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2015年10月1日 山下亜希子

山の上の廃校から新しい価値を創造する「ウマバー」

「外国からの旅人やクリエイターたちが、現代アートで知られる直島と合わせて訪れる場所」と聞いて訪れたのは徳島県の山奥。

何度も道に迷いながら、Uターンが許されないほど細く勾配のある山道をずんずん進むと、やがて視界が開けた。このような標高が高い場所にも人が暮らす集落があり、廃校になってしまったが旧小学校の校舎も立派だ。

その地域「馬場」に建つ「旧馬場小学校」の校舎が、今、Airbnbを介して欧米人やクリエイターが集まる「ウマバー」。泊まれて、軽く飲食ができると聞けばサービス業のようだが、まったく違う。

「ここは、個人のクリエイティビティが発揮できる場所」と、オーナーの百々一(もも はじめ)さんは言う。

■クリエイティブな田舎暮らしをはじめる「うまばいちプロジェクト」

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百々さんは、この馬場地区ではじめた田舎暮らしのクリエイティブな活動を「うまばいちプロジェクト」と名付けている。その一つが、「旧馬場小学校」の校舎を活用した「ウマバー」。

「ウマバー」の特徴は三つ。一つ目は、海外や日本全国からクリエイターやクリエイティブな暮らしを望む人たちの宿。二つ目は、自然の中で集中できるコワーキングスペース。そして三つ目は、クリエイターの作品展示の場。そう言われてフロアを見渡すと、オリジナルデザインのTシャツが飾られ、木の積み木でできたセンターテーブルが置かれ、ここが作品展示場だとわかる。

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それだけではなく、クラブのパーティーを思わせるムービングライトやガラスを幾層にも繋げてできた照明、キッチンカウンターの向こうにある組み立て式屋台、はたまた運動場に見えたツリーハウスならぬ「ツリー茶室」まである。それらの全てが、「クリエイターによる作品」。つまり、「ウマバー」そのものが、クリエイターによる作品によってつくられていて、今もなお進行中なのだ。

 

取材の日も、ドイツから訪れた学生が10日間の滞在期間中にいきいきとした様子で裏庭のハーブ園をつくっていた。「彼は、土の状態をモニタリングするコンピューターの開発に携わっているそうで、ガーデニングも得意だというからお願いしたんだよ」と百々さん。そんな風にして、「ウマバー」は日々進化している。

 

■新たなプロジェクトも始動

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開業以来、さまざまな人を受け入れながら変化しつづける今、新しいプロジェクト「COOK & STAY」も始まった。
このプロジェクトでは、シェフあるいは飲食業で起業したい食のクリエイターにキッチンを開放し、新メニューの開発をしたり、そこに居合わせた多彩なゲストに振る舞うことでテストマーケティングを行ったりできる。「ウマバー」に集まるゲストの中には、ベジタリアンやヴィーガンといった独特の食文化を持つ人もいるので、きっと勉強になるだろう。
また、地域の生産者と交流して仕入れ先を見つけるほか、地域の食卓を体験することも。

 

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百々さんは、たまにゲストを連れて地域のお宅に夕食を食べに行くことがある。なにげない家庭料理だけれど、その土地ならではの味やあたたかいおもてなしに、ほとんどの人が感動して帰るそうだ。百々さんはこれを「縁卓(えんたく)」と呼んでいる。

 

■続けるための拠点を見つけて次へつなげる

東京で生まれ育った百々さんは、数年前からNPO法人を立ち上げてクリエイターを支援するための活動をしてきた。
「クリエイターの多くは、それだけでは食べてはいけない」。そんなクリエイターに活躍の場を提供しようと、地方にクリエイターを派遣してその地域の人たちのクリエイティビティを育てる事業を各地で行っていた。しかし、何度も続けるうちに、助成金の性格上せっかく地域にうねりが起きても期間を終えてクリエイターがその土地を離れたとたん、地域の動きは止まってしまうことに気づいた。

「続けるためには、自分たちが地方に拠点を持つことが大事なんじゃないか」

そう思い、拠点となる土地を探し始めたころ、百々さんに三好市の廃校活用事業の話が舞い込んだ。
三好市内の廃校を20カ所以上も見て回った百々さんが、この「旧馬場小学校」に決めた理由。それは、「未編集な土地だから。そして、この場所から見る景色が一番よかったから」だという。

 

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「今、僕がやっているのは、プロジェクトを続けるためのフレームワークづくり。ある程度の形になれば、あとは続けてくれる誰かに託したい」。

現在、「うまばいちプロジェクト」を引き継ぐ人材を募集中で、その意味を理解した意欲的な人が見つかれば、百々さんはまた他の場所で新しいフレームワークをつくるつもりでいる。

そんな地域が日本の各地に増えれば、クリエイティブな地域活動のうねりは大きく成長していくに違いない。

 

■ウマバー(UB1)

所在地:徳島県三好市池田町白地ウマバ−464
電話番号:03-6386-5300
Webサイト:http://www.ub1.jp/

山下亜希子
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山下亜希子

山下亜希子香川県高松市在住。広告営業から転身して旅情報誌の制作に携わり、以来、四国をあっちこっち。現在はおもに瀬戸内の島を旅したり、移住者にインタビューしたりの日々。著書に、『瀬戸の島あるき』『瀬戸の島旅〜岡山・香川を島はしご』(共著・西日本出版社)など。雑誌『せとうち暮らし』で島の移住体験記を連載中。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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