女子高生の「楽しい!」とまちづくりを結び合わせる
福井県鯖江市で、若い新風が巻き起こっています。その名は「鯖江市役所JK課」。2014年に鯖江市で立ち上げられた、「JK(女子高生)によるまちおこし遂行プロジェクト」です。日頃まちづくりに関わる機会の少ない女子高生が、自分たちの視線で地元の美点や課題に気付き、さまざまな活動に取り組む活動で、現在は2期生も加わり県内の女子高生16名で活動を行っています。
少々刺激的にも感じるネーミングですが、「JK」は中高生や大学生などの若い世代ではポジティブに使われている言葉。「若い感覚を素直に取り入れ、マジメにまちづくりに取り組む」という市の強い決意の表れでもあります。
JK課のルールは単純明快。「女子高生が自分で考え、企画し、実行する」この1点のみです。プロジェクトの主役はあくまでもJK=女子高生。市役所職員や大人たちは、裏方として助言やサポートをするにすぎません。女子高生たちは、誰に指示をされるでもなく、自らの意志で、鯖江の「楽しい」「おしゃれ」「ヤバい」といった純な感覚をそのまま活動に反映させています。周りの大人は彼女たちに課題も与えなければ数字の結果も求めません。どんなアイデアも全て受け入れ、やってみる。そのプロセスこそがこのプロジェクトの醍醐味なのです。それ故に、女子高生たちは自由に発言し、のびのびと活動を行っています。
「楽しいから、やる」。そのシンプルで明瞭な感覚が、周りの大人たちを巻き込み、地域の意識を大きく変えていっています。
自分たちの手で地元の魅力を掘り起こし、大好きな場所にする!
現在は、ごみ拾いイベント「ピカピカプラン」、現地のイベントをリポートする「地元CATVリポーター」、地元の大人や中学生たちとの意見交換会、全国の若手公務員がJK課にインターンする「JK課インターン」などの活動を継続的に行っています。
「ピカピカプラン」は、仮装したり宝と記したペットボトル探しをしたりと清掃活動にエンタメ性を付け加え、楽しみながらまちを掃除するという企画です。掃除という敬遠しがちな作業も、楽しければ皆が参加する。女子高生だからこそ出てくるシンプルな発想です。彼女たちは「まちに貢献したい」などと難しいことを考えるより先に、「女子高生としての限られた時間をいかに楽しむか」という感覚を大事にしているようです。
まちづくりの主役は市民であり、肝となるのは人と人との繋がり。市民が「地元が楽しい!ワクワクする!地元が大好き!」と胸を張って言えることが、まちを元気にする第一歩なのかもしれません。JK課のメンバーたちは、自分たちの手で鯖江の魅力をどんどん発掘し、ますます楽しい場所にしようと目を輝かせているのです。
女子高生が動くことで大人が変わり、大人が変わることでまちも変わっていく。今までまちづくりに無関心だった若い女子に、あえて一切を任せたことで、世代や職業の垣根を越えた新しい目線の意識改革が確実に進んでいます。
鯖江市で長い年月をかけ培われた市民恊働の土壌
JK課設立当初、市外県外からさまざまな意見が寄せられましたが、鯖江市民は活動に理解を示し、寛容に受け入れる態勢がありました。それは、鯖江市が「自分たちのまちは自分たちでつくる」をスローガンに、いち早く市民主役のまちづくりに着手し、行政と市民が手を携えて協働してきた長い歴史があるからです。
1995年、世界体操選手権大会が鯖江で行われたことをきっかけに、市民活動推進協議会が設立、それから20年もの間、市民協働の道筋を市民と一緒に摸索してきました。
2010年には「市民主役条例」を制定。条例は、市民とワークショップをしながら作製されました。市民が本当に何を必要としているかを知るため、市役所職員を「まちづくりサポーター」としてまちに派遣しました。会議室で顔を突き合わせて話し合うよりも、現場の触れ合いや体験の中から学ぶ。鯖江市役所には長い年月の中で培われた基本スタンスが根付いているのです。市長3代にわたって積み重ねてきた土壌があった鯖江市だからこそ、斬新なJK課の取り組みが実現できたとも言えます。
活動は2年目。次世代へと受け継がれていくバトン
JK課の取り組みは今年で2年目。1期生の大半は3年生だったため卒業となり、2期生にバトンを繋ぎました。JK課はあくまでも女子高生主導で、ゴール設定をしていなかったことから、「あの時、もっとこうしておけば良かった」「もっとJK課で活動したいことがあった」という声も出たそうです。その想いは、2期生へと受け継がれました。1期生のメンバーは、クラウドファンディングで自ら支援を公募し75万円を調達、2期生へと活動資金を託しました。
2期目になって大きく変わったのは学校側です。設立当初は理解を示さなかった県内の高校が、1年間の実績を見て「良い活動である」という評価に変わっていきました。メンバーがしっかりと実績をつむことで、周りの評価もあがり、どんどん活動しやすい土壌が作られていく。20年前から培われているバトンを、JK課のメンバーもしっかり受け継ぎ、耕し、次の世代へと繋げているのです。
女子高生が動くことで大人が変わり、大人が変わることでまちが変わる
1・2期生のメンバーは、放課後に年間70回、計140回以上ミーティングを重ねてきました。自分が任せられ、自ら考えるという経験をしていく中で、活動に誇りをもつようになったり、まちに貢献したいと思うようになったりと、個々のメンバーの意識も変化していきました。卒業後はほぼ全てのメンバーが、自分たちで団体を作るなどしてまた新しいステージで活動を継続しています。そして、それを見守る大人たちも女子高生から多くの気付きを得て前進していきました。
メンバーと大人たちのパイプ役である鯖江市役所職員の横井直人氏は「普段大人が見過ごしている“当たり前”に対して、大人の方が気付かされてはっとすることが多い」と語ります。「設立前は、女子高生からどんな派手なアイデアが出るのだろうと思っていましたが、川のゴミ拾いをしたいとか、介護施設でボランティアをしたいとか、意外と堅実なことを言うのです。彼女たちは自分たちの視点できちんと考えて、大人の振る舞いや社会を観察している。感性豊かな年頃なので、柔軟なひらめきに私たち大人が振り回されたらいいなと思っています。」
女子高生に行政の意見を求めても無駄だという先入観を捨て、女子高生のありふれた市民感覚をまちづくりに取り入れた鯖江市。今まさに、地域と若者、大人と若者、行政と若者が繋がり、より近い距離の同じベクトルで地域を盛り上げていこうとしています。
これからの展望が楽しみであるのはもちろんですが、今現在、地域のことを真剣に考え行動している女子高生がここにいるというだけで、充分に意義のある活動ではないでしょうか。