記事検索
HOME > ライフスタイル > アウトドア >
2023年6月29日 嘉屋 恭子

【小屋があったら】小さく始めて豊かに暮らせる

$title;

ワークスペースやアトリエ、趣味の空間、秘密基地の場所として、「小屋」「タイニーハウス」をたてる・つくる人が増えています。では、私たちの暮らしに小屋があったら何ができるのでしょうか?小さな建物がもたらす、豊かな暮らしをのぞいてみましょう。

車1台分のスペースがあれば、ショップができる

石川県金沢市直江東の一角に、広さわずか9㎡というお店が誕生しました。お店の名前は、広さそのままに「9㎡」(きゅうへいべい)。店構えは小さく、印象的な外観ですが、ハンドメイドラグを取り扱っている本格的なアトリエ兼ショップです。店舗ではラグを取り扱っているほか、オーナーの創作スペースでもあり、ワークショップ開催場所でもあるのです。

アート作品のようなラグが、小さな空間に並ぶ

この「9㎡」のように小屋をつくって、アトリエやショップ、ワークスペース、趣味の場所として活用する人が増えています。では、なぜ小屋が支持されているのでしょうか。理由をいくつかご紹介しましょう。

1つ目は、家族のそばで働けること。

この数年、新型コロナウイルス感染症の影響で強制的に「家で仕事する」経験をした人は多いことでしょう。かつてない体験は、「家族のそばで働けるのっていいな」「家族にお帰りなさいっていいたいな」「今の働き方でいいんだっけ?」と働き方や価値観を見直すきっかけにもなりました。

そしてかつての「通勤」に戻るのではなく、家族のそばに「小屋で働く」という新しいスタイルを生み出しているのです。

2つ目の理由は、無理なく働けること。

美容やネイル、ハンドメイド制作、食品製造、雑貨や絵本販売など、自分の理想の店を持ちたいと思い描く人は多いはず。しかし、事業として店舗を借りるには敷金礼金が必要なほか、毎月、家賃や光熱費が発生します。すると、家賃や光熱費、初期投資費用を稼がねばならず、「思い描いていたペースで働く」ことは難しくなります。

しかし店舗ではなく、今もっている土地に「小屋」を建てるとなれば、どうでしょう。庭先に駐車場1台分のスペースがあればお店が完成しますし、施工期間も数か月でおわり、所有している土地であれば家賃も不要です。かわいいだけでなく、初期費用を抑え、むりなくはじめる・続けることが可能。これが小屋のリアルなメリットなのです。

3つ目は、移動できればリスクヘッジになること。

小屋のなかでも、移動できる種類の「トレーラーハウス」があります。建築物は基礎のうえに建てますが、タイヤの付いたシャーシのうえに建物を作るため、「自動車」の扱いとなります。バンを改造してつくる「バンライフ」や「モバイルハウス」をイメージするとわかりやすいでしょう。

「9㎡」も移動可能なトレーラーハウスの1つ

人の流れは時間や場所、状況によって変わります。ニーズに合わせてお店が移動できれば、チャンスは格段に大きくなります。また、災害からの避難にしても、家ごと移動できれば減災となるでしょう。時代や気分、状況にあわせて軽やかに暮らす。小屋はそんな暮らし方を可能にしてくれるのです。

夢を叶えるきっかけとなった「TINY HOUSE FUUU」

「9㎡」の店舗となった、タイニーハウスを制作しているのは、石川県にあるOLUOLU LIFE合同会社。代表の鈴木一真さんは、妻と二人のお子さんを育てつつ、「家族の近くで働く」「無理せずのびのび働く」をかなえている一人です。

笑顔がまぶしい、鈴木さん一家

不動産会社勤務を経て、ワーキングホリデーでオーストラリア生活を送り、帰国後は自動車ディーラーでキャリアを積み、独立をはたしました。

「新卒で就職してから仕事一辺倒で、朝から晩まで働いてナンボという世界に生きていたんですよ。その真逆にあるオーストラリアでの暮らしは本当に強烈でした。仕事よりもまず趣味。楽しみという生き方ですね。自分の価値観が変わりました」。その後も仕事人間に戻ることはなく、自分の好きや家族を軸として、仕事を選び、生きることに。そのなかでみつけたことが、住まい×自動車のもつ可能性でした。

「仕事とは別に趣味でバンライフやキャンピングカーを楽しむライフスタイルを送っていたんですが、タイニーハウスやトレーラーハウスっていわば『移動できる不動産』。必要な時に設置し、使わなくなったら撤去・販売できるし、ローンにしばられなくていい。小屋を通して、独立のお手伝いもできる。今の状況を何より自分が一番、楽しんでいるんです」と小屋の持つ可能について話します。

「TINY HOUSE FUUU」とは

タイニーハウスは、石川を代表するデザイン事務所である「トイットデザイン」がデザインを監修、石川県産材を使ったエコ&ローカルなタイニーハウス。

自然にも街にも溶けこむシンプルなスタイルが魅力だ

大工さんが一棟ずつ手作りし、断熱性や気密性といった機能とデザイン性を両立しています。トイレやシャワー、シンクなどの水まわりを設置したり、居住性を高めたりとカスタムが可能。予算は200万円〜で、リサイクルやリユース展開もできる、地球にもお財布にもやさしい建物です。

キャンピングカーも小さな家、家族で大きく楽しむ

鈴木一真さん自身は「TINY HOUSE FUUU」とほかの業務の傍ら、キャンピングカーでの旅と暮らしを楽しんでいます。たとえば、完成した「TINY HOUSE FUUU」は日本各地に届けていますが、そのときは必ず現地に行くそう。ほかにも、目的地だけ決めて、「キャンピングカーで家族旅行をする」も定番の過ごし方です。

「日程と目的地だけ決めて、あとは気分にあわせた旅です。高速道路は使わず、一般道で寄り道や地元の隠れた名店を探して訪れる。妻も娘二人、ハプニングも楽しみつつ、そのすべての過程を楽しんでいます。リラックスしながらの旅って最高なんですよ。また、金沢、石川県にはキャンピングカーでしか出会えない景色があるんです。家族がキャンピングカーは使わないときは貸し出して、不動産が『お金を稼いでくれる』仕組みもまわしていますね」

小さな家としてのキャンピングカーは、使わないときは貸し出すこともできる、

キャンピングカーは、小さな家です。移動したり、シェアしたりするのは、いわば鈴木さんの“楽しい暮らし方のおすそ分け”

特別なことはいりません。まずは小さく、週末の小屋ライフ、はじめてみませんか。

嘉屋 恭子
記事一覧へ
私が紹介しました

嘉屋恭子

嘉屋 恭子編集者/フリーライター 編集プロダクションを経て2006年よりフリー、住まいや暮らしについて取材・執筆を続ける。今も子育て真っ最中。古民家と木製建具・タイル、猫、日本酒が好き。サッカー観戦も好き。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む