「ドラキュラ」でまちおこし!?
七戸町で「ドラキュラ」をキーワードにして、異業種交流や地域おこしに取り組むグループが「七戸ドラキュラdeまちおこし実行委員会」です。なぜ、ドラキュラなのでしょうか?気になるその理由を2代目代表を務める二宮礼子さんに伺いました。
「天間舘(てんまだて)神社の境内にある『蝙蝠小舎』が、ヒナコウモリの繁殖地なんです。規模は国内最大級といわれています。昭和52年に、住みついていた神社から境内に建てた蝙蝠小舎にヒナコウモリを引っ越しさせたんですが、これも珍しい事例です。現在は、「NPO法人コウモリの保護を考える会」が定期的に小舎を掃除し、また頭数調査をしていますが、年々増えているようです。」
「このヒナコウモリと町特産のにんにく、トマト、そしてドラキュラ小説のモデルのワラキア公ヴラド3世がいたころの中世に築城したと考えられる七戸城を結び付け、ドラキュラにたどり着きました。」
団体が設立されたのは2013年。当初はドラキュラに扮した仮装パレードやパフォーマンスなど派手なイベントもしていたそうですが、現在は住民同士の交流を中心に据え、そこから派生した企画の実現に力をいれています。その中心となるのが「ドラキュラカフェ」という集まりです。
「みんなで集まる場を『ドラキュラカフェ』と呼んでいます。年齢、出身、立場は問わないので、高校生や農家、行政職員、飲食店経営者、時にはアーティストまで幅広いです。地域おこし協力隊や移住者が参加するときもありますよ。町長にもご出席ただいたこともあります。」
地域づくりから新商品開発まで、願い叶えるマッチングの場
様々な業種が集まる「ドラキュラカフェ」。この場所で実際に多くの成果が生まれているといいます。
「フランス料理で欠かせない食材であるベルギーエシャロットの特産品化計画が進んでいます。飲食店、青森県営農大学校、若手農家の3者がドラキュラカフェをきっかけに組み、試験栽培を経て本格的に作付けするところまできています。うまくいけばにんにくや長いもなどに続く特産品になりますし、プロ向けに売り込みやすい食材ですので、期待しています。」
また、パプリカを原料とした万能調味料「マッサ」の商品化も、ドラキュラカフェから生まれました。パプリカの赤、オレンジ、黄色が鮮やかで風味が良く、スープ、パスタ、サラダなど幅広く使えると注目の商品です。「商品化したいが人手が足りない」というカフェの店主と、「利用者の仕事が欲しい」という障害者通所施設がマッチングし、お互いの願いがかなった事例です。
初めは「ドラキュラ」と奇をてらった取り組みかと思いきや、こんなにも実績があることに驚きます。「七戸ドラキュラdeまちおこし実行委員会」では、商品開発などビジネスにつながることだけでなく、子どもから大人まで巻き込んだ地域づくりの企画も手掛けるようになりました。 なかでも目を引いたのは、ドラァグクイーンとして活躍するアーティスト・ヴィヴィアン佐藤氏のプロデュースにより、変身した子どもたち。「七戸キッズDQプロジェクト」という企画です。なんと、町が発行する子育て支援情報紙の表紙をも飾っているのです。
団体の運営方針を変えたことで、1年を通して実施される企画が増え、運営側にも参加者側にも選択肢が広がりました。二宮さんもその成果についてこう話します。
「この活動を通して、人と人、地域間のつながりが得られました。ヴィヴィアン佐藤さんなど地域外の視点を持つ方々に、七戸の魅力に改めて気づかせてもらえたのも大きかったです。今まで見慣れた風景の中にも気づかなかった魅力がいっぱいあることを知りました。町外の方から、『あぁ、ドラキュラの七戸!』と言われることが多いのもうれしい成果です。」
移住コンシェルジュを募集
「ドラキュラ」をキーワードに様々な取り組みが行われている七戸町ですが、人口減少や高齢化が進み、「国立社会保障・人口問題研究所」によれば2040年には9,000人を切ると予測されており、大きな課題となっています。町では、町内の取り組みが活発化し、町外ともつながりはじめている現状から、この動きをより大きなものとしていくためにも、新たな人材を募集しているそうです。
移住セミナーの開催など、町外からの移住相談窓口となっている七戸町地域おこし総合戦略課の豊川さんと盛田さんを訪ね、募集の経緯についてお話を伺いました。
「当課では、移住や引っ越しに関する相談を担当しているのですが、最近は相談の幅も広がっており現在の体制では限界があります。例えばご夫婦のどちらかが七戸出身で、これから家族で引っ越してくるというケースでは、お子さんの通う学校のことや、受けられるサポートの有無などの相談が多く、できるだけ個々のケースに応じて、より細やかな対応を目指すうえで、移住コンシェルジュを地域おこし協力隊として募集することにしました。」
具体的には、移住相談への対応のほか、お試し移住制度の導入や移住体験ツアーなど、自身の七戸町移住体験をフルに活かして企画・実行することが期待されています。ドラキュラdeまちおこし実行委員会のような町内の各団体とも協力し、移住後も安心して暮らせるよう、地元住民との橋渡し役も求められています。
今回募集している地域おこし協力隊が、移住コンシェルジュとして業務を行う上で重要となる地域との関係性。では、実際にはどのような人と連携しながら、プロジェクトを進めていくのでしょうか。
「ドラキュラ」だけじゃない!強力な助っ人が協力隊をサポート
地域おこし総合戦略課の豊川さんも「ヨソモノも入りやすい地域性で、協力者も多い」と話す七戸町。その協力者の一人が七戸のエンタメ担当といわれる古屋敷賢治さんです。
七戸町でガス会社を営む古屋敷さんは、世話好きで愉快な気のいいおじさん。自身では今年(2017年)で6回目を迎えた、青森県食材を使ったピザのナンバーワンを決める「ピザカーニバルin七戸」(七戸ピザカーニバル実行委員会主催)の運営に携わっています。ほかにも、2010年に開業した東北新幹線・七戸十和田駅にちなんで結成された「七戸はやぶさぴーあーる隊」では主力メンバーとして、グリーンの衣装を身につけ、時にその全身タイツ姿で新幹線に乗車することもあるという強者です。
最近は「世代を超えた交流が減ってきているのを感じる」と、地域のために様々な活動を展開する古屋敷さんも、移住者の受け皿的な存在が必要だと話します。
「地域内の交流もそうですが、よそからやってきた人たちと地域の橋渡し役も必要だと思っています。この町に引っ越してきた誰もが、安心して暮らせるようにと考えていて、これから関係各所と協力体制をつくっていきます。とにかく一緒に楽しいことをして、遊びたいね(笑)。」
地域との橋渡し役を期待される移住コンシェルジュにとっても、地元にいる古屋敷さんが先陣を切って動き始めたのはかなり心強いことです。
願いかなう絵馬のまち・七戸を「まち歩き」を通じて魅力発信中!先輩協力隊の坂本さん
(一社)しちのへ観光協会に勤務する坂本亘さんも協力者の一人です。なんと七戸町地域おこし協力隊として勤務していたときに打診され、任期終了を待たずに協会職員となりました。
坂本さんが力を入れているのは「願いかなうまち歩き」。城下町である七戸町は、古くから馬とともにある暮らしをしてきた歴史があり、神社だけでなく商店街の店でも絵馬を購入することが可能で、「願いかなう絵馬のまち」としてもPR中です。そこで、まちなかを徒歩でめぐり、商店街の人に会いに行き、話を聞きながら、絵馬を購入し、最後に神社に奉納するというこのまち歩きを始めました。よそゆきではない普段のまちを知ってもらいたいと、このための演出は一切なしで企画しています。
「自分は若い頃は三沢に暮らしいて、以前は八戸市の観光協会で働いたこともあります。いろいろなまちを見てきましたし、ガイドツアーなどのプランニングにも携わってきましたが、どこも似ているようで微妙に違います。そしてどのまちにも人はいます。人に会いに行くのがこのまち歩きの醍醐味です。参加者には、それぞれの心の中にあるふるさとに近い風景を、七戸町で見つけてもらえたらと思ってやっています。」
七戸町がどんな町なのか、その暮らしぶりが自分に合っているか、ツアーを通じて感じることができるため移住コンシェルジュに興味のある方は、このまち歩きに参加してみるといいかもしれません。なにより、地域おこし協力隊として先輩の坂本さんの存在が頼りになるはずです。
とにかく自分でぶつかっていける人に
最後にどんな人に来てほしいのか、豊川さんに伺いました。
「具体的なスキルで言えば、SNSなどの情報発信を得意とする方に来ていただきたいですね。町のことを理解することは必要ですが、ヨソモノ目線でしかわからないこともあると思います。例えば『七戸(ナナツノトビラ)プロジェクト』と称して『人』『自然』『産業』などの7つのテーマ毎に埋もれている地域資源(お宝)を新たな視点で発掘し、発信していただきたいと考えています。また、今回期待しているのは地域内外の人をつないでいく役割ですので、明るく気さくな、とにかく自分からぶつかっていける人と一緒に仕事していけたら嬉しいです。」