予約1か月半待ち! 農家レストラン「星のしずく」で絶品ランチ
今回のツアーの参加者は18人。9割が大阪在住で、ご夫婦や友人での参加が6組、お一人での参加は6人でした。「家庭菜園に興味がある」という方から「子どもの独立を機に、田舎で農業のある暮らしを検討中」、「自然豊かなところで、カフェを経営したい」といった様々な思いでの参加です。
まずは、阿波市にある農家レストラン「星のしずく」でのランチです。こちらは、原田トマトで育てたフルーツトマト「星のしずく」を中心に、地元の旬野菜やフルーツもたっぷりと味わってほしいと3年前にオープン。以来、1か月半は待たないと予約が取れないという人気スポットになっています。
切り盛りするのは調味料ソムリエでもある原田弘子さん。原田さんは「子どもや孫に安心安全なトマトを食べさせてあげたい」という思いから有機・減農薬栽培に取り組み、糖度もビタミンも一般のトマトの約3倍というフルーツトマトを完成させました。
トマトを生産するだけでなく、お歳を召した方にも食べやすいようにとトマトゼリーなどの加工品も開発するなど精力的に活動されています。情熱の源は「身近な人に喜んでもらいたい」というブレない思いであることを知り、皆さん納得した様子でした。
先輩移住者のリノベ古民家をチェック
次に向かったのは、阿波市にIターンし、古民家をリノベーションした来田さんのお宅。徳島で移住して古民家を改修する場合の費用感や、暮らし方のイメージを探りに行きます。
こちらのお宅は、改築前は「コウモリが飛び交っていた」というほど改修難易度の高い物件でしたが、柱や梁など構造に使っている木材はさらに100年は生かせるという質の良いものだったのが購入の決め手だったとか。
まずは、住まいの耐震化の必要性と阿波市の場合の費用感、補助金について専門家から説明がありました。来田さんの家の場合、木造住宅の調査や診断などの専門家である「住宅医」の資格を持つ建築士が現状調査し、地元の大工さんが改修。耐震化には500~600万円はかけたとか。
予算の話では、阿波市辺りだと土地の価格自体は坪5万円ほどで都市部よりもリーズナブルです。阿波市が運営する空き家情報ページ(https://www.city.awa.lg.jp/docs/2017030300022/)に登録されている物件は、土地と建物セットで100万円というものも。近年予想されている南海トラフ地震への備えとしても耐震化が必要となる中、市町村によっては補助金制度もあります。阿波市の場合、140万円の工事で最大110万円の補助金を利用することが可能だそうです(平成30年度)。
来田さんは「阿波市は保育園や幼稚園の待機児童がいないうえ、水も空気も食べ物も良いです。車で行ける距離にスーパーもあります。ただ、車が必須なので運動不足になりがちなところや、ガソリン代がかかること、意外と冬は寒い」と話してくださいました。
自然農「小野農園」のワクワクする取り組み
次に向かったのは、有機栽培農家「小野農園」です。こちらの農作物は、大阪・北新地のパン屋さんや東京のレストランで使われているというだけに、期待が膨らみます。
小野裕次さんは東京出身。東京農業大学在学中から有機農業を志して35年のキャリアです。徳島には15年前に移住しました。以来、同じ大学の出身でもあるパートナー・入倉眞佐子さんとともに自然農をテーマに、東京ドーム約2個分の広さの敷地を借り、穀物類やハーブのほか、年間80品目の野菜を栽培しています。
農薬や化学肥料を一切使わず、自然の生態系を大切にした循環農法での農業。まずは土づくりが大切で、それに3年はかかるそうです。さぞかし苦労があるかと思うもふたりとも農業が好きで仕方がないといった様子。単に農作物を栽培するというより、自然の恵みと人と命のかかわりへの感謝をしていきたいという話が印象的でした。
農園では、これから出荷シーズンを迎える冬ニンジンの収穫も体験。ニンジン独特のにおいがなく、生で食べられることに驚いていました。その後、ダイコンやラディッシュなどが育つ畑の様子を見学して回りました。
神山町のマイクロブルワリー「KAMIYAMA BEER」で乾杯!
初日の最後は「KAMIYAMA BEER」で夕食を兼ねた懇親会です。ここでは、ビールの飲み比べを楽しみながら、このブルワリーの発起人であり経営者であるスウィーニー・マヌスさんと、あべさやかさんから話を聞きました。
マヌスさんはアイルランド出身の映像作家。あべさんは三重出身のアーティスト。ふたりが出会ったのは、2013年、神山で毎年実施されている「アーティスト・イン・レジデンス」への参加がきっかけでした。神山の自然や懐の深いまちの雰囲気に魅かれ、移り住んだオランダと神山を行き来しながら活動を行ううち、映像とアート、マヌスさんがビール好きという要素がミックスされ、神山で初となるマイクロブルワリー設立の夢が生まれたそう。
マイクロブルワリーの設立には、醸造免許の取得のための勉強や場所探し、資金集めなどで苦労は山ほど。ですが、アーティスト仲間や地元の腕利きの大工さん、地元の人たちのおかげで、約1年かけて形にできたのだとも語ってくれました。
人懐っこい笑顔で楽しそうに話すあべさんたちと、美味しいビールのおかげで皆さんいい感じです。会場は幸福感でいっぱいになりました。マヌスさんの「乾杯の文化は世界中どこにでもあって、乾杯は世界をつなぐ」との言葉を実感できた夜となったのです。
神山町の新しい取り組み「フードハブプロジェクト」とは?
ツアー2日目は、メディアに取り上げられることも多い神山の取り組みについて、講義から。まずはこのツアーの監修者である、徳島文理大学総合政策学部の床桜英二教授のお話です。
2011年からスタートしたIT企業のサテライトオフィスの誘致施策は、16社のオフィスが神山に拠点を置くまでに発展。最近では、元繊維工場のリノベで誕生したコワーキングスペースや間伐材を活用した取組を行う『しずくプロジェクト』の誕生など、IT企業が地元の企業と連携した地域密着型の展開も増えています。
「これまでを振り返ってみると、サテライトオフィスプロジェクトとは、企業誘致ではなく面白い人々の人材誘致プロジェクト。ITスキル以外でも何らかのスキルを持つ人が新たな人生を踏み出すなら、神山はいいかも」との話が。また「移住者にとって今より幸せな暮らし方ができて、受け入れ地域にとっても良いという点がうまくいく移住のポイント。地域とは相性があるのでそれを見極めることが重要」とのアドバイスをもらいました。
次に、国内では先進的な動きであり、2018年のグッドデザイン賞も受賞した「フードハブプロジェクト」を手掛ける白桃薫さんの講義です。フードハブプロジェクトとは、神山の農業の担い手を育成していくための循環の仕組みづくりのこと。育てる、食べる、作る、食育といった4チームで地域の人・モノ・金を循環させていく“地産地食”によって地域内で経済を成り立たせることを目的としており、多様な個性を持つ面々が取り組んでいます。
この後、食堂の「かま屋」やベーカリーと食料品店「かまパン&ストア」を訪問。食材を中心として地域と人と情報が有機的につながっていく、ワクワクする仕掛けの数々を目にしました。
徳島唯一の村・佐那河内村の“今”を知る
今度は徳島で唯一の村として残る、佐那河内村へ移動。移住交流拠点「新屋」にて、移住コーディネーターの西川高士さんからの村についての紹介です。
徳島市内から車で約30分と好アクセスな佐那河内村は、日本の美しい棚田の田園風景が広がる田舎そのもの。農業が基幹産業で、山から滴る美しい水を恵みに、すだちやみかんといった特産品のほか、キウイフルーツやいちごも栽培されています。
移住を考える際は、移住者と行政の間に立ってくれる移住支援団体があるのも心強いところ。移住後も移住者が人手に困っている時に人を集めてくれたり、空き家改修に専門家とつないでもらえたりして、顔の見える関係を大切に考えています。
また村では、都市部との関係人口を増やそうとファンクラブ的な村外住民票の発行や、1日1500円(水道光熱費込み)最長180日まで利用可能なお試し移住施設の運営も開始。そのほか、大阪工業大学と連携した古民家再生の取り組みや果樹オーナー制度などの多彩な取り組みがあり、皆さん興味深く聞き入っていました。
ランチは倉庫を改修した、産直&レストラン「佐那の里」で。村の豊かな食材を使って、お母さんたちが心を込めて作ってくれたお弁当にほっこりしました。
シイタケ生産量日本一の徳島を支える「高野きのこプラント」へ!
ツアーのラストは、プレミアムなブランドシイタケ「天恵菇(てんけいこ)」を世界に発信する「高野きのこプラント」への訪問です。
徳島はシイタケの生産量日本一。高野きのこプラントではシイタケ農家に向けた種や材料、作り方、新品種を開発・普及しています。こちらにはシイタケの生育のベースとなる“菌床”を製造する近代的な設備がそろい、予想を超える驚きがあふれていました。
厳選された素材から作られた菌床は特殊な機械で無菌処理されたのち、約18度に保たれた80坪もの生育ルームに移されます。ここには菌床ブロックがズラリと約2万個。シイタケが菌糸を伸ばすのに最適な森林と同様の環境を再現。3か月後に菌床を過酷な環境に置き生命力をつけさせることで、最終的に栄養分をたっぷり含んだシイタケができあがります。
熱く語ってくださった高野社長は、30代に栃木のメーカーに勤務ののち徳島にUターン。メーカーやマーケティングの視点を生かし、12年前からシイタケのブランド化に着手。4年前に「天恵菇」をデビューさせました。SNSでの発信などで話題性の喚起に努めており、ネット販売のほか、都市部の百貨店など販路を厳選しています。
「農業がこれからも生き残っていくためには、生産数を限定して希少性を高めることと同時に、グローバルな販路を開拓することが重要。そのためには若い人の感性や、畑違いの分野の人とコラボしていくことで可能性が広がる」と高野社長。
そして「徳島には、いろいろ(ユニークな)変人がいるので単純に楽しい。畑違いの人たちとコラボすることで新しい発見がある」と話してくれました。このあと、徳島でシイタケ栽培を行う場合のコストや販売方法についての質疑応答があり、充実した90分となりました。
参加者の皆さんは、従来のスタイルを敬いつつも新しさを楽しみながら追求する人々に様々な刺激を受けた様子。自分なりの移住について考える貴重なツアーとなりました。第2弾は2月、葉っぱビジネスで有名な上勝町へのツアーを予定しています。ぜひチェックしてくださいね。
第2弾ツアーの情報はこちらから!⇒https://tokushima-iju.jp/docs/2252.html