「震災遺構」が伝える震災の教訓と復興への思い、にぎわいを生む道の駅
東日本大震災後、被災地では被災した建造物「震災遺構」を保存するか解体するかを市町村で検討しました。陸前高田市は防災教育などに役立てるため、震災遺構として保存・活用することを決めました。 道の駅高田松原(愛称「タピック45」)、陸前高田ユースホステル、気仙中学校、下宿定住促進住宅の4件が震災遺構として保存されています。タピック45の敷地内に設置していた追悼施設と復興まちづくり情報館は今年5月までに中心市街地に移転・整備し、全国からの視察や研修の受け入れに活用していく予定です。
4つの震災遺構、タピック45の近くにある陸前高田のシンボル「奇跡の一本松」、そして建設中の防潮堤のある一帯を震災による犠牲者への追悼と鎮魂、震災の記憶と教訓、復興への思いを発信していく空間として高田松原津波復興祈念公園として整備することになっています。
公園のにぎわいづくりの核となるのが、新たに生まれ変わる「道の駅 高田松原」。2017年夏から建設が始まっていて、2019年夏にオープンの予定です。設計は、日本を代表する建築家・内藤廣さんによるもので、建物自体も注目を集めそうです。
道の駅の一部として陸前高田市が整備する地域振興施設は、産直や飲食店に加えて観光の拠点としての機能も持つ予定で、まさに「三陸沿岸地域のゲートウェイ」として陸前高田市はもちろん三陸沿岸地域一帯に訪問客を送り出す役目が期待されているのです。
「食」と「防災」テーマに人を呼び込む
陸前高田市役所でこの地域振興施設オープンに向けた準備を進めているのは農林課です。村上聡課長補佐は「陸前高田は漁業も農業もさかんな地域です。陸前高田の『食』を前面に押し出しながら観光ともつなげていきたい」と意気込みます。
陸前高田は、築地でも高値で取引されている広田湾の牡蠣や地域ブランド米「たかたのゆめ」だけではなく、全国的にはまだあまり知られていないたくさんの特産品があります。広葉樹の森に浄化された川の水が注ぎ込む広田湾ではホタテやわかめはもちろんのこと、ここでしか養殖できないと言われる希少なエゾイシカゲ貝など可能性を秘めた食材がたくさんあります。
農業では、夏場に冷たいやませが入り込む気候を生かして、りんごや野菜類の生産が盛んです。なかでも「恋するトマト」は通常の倍の糖度10度という甘みが特徴。「北限のゆず」「北限のお茶」の産地でもあります。
これまで市では、市内30社以上の食品加工会社にヒアリングし、施設で販売するオリジナル商品の開発にむけた調査を進めているところです。
さらに物販だけでなく市内で民泊や復興最前線ツアーなどの企画運営を行っている一般社団法人「マルゴト陸前高田」などと連携しながら、食や防災といったテーマで、生産者を訪ねるツアーや体験プログラムなどの窓口機能も果たしていく予定です。
商品開発やツアー運営にソトの視点
オリジナル商品の企画・開発やツアープログラムの提供には、おもなターゲットとなる都市部の消費者、旅行者の感覚が必要なため、陸前高田市では施設オープンまでの開発段階、そしてオープン後の運営を担う人材を地域おこし協力隊として採用する計画です。
おもなミッションは、「食」と「防災・減災」の2つの切り口での商品やプログラムの開発。これまでの市のヒアリングをもとに地域の食材を活かしたおみやげや提供メニューを開発したり、 陸前高田から「防災・減災」を発信し人を呼ぶための事業内容の検討を進めます。
もちろん、新しい事業を協力隊だけで行うわけではありません。地域振興施設は市の施設ではありますが、運営には柔軟な発想や機動力が必要とされるため、指定管理で運営していく予定で、2017年夏にプロポーザルを行い、東京在住の山口幹生さんが施設長候補者に決定しています。
山口さんは2012年から1年間、一般社団法人RCFのメンバーとして同じく岩手県の三陸沿岸にある釜石市で復興支援の仕事をしていた経験があります。その後、東京に戻りましたが、持続可能なビジネスを通じて被災地の復興にかかわるチャンスを探っていました。
そんな折、見つけたのがこの施設を運営する施設長のプロポーザルでした。山口さんは被災地で活動している仲間や「地方発」の新しいビジネスに取り組む知人たちのアイデアにも耳を傾けながら事業計画をつくり、プロポーザルで選定されました。着任する協力隊は、山口さんの描く大きなビジョンのもと、自身の発想も生かし、地域の漁業者、農業者や市民の力を借りながら思いを形にしていく役割を担います。
山口さんが陸前高田のポテンシャルと考えているのは、「防災」の視点での商品開発や体験プログラムです。「陸前高田の方々は被災した時、本当に必要なものはなんだったのか、という経験値を持っています。みなさんの経験と知見をもとにした防災グッズや防災を考える体験プログラムは日本だけでなく世界から必要とされています」と思いを語ります。
現在、三陸縦貫自動車道の工事が進む三陸沿岸の地の利を活かし、「月に1回は陸前高田に食べに行こう」とリピーターがつくようなメニューをつくりたい、と食のコンテンツについて協力隊のアイデアに期待しています。
ワールドカップ、五輪を契機に世界から三陸に旅行者を
山口さんは「陸前高田は、震災からの復旧ではなく『まったく新しいものが必要なんだ』と新しいものを作り出す意欲にあふれた方々ばかりです。地域の未来を新たに創り出すチャンスです!」と語ります。
岩手県沿岸部は、2019年に釜石でラグビーワールドカップを控え、翌年には東京オリンピック・パラリンピックも行われることから、インバウンドも増加すると見込まれています。市農林課の村上さんは「陸前高田の魅力や可能性をソトの目線で発見し形にしていくというやりがいのある仕事です。好奇心旺盛でやる気と元気、食欲のある人にはぴったり。いっしょに『三陸沿岸地域のゲートウェイ』をつくっていきましょう」と呼びかけます。