「移住ドラフト会議」とは?
「移住ドラフト会議」は、まさにプロ野球のドラフト会議の「移住」版。ドラフト候補者は、鹿児島への移住、または、2拠点居住で緩やかに地域と関わりたい人。受け入れ先は、鹿児島の7地域。指名獲得地域は、1年間の独占交渉権を得る。また、指名順位に応じて地域特産品も贈られる。候補者は全国から38名が集まった。居住地は関東が半数以上。出身地では半数以上が鹿児島県出身。年齢は20~30代が中心で、約8割が独身だ。
この企画を発案した鹿児島のまちづくりをプロデュースする『Ten-Lab』理事長・永山由高さんによると、ここ数年の移住関連の業界では、移住者側、受け入れ側の双方に不安要素があるという。
移住者側は、自分自身のスキルや経験が地域の中でどう評価されるかや、受け入れてくれるコミュニティがあるのかが不明。一方受け入れ側も、どんな人に来てほしいのか、具体的にどんな人が移住を考えているのか見えにくい現実がある。そこで議論のきっかけを作り、両者を互いに知る場を提供することで、まちや人の新しい関わり方を探すきっかけにしてもらうのが目的だ。指名されたからといって、移住が必須ではないそうだ。
どんな人に来てほしい?「移住者に期待するもの」
今回の受け入れ先は、鹿児島市の桜島、日置市の湯之元、南九州市頴娃町、鹿屋市、長島町、三島村、甑島の7地域。それぞれの地域で活動する団体がエントリーした。
来てほしい移住者像については、各地域様々だ。桜島の福島さん(NPO法人桜島ミュージアム)は、「移住がマストではないとしたら、東京から桜島の魅力を発信してくれる人もいい」
鹿屋の川畠さん(株式会社大隅家守舎)は、クリエイティブ系人材への期待。「よそからの人が来てくれて、面白いことを発信してくれると嬉しい。若者の手で変わりつつあるまちの波に一緒に乗って」と話した。
また、東京のIT企業に現在も勤務し、Iターンで二拠点居住者の長島町の土井さんは、「濃厚な地元のコミュニケーションを楽しめる人、スキルや経験を生かしてスキルアップにつながる仕事をしたい人」を挙げた。「人口1万人に対してイノシシのほうが多いような環境を楽しめる人。ゴールのない地域づくりをお祭り感覚で楽しめるような、ポップな人材を」とコメント。
一方、湯之元は「湯之元に住みながら鹿児島市に通勤するというスタイルで、地元の人と仲良くやっていける人なら」とコミュニケーションスキル重視のスタンスだ。
移住ドラフト会議、スタート!
開始から1時間。ついに、受け入れ側が移住者を選ぶ、前代未聞の公開人材争奪戦が始まった。いかにもプロ野球のドラフト会議のような雰囲気を演出すべく“どよめき”のリハを経て、各地域が第1巡目の指名者を選出。「今回指名されたとなると、“日本初の移住ドラフト会議で指名された”となるわけです。指名された方はガッツポーズの練習とかしていただくと、絵的にいいかもしれません(笑)」と『鹿児島移住計画』の安藤淳平さん。どこがまじめでどこが遊びなのかが判別できない雰囲気の中、冷静なアナウンスが静かに響く。
「第1巡目、選択希望候補者。湯之元――加藤千佳、東京」
会場「オー……」
「第1巡目、選択希望候補者。頴娃――加藤千佳、東京」
会場「オオーー!!」
候補者の重複が発生してしまった。ドキドキの抽選である。ちなみに会場のほとんどの人が「加藤さん」を知らない。にも関わらず、完璧などよめき演出で場を盛り上げる。何というホスピタリティ。愛にあふれている。
「湯之元」VS「頴娃」。交渉権を獲得するのは……?「おめでとうございます!湯之元地域です!」
「お祈りが効いたのだと思います」
長島町と三島村も重複候補で抽選に。果たして運命は……
「うおーー!」「長島町が交渉権を獲得しました!」
湯之元から1位指名された東京出身の加藤さん。幼少時から転勤が多く、地元と言える場所に憧れていた社会人3年目。「キャリアは浅いが、あえて先入観を持たず笑顔でコミュニケーションを取り、アウトプットしたい」という姿勢が高評価を得たようだ。
移住する側、受け入れる側、これからに求められることとは
ここで、studio-L代表/東北芸術工科大学教授/慶應義塾大学特別招聘教授の山崎 亮さんから、電話で応援メッセージが届けられた。
エントリー者に多かったのは、「自分は、特に何か専門性を持っているわけではない普通のサラリーマンだが、地域に役立てるかどうか」という悩み。
その点については、「持っている能力で何ができるかということより、どんな人かということが1番大きい。つまり友達になれるか、ある程度の礼儀正しさがあるかということが、特に初動期に大切。スキルと生かそうと思いすぎないことが重要で、まず素直に地域の現状や努力を知るといったことに徹する。そこから自分をどう生かすかが見えてくると思います」とアドバイス。
また、受け入れ側にも「移住者が来たときに、集落独特の暗黙のルールのようなものがあれば、それをどう変更するかも大切。受け入れの際、地縁のコミュニティにあらかじめ移住者の話をしてくれたりすれば、移住する側は相当スムーズに地域になじめるのでは」と話した。
最後の5巡目、1人の候補者に5地域の指名が集中
悲喜こもごものドラマを繰り広げながら迎えたラスト第5巡目。ここでも1候補者をめぐって5地域の指名が集中するという、絵的においしい展開となった。また、鹿屋vs甑島、三島vs長島という闘いも経て、各地域5人の指名が確定。熱気と興奮が渦巻く中、第1回の指名会議は終了した。
永山さんは、今回のイベントについて「各地域が誰を1位指名するか、どういう移住者に来てほしいか、どう活躍してもらうかという議論の場が持たれた点に大きな意味があった」と話す。各地域も「真剣ながらも楽しめた」と、得たものは想像以上だったようだ。
▲三島村から2位指名を受けた、吉村佑太さん。元々フェイスブックでつながりがあり、相思相愛の結果に。
もちろん指名された人にとってもこれからが本番。鹿児島をテーマに、様々なフィールドで活躍すべく交流を深めていこうと、懇親会に臨んだ。
真面目ながらも茶目っ気を忘れない。サービス精神あふれるイベントの雰囲気は、南国・鹿児島ならでは。次回の開催は12月。『鹿児島移住計画(http://kagoshima-ijyu.jp/)』では、今後、九州各地の「移住計画」と合同開催の構想もあるという。気になる人はぜひチェックを。