名前が売れれば、認知度が上がっていくので、誰がどのメンバーのファンになるかはあまり関係ないんです。だから、水鳥工業という名前やブランドを広げていくのも、ここんちゃん一人が戦う必要性はないですし、いろんな好みの人をターゲットに入れるほうが、その可能性は上がっていきますよね。」

例えば、”萌え”要素のあるキャラクターを作ると、初めは男性ファンがつきますが、水鳥工業の商品は女性向けの下駄が半分以上を占めています。それであれば、と姉妹や男性のキャラクターを展開します。

アイドルプロデューサーのような視点で、どうブランドイメージを保ちながらターゲットを広げていくかを常に考えています。

渡邉教授「フラッグシップと、それに並ぶラインナップを見せていくことも重要です。ちゃんと男性ものもあるよ、ってこととか。それから、子ども下駄に展開できるような仕掛けを考えてたり、人数がいると、いろいろアイディアが浮かんできます。」

産学連携の成果と今後

ブランドの展開を念頭に置いたうえで、大胆な展開を続ける水鳥工業と宝塚大学の産学連携。

大学側としてはその成果をどのように感じているのでしょうか。

渡邉教授「何を成果とするかですが、僕のテーマは、キャラクターの知名度が上がっていく以外にも、人やお金の面で余裕がないような中小企業などでもこういうキャラクターを生かせる方法を、もっと考える必要があると思っています。

そのためにも、大学として『実験』をしなければいけなくて、今は長野県の長野電鉄さんで電車のラッピング実験をしています。大学の広報としてラッピングをして、その費用対効果を測るものです。これまでにも、静岡駅に大学の広告を出すときに、ここんちゃんをセンターに置いて、広報として出してみたことがあって、これは、大学的には効果が出たんです。ここんちゃんのキャラクターが目を引いて、受験をしたっていう人が出たんですよ。」

渡邉教授

友紀子さん「駅のポスターは良かったですよね。エスカレーターのところの。あれを見て(水鳥に)見てくれる方もけっこういました。」

渡邉教授「産学連携だから、『大学にとってもいいし、企業にとってもいい』という形を作っていかなきゃ意味がなくって。そういう意味では、水鳥さんにそう言っていただけるのなら、研究室のプロジェクトとしての成果は出たのかな、と思っています。ただ、売り上げに貢献できていたかどうかは、集計できていないので、課題ですね。」

友紀子さん「今のところ、専属の担当を置くとか、会社としてそこまで注力ができていないというのも事実ですが、ここんちゃんを目的に店舗に来てくださる方がいたり、メインで活用しているTwitterでも、発信をするとなにかしらの返りがあるので、引き続き、ここんちゃん達のファンを広げて、水鳥にもつなげていくことを継続的にやっていきたいですね。将来的には、修理の問い合わせ対応をキャラクターにやってもらったり、といったイメージはありますよ。」

ここんちゃん

渡邉教授「大事なのは、『ちゃんと続けていく』ということなんですよね。実際、消えていくキャラもいっぱいいるんですよ。キャラクターを作っても、社員やお店の人がその意味を理解していなくて、『こんなキャラクターでやっています』ぐらいしか説明できない場合も多いんですね。

でも、ここんちゃんの場合は、一緒に会社としてどうするか、って方向も考えていただいています。我々はお金儲けが目的じゃないから、いろいろなアイディアは口に出しますけれど、もちろんビジネス的な部分も大事なので、無駄にお金を使うわけにはいかないわけです。

じゃあ、どの方法をとるのがいいのか、ということを、つねに我々と水鳥さんとで、相談をしながら進めてきたので、今後もそういう形でいきたいですね。」

学生や大学のもつ力を融合させながら、クリエイティブの面で企業や地域と連携・協力を行う宝塚大学。チャレンジする、面白い取り組みを続ける水鳥工業のような、地場の企業との連携によって、今後も新しい価値や地域の活性化事例が生まれていくかもしれません。

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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