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2023年10月17日 鈴木麻理奈

平内町の里山に囲まれて、日々の暮らしを楽しむ「種八農園」萩原さんご家族の移住ストーリー

青森県平内町は、青森市に隣接する海沿いの町。ホタテの養殖をはじめとする水産業や農業が盛んな、自然豊かな地域です。

そんな平内町に4年前移住したのが、「種八農園」を運営する萩原拓(はぎわら・たく)さん、萩原香吏(はぎわら・かおり)さんご夫婦と、4人のお子さんたち。自然に囲まれた平内町での暮らしと生き方に迫ります。

畑のすぐ近くで人が集えるようなお店を目指して、たどり着いたのは平内町

カフェ内観。窓からは、名前のない山と奥まで広がる畑が見える

青森市中心街から車で30分。平内町の山手に向かって進んでいくと、細い道の先に山に囲まれた萩原さんご家族が暮らす自宅兼店舗があります。

夫の拓さんは埼玉県出身、妻の香吏さんは青森県出身。家族で香吏さんの地元である青森県にUターンしたのは10年前で、移住と同時に非農家から農業を始めました。「子どもがアレルギー持ちだったこともあり、無農薬の野菜と、その野菜を使った料理で家族を元気にしたいと思ったんです」と香吏さん。

お子さんたちが描いた自宅周辺の地図

その後、畑の近くで人が集まれるようなお店を作りたいと考えるようになり、物件探しを開始。

「お店は単に飲食店というだけではなく、事情があって家に居づらい子どもたちが安心して来られる場所であったり、宿泊の受け入れだったり、いろんな展開ができるといいなと考えていて。飲食店に縛らずにいろんなことがしたいと思っていたので、許可の問題がなかなか難しく物件探しに難航していました。そんな時、平内町にあるこの物件を人づてに紹介していただいたんです。」

平内町の山間部にあるその物件は、住宅の横に小川が流れ、目の前には畑(当時は耕作放棄地で荒れ放題)が広がる、少し人里離れた場所でした。

手前に生い茂るのは大豆と枝豆。奥に見える建物は萩原さんたちが暮らす自宅兼店舗。

試しに1年間お試しで暮らしてみてから決めていいと言われ、家族で移住してみることに。平内町の家賃補助も後押しになりました。最初は家じゅうカメムシの山だった、と笑って話す香吏さん。

「冬は大通りまでの細い道に除雪が入らなかったり、水道管が凍結してしまったり、郵便屋さんに荷物を届けてもらうのが大変だったり…実際に暮らしてみて見えてきた課題もありました。でもここでなら私たちの理想の暮らしができると思い、移住を決めました。」

現在は平内町に移住して4年目。自宅でカフェと農家民宿ができるように整え、目の前の畑では多品目の野菜を栽培しています。

畑も山も、子どもたちの遊び場

自宅から畑へ向かう道。奥に向かって傾斜があり、右手には小川が流れる

萩原さんご家族が暮らす自宅兼店舗の目の前には、もともと棚田として使われた畑が奥の方まで広がっています。畑も森も、萩原さんのお子さんたちの遊び場。森のなかを歩いているとお手製の看板があり、道標になっています。

民泊に来たお客さまを子どもたちが案内することもある

畑では小豆、大豆、ジャガイモなどをメインに、トマトやきゅうり、ズッキーニなどの野菜を多品目栽培しています。

「トマトや食用ほおずきなんかは、赤くなったそばから子どもたちがおやつ代わりに採って食べてしまうんですよ(笑)。大豆は味噌などの調味料にも使います。穀物は保存が効くので。」と拓さん。

食用ほおずきを食べるせんちゃん

平内町で暮らし始めた当初は、荒れ地になっていた畑を耕し、作物を育てられるようにするまでが大変だったそうです。

「山を切り開いて棚田にした土地なので、植物を育てやすい地層よりも深いところが地表に出ているんです。この辺りの赤土はベンガラ染めにも使える土で、家の裏にある丘のほうでは上質な粘土も取れます。染めものや陶芸をする方が土を求めて来るんですよ」と教えてくれました。

山からの自然の恵みをいただいて、自然とともに暮らす

小さな滝。山の水はとても冷たくて気持ちいい。

畑で採れる野菜はもちろんですが、ワラビやタラの芽、ふき、みずなどの山菜、キノコ類、ミョウガや大葉など、季節ごとに山の旬の味が楽しめます。自宅のすぐ横に流れる小川にはイワナなどの川魚もいて、ときどき釣って食べるそうです。

その場所にある花の量に合わせて巣箱を置く。欲張り過ぎても良くない。

また、ニホンミツバチの養蜂も行っています。森の中にある8つの巣箱を管理していて、ご夫婦で分蜂作業やはちみつを取り出す作業も行います。 山からの恵みをいただき、自然の営みに逆らわずに、萩原さん家族6人と犬2匹、ひよこ、鶏、虫、きのこ、植物…みんなが一緒に生活しています。

「この木は登りやすくてお気に入り」と勢いよく登る二人。
二人とも上手にトンボを捕まえる。森にはオニヤンマもたくさん飛んでいた。

「見晴らしのいい丘がお気に入りの場所」と教えてくれたのは、萩原さんご夫婦のお子さんのこうたくんとせんちゃん。畑で栽培している野菜や、森にある植物にとても詳しいのですが、拓さんが教えたわけではなく、自分で図鑑を見て学んだことが多いそう。拓さんが知らないこともたくさん知っていて驚くそう。

奥に見えるのは平内町の中心街。この丘で上質な粘土が採れる。

インターネットにつながらなくても、身の回りにある植物や動物の名前は図鑑に載っています。この場所で育つからこそ、自分の好奇心のままに突き進むお子さんたちはとても活き活きしていました。

採れたて、旬の食材が食べられる幸せ。宿泊客にも平内の自然を楽しんでもらいたい

水餃子プレート。この日の餃子には畑で採れたゆうがおが刻んで入っていた。

2022年の夏から営業を開始したカフェと農家民泊では、香吏さんお手製の水餃子プレートを提供しています。水餃子は皮から香吏さんの手作り。モチモチしていてボリューミーです。プレートに添えられたおかずには、畑や山で採れた食材が多く使われています。

香吏さん手作りの笹餅と、養蜂で採れたはちみつを使ったはちみつレモン。

粉をこねるのが好きという香吏さんは、餃子、パン、ベーグル、お餅などいろんなものを作ります。畑で採れた小豆を練り込んで作られた笹餅はやさしい甘さです。

客間にあるハンモックは子どもたちも大好き。

農家民泊の受け入れは国内外から予約が入るそうで、種八農園の経営基盤の一つとなっています。

「お客さまが数日間滞在する間に、私たち家族も仲良くなって。周辺の山を案内したり、子どもたちの相手をしてもらったり。子どもたちは外国人のお客さまと言葉が通じなくともコミュニケーションを取っているみたい(笑)。8月に外国人のお子さん2人だけで海外からここへ来ていただいたのですが、ねぶたの浴衣を着せてあげたらとても喜んでもらえました。ホームステイの受け入れをしているみたいで楽しかったな。」

民泊のお客さまに子育てを手伝ってもらっていると話すご夫婦

国も地域もさまざまなお客さまが来るため、事前にお知らせいただいたお客様にはベジタリアンやビーガン、アレルギーなど個人個人に合わせた料理を提供できるように努力しているという香吏さん。

「この場所に来ていつもの生活から離れ、平内の自然を探検したりして。そうしてリフレッシュしてくれたらうれしい。」

今後は民泊に来てくれたお客さまに提供できる体験メニューを充実させたいと拓さんは話します。

「たとえばシーカヤックとか。ここへ宿泊する外国人観光客にやりたいと言われたりするんですよね。平内町には美しい海岸があるし、平内町を楽しめるアクティビティを案内できたらいいなと思っています。」

付近の森のなかを案内したり、拓さんおすすめの「立石洞窟遺跡」を案内したり。時には畑で採れるラズベリーを収穫体験してもらったり、みんなで焼き芋をしたり。

「立石洞窟遺跡」

その季節、その場所でできることを家族みんなで楽しむ萩原さんご家族。自然に逆らわず、隣り合って恵みを分け合う萩原さんたちの暮らしは、訪れた人たちの心をほぐしてくれることでしょう。

取材先

種八農園

平内町の山あいにある自宅兼店舗で、旬の山菜や野菜を中心にした食事を提供するカフェと農家民泊を経営。周辺の山で山菜を採り、畑では根菜や葉物野菜を多品目栽培している。

https://tanehachi.crayonsite.info/

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鈴木麻理奈

鈴木麻理奈青森県生まれ、青森市在住のライター・編集者。 青森県内の観光情報、農林水産業、地産品、伝統文化など、青森で活躍している人・もの・ことを幅広く取材。時には畑へ行き、漁船に乗り、工事現場や工場にも足を運びます。直近では青森県観光情報サイト「AmazingAOMORI」にて特集記事を執筆するほか、JAが発行する広報誌の編集制作も行う。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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