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2014年1月30日 齋藤 めぐみ

宮崎県日南市飫肥杉再生プロジェクト

あなたが子どもの頃に見た森は今も残っていますか?飫肥杉を未来の子どもへ残したい飫肥杉愛に燃える人たちの奮闘劇!

400年の歴史を誇る林業の町、宮崎県日南市。中でも飫肥杉(おびすぎ)は、日南市民の経済の要、生活の活力として常に人々に寄り添い、市民とともに成長してきた。
ところが、時代の変化に伴う木材需要減の受難は、この日南市にも容赦なく降りかかった。
木材はあっという間に工業製品に取って代わられ、飫肥杉も安い外国産材に押されて次第に行き場を失っていったのだ。

そんな現状を打破するべく、東奔西走している人たちがいる。

 

地域資源の特色を最大に活かした「obisugi-design」の誕生

obisugi-design

飫肥杉を日南の資源として復権させるために生まれたのが、「日南市役所飫肥杉課」。飫肥杉を地域資源としてもう一度見直し、飫肥杉を核としたまちづくりを推進するため、市役所内で有志を募って結成された。

飫肥杉課のメンバーは、まずは自分たちが飫肥杉の可能性を信じることを大切にして、柔らかく素朴な性質を良い方向に利用できる手だてを考えた。そんな彼らの姿に多くの人が賛同し、地場産業と東京の大企業、デザイナーなど飫肥杉を愛するさまざまな職種がコラボレーション。地域資源の特色を活かし、飫肥杉の性質をそのまま活かした飫肥杉工芸品「obisugi-design」が生まれた。

飫肥杉を世界に広めて地域に還元したい!

斎藤さん

飫肥杉課の地道なプロモーションは、少しずつ県内に根付いていき、多くの人々の心を動かしていった。その飫肥杉に魅了された一人が、NPO法人まちづくりGIFTの代表、斎藤潤一氏。地域雇用の創出を目的に、伝統工芸品の海外販路開拓を行っている斎藤氏は、直接林業に関わる人たちとは違う目線で、飫肥杉を後世に残す方法を考えた。

それはずばり、「obisugi-design 世界展開プロジェクト」

日本を飛び越え、世界中の人にobisugi-designの素晴らしさを知って欲しい。それは飫肥杉の、ひいては国産杉のブランド力を高め、飫肥杉や日本の森林を未来の子どもたちへ残す足がかりとなるはずだから―—。需要と供給が見合って有益な伐採を行うことは、自然を守ることに直結するのだ。

飫肥杉課の活動が多くの人の心を動かしたのと同じように、斎藤氏の熱意は飫肥杉に関わる人はもちろん、今まで林業に関わっていなかった多くの人の心を行動へと掻き立てた。
長年飫肥杉に関わってきた職人、obisugi-designの生みの親の飫肥杉課、その世界展開を狙うNPO法人、自分も飫肥杉のために何かしたいと願う支援者。
立場も経歴も全く異なる者たちが、立場が違うからこその強みを活かし、さまざまな可能性と手段を摸索しながら、飫肥杉を未来へと繋げる壮大な活動がはじまった。

若い世代にも飫肥杉を愛して欲しい!女子大生対象のイベントを開催

イベント1

その一環として、1月19日に【obisugi design ×女子大生 世界展開に向けた作戦会議】が行われた。宮崎近隣の女子大生を集めて飫肥杉のルーツをたどり、若い人に飫肥杉の現状を知ってもらうとともに、一緒に飫肥杉の未来を考え、世界展開への起案や飫肥杉保全への新しい意見を取り入れよう、という趣旨のイベントである。

当日は宮崎市内や鹿児島から定員を超える女子大生が参加した。
まずは三ツ岩飫肥杉美林を散策したあと、日南製材事業共同組合へ移動し、飫肥杉の原木市場を見学。午後は飫肥杉課の河野健一氏、obisugi-desingを制作する谷啓一郎氏、そして斎藤氏のトークイベント。最後にワールドカフェ形式の世界展開作戦会議を行った。

飫肥杉林での「日南の杉は苗から植樹するから花粉が少ない」というトリビア、製材所での「需要が供給を上回らない」という厳しい現実、「その昔ここに飫肥杉林を作った先祖たちは、これが日南の有益な財産になると信じて疑わなかっただろう」という河野氏の言葉から感じる伝承の難しさと大切さ。

「飫肥杉の天然乾燥は半年から1年かかる」という職人谷氏の地道な努力と、世界への広い視野を持って飫肥杉界にスパイスを与え続ける斎藤氏の話。

 普段見たり聞いたりすることができないリアルな現場に立ち、原材料である杉林から加工現場、商品という一連の流れを直で見ることで、女子大生の中にも、今までになかった感情が芽生えたようだ。「自分の生まれた宮崎に誇りを感じた」「飫肥杉を守っていく必要性を肌で感じた」などといった感想が聞かれた。

 集合写真

飫肥杉で日南に自信と誇りと愛を取り戻す!

クラウドファンディング1

いま、飫肥杉に関わる者たちは日本の森林の未来に危機を感じている。
だけど、決してマイナス要素だけではない。
彼らは心の底から飫肥杉を愛し、飫肥杉の可能性を信じ、飫肥杉の長所を活かし、若い人たちの意見も取り入れながら、そして誰よりも楽しみながら、飫肥杉林を次の世代に残そうとしている。それが遠い未来の日南の有益な財産になると信じているから。いま自分たちが頑張ることによって未来に希望が生まれると信じているから。

その姿に私たちも感銘を受け、思わず「一緒にできることを何かしたい!」という高揚感を覚えるのだろう。

クラウドファンディングに挑戦中

クラウドファンディング2

今回のイベントのテーマともなった「obisugi-design世界展開」。
斎藤氏は、その資金集めとして、行政や大企業に頼るのではなく、敢えて市民からの賛同を得たうえで少額支援を募るクラウドファンディングの手段を選んだ。そこには「みんなで一緒に飫肥杉、日本の自然を守りたい」という斎藤氏の強いこだわりが垣間見える。支援者一人ひとりが、何らかの形で飫肥杉・国産杉の明るい未来に貢献したいと願う、大切なチームの一員なのだ。

この熱はこれからも周りをまきこみ、ますます大きな波を作るだろう。今後の展開に期待したい。

参照:FAAVO宮崎https://faavo.jp/miyazaki/project/150

取材先

宮崎県日南市飫肥

齋藤 めぐみ
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私が紹介しました

齋藤めぐみ

齋藤 めぐみ1983年、宮崎県生まれ。東京都渋谷区在住。 出版社で書籍・雑誌の企画編集、ライティングに携わったのち、2012年に独立。 現在は、地域を盛り上げる活動をしている人々の取り組みを中心に、記事を執筆。そのほか復興業界誌、音楽誌、医療雑誌等に関わる。とくに、故郷宮崎の町おこしには大いなる興味を抱き、東京から宮崎を鼓舞するべく奮闘している連携団体や移住問題を追いかけ目下奔走中。

人と風土の
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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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