記事検索
HOME > はたらく > 地域おこし >
2018年1月26日 岩手移住計画

盛岡の山里に暮らしながら、未来の誰かのために「つなぐ」仕事

岩手県の県庁所在地、盛岡市は人口が約30万人の中核市。しかし中心部から車で20分ほども走れば緑豊かな田園や里山が広がっており、そのなかでも中山間地域に散在する集落では様々な問題を抱えています。

盛岡市はこの地域課題に対応すべく、東部に位置する簗川(やながわ)地域と大ケ生(おおがゆう)地域の2カ所で地域おこし協力隊を募集しています。大ケ生は2017年度に引き続き2人目を迎えることになりますが、簗川については新規の募集です。 市職員や地域住民の皆さん、そして先輩協力隊を訪ねて話を聞いてきました。

簗川地域の将来を左右する、簗川ダムと新しい道路の完成

高台

▲高台から国道106号を望む

盛岡市から東隣の宮古市に向かう国道106号沿いにある簗川地域。周囲は標高300~600mの山々に囲まれ、大きくは簗川、川目(かわめ)、根田茂(ねだも)、砂子沢(いさござわ)という4つの地区から構成されています。

国道106号は三陸沿岸と内陸を結ぶ宮古街道と呼ばれ、簗川地域は江戸時代には交通の要衝として機能していました。この簗川地域に2020年、ダムが完成する予定です。さらに、港をもつ宮古市および三陸沿岸各地から、内陸部や首都圏へのアクセス向上を目的とした、約100キロにおよぶ「宮古盛岡横断道路」も開通します。このことが地域に及ぼす影響を、農政課の高橋充さんにうかがいました。

盛岡市農政課の高橋充さん

▲農政課の高橋充さん

「簗川ダムが完成すると、見学などの一定の集客はあるかもしれませんが、国道106号とほぼ並行してできる新しい道路により、簗川地域内への人の往来はだいぶ減ると予想されます。そこで鍵になるのは、これまで地域の皆さんが取り組んできた地域ブランドをどう磨いていくかですね。」

高橋さんの言う「地域ブランド」とは、簗川地域が特産品化に積極的な「アロニア(通称:盛岡ベリー)」や、清流・簗川を活かした「蕎麦」、産直「てんぐの里106」などです。簗川地域には市内で最も高齢化が進んでいる地区が含まれていて、これまでも過疎化に危機感をもって地域づくりに励んできましたが、地域の未来を描きにくい状態にあります。

そこで簗川地域を担当する協力隊には、地域づくりを支援しながら、自身も山里でのライフスタイルを確立し、簗川地域の魅力の掘りおこしや情報発信が期待されています。

簗川地域を訪ねて。着任したら最初に会うべき人たち

次に簗川地域の現状を知るべく、この地域にお住まいで、老人福祉センター(以下、センター)で施設長を務める吉田吉明さんと、食を通じて地域活性化に取り組む藤原エキさんに話を聞きました。センターには、図書室、遊戯室、調理室、談話室など、複数の機能が集中しています。朝9時から21時まで開いており、蕎麦打ち講習会や医療講演会といったイベントともなると、地域の人だけで1日120人の方が出入りすることもあるそうです。

老人福祉センター施設長吉田吉明さん

▲吉田吉明さん

吉田さん「私は花巻市出身ですが、縁があって今この仕事に就いています。ここは山があって、清流も流れている。恵まれた大自然と四季折々の風景にほっとしますよ。いいところです。協力隊の方にはこの施設を賑わいを生む拠点として活用してほしいですね。まずは藤原エキさんにお世話になるといいと思います。いろいろな方とつながっているので、出会いがあって、人の輪も広がると思います。」

盛岡市の藤原エキさん

▲藤原エキさん

藤原さん「このあたりは山の幸が豊富。農業は小規模農家さんが多いですね。“通い百姓”の方も多いんです。もともとここに住んでいた方が、自宅や田畑を残したまま、たとえば市内中心部に息子が建てた新築の家に同居する。こちらにずっとはいなくて、日中だけ農作業にやってくるというものです。ですから、住民としては高齢者の割合が多くなってしまって、ちょっとさみしいですね。協力隊の方に来てもらえたら、まずは蕎麦とアロニアを食べてみてほしい。アロニアは生だと渋いですが、お酒に漬けたり、ジャムにして日常的に食べていると、目にもいいんですよ。簗川で一緒に楽しいことを企画していきたいです。」

高橋さん「たとえば協力隊の方には、着任当初だけこのセンターに席を置いていただき、施設内で地域住民と交流しながらこの地域を知っていくこともできるかと思います。」

2人目の協力隊を募集する大ケ生地域。先輩協力隊の池内さんに聞く山里での暮らし

大ケ生地域の協力隊池内さんと農政課の高橋さん

農政課は2017年度に初めて協力隊を導入しました。活動テーマは「『農』を軸とした大ケ生ライフのモデル構築」で、大ケ生の地域課題に取り組みながら、農業を軸にしたライフスタイルを確立することが期待されています。2018年度も同じテーマで2人目の協力隊を迎えることになりました。

ここからは農政課の高橋さんに加えて、2017年6月に協力隊として着任した池内絵美さんも同席し、大ケ生で過ごしたこの半年間を振り返りました。

池内さん「今は大ケ生の暮らしを知ることに徹しています。週一で農政課に出勤して、報告と情報共有の時間をとっていますが、それ以外普段は大ケ生にいます。梅さんという80歳のおばあちゃんのお宅に居候していて、田んぼや畑の農作業を手伝っています。田んぼが7つあって、畑ではミョウガやアスパラもやっています。」

池内さん「大ケ生は山あいにあるので山の恵みはもちろんのこと、食卓には海の幸も並びます。梅さんは魚屋さんで買ってきたイカから塩辛を作ってくれるんですよ。ホヤが食卓にあがることもあるし、食は豊かですね。」

梅さんの料理

▲梅さん宅でのある日の食事。海の幸「いくら」が並ぶこともある。

池内さん「協力隊に応募するにあたって大ケ生の人たちと話す機会があったのですが、地域の行く末に危機感を持っていることが伝わったんです。ちょっと極端な話になりますが、この人たちとならケンカしても大丈夫だなって思えて。安心して飛び込める地域だと感じました。」

高橋さん「たとえ地域で困難が生じても、それに正面から向き合うことで、骨太の地域づくりを目指しています。池内さんの心意気はとてもありがたいですね。」

大ケ生地区の運動会

▲大ケ生地区の運動会

池内さんは大ケ生での暮らしを知るため、地域のイベントに足を運ぶだけなく、地域の人たちの話をよく聞くことを心がけています。

池内さん「地域の皆さんには昔話を聞かせてもらうことから始まって、いろいろなことを教わっていますね。本当にただ話を聞くだけなのですが、そのうち『実はこういうことがやりたいんだよ』と胸に秘めていたものを話してくれる。そこで私が実現に向けて『どうしましょうかね』とつなぐ。次のステップに進めるよう、情報提供したり、橋渡し役になることもあります。」

実際に、池内さんの情報や紹介によって、農家組合の皆さんが首都圏のアンテナショップを訪問し、米粉麺やりんごを置いてもらえることに発展したケースもあるとか。現在も準備中のプロジェクトがいくつかあるようです。

2人目の協力隊を迎えるにあたって、どういったことを期待しているのか、高橋さんにうかがいました。

高橋さん「池内さんのおかげで、地域の人たちからも、何かやってみようという動きがぽつぽつと出てきましたね。大ケ生でのプレーヤーが増えてきたという印象です。大ケ生に住むこと自体が農を軸とした暮らしなので、地域の魅力を肌で感じてもらいながらコミュニティづくりにも力を入れてもらいたいと考えています。人と人、つまり大ケ生の地域内の人どうしを、そして大ケ生と外の地域をつなぐ担い手ですね。」

これも地域貢献!?池内さんらしいエピソード

インタビューに応える池内さん

大ケ生に地縁のない池内さんが、梅さんのお宅で同居し始めたことにも驚きましたが、もうひとつ驚くべきニュースがありました。

「実は大ケ生の人にご紹介いただいてお見合いをして、今度結婚することになりました。結婚後の生活について梅さんとも相談しているところです。」

夫となる人は、県内の別の自治体に住んでいる方ですが、なんと大ケ生に連れてくるそうです。池内さんがすっかり“大ケ生の人”になっているからこそのエピソードだと感じました。どうぞお幸せに!

応募を検討している方へ

盛岡市地域おこし協力隊の池内さんと農政課の高橋さん

最後に、応募を検討している方へ、大ケ生地域は池内さんから、簗川地域は高橋さんからのメッセージを紹介します。

池内さん「大ケ生は地域資源の宝庫。空も山も季節によっていろんな色に変わるし、星空もすごくきれい。人間らしい生活が送れます。そうはいっても市内中心部には車で30分もあればいけるので、田舎と都会の両方を楽しみたい人にはおすすめです。30年後とか50年後の誰かのために仕事ができる人を待っています。そして仕事の後の美味しいビールを一緒に飲みましょう!」

高橋さん「簗川は市内でも高齢化が進んでいる地域ですが、伝統的な郷土芸能や生活文化などが残っている稀少な地域でもあります。これを未来につないでいけるとすれば、それは『今』しかないかもしれません。簗川のような郊外の地域は、盛岡藩の時代から、さまざまな生活物資の供給地として市内中心部を支えてきたという歴史があります。現代でも、中心部にとって簗川の衰退は他人事ではないような気がします。ぜひ一緒に簗川の地域おこしをやっていきましょう。」

高橋さんは過去、2年間かけて市内の集落を訪ね歩き、現状分析と未来への提言を報告書にまとめたことがあります(盛岡市まちづくり研究所(2016)「盛岡市における中山間地域の特性・魅力に関する研究について」)。盛岡市が岩手県の経済・商業の中心として発展してきた歴史をひも解いてきた身だからこそ言えるこのメッセージには説得力を感じました。

簗川や大ケ生での暮らしが気になってきた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。こんな2人があなたを待っています!

盛岡市地域おこし協力隊池内さんと農政課の高橋さん

▲結婚相手も見つかっちゃうかも?!私たち農政課が待ってます!

岩手移住計画
記事一覧へ
私が紹介しました

岩手移住計画

岩手移住計画岩手移住計画は、岩手にUターン・Iターンした人たちの暮らしをもっと楽しくするお手伝いをし、定住につなげていくために活動している任意団体です。県内各地で、「岩手移住(IJU)者交流会」と題したイベントを開催しているほか、岩手県などが主催するUIターンイベントにメンバーが参加し、移住希望者の相談にも対応しています。首都圏と岩手をつなぐ活動にも力を入れています。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む