自分にあった生活バランスを考えて。暮らしそのものを変えるために移住
東京では、広告代理店で雑誌の編集業務に携わっていたセソコさん。
「父が編集者だったこともあって、幼い頃からよく本を読んでいて、文章を書く仕事に興味がありました。趣味で写真を楽しんでいたときに、『カメラ日和』という雑誌に出会い、その編集部で働くことに。その会社が、『自休自足』という、自給自足の生活や田舎暮らしを紹介する雑誌もやっていて、担当するようになったんです。なので、当時から、取材やイベントで地方暮らしをしている人と話す機会は多く、地方での暮らしを身近に感じる環境にありました。」
その後、その雑誌の編集長が独立・起業して立ち上げた編集チーム「手紙社」に参加し、本の編集業務だけでなく、カフェの運営やイベント企画にも関わるようになりました。仕事は楽しく充実していましたが、内容は多岐に渡り、多忙な毎日。忙しくて家族と過ごす時間も少なくなってしまった中で、先の暮らしのことを真剣に考えるようになったそうです。
「仕事はお金を生み出すものなので優先しがちですが、『より良く生きる』という観点では、仕事も生活も同じくらい大切です。今のままではバランスが良くないなぁと感じるようになりました。自分に合った生活バランスとはどういうものなのか、それを実現するためにはどうしたら良いのか…を考えたときに、ただ単に定時に帰れる仕事に転職するのはちょっと違うなと。もっと暮らしそのものを変える必要があるのではないかと思い、地方移住という選択になったんです。」
自分らしい生活バランスを求めた結果、地方移住を真剣に考え始めたセソコさんですが、なぜ、移住先に沖縄を選んだのでしょうか?
「実は、僕のルーツは沖縄にあるんです。セソコという苗字は『瀬底』と書くんですが、沖縄県本部町に『瀬底島』という島があって、先祖はその島の地名を与えられて『瀬底』を名乗るようになったそうです。だからかどうかは分からないですが、以前沖縄を旅行したときにも、何となく肌に合う居心地の良さを感じていて。四国など、他の地域もいくつか探したんですが、最終的には沖縄への移住を決めました。」
『編集』のスキルを軸に、人と人の繋がりを生み出す多彩なクリエイティブを展開
地方移住をする際に気になるのは、移住先での仕事のこと。セソコさんが移住した2012年は、今ほどリモートワークが浸透していたわけでもありません。仕事を決めずに移住してしまったそうですが、なぜかあまり不安はなかったといいます。
「今になると、もっと計画に動けばよかったかなぁとも思うこともありますが、当時はすでに気持ちが沖縄にいってしまってて、楽観的に考えてましたね。編集の仕事で培った、伝えたいことを伝えたい人に伝わりやすくアウトプットしていくスキルを使えば、本や写真、イベントなど沖縄でも何かやれる仕事はあるだろうと考えていました。」
実際のところ、最初の数か月はそれほど仕事もなく時間があったため、沖縄を知る意味も含めて、県内のさまざまな場所に出かけていたそうです。そうこうしているうちにいろいろなところから声を掛けてもらえるようになり、仕事も忙しくなっていったといいます。
移住と同時に独立し、編集を軸に様々なプロジェクトを手掛けているセソコさんに、現在のお仕事内容についてお伺いしました。
「『編集者』として、雑誌やweb媒体での取材、執筆や、地元企業やお店、つくり手さんたちのホームページやロゴをはじめとしたクリエイティブの作成、ブランディングのお手伝いなどをしています。企画・ディレクションがメインですが、自分で執筆、撮影まで手がけることもあります。沖縄とそれ以外の地域との仕事の割合は、だいたい沖縄6割、その他4割くらいですね。」
著書としては、『石垣 宮古 ストーリーのある島旅案内』(JTBパブリッシング 2018.3) や『あたらしい移住のカタチ』(マイナビ出版 2016.6)などがあるほか、地元の観光情報サイト「沖縄CLIP」では編集長をつとめています。
編集の仕事というと、WEBや雑誌などでの情報発信が中心と考えがちですが、セソコさんの活動はそれだけにとどまりません。2021年5月には、沖縄や離島の魅力を改めてシェアしたいという思いから、浦添市のパルコシティにて、「島の装い。展」というイベントを開催。
「マイクロツーリズムじゃないですが、沖縄に住む僕たち自身が、沖縄のことをもっとよく知ったら、暮らしが豊かになるはず、という思いや、別の離島の人同士が助け合ったりコミュニケーションが取れるような繋がりの機会を作れないか、などと考えているときに、パルコでイベントの企画しないか、というお話をいただいたんです。」
セソコさんが全体のクリエイティブディレクションを担当し、沖縄発のファッションブランドを集結した「APARTMENT OKINAWA」を展開している会社が運営を担いました。
「自分たちが『いいな、会いたいな』と思うつくり手たちにたくさん参加してもらうことができました。お客さんが『沖縄にこんなに素敵なものがあるなんて』と喜んでくれたり、出店者さん同士が仲良くなって今後のイベントの企画の話が持ち上ったり…。考えていたことがある程度形にできたのではないかなと思っています。」
まずは地元の人が地元を楽しむ!新たなローカルメディアの可能性
WEBや雑誌、イベント企画など、さまざまなかたちで、沖縄の魅力発信を続けるセソコさんに、仕事のうえで大事にしていることや最近の取組みについてお伺いしました。
「都会に比べると、クリエイティブの大切さを知ってもらうにはハードルが高いこともありますが、クリエイティブの価値や可能性を信じ、ひとつひとつ丁寧に仕事をしています。また、昨年からは、沖縄の暮らしを楽しみ人生の豊かさを分かちあう、ちいさなメディア&コミュニティ「SQUA(スクア)」を開設しました。」
SQUA(スクア)は、沖縄で暮らす自分たち自身がもっと沖縄の暮らしを楽しむために、訪れてくれるひとたちの旅の時間がもっと豊かになるために、それぞれの「好き」を発信、共有し、交流する場です。一方的な情報発信ではなく、似た感性を持った仲間がもっと繋がり情報をシェアできればという考えから、「インスタグラム」や「ノート」などのSNSを使って更新しています。
「僕の仕事では観光情報を扱うことが多かったので、これまで、沖縄の情報を発信するとなれば『県外』がターゲットでした。ところが、コロナ禍があって県外から人が来なくなり、人と会えなくなりました。その時に思ったのは『地元を楽しむ』ことと、『つながり』の大切さ、でした。」
と語るセソコさん。毎年県外から多くの観光客が訪れる沖縄ですが、それだけ多くの人を惹きつける沖縄を、「果たして沖縄に住んでいる自分たちは本当に楽しめているのか?」という疑問があったといいます。
「沖縄に暮らしているけれど、離島に行ったことがない、近くにステキなカフェがあることを知らない、という人も多い気がします。まず何よりも沖縄で暮らす自分たちがもっと沖縄を楽しむことが、地域の経済地盤をタフにし、ひいては観光客を惹きつけることにつながると思ったのです。」
まずは「地元の人がちゃんと地元を楽しむ」こと、そして利用者同士の「つながり」も大切にすること。そのふたつをキーワードとしたメディア&コミュニティが、「SQUA」が目指す新しいローカルメディアのあり方なのだとセソコさんは語ります。
日常の中に、大切な仲間と美しい景色がある
沖縄移住を機に独立し、今はフリーランスで仕事を行っているセソコさん。事務所も自宅なので、出社していた時と比べて、自分のペースで仕事ができていてストレスフリーなのが良いそうです。
「家族もすぐ近くにいますし、美しいビーチも車で10分くらいの所にあります。都会と比べると沖縄の時間の流れはゆったりとしていますし、人とのコミュニケーションの温かさや距離感が私にはとても心地よいです。」
移住したころは数えるほどしか知り合いがいなかったそうですが、人が人を繋いでくれて仲間も増え、仕事の依頼も増えました。沖縄では手に職を持っていて店や物づくりを新たに始める人も多く、観光も盛ん。写真やライティング、ホームページ制作の需要もあるので「編集」という仕事との相性も良いようです。
コロナ渦の状況で大変なこともありましたが、仲間で助け合う機会も多く、人と人との繋がりの大切さ、沖縄の良さを再認識するきっかけになったといいます。
最後に、沖縄に暮らす魅力について聞きました。
「やはり一番は、仕事のペースや美しい自然との距離感、人と人との距離感が私にはちょうど良いというところですね。どの場所が優れている、ということではなく、自分に合った場所に暮らすことが大切なのだと思います。沖縄本島は広大ですが、都会と比べるとコミュニティは狭く、街でバッタリと知り合いに会うこともしばしばです。島の人は子供に対して皆優しく、どんどん知り合いを紹介してくれます。日常の中に、大切な仲間と美しい景色があることが、沖縄暮らしの魅力ではないでしょうか。」