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2016年2月13日 山田智子

おんせん県ならではの“あったかい“おためし暮らし

源泉数、湧出量ともに日本一を誇る「おんせん県」大分は、「住みたい田舎ベストランキング2016 (宝島社「田舎暮らしの本」)」で上位20位に4市がランクインする、移住者に人気の県でもある。温暖な気候、豊かな海の幸、山の幸に恵まれているだけでなく、「子育て満足度日本一」をめざす取り組みが人気の理由だ。

このランキングの上位に、来年あたり食い込んできそうなのが、大分県の南東部に位置する臼杵(うすき)市だ。臼杵市が移住者受け入れの取り組みを始めたのは2年前。早くもその効果が現れ、昨年12月は転出者を転入者数が上回った。

海、山、城下町。多彩なライフスタイル

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臼杵市は、平成17年1月に1市1町が合併し、誕生した。
キリシタン大名として有名な大友宗麟(そうりん)が築いた海城・臼杵城を中心に、武家屋敷など歴史を感じる町並みが残る旧臼杵市と、とんち話で有名な吉四六さんの里であり、有機野菜づくりを推進する旧野津町。異なる魅力を持つ2つの地域がひとつになり、豊後水道に面した臼杵湾、緑豊かな山々、城下町や国宝の臼杵石仏などの歴史、文化遺産に恵まれた街となった。

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ふぐやブリに代表される海の幸、野津の有機野菜、城下町で受け継がれたお酒や味噌、醤油などの醸造品と豊かな食文化を堪能できる。
大分市からは車や電車で30分弱。大分空港へは車で1時間半。九州のどこに行くにも交通の便が良いことも魅力のひとつだ。

うすき暮らしを体感できるモニターツアー

臼杵市が協働まちづくり推進局を立ち上げ、本格的に移住支援に力を入れ始めたのは平成26年。同年には「地域おこし協力隊」を採用し、空き家バンク等の定住支援制度、就農支援や子育て支援制度も整えられた。

臼杵の魅力を知ってもらい、おためし移住体験をしてもらうためのモニターツアーも開始された。26年に始まったツアーは今回で5回目を数えるが、このツアーをきっかけに移住をした人も既に多くいる。

tsua008▲モニターツアーでの有機農家見学の様子

海があり、山があり、歴史があり、大分市にも通勤できる。様々な暮らしが選択できる臼杵市だからこそ、移住者のニーズも多岐にわたる。農業がしたいのか、お店をしたいのか、街で暮らしたいのか。空き家を紹介するにも、移住後にどのような暮らしを望んでいるかにより、生活エリアは変わってくる。
「参加いただく方の希望になるべく合わせられる、臨機応変なツアーにしたいと考えています。定員を5組限定とさせていただいているのですが、この人数が限界なんです」(協働まちづくり推進局 広瀬隆さん)

tsua006▲モニターツアーでの買い物体験

ツアーでは空き家を見るだけでなく、その校区の学校やスーパーなどの生活インフラを回る。先輩移住者にも相談することができ、臼杵での暮らしをリアルにイメージし、不安や疑問をなるべく1度に解決できる配慮がうれしい。

IMG_3391▲ツアーの打ち合わせをする協働まちづくり推進局広瀬さんと地域おこし協力隊の吉澤さん

地域の人とのつながりをつくる農泊

移住を考える人にとって、もっとも不安に感じることのひとつは人間関係だろう。特に都会でご近所付き合いに慣れていない人にとっては、「田舎は閉鎖的」という心理的な壁が決心を鈍らせることもあるかもしれない。
モニターツアーはその不安を軽減するため、農村民泊(グリーンツーリズム)を通し、地元の人とゆっくり話す機会をもうけているのも大きな特徴だ。

大分県は日本のグリーンツーリズムの発祥の地と言われている。野津町では平成14年から農村民泊がスタートした。当初はわずか5軒で始めたが、今では受け入れ先は30軒を越え、昨年は1年間で1700人を受け入れた実績をもつ。

「お金儲けじゃなく、人儲け」

大嶋ケイ子さん、孝生さん夫妻が営む「若水」も、農泊受け入れ家庭のひとつ。田舎のお父さんお母さんのところに帰ってきたような居心地の良い宿で、多くの宿泊者が帰る時には泣いてしまうそうだ。

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当初は「私に旅館のようなことはできない」と断っていたケイ子さんだが、何度も誘われるうちに「嫌嫌ながら、どうせ審査に通らないだろうから」と受け入れ先として登録することに。「そしたら審査に通ってしまって、困ったことやな」と。

「始めて来たのは、大阪の男の子5人。私たちが普段していることをすればいいと言われても、最初は意味もわからなかった。でも、都会の子は、当たり前のことをものすごく喜ぶんですよ。食事とか作ったら美味しいとかね。野菜がおいしいとかね、ヘぇーと思って。これなら私もできるわって。そしたら、ハマってしもうた」

子どもが来たら川に連れていったり、季節ごとの農業体験をしたり、一緒にだんご汁をつくったり、「とにかく来たお客さんに満足して帰ってもらいたい」という。

「空気が美味しいとか、空がきれいとか。私たちには当たり前のことで、そんなこと一度も思ったことなかった。私らは最高のところに住んどるんやって、来た人から気づきをもらっています」
今回も取材で訪れたにもかかわらず、テーブルにはお母さんが漬けたべったら漬け、畑で採れた菜花、お父さんが獲った鹿肉の角煮、炊き込み御飯にお味噌汁まで、どんどんテーブルに運ばれてくる。

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「金儲けというより、人儲けです。この地域に世界各国から人が来てくれる。言葉は通じんけど、ハートでね。じゃけん、楽しいです」
宿泊した人とは、年賀状が来たり電話がかかってきたり、その後も交流が続くことが多いそうだ。

昨年のツアーで大嶋さんに移住について相談していたご家族が、この4月から臼杵市に移住することが決まった。当初はなかなか家が見つからなかったが、空き家があると聞いた大嶋さんが家主さんと交渉し、「大嶋さんが言うなら安心や」と借りられることになったという。

「小学校も生徒が2人増えると、みんなが来るのを待ち望んでいます。引っ越しの日には、赤飯をしてやろうと思ってね」とうれしそうな大嶋さんご夫妻。

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自然、文化、人、様々な魅力を持つ臼杵市。
モニターツアーを通じ、その温かさに触れてみてはいかがだろうか。

山田智子
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私が紹介しました

山田智子

山田智子岐阜県出身。カメラマン兼編集・ライター。 岐阜→大阪→愛知→東京→岐阜。好きなまちは、岐阜と、以前住んでいた蔵前。 制作会社、スポーツ競技団体を経て、現在は「スポーツでまちを元気にする」ことをライフワークに地元岐阜で活動しています。岐阜のスポーツを紹介するWEBマガジン「STAR+(スタート)」も主催。 インタビューを通して、「スポーツ」「まちづくり」「ものづくり」の分野で挑戦する人たちの想いを、丁寧に伝えていきたいと思っています。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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