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2018年1月8日 清水美由紀

廃材や捨てられていたものをクリエイティブに変換“ゼロ・ウェイスト”の理念を具現化した「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」

未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため、2020年までに上勝町のごみをゼロにすることを決意し、「ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)」を宣言したことで注目を集める上勝町。その上勝町に、ゼロ・ウェイストの理念を具現化した「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store(以下、R&W)」があります。上勝町に所縁のなかった田中達也さんが、どのような経緯でR&Wを創業したのかお話を伺いました。

地域のためにできることを

徳島市出身の田中さんは、家業である衛生検査会社を継ぎ、食品の安全のための検査を主な事業として、徳島県内や四国のお客様を対象に地域に根ざしたお仕事をしてきました。そして、この20~30年で地域の経済が大きく変化してきたのを実感したそうです。夫婦で始めた小さなお豆腐屋さんや製麺所といった小さなお店が、バブル時代に地元のスーパーの活況ぶりに乗じて企業化したものの、今になると仕事がなかったり儲からなかったりと、苦しい時代になっているのを目の当たりにしました。

「生産者がいて、加工する業者がいて、流通する小売があって、そこがうまく回っていて初めて食の安全ということが必要になってくるんです。我々の仕事と地域との関係は、切っても切れないものだと分かりました。それで地域のために自分たちができることはなんだろうと、10年くらい前から考えるようになりました。」

田中さん
▲R&B創業者の田中達也さん

地域の清掃活動などをする一方で、10年程前から2次産業の加工業者ではなく、農家や漁師の方が加工について相談にくる件数が増えていったのだそう。

「今考えると、その頃から地産地消とか6次化といったものを政府が推進し始めた頃だったんですね。農協に卸すだけでは食べていけなくなり、特に若手生産者の中に、自分たちでがんばって販路を作りたいという人が増えたんです。」

中でも徳島の海苔漁師さんとの関係は深いものになっていったと言います。

「今はこうして山にいますけど、実は海育ちなんですよ。子供の頃、おじいさんがお父さんが海苔漁師だという友だちが周りにたくさんいたんですが、当時はとても裕福だったのを覚えています。当時は海苔は”黒い札束”なんて呼ばれていたくらい。でも時代が変わって、おにぎりも自宅でつくるよりコンビニで買うものになってしまったし、朝食のライフスタイルも変わり、海苔は売れなくなりました。10年間で90%の海苔漁師が廃業し、日本のひとつの文化が失われる危機を迎えていました。」

そこで田中さんは、海苔加工品の商品開発をし、営業に行き、百貨店の催事などで試食を出しては説明し、という海苔のために走り回る3年間を過ごしました。催事に出ていた他の加工品を扱う方が、売れないからといって大量の在庫を抱えたり、高いコンサルティング料を支払って苦しくなってしまうのを、たくさん見てきたそうです。

「続けていくのってすごく大変なことなんです。今、47都道府県どこもみんな、おらが村の自慢ですよ。みんなそれぞれに素晴らしいものはあるんですが、それを光るブランドにしていくというのは大変なことなんだということを、海苔加工の仕事を通して身をもって実感しました。」

R&W店内
▲取り壊された古民家の古い窓をパッチワークに

 

消滅の危機に瀕した上勝町を、唯一無二の存在にするもの

そうやって海苔加工に携わって飛び回る日々を送っていたところ、その仕事ぶりを耳にした上勝町の前町長から連絡があったのだそうです。上勝町は、過疎化が進み消滅の危機にありました。出生率は低く、しかも中学校までしかないため、高校進学とともに子どもは町を出て行きます。「なんとかこの町を維持するために、考えてほしい。」というのが前町長からの相談でした。

田中さんは町を案内してもらい、色々な場所を視察しました。

「山の上からの景色は絶景だし、空気はきれい。川の水は清らかで、棚田の景色は美しい。でも、一番最初に感じたのは『別にここじゃなくてもいいよね』ということでした。わざわざこの景色を見るためだけに、こんなにアクセスの悪い場所に人が来たいと思うか。なおかつ何度も見に来たいかというと、大きな疑問でした。日本全国にそういう地域がたくさんあると思いますが、ここじゃなくてもいい、というもので溢れていると思ったんです。」

しかし、そういった町に対するイメージが、最後に案内してもらった場所で覆されたのです。それが、ゴミステーションでした。

ごみ仕分け
▲上勝町のゴミステーション

 

「ゼロ・ウェイスト」運動を、日本全国そして世界に発信するために

そこで田中さんは、2003年に上勝町が「ゼロ・ウェイスト」を日本で初めて宣言したことや、町内にごみ収集車はないこと、ゴミを34種類に分別していること(現在は45種類)などの説明を受け、衝撃を受けました。

「ゴミの問題というのは、地球規模の問題ですよね。それをこんな片田舎にある小さな町が先んじて取り組んでいる。とてもインパクトのある内容でした。」

「そこでなにが出来るか考え始めました。知人などに相談していたのですが、『ゼロ・ウェイスト』運動に興味を示したのは、地元の人よりむしろ東京のクリエイターたちでした。そこで一緒にゴミステーションの新築プロジェクトを考え、町に提案したんです。ただ、当時人口2000人の町(現在は約1600人)で、税収はほとんどなく、地方交付税で成り立っている町なので、お金をどうやって工面するのかで難航し、あっという間に5年が経過してしまいました。」

上勝町を初めて訪れてから3年目にかかる頃、なかなか進行しないプロジェクトを抱え、前例のないものを作り上げるための理解を得るハードルの高さを実感した田中さんは、別の糸口を探していました。

「『町のためになるのか。』『そんなハイカラな建物は必要ない。』『お金をかける必要があるのか。』そういった声がありました。これはやはり自分たちで形にしないと、わかってもらうのは難しいと思いました。」

それで始めたのが、量り売りのお店「上勝百貨店」でした。

R&W 店内
▲ジェネラルストアに生まれ変わった「上勝百貨店」

 

サステナブルな暮らし、そしてビジネスとは

上勝町での「ゼロ・ウェイスト」運動の実態を知るため、社員一人が上勝町で暮らしました。しばらくしてその社員に尋ねると「ゴミを出すのがとても大変で、ゴミの出るものは買わないようになった」と話してくれたそうです。ゴミの問題が自分ごととなりゴミへの意識が変わると、買い物が変わり、自分の行動がどんどん変化していくことを感じた田中さんは、「ゴミが出ない買い物」こそが町の人にとって大切なのではと思い、量り売りのお店を思いついたのです。

砂糖や塩、米、麦、パスタ。そしてシャンプーや洗剤といった日用品も量り売りで販売しました。

「町の人は喜んで買いにきてくれたんですが、なにせ2000人の小さな町なので、日用品を販売するだけでは商売として成り立たないんですよ。その時に得た教訓は、継続してやっていけるかどうかとうことですね。それこそサステナブル(持続可能)なことをやらないといけないということです。ボランティアとか、町の予算や国の補助金を使うというのは、だれかが負担しているということ。そうではなく、この町でビジネスを成功させて、『ゼロ・ウェイスト』というブランドで自立すること。それができたら、他の誰かが自分もここでなにかやってみたいと思ってもらえる、そして外からこの町に人を呼ぶことができるんじゃないかと。」

現在R&Wを訪れるお客さんの9割が町外か来る方だそうです。

「一時的にでも人がきて、うちに来たら他のお店にも立ち寄りますよね。温泉に入ったり、別の飲食店を発見したり。この町と肌の会う人が何度か訪れるうちに、自分もここでなにかやってみたいという人が出てきたらいいなと思っています。」

量り売り
▲さまざまな品物を、ゴミを出さない量り売りで販売

 

ゴミの出ない買い物 × 地域を発信できる製品 = クラフトビール

繰り返しこの町にくる、上勝町のファンになってもらうためのアイディアを探していた田中さん。徳島市の衛生検査会社では、毎年業者さんを呼んで行う打ち上げのような会を開催しているそうです。ある年の会で、当時流行り始めたビールのお祭り「オクトーバーフェスト」を取り入れました。大手の生ビールを樽で購入し、サーバーを借りて振る舞いました。理系人材の多い会社だということもあり、「ビールを自社で作れたら面白いんじゃないか」という話になったと言います。アメリカでもクラフトビールがブームになっており、ポートランドは醸造所が多くビール天国と言われていることを知ります。そこでポートランドの町を見に行くことを決めました。

「行ってみてまず驚いたのが、お客さんは好きなビールのお店に行って、マイボトルに入れてもらって持ち帰るんです。それを見て、上勝町の『ゼロ・ウェイスト』運動、『上勝百貨店』での量り売り、そしてゴミが出ない買い物の仕方と繋がったんです。」

田中さんは日本に戻り、ビールを作りたいことをあちこちで話していました。すると、アメリカ人でビール作りの経験がある、ライアン・ジョーンズさんを紹介され、意気投合。上勝町特産の柑橘”柚香”を使った「ルーヴェンホワイト」を先ず作りました。それも「ゼロ・ウェイスト」の理念に則り、ポン酢用に果汁を絞ったあとに捨てられていた柚香の皮を香りづけに使用したものです。

ビールサーバー

ビール
▲「ゼロ・ウェイスト」の理念で作るクラフトビール

▲上勝町特産の柑橘”柚香”

 

「ゼロ・ウェイスト」の理念を反映し、ライフスタイルとして提案する

外から来た建材でスピーディーに立てるのではなく、域内の経済を循環することを目指し、建物にも「ゼロ・ウェイスト」の理念を反映させました。町内の古民家を取り壊した際に出た古い窓をパッチワークにした印象的なファサードや、廃材をリメイクした棚、空き瓶からできたシャンデリア。外壁は上勝産の木材で、町内の製材所で出た端材を利用しています。

「端材を利用した外壁を作るのは、大工さんにとっては大変な仕事だったようです。若い大工さんにはできないといって、60歳を超えたベテランの大工さんが2人でやってくれました。最初は大工さんにも業者さんにも『どうしてこんなに面倒臭いことをするんだ』と反発されました。それでも、出来上がっていくほどに職人魂に火がついたようで、色々なアイディアもだしてくださり、最後には『いい仕事させてもらった。』『久々に面白い仕事だった』と言ってもらったんです。」

R&Wが出来たことで、町民の意識にも変化があったようです。思い入れのある古い庁舎を壊さずに残したいと署名活動している人がいる一方、町にはその建物の補修工事や耐震工事をする予算もなければ、残したあとの建物の使い道もない状況だったのだそう。けれど、署名活動していた方々がR&Wでの廃材や古い家具の利用法を見て、「こういう形で自分たちの思い出が残るなら、壊すことに全く異存ははない」と、旧庁舎の建材の再利用に意欲を示してくれるようになったのだと言います。

空き瓶シャンデリア
▲空き瓶でつくったシャンデリア

 

R&Wが伝えたいのは、スローで豊かなライフスタイル

上勝百貨店を経営していた頃は、「ゼロ・ウェイスト」を前面に押し出していましたが、その逆の方法を取っているR&W。ほとんどのお客さんは、「ゼロ・ウェイスト」運動について知らずにR&Wを訪れるのだそうです。

「クラフトビール目当てだったり、おしゃれなお店があるらしいということで来る方が多いですね。お店に入ってから、廃材を利用していることや、上勝町の取り組みを知ってみなさん驚くんですが、その方が伝わりやすいし、なにより『ゼロ・ウェイスト』関係なしにわざわざこの町に来てることが大事だと思います。町で暮らす若い人が『いいなあ』と思えるような何かを形にして、こういう生き方ってかっこいいでしょっていう提案ができればと思っています。この町は日本の縮図であり、抱えてる問題の先進地なんです。だからここで何をやるのかが大事ですよね。」

そして、「ゼロ・ウェイスト」の理念をベースにした新しい取り組みも少しずつ増えてきています。R&Wでも取り扱いのある「OLD&NEW」のぬいぐるみは、古いぬいぐるみを裏返して綿を詰め、縫製しなおしたリサイクル製品です。また、R&Wのスタッフが着用しているエプロンも、古いジーンズを再利用しています。これらは徳島市内にあったものの廃業しようという話も上がった縫製工場を継いだ息子さんが、自身のプロジェクトとして取り組んでいるものです。今後上勝町で活動を続けることも考えているのだそうです。

リメイクエプロン
▲古いジーンズを再利用したスタッフ用エプロン

 

新しい町づくりのために、この町の魅力を「通訳」する

「この町は、街の人間からすると不便ですよ。でも山の人は、その不便さとともに色々な工夫をしながら暮らしてきました。我々はそれを全部奪われちゃって、ボタンひとつでお風呂も湧くし、火も使わずに済むし、自分で身につけた技で生きる術というのは奪われてしまっていますよね。そういう山の暮らしの豊かさを知れば知るほど、我々の方がおかしいんじゃないかと思えてくるんです。それに、山の上の見晴らしのいい土地に住んで、庭の手入れも行き届いていて、鯉なんか飼っていて。昔はどうしてあんな山奥に住んでるんだろうと思っていましたけど、知れば知るほどその考えは逆だったと感じるんです。我々が味わえないような豊かさを、山で暮らすみんなは知ってますよね。」

そう心境の変化を話してくれた田中さんは、自身のことを「この町の通訳」だと考えているそうです。上勝町へ来る人に対し、「ゼロ・ウェイスト」活動について噛み砕き、分かりやすい形で表現する。

「この町にはこの町のよさがあるから、それを損なわずに、時代とともに新しくいい方向で変わっていくべきだと思っています。この町は『ゼロ・ウェイスト』に舵を切ったというところが、大きな決断なんです。一気には難しいだろうけれど、新しい町づくりをして、賑わいを取り戻すきっかけになればいいなと思いますね。」

取材先

RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store/田中達也さん

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清水美由紀

清水美由紀フォトグラファー。自然豊かな松本で生まれ育ち、刻々と表情を変える光や季節の変化に魅せられる。物語を感じさせる情感ある写真のスタイルを得意とし、ライフスタイル系の媒体での撮影に加え、執筆やスタイリングも手がける。身近にあったクラフトに興味を持ち、全国の民芸を訪ねたzine「日日工芸」を制作。自分もまわりも環境にとっても齟齬のないヘルシーな暮らしを心がけている。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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