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2020年1月29日 ココロココ編集部

海が見えるホタテの町で奮闘する2人の女性~平内町の地域おこし協力隊

青森県平内町は青森市に隣接し、陸奥湾の養殖ホタテ日本一の町と知られています。平内町では2018(平成30)年に2人の地域おこし協力隊を受け入れました。2人は活動の拠点としてリノベーションした空き家を使い、地域住民とのコミュニケーションが図れる場所としても活用。地域にあるものの価値を掘り起こし、発信するといった活動を続けています。今回は、平内町で活動する2人の地域おこし協力隊に迫ります。

県外での経験をへて青森にUターン。平内町の地域おこし協力隊へ

2人の名前は渡辺美雪さんと諏訪奈津子さん。共通点は青森市育ち。渡辺さんは両親の実家が平内町にあり、生まれも平内町。諏訪さんは青森市生まれで高校卒業後に進学のため東京へ。卒業後はそのまま東京に残り、就職しました。2人はどのような経緯で平内町の地域おこし協力隊になったのでしょうか。

渡辺さんは青森市の高校に通い、卒業後は青森市で広告デザインの業界に20年近く携わりました。転機となったのは2011(平成23)年の東日本大震災。休日に被災地でボランティア活動に参加するようになり、次第に青森を外から見てみたいと考えるようになったと振り返ります。2013(平成25)年に「青森以外の場所を見てみたい」と、石川県へ移住しました。

渡辺美雪さん

石川県では今までやらなかったウェブの仕事に挑戦しながら、地域の活動に触れる機会を積極的に作りました。「地域コミュニティのつながりから、さまざまなことを教えてもらった。街のデザインや伝統工芸、地域の暮らしといったことに興味を抱くようになった」と渡辺さん。そして、2017年に平内町の地域おこし協力隊の応募を見つけ、次のステージとしてUターンを決意しました。

諏訪さんは専門学校卒業後も東京に残り、建築現場の監督や広告代理店でイベント企画・運営、PRの仕事を経験したという多様な経歴の持ち主。

「いつか海が見える町に住みたい、という思いがあり、青森へのUターンを考え始めていた」と話します。地域おこし協力隊の応募を知ったのは2018年4月。その年の10月には20数年の東京生活に区切りをつけて平内町に移住しました。

諏訪奈津子さん

決めたらすぐに行動するという諏訪さんは、Uターンに後悔はないと言い切り、海がある町の生活に「期待どおり」と満足気な表情。赴任して間もない頃、漁師の話を聞きに行っただけのつもりが、「船に乗るか?」と漁師に誘われ、二つ返事で乗船。初めての体験に感動を覚えたと笑顔を見せます。

「掘り起こし甲斐があってワクワクする!」町の魅力発掘と情報発信に取り組む2人

2人の主な業務は、平内町の情報発信と魅力の掘り起こしという内容です。 「平内町の情報はインターネットで検索しても出てこないんです」と渡辺さん。「例えば干し柿やしめ縄でも、家庭や地域によって町内でも作り方や材料が異なるんですが、口承でしか伝わっていません。地元ならではの価値ある素材がたくさんあるのですが、情報としてまとまっていないんです」と、諏訪さんが続けます。

2人は活動の手始めとしてフェイスブックやインスタグラムといったSNSを活用した情報発信を始めました。渡辺さんはデザイナー経験を活かした活動を始めました。平内町内にある店舗情報を紹介するまちあるきマップやスタンプラリー用の台紙などをデザイン。商店街活性化イベントの運営や企画も行い、地域づくりのインターンシップでは大学生らと一緒に活動に参加し、地元の歴史や文化を学んだりしました。

「素敵な人BATON」取材の様子

また、平内町にネットワークを広めるという目的で、住民らを紹介する「素敵な人BATON」というコーナーを町の広報誌に設けました。掲載した人からは次の人を紹介してもらうという「いいとも形式」で連載。一筋縄ではいかない魅力あふれる人たちに出会うことができ、そこからまた新しいプロジェクトが生まれたこともありました。

諏訪さんは赴任後、全国で唯一「特別天然記念物」に指定されている平内町のハクチョウ渡来地を知るために「白鳥ガイド隊」に入隊。先輩ガイドから平内町の歴史や文化を教わるとともに、体験型プログラムの開発に着手しました。冬の魅力を掘り起こすため、スノーハイクを検証するためのモニターツアーも実施しました。

スノーハイクのモニターツアーを実施

広告代理店時代に食の仕事をしたことがある諏訪さんは、料理や食材探しに興味がありました。給食センターを視察した際に、学校給食に平内ならではのホタテカレーがあることを知り、「レシピを教えてもらい、イベントで提供することにした」と諏訪さん。漁師飯や飯寿司(米麹、魚、野菜を漬けて、乳酸発酵させたもの)にも地域や家庭によって違いがあり、「掘り起こし甲斐があり、わくわくする」と目を輝かせていました。

住民が集まる仕掛けづくりの場「まちなかオフィス」ができるまで

2人の活動拠点として作られた場所は「まちなかオフィス」と命名。約半年かけて住民たちと一緒にリノベーションしました。この場所は、町が所有していた医師住宅で築約40年。「当初は自分たちの活動拠点を作ろうというのが目的でしたが、進めていく中で、町の魅力を発信できるような場所、住民が集まるような仕掛けづくりの場にしようと考えるようになりました」と渡辺さん。

リノベーションする前の「まちなかオフィス」

解体から始めフローリング貼りやペンキ・漆喰塗りといったワークショップを続け、子どもから年配者まで、延べ約50人が参加しました。「まちなかオフィス」を一緒に作っていくことで、体験として外に発信し、何より地元住民たちが愛着を持てるような施設にする狙いがあったと言います。

「まちなかオフィス」メインフロア。廃校の机を再利用している

住民参加型のリノベーションを経て、「まちなかオフィス」は2019年10月28日にオープン。すでに交流会やワークショップといったイベントが開催されています。

地元住民を対象とした干し柿やしめ縄づくりのワークショップでは、活動でつながった人を講師に招き、干し柿やスゲ等の材料を自分たちで集めました。遠ざかっていた風習をワークショップとして行ったことで、参加者からは「最近は作らなくなってしまったが、また作り始めてみたい」「違った作り方を知ることができてよかった」といった感動の声もあったようです。

しめ縄づくりを教わる渡辺さん。講師の小形さんを師匠と慕う

干し柿ワークショップ

青森大学の学生が考えた町おこしプランの発表と交流会では、交通の課題や学生視点で考える新しい観光コンテンツといった提案があり、地元住民にも新たな気づきがあったようです。「地域と学生たちをつなげる」という「まちなかオフィス」の新たな活用事例となりました。

「まちなかオフィス」はまだ完成していません。DIYのワークショップも実はオープン後にも続き、まだまだアップデートしていくと諏訪さんは意欲を見せます。 「隊員の増員や町内外の要望や希望にもできる限り対応していきたい。キッチンスペースも整えているので営業許可などを申請し、カフェや飲食などの提供もできれば」と。夢は広がります。

2人の今後、地域おこし協力隊としての活動

渡辺さんは2019年12月をもって平内町の地域おこし協力隊を卒業することになりました。「結婚を機にパートナーの家業を手伝うことにしました。地域おこし協力隊としては離れますが青森市に残ります。1年9カ月の出会いや経験は代え難い価値あるもの。今後はこれらを活用し、ライフワークとして外から平内町を盛り上げていければ」と話します。

地域おこし協力隊を卒業する渡辺さん

2年目を迎える諏訪さんは、活動を通じて気づいたことが多々あったと振り返ります。 中でも強く感じているのが「平内町の住民はいいものを持っているが、外に発信したり教えたりすることに尻込みしがちで慣れていない傾向がある」ということ。「掘り起こした魅力を外に向けて発信していくことも大切ですが、地元の住民が地元の良さを自ら発見する啓発も行っていきたいですね」。

協力隊2年目を迎える諏訪さん

2019年8月に行ったクラフトイベントでは、「マレビト」という海の漂着ごみで制作した立体アート作品を展示しました。平内町の漁協職員や小学生らとともに行った清掃活動で回収した漂着ごみ約300キロで作った作品で、イベント当日はワークショップも行いました。ごみに対する考え方や地元の海について考えてもらうきっかけにしたいという狙いがありました。

海の漂流ごみで作った立体アート「マレビト」

「こういうイベントは、そもそも地元の人たちが置き去りになってしまいがちなところもあります。『地元住民と一緒に』という姿勢がなければ本末転倒。また、イベントは1回だけでなく継続できるような仕組みづくりをしなければいけないですし、やりたいことは山積です」と諏訪さんは振り返ります。

平内町の海の漂流ごみを清掃する活動

平内町では地域おこし協力隊を受け入れて3年目。これまでの活動で、町の魅力や課題も見えてきた中で、活動拠点である「まちなかオフィス」もオープンし、今後の活動がますます期待されます。

この度、この「まちなかオフィス」を活用して一緒に活動してくれる新たな地域おこし協力隊も募集しています!詳細は募集ページをご覧ください。

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取材先

青森県平内町

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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