地元の人が使い続けてくれる空き家改修
芝浦工業大学建築学部の自主団体「空き家改修プロジェクト(AKP)」によって誕生した「ダイロクキッチン」。東伊豆町が、自衛消防・第六分団の器具置き場として使われていた建物を提供し、AKPがリノベーションしました。
学生時代、自らの手で建物を改修したいと思っていた荒武さんですが、授業では実地課題がなかったことから、友人たちとAKPを結成。友人がインターンをしていた東伊豆町に“東京の学生と地域とを繋ぐプロジェクト”として改修できる空き家の提供をお願いしたことをきっかけに、東伊豆町との繋がりが生まれました。
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以前の面影を残しながら生まれ変わった「ダイロクキッチン」
AKPは東伊豆町での取り組みを皮切りに、全国各地の空き家を改修しています。ただ空き家を改修するのではなく、地域が盛り上がる仕組みづくりも考慮。「ダイロクキッチン」もその名の通り、共有の大きなキッチンが置かれ、地元の人が使ってくれるようにと、地域に開かれたスペースになっています。
「ダイロクキッチン」の運営を行うのは、NPO法人ローカルデザインネットワーク(LDN)。荒武さんが理事長を務めています。LDNのメンバーは総勢14名からなり、伊豆半島に住むメンバーが4人、東京が10人という構成です。
伊豆半島のメンバーが現場を担当。東京のメンバーは、プロモーション戦略やマーケティングなどの職種に就いている人もいて、「東京のメンバーとは価値観が違うので、視野が広がります」と荒武さん。内と外、双方の視点で、東伊豆町を始め、伊豆半島を盛り上げるために活動しています。
東伊豆町に“第二の荒武”を生み出したい
荒武さんは神奈川県横浜市出身。大学院卒業後に、「ダイロクキッチン」の運営を行う地域おこし協力隊として、東伊豆町に移住しました。
東伊豆町に住み始めて約4年。「シンプルに言って最高です!」と荒武さん。「地元の横浜も好きで、実家に帰省するといいなと思うのですが、一方で東伊豆に帰りたいなとも思うんです」と、すっかり馴染んでいる様子です。
地域おこし協力隊を卒業した現在は、LDNとして東伊豆町の課題解決に取り組んでいます。活動のひとつが、静岡大学地域創造学環の学生とのフィールドワーク。地域社会の様々な問題や課題について学ぶ学生の受け入れを、東伊豆町の行政から引き継ぎました。
学生たちが自分の地域のことを真剣に考えてくれるのが嬉しいようで、東伊豆町の方々も活動に協力的なのだそう。「学生の中から“第二の荒武”を生み出せるように」と、荒武さんは意気込みます。
食を中心に人と人とを繋ぐ「ダイロクキッチン」
荒武さんがLDNとして活動する現在、「ダイロクキッチン」の管理人的な役割を担っているのが、稲岡麻琴さん。隣の伊東市出身で、結婚を機に東伊豆町に引っ越してきました。有志で毎週水曜日に、誰でも気軽に利用できるカフェ「サブロクカフェ」を開いています。
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カフェの準備をする稲岡さん。荒武さんの活動をお母さんのように見守ります
そのほか、近くの稲取高校被服食物部による予約制の食堂「夕食の取れるあったかふぇ」や、移住者・森下佳世子さんによる身体のための食事が振舞われる「おばあちゃんち」などが定期的に開催されています。また、飲食店を開きたい移住者が夢実現へのトライアルの場にするなど、移住者と地元の方とが繋がる場にもなっています。
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「ダイロク+(プラス)」開催時の様子
東伊豆町の人を巻き込み、みんなで楽しむ
「ダイロクキッチン」での活動や携わる人については、回覧板で町内に配布される「ダイロク通信」で紹介。2015(平成27)年10月からの発行を始め、2019(令和元)年末の時点で、40号にもなりました。今では発行を楽しみに「ダイロクキッチン」まで刷り上がりを取りに来る人もいらっしゃるほどです。
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地域の人に活動を知ってもらうために発行している「ダイロク通信」
2019(平成31)年4月からは、新たな企画「ダイロク+(プラス)」をスタートさせました。月に1度、東伊豆町内で働く方をゲストスピーカーとして招き、話の中から、東伊豆ライフをより楽しむエッセンスを見つけようというのが目的。この企画によって、東伊豆町で働く人の様々な価値観をシェアする場にもなりました。
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「ダイロク+(プラス)」開催時の様子
都心部からの関係人口を呼び込む「EAST DOCK」
2019(令和元)年5月には、シェアオフィス&ファブスペース「EAST DOCK」がオープン。稲取漁港に面したこの場所が、地元で“東”と呼ばれるエリアで、かつては造船物づくりの場であったことから名付けられました。地域の伝統行事「雛のつるし飾り」の展示会場だったスペースをAKPが改修し、LDNが運営を行なっています。
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2019(令和元)年5月にオープンした「EAST DOCK」
「ダイロクキッチン」が地元の人向けなのに対して、「EAST DOCK」は主に東伊豆町以外の人向け。貸し会議室やイベントスペース、企業合宿やサテライトワークの場として運用されています。
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海を眺めながら仕事ができる理想的な環境
東京の企業が社員の長期研修に利用した際は、海が目の前にある開放的な空間でリフレッシュできたと好評だったそう。また、利用者は近隣の宿に泊まるため、地域の観光業にもプラスになります。
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ものづくり拠点として、レーザーカッターなどの機器も導入。コースターを加工する子ども向けワークショップなども開催されています
ワクワク感が原動力
LDNでは、4軒目の空き家改修を計画中です。これまでの実績から、東伊豆町の役場や地域住民の方々との信頼ができているため、やりとりがスムーズになってきているそう。
現在模索しているのが、レンタル電動自転車などの新たな地域交通。東伊豆町には年間70万人ほどの観光客が訪れますが、最寄り駅から宿まで、送迎バスで直行してしまいます。
この現状に、荒武さんは「街を見てもらって、流れを変えたい」と提案。静岡大学地域創造学環のフィールドワークでも、ロゲイニング形式の街歩きイベント「INATORI QUEST」を企画・実施するなど、観光客を“外からの資源”として捉え、東伊豆町の魅力を掘り起こし伝えることで、地域の活性化に繋げようと取り組んでいます。
活動のモチベーションを伺うと、様々な人やものが繋がっていくワクワク感だそう。「個人としての軸足は、東伊豆町に。一方で伊豆半島全体の魅力も享受しているので、他のプロジェクトに参加するなど、伊豆半島も意識しながらLDNの活動をしていきたいです」と、今後の展望を語ってくださいました。