125年以上の歴史を持つ東北一の酪農郷
町の面積のほとんどが標高400メートル以上という山岳地帯と、なだらかな高原が広がる葛巻町。基幹産業である酪農の歴史は125年以上続いています。
葛巻町は米や野菜などの農作物を育てづらい、冷涼で平坦な土地が少ない自然環境。明治時代以前は切り拓かれた牧草地を利用して馬や牛を飼育し、軍馬や赤牛の産地として知られていました。明治25年に、乳用牛であるホルスタイン種を導入。戦後はどこの農家も牛を飼っていたと言われるほど酪農が盛んになりました。昭和50年には北上山系に大規模な畜産団地を開発するという国の施策により、飛躍的に乳用牛の飼育頭数が増加。最盛期には1万頭以上の乳用牛が飼育されていました。
以降、乳用牛の飼育数・生乳生産量ともに東北で1位。「東北一の酪農郷」として発展してきました。
▲葛巻町の冷涼な気候は牛の好む自然環境
酪農家の後継者・労働力不足
現在、まちの課題となっている人口減少は酪農にも大きな影響を与えています。
酪農は家業として、代々、土地と経営が受け継がれてきました。人口減少の影響により後継者や労働力の不足が問題となっています。規模の小さい酪農経営では収益が少ないことなどにより、後継者が都市部に転出。初期投資に莫大な費用が必要なことや、農地を新たに取得することが難しいことから、新規就農も実現しづらい状況です。
平成17年に270戸あった酪農家の戸数は、平成27年には半数以下の130戸まで減少。これまでは人手が足りない分、地域内で助け合って酪農を行ってきました。しかし、人口減少により不足する労働力を補えきれなくなっています。さらに町内には、乳製品を製造する乳業メーカーや資材を提供する会社など、酪農に関連する産業に勤める人が多いため、酪農の衰退による町の経済への悪影響が心配されます。
▲酪農家のほとんどが町内出身者。若者世代による転出の影響を受けます。
持続的な産業を目指した新たな仕組みづくり
問題を解決するため、町では酪農の経営力強化や近代化を進めるための「新葛巻型酪農構想」を平成25年に策定。効率的かつ合理的な生産と生乳の高付加価値化を図ることで、100年先まで持続する酪農郷を目指します。
構想の実現に向け、現状の改善に取り組むのは役場農林環境エネルギー課の中村輝実さんと松浦利明さん。
中村さんは「酪農をもう一度持続的な産業として成り立たせるために、これからは生産構造を再構築する必要があります」と、酪農家の生産性・収益性の改善につながる仕組みづくりの重要性を話します。
「収益性を求めるには構造を変えなければいけません。今まで家業として営まれてきた酪農はすべての作業を自分たちで行ってきました。エサをつくるところから、牛を育て、乳を搾るところまで。 これらの一部を分業することで効率化を図ろうとしています」と松浦さん。共同でエサづくりを行う組織や、作業を受託する組織を設立し、少ない労働力でも経営できる酪農家を育て、未来に継続させていくことを目指します。
「これからは、現在経営を続けている酪農家の規模拡大も図っていきたいです。また、規模を拡大し、法人化することで新たな雇用を生み出すことができます。経営に専念しやすい環境を作るためにも分業化が大切です」と中村さん。個々で経営改善を行うだけでなく、地域の酪農家、関係する企業等が連携した産業構造を構築することで、町の基幹産業として継続していくことができます。
▲酪農の新たな仕組みづくりに向けた取り組みを話す中村さん
地域の関係者を連携させる要の役割として
さらに町では、酪農の新たな仕組みづくりの実現に向けて「畜産クラスター協議会(以下、協議会)」を平成28年度に設置。畜産農家、畜産関連企業、行政の三者が一体となって、酪農家の生産設備の近代化や分業化による生産・経営の改善のサポート役を担います。
今回は協議会の設置により、酪農家のサポートをともにする『くずまき型酪農構想実現コーディネーター』を募集します。
「エサづくりなど農作業の受託を行う分業組織の立ち上げを担っていただきます。そのために、1年目は協議会の事務をしながら酪農の知識を身に付けたり、酪農家さんとの関係づくりを行っていってほしいです」と中村さん。『くずまき型酪農構想実現コーディネーター』には、普段の業務を通し酪農に触れながら、能力を発揮してほしいと話します。
「このまちの人達だけではできなかった部分。 新たな仕組みをつくるために酪農家の方々との交流を深め、地域の関係者を連携させる要の役割を務めてもらいたいです。外からの視点を活かして、いい意味でまちの慣習にとらわれず活動してほしいですね 」
具体的な人物像について松浦さんは「業務をする上で必要なのは酪農家の方々を繋ぐための調整能力。既成概念や関係性にとらわれない客観的な意見を述べられる方がいいですね。また、失敗してもめげずに何度でも挑戦できる意思の強い人が向いていると思います」と話します。
▲「くずまき型酪農構想実現コーディネーター」が着任後、活動を共にする松浦さん
「私達と活動する協力隊の任期は2年と他の協力隊より短いです。任期終了後の目標は私達では設定していません。就農したり起業をしたり、終了後、葛巻を離れて帰郷されることも視野に入れ、隊員の方の意思を尊重したいです」と中村さん。
任期中の活動や暮らしによって自分の道を選ぶことができ、町内に定住する場合や起業、就農する場合は、公的制度など、状況に応じて様々な支援を受けることもできます。
酪農や酪農に関する事業経営に興味のある方は、下記募集要項の『くずまき型酪農構想実現コーディネーター』をご覧ください。