記事検索
HOME > プロジェクト > まちづくり >
2016年1月12日 石原藍

福井県池田町に国内最大級の冒険の森が誕生!町も人も豊かな生き方を目指す「木望のまちプロジェクト」とは?

福井県池田町。ここに2016年4月、国内最大級の冒険の森「Tree Picnic Adventure IKEDA(ツリーピクニックアドベンチャー いけだ)」が誕生する。

町の未来のため、木と共存するさまざまな取り組みを進めている「木望のまちプロジェクト」と、池田町が目指す町も人も豊かな生き方を追った。

JR福井駅から車を40分ほど走らせると、山々の緑が一層濃くなる。池田町は9割が森林に囲まれており、長年木と共に生活を営んできた。県下有数の豪雪地帯でもあり、その寒暖の差から美味しいお米ができる産地としても有名だ。

ikedacho001

昔から林業の町として栄えていたが、就労者の高齢化や安い外材の流入などにより衰退の一途をたどってきた。そのような背景の中、池田町の未来をかけて2012年からスタートしたのが「木望のまちプロジェクト」である。

 

目指すのは木を活かした小さな循環経済

プロジェクトの立ち上げから携わっているのが、山田高裕さん。現在は「Tree Picnic Adventure IKEDA(以下 TPA)」の責任者として、2016年4月のオープンに向けた準備を進めている。

ikedacho002

「池田町の人口は3000人を切り、高齢化率も4割の町。このまま放っておけば町の存続も危ういと言われています。次の世代につなげていくためにも、まずは子育て世代をどう増やしていくかが最大の鍵でした。その中で、今あるものをどう活かせるかという話になったんです。池田町に豊富にあるものは『木』。これを使わない手はないと思い、まずは木のおもちゃを作ろうということになりました。これが『プロジェクト』のはじまりです。」

ikedacho003

これまであまりにも身近すぎて目を向けなかった木や森に新たな価値を見出した木望のまちプロジェクト。以前から池田町では、子どもの小学校入学時に町の木工職人が作った木の机と椅子をプレゼントするという木育施策が行われていたが、子育て世代をターゲットにした新たな施策として、1歳になった町内の子どもに池田町の木で作ったオリジナルの積み木をプレゼントする「ウッドファースト推進事業」なども始まった。今ではその工程で出た間伐材も薪として町内外に販売するなど新たなビジネスも動き出しており、資源を生かした小さな循環経済が池田町で生まれつつある。

そんな中、多くの人に池田町のことを知ってもらい、気軽に訪れてもらおうと誕生したのが「おもちゃハウス こどもと木」である。

ikedacho004

「こどもと木」は名前のとおり、木と触れることをコンセプトに作られた幼児施設。
木の遊具やおもちゃなど池田町の木がふんだんに使われており、0歳の赤ちゃんから児童まで安心して遊ぶことができるよう、年齢に応じてさまざまなアイデアが取り入れられている。

ikedacho005

とはいえ、オープンするまでは不安でたまらなかったと言う山田さん。

「池田町は電車の最寄駅はありませんし、唯一の公共交通機関であるバスも1日2本程度。どれほど集客が見込めるか当初はまったくわかりませんでした。」

しかし、ふたを開けてみると初日から入場制限がかかるほど大盛況!当初掲げていた目標の来館者数は年間で1万2000人だったにもかかわらず、オープンから4ヶ月でその目標を達成した。現在も、土日は整理券を発行するほどの人気ぶりである。

今では町のアンテナショップにもベビーカーを押す家族連れの姿が見られ、こどもの楽しそうな声が響きわたっている。

「このプロジェクトは池田町のターニングポイントになる」
木に触れて楽しむこども達の笑顔を見て、山田さんはそう確信した。

 

木が新たな雇用を生む!

木望のまちプロジェクトは池田町に新しい住民も引き寄せた。

ikedacho006

その一人が、鳥居昌巳さんだ。
神奈川県逗子出身の鳥居さんは現在TPAのスタッフとして山田さんと共に立ち上げに携わっている。

「前職はスポーツ関係の仕事だったため、池田町にはサッカー教室の開催などで訪れたことがあったんですが、その頃から『いつか絶対ここに住んでやろう!』と思っていました。もうね、自然はもちろん豊かなんですが、人が豊かなんです。地域のみんなでこどもたちの成長を見守っているから安心だし、思春期真っ只中の中学生が見ず知らずの人に挨拶するくらいこどもたちが真っ直ぐ!こんな場所で子育てできたら最高だなと思いました。」

池田町は空き家改修費用や新築費用の30%を町が補助したり、子育て世代に町独自の育児手当を支給したりするなど、これまで積極的に移住・定住に関する施策を打ち出してきた。

しかし、実際に池田町で暮らすとなると、ネックになるのが働く場所だ。
池田町内での就職場所と言えば、役場や農協などがほとんど。町外の人がいきなり就職する場所にしてはややハードルが高い。

ikedacho007

「TPAは町内の人はもちろん、町外の人の雇用の場としても期待しています。池田町で働き、池田町で暮らすという生き方が、多くの方の選択肢の一つになればと思っています。」 TPAでは4月のオープンまでにスタッフの数を今の倍の20名まで増やす予定だ。(詳しくは下記 TPA公式HPをご覧ください)

 

眠る五感を刺激する場所

場所を移し、TPAのある池田町の志津原地区に案内していただいた。現在工事が進められている現場に到着すると鬱蒼とした森の樹上にアトラクションが広がる。

ikedacho008

TPAはまさに森のジャングルジム。38のエレメントに挑戦するディスカバリーコースや樹上のハンモックやツリーハウスでゆったりとした時間を過ごすピクニックコース、幼児向けのキッズコース、木のクライミングを楽しめるツリークライムコースなど4つのコースから成っている。

これらのコースはほとんどが地上3〜12mの場所にあるが、手すりなどはなく、身体がつながっているのは1本のワイヤーのみ。なかなかスリル満点である。

ikedacho009

「TPAではハーネスを装着してアクティビティを楽しんでいただきますが、何よりも安全性を一番に考え、金具一つから世界で一番信頼できるメーカーのものを採用しています。」

 

ikedacho010

はじめは高所恐怖症だったという山田さんも、今ではこんな不安定な場所でも昼寝ができるくらい樹上がリラックスできるのだという。装備の安全性には自信を持っているので、下は3歳のこどもから上は70代くらいの方まで楽しむことができるそうだ。

そして、TPAのメインアトラクションとなるのが「メガジップライン」だ。

これまで国内にあるものは400mほどのコースが最長だったが、池田町のジップラインはなんと500m超。地上から60mもの高さを滑走し、往復で約1kmのコースは日本最長となる。

ikedacho011

「これは町長の長年の願いなんです。『池田の森の美しさを見渡すなら1kmくらい飛びたいなぁ』ってね。最初はそんな長い距離は不可能だろうと誰もが思っていたのですが、強く思えば実現できるものなんですね。20階建てのビルに相当する高さから見える景色は格別だと思いますよ!」

木と触れることで得た刺激は普段の生活ではなかなか使わない五感を研ぎ澄ます。世界を見る目がいつもと大きく変わるはずだ。

 

こんなことができたら…を形にする場所

「僕が一番好きな場所をご紹介します!」

と山田さんが最後に案内してくださったのは、ディスカバリーコースの奥にある一角。 地上12mの場所にあるベンチだ。

ikedacho012

「ここに座ると山々や田園風景など池田の景色が一望できるんです。夏は田んぼの青い絨毯が、秋の稲刈りの頃には金色の絨毯になるんですよ。ここでコーヒーが飲めたらきっと最高ですよね。喫茶店も作らなきゃ」

と山田さんは嬉しそうに話す。

TPAが”売り”にしたいものは国内最大級の規模ではない。
「木を使ってどんなことができれは嬉しいか」を実現できる場であることだ。

ただ高さやスリルを味わうだけではなく「木の上でこんなことをやってみたら楽しいかも!」という想いを何よりも大切にしたい。
だからこそ、みんなの夢や欲求を一歩掘り下げる工夫が随所になされている。

ikedacho013

「人によって森の楽しみ方は違いますし、新しい楽しみ方がどんどん生まれる場になってほしいと思っています。アクティビティを体験しなくても、お弁当を持ってふらっと散歩に来たりカブトムシを捕まえに来たっていい。例えばここでツリーハウスを作りたいという声があればみんなで作り、私もやりたい!という人が増えていけばツリーハウスビルダーをみんなで目指してそれを職業にしちゃってもいいと思うんです。自然からアイデアを得て新しい生き方につなげる、そんなクリエイティブな場所になれば素敵ですよね。」

池田町には生き方、働き方のいろんなヒントが溢れている。想い描く理想の生き方を実現するためにも、柔軟な想像力やオープンマインドな感性は欠かせない。TPAはまさに”木(起)爆剤”として多くの人を巻き込み、池田町の未来に向けて大きな歯車を回していくはずだ。

取材先

Tree Picnic Adventure IKEDA

福井県池田町志津原28-16
TEL:0778-67-1535 (Tree Picnic Adventure IKEDA 開発準備室)
開業日:2016年4月27日

公式HP:http://www.picnic.ikeda-kibou.com

石原藍
記事一覧へ
私が紹介しました

石原藍

石原藍大阪府豊中市出身。フリーランスライター兼プランナー。 大阪、東京、名古屋と都市部での暮らしを経て、現在は縁もゆかりもない「福井」での生活を満喫中。「興味のあることは何でもやり、面白そうな人にはどこにでも会いに行く」をモットーに、自然にやさしく、自分にとっても心地よい生き方、働き方を模索しています。趣味はキャンプと切り絵と古民家観察。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む