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2015年6月19日 杉山沙織

青い清流の里、吉野林業を育んできた源「川上村」

吉野川をさかのぼっていくと、だんだん谷間が深まっていく。深まるのは谷だけではなく、水の青、そこに息づく人里の歴史。
今回は、水源地である「川上村の地域資源」を活かす、地域おこし協力隊を4名募集している川上村を取材しました。

うるおいの源、奈良県川上村。

そこにはどんなものが息づき、どんなものが眠っているのでしょう。

水源地である「川上」の選択

川上村は奈良県から和歌山県に流れる吉野川の源流の村で、奈良県と三重県の県境にあります。隣の吉野町から川上村に入ると、まず目に入るのは青いダム。2年前に竣工した大滝ダムは、「水源地の村」である川上村のシンボルのひとつ。現在の村の総面積は約270平方kmで、そこに1564人(2015年5月時点)の人たちが暮らしています。

大滝ダム

川上村といえば、古くは室町時代から植林が始まった地でもあり、高品質な材を育む吉野林業の中心地でもあります。多くの先人に毎日見守られ、たっぷりと雨と霧を浴びた木々は、遠目に見ても生い茂り方が立派で、近づいていってみると圧倒的な存在感を示します。その木々と共に、私たち人間のいのちに流れ込む水を溜めるダムは、「川上」に暮らすものとしての村の選択。

「水源」でアマゴやニジマスを育むのもよし、吉野川の渓流を活かしてカヌー・カヤックを管理運営するのもよし。今、この水源を地元で活かす人材が求められています。

 

吉野林業の中心地、そして先達の技術は今も生き、育まれている

木から始まったといわれる日本の文化。木と人との付き合いの歴史が深いこの村には、たくさんの木を扱う技術が眠っています。

「川上村 木匠塾」では建築を学ぶ学生を対象に、土日や夏休みに合宿形式で木と山と木造を体系的に学ぶ場づくりを行っています。本場の吉野林業に育まれてきた木と山がそびえるところに身を置き、実地で技術を学ぶことができるため、毎年70名以上の参加があり、中でも技術だけではなく村民との交流も通じた、体験的な学びの場が用意されているのが魅力です。

「山の学校 達っちゃんクラブ」では、地元の山の達人である辻谷達雄さん(通称 達っちゃん)が山の遊び方を余すところなくご案内。山菜を収穫して味わったり、アマゴの掴み取りをしたり、森林をハイキングしたり、冬の厳しい冷え込んだ時しか見ることのできない氷瀑見学ツアーをしたりなど、水を育む森林ならではの学びがたくさんあります。

「匠の聚」作品棚

 気軽にアートを楽しめる「匠の聚」は、芸術家が入居したアトリエを併設する体験型ギャラリーです。工房で陶芸教室に参加することや、芸術家が作った作品を観覧・購入すること、カフェを楽しむことができます。

 

木をつかう文化を活かすHANARE

現在、川上村地域おこし協力隊として活動しているのは7名。どんなことしているのか、今までどんな感じでやってきたのか、そんなことを3名の隊員に伺うべく訪れたのが、これから農家民宿としていく予定の「HANARE」でした。

「HANARE」

HANAREのリノベーションにあたっては、木匠塾のOBの大工さんが設計・デザイン・施工に関わっており、地域おこし協力隊員の横堀美穂さんを中心に、協力隊員と大工さん、地元の方々が連携しながら目下改造進行中です。

HANAREの目玉は、大木の片鱗に包まれた「ピザ釜」、川上村の昔ながらの民家の面影、そして、吉野スギをガラスコーティングして用いるお風呂となる予定とのこと。完成が待ち遠しいですね。

ピザパーティー

先日、ピザ釜が今の形に出来上がった時には、地元の方々をお招きしてピザパーティーを催してたくさんの方が足を向けられました。ここが地元の方々が立ち寄れる場所としての機能を持たせることができたら、地域おこし協力隊員だけでなく、農家民宿を訪れる人が地元の方々と交流する機会ができ、素敵さが倍増すること間違いなし!この場所の展開としては、農家民宿として使用することの他に、地元で行われるイベントとコラボレーションすることなどを計画中とのことです。

HANAREをコーディネートする協力隊員 横堀さんの川上村に来た時の第一印象は、地域おこし協力隊の面接に行くためにバスにゆられながら、目にしたダムの色。「すごい青いなあ、と思って。本当にダムだって気付かないくらいで」

横堀さん

HANAREのすぐ下は川!四季を巡って、川を巡って、HANAREにおいて素敵なコラボレーションイベントが生まれますように。

 

集落の成り立ちを想起できるエコツアー

川上村の地域おこし協力隊 第2期で入った竹中雅幸さんは、前職が旅行会社勤務。当時、サラリーマン生活の中でずっと、仕事の都合上、自分が行ったことのない場所を案内することを続けることに疑問を感じる中で、1期の協力隊による大阪で実施していた村の紹介イベントへ行き、その後川上村へ足を向けた折に地域おこし協力隊を募集しているということを知りました。

「40〜50年続く登山ツアーを提供する会社に、山岳部に入っていた大学時にアルバイトをしていたことがきっかけで入社しました。前職では業務上のシステム自体が出来上がっていて、原価の計算やツアーを組み方、お客さんの集め方などは、今に生かせる経験となっています。1から自分でやるという今は、必要だからシステムを入れるので、今までやっていたことをより理解できるようになりました。」

前職の経験を生かし、「川上村の中にある昔の道、洞窟、ダム湖」などエコツアーとして使えるのに使われていないものを取り上げて、現地の自然で遊びながら、土地の来歴と暮らしを学ぶ「着地型の観光」を構想している竹中さん。

竹中さん

「今既にあるのは大人数の人を連れて、あまり多くは動かず、話中心のものです。私が関わるものとして、今年の4月から、もっと身体を動かして体験できるようなものを提供し始めました。四季に応じてできることに、昔の遊びの知恵を取り入れていけたらと思っています。」

 

川上村の中でとれたものを巡らせるやまいき市

神保大樹さんは、大学時代に地元の人と話をするのがメインの「共存の森ネットワーク」の取り組みで川上村に何ヶ月かにいっぺんくらいのペースで通っていたのがきっかけで、大学卒業と同時に川上村の地域おこし協力隊 第2期で入りました。
 「初めて来たときの川上村で、一番印象的だったのは人で、おっちゃんたち、おしゃべりだな、パワフルだな、ということです。」
 学生団体としてきたので、遠慮なしにどんどんと地元の人と学生のコミュニケーションが取られていて、また会いたいな、と思うのが通うようになる源泉にあり、今も活動は下の世代に受け継がれ、継続しています。

 神保さんが中心となって今取り組んでいるのは、村の中で作りすぎた野菜を村民同士で共有する「やまいき市」です。

「お客さんは地元の方々が中心で、近所の方が常連のお客さんになってくれています。野菜を出す人も当初よりもだんだん増えて、野菜がお金に変わるのがやる気になるという声が集まっています。今は、野菜の販売が中心ですが、元々川上村においてつながりのあったのをベースに、川上村が水源である吉野川流域の地域から月一回フルーツや海産物を仕入れて販売するということも始めています。」

神保さん

運賃をかけて大阪に青果を出荷したこともありましたが、結局少量の野菜にコストをかけて売るということになってしまいます。やまいき市はあくまで、川上村の地元の人を対象にしたものとして、次には加工食品を企画していく構想とのことです。中でも、吉野に息づく「樽」づくりの技術を活かして、樽×加工食品で何かできないか、ということを考えている神保さん。野菜の出荷者・購入者の村民と、何気ない日常会話の中にやりがいや楽しみを見出しているとのことなので、そこに次なるヒントがあるのかもしれません。

 

吉野林業がかわいくて仕方がない!

おじいちゃんが残してくれた山が吉野にあるから、「吉野」と行き先を絞って来た、地域おこし協力隊 第1期の鳥居由佳さん。林業や山のことを知りたくて、住んでいる人から聞いて学ぼうと思い、通おうかどうしようかと関わり方を模索している中で地域おこし協力隊制度を知り、当時隊員募集をしていた川上村へ。

鳥居さん

鳥居さんは吉野林業をかわいいと表現します。それは、「今から100年生の吉野杉、1億出すから作ってくれ、っていわれても100年待ってくれっていうことしかできないから。」

つまり、年月を重ねた存在として、てまひまかけて育てる生き物として、愛着を持って、かわいいと思っているということなのです。そして、杉を愛で、時には食べちゃいたいくらいな思いで伝えたいことがある。

「生き物だっていうのが人に伝わったら、手っ取り早いと思うんです。一般に動物をかわいがるのと同じで、木をかわいがって愛でるのは、生き物なんねんから、ということを伝えたい。無垢材を使う理由が欲しい中で、愛でる生き物としての木として伝わっていたら、曲がるのも反るのも割れるのも許せるんじゃないかっていう思いがあります。食べたいっていうのは、人は食べ物に対してはいのちになるから感謝するでしょ。それなら、杉を食べたいなって思って。」

 

地域おこし協力隊を支える基盤とは・・・?

現在、川上村で活動している地域おこし協力隊のみなさんは、どのようにお互いが動けば、お互いのプロジェクトを支え合えるか、連携し合えるかという関係を2年間の年月をかけて築いてきました。次に共通で抱えているものは、地盤が築かれつつある今、任期が終えた後にどうしていくか、ということです。

森口尚さん

そこで必要になってくるのは、明確なビジョンや支える人、その仕組み。

現在、新たに設置された川上村林業再生会議準備室 室長の森口尚さんが取り組んでいるのはその仕組みづくりです。川上村では歴史ある「吉野林業」、「吉野川源流の水源地」に軸を置いており、今後、どのようにしてこの川上村の最大の資源である吉野杉・吉野桧の森を活かしていくか。500年の歴史ある吉野林業の再生を目的に、次の500年に向けてチャレンジしていくために、川上村と林業・木材業団体と一緒に連携した組織である「吉野かわかみ社中」を設置します(6月28日に開示予定。今後は、森林調査、広報マーケティング等、林業技術者等の専門職員も募集していきます。)

川上村のみどころを知って、ちょっと気になってきたな、という方、やってみたいことのある方は、下記でお問い合わせを受け付けております。より詳しく聞きたい、という方はお問い合わせの上、ぜひ足を向けてお話を聞きにいってみてくださいね!

杉山沙織
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私が紹介しました

杉山沙織

杉山沙織神奈川県出身。林業経済の研究見習い中・一般社団法人 村楽 スタッフ 東京で「林業」を身近にするイベントや、全国各地の林業地を中心に2〜30人程で巡り、学びや興奮を共有する「もりめぐり」を主催。たくさんの林業女子と全国林業行脚しながら、愉快な輪を育んでいる。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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