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2016年8月23日 ココロココ編集部

北茨城市で続く老舗旅館「あんこうの宿 まるみつ旅館」の取り組み~あんこうをもっと世の中に ~【いばらきさとやまの未来 vol.1】

茨城県北茨城市は県の最北端に位置し、北は福島県いわき市に隣接する。東は太平洋に面し、西は阿武隈(あぶくま)高地があり、大北川、塩田川、里根川などの河川が発達している。新緑や紅葉の美しい渓谷や美しい海岸線には平潟(ひらかた)漁港や五浦(いづら)海岸、二ツ島などの見所があり、多くの観光客でにぎわう人気スポットが多くある。

岡倉天心による日本美術院の六角堂や童謡作家の野口雨情の生家なども残されており、各所で同市の深い歴史を見ることができる。また、良質な温泉・鉱泉が湧き出し、北茨城温泉郷としても知られ、宿では冬の味覚の王様・あんこう鍋が味わえる。

今回は、あんこう鍋と四季折々の海の幸を使った本格磯料理が自慢の老舗旅館「あんこうの宿 まるみつ旅館」を訪れ、代表取締役の武子能久(たけし よしひさ)さんにあんこうへの想いと「あんこう研究所」設立など今後の活動について話を伺った。

「あんこうの宿 まるみつ旅館」の誕生

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北茨城市の北東部にある平潟地区は、住んでいる人の殆どが港の仕事に携わる漁師町だ。今では珍しくなった駄菓子屋があるなど昔ながらの良さが色濃く残る街並みが美しい。

武子さんが『「口は悪いが心は優しい」そんな人たちが多いですね(笑)。』と表現する平潟地区の、ちょうど真ん中に位置する「まるみつ旅館」の歴史は古く、その始まりは武子さんの祖父の時代にまでさかのぼる。

『私の祖父は魚を売ったり加工をしたりする港の仲買人でした。今ではあんこうは高級品ですが、祖父の時代ではその使い道に困るほどとてもたくさん獲れていたそうです。当時、沢山獲れて値段も安かったあんこうを扱いだしたのが、今の「まるみつ旅館」の始まりになります。』

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『そこで、あんこうをより消費し、さらにあんこう料理をみなさんに食べて喜んでいただこうと思いまして、1968年にここ平潟地区で初めての民宿であり、あんこう料理を食べられる民宿としてオープンしました。」と、民宿を始めた経緯を話してくれた。

オープン当時の宿は海水浴客を中心で、賑わいのピークが夏場だったという。そこで、季節に関係なく冬場の集客も増やす為に、「冬にはあんこう鍋が食べられる」ということを前面に打ち出したそうだ。

その結果、新鮮なあんこうが食べられる宿として、また当時の民宿ブームや鍋ブームに後押しされて、瞬く間に全国的に評判となり、冬場も多くの客で賑わうようになったという。このようにして、「まるみつ旅館」は誕生した。

 

あんこうを深く知り、もっと世の中に広めたい

2015年、武子さんは祖父の命日である10月22日に「あんこう研究所」をオープンした。
『あんこうの価値をより深めて世の中に発信していきたい、あんこうの新しい調理法を研究し、従来の食べ方を深く掘り下げようと思いまして、その基地になる研究所を構えました。』

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「まるみつ旅館」の真向かいにある研究所は、武子さんの祖父が使っていた木造二階建ての魚の加工場を改装し、一階が調理場を備えた研究室とオリジナルグッズショップ、二階を研究所レストランにしている。

同研究所では、「あんこうコロッケ」などあんこうを使った商品開発や、あんこうから獲れるコラーゲンの研究などに幅広く利用されている。コラーゲンの入った「あんこうアイス」も開発されているそうだ。『とってもミラクルな味!?ですよ(笑)』と武子さん。商品化が実に楽しみだ。今後は『観光客や希望者が気軽に体験できる、平潟の文化でもある「あんこうの吊るし切り」の道場も開設したい。』という。

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『「あんこうの吊るし切り」は難しそうに思う方は多いですが、10回ほど経験すると習得できてしまう人もいるので、是非一度体験して見て欲しいですね。』

研究所では食べ物の開発以外にも、現在はあんこうのコラーゲンを流用した化粧品の開発を大学と共同で行ったり、なんとコラーゲンを利用した「コラーゲン風呂(ご当地風呂)」も思案中という。

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『肌がツルツルになるので特に女性のお客様には喜んで頂けると思います。』と武子さん。「コラーゲン風呂」が料理と共に旅館の名物になる日も近いのかもしれない。

肝、えら、ひれなど骨以外、捨てるところがないと言われるあんこうだが、最近は、捨てるしか手段の無かった骨を砕いて肥料できないか研究を進めているというから驚きだ。今後の研究、そしてその利用方法にも目が離せない。

ここまであんこうに心血を注ぐ武子さんの強い思いはどこから来るのだろうか。

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武子さんは、『ここ平潟地区は特に、あんこうと共に育ち発展してきた街ですからね。私だけでなく、皆強い思いがありますよ。』と語る。

『昔から守られている伝統は大切にして、現代だからこそできる新しい考え方や技術で、新しいものを積極的に開発していきたいですね。』

あんこうをあらためて見直すキッカケ、新しいものが生まれる拠点にこの研究所をしたいと、武子さんの声に熱がこもった。

 

地元の若い力を活用する

「まるみつ旅館」では、学生インターンシップの受け入れにも積極的だ。 『インターンシップで学生さんを受け入れたのは、日々の業務に追われてなかなか踏み出せない、基礎的な研究開発の部分を手がけて頂けるのではないかと思ったからです。また、若い力によって職場の雰囲気がより良く変わることも期待しました。』

インターンシップに参加した学生には、あんこうのご当地弁当の開発をお願いしたという。
開発は、武子さんが今まで培ってきた、知識や調理技術を踏まえて、レシピを一から考えて、試作品を作り、弁当の販売までを学生が担当した。
「旅館スタッフと一緒になって企画から商品づくり、価格の決定までお願いしました。館内にある薪ストーブを使ってお客様にお出しする料理も開発して頂きましたね。」

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また、「まるみつ旅館」の姉妹店であり、武子さんの曽祖父が開発した「伴七きんつば」や、北茨城の工芸陶器である「五浦天心焼」、県北スイーツ大会(グリーンふるさと振興機構主催)で優勝した「イチゴ大福」などを販売する「てんごころ」では、
『新たなスイーツの商品開発をインターンシップの学生さんにお願いしました。地元の方にも愛されるお菓子処として、北茨城を代表するスイーツを作リ、観光客など地域外への皆さんに知って頂くことでこの街をさらに盛り上げていくことが目的です。学生さんには、「よそ者・若者」といった視点で、メインとなる素材の選定から、レシピ・試作品作り、評価・検討まで行ってもらいました。」と話してくれた。

 

北茨城から全国へ

2011年に起こった東日本大震災で、大きな被害を受けた北茨城市。

震災による影響は直接的な被害だけでなく、風評被害によるものも大きかったというが、そんな苦しい状況を変えていくためにも武子さんは「あんこう研究所」やインターンシップの取り組みなどを続けてきた。

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また、北茨城市はあんこうをシンボルに掲げて、震災からの復興に向けたまちづくりを行ってきた。そんな流れをくんで2014年から始まったのが、「全国あんこうサミット」だ。

全国各地で食されているあんこう料理を一堂に集め、あんこうの美味しさ、素晴らしさを全国に発信することを目的に、あんこう料理の発祥の地である北茨城市が開催している。今年2016年1月には2回目が開催され、「まるみつ旅館」も参加している。

全国あんこうサミットの可能性について武子さんは、『全国各地のあんこう料理を使ったPRが行われますので、お互い良い刺激になりますし、新しいネットワークの構築や商品の共同開発などにも期待したいです。』と話す。

あんこうを扱うもの同士の情報交換やコラボレーションによる新たな展開がもたらす、北茨城と「まるみつ旅館」の新たな発展に注目である。

 

あんこうだけじゃない、北茨城市の魅力

茨城県北茨城市は、夏は涼しく、冬は暖かくい住みやすい場所だ。また、岡倉天心や、野口雨情にゆかりのある芸術の街でもある。

東京にも近く、スキー場のある福島・猪苗代方面へも1時間弱で行くことができるアクセスの良さも魅力。さらに美しい海や山、温泉もあり、美味しい食べ物も豊富。武子さんは地元の魅力をこう語る。

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『ここ平潟近辺は港町ならではの風景が美しく、海好き、港好きにはたまらない場所です!ネコも多いのでネコ好きな方にもオススメですね(笑)』

『住んでいる人たち同士も、地域の連携がしっかりととれているので、何かあった時にはみんなで助けてくれるような優しい人たちが多いです。小さいお子さんがいる家庭には、街全体が応援してくれる、そんな人情や住みやすさに溢れています。もちろん、新しくここに住みたいと思っている方にもお勧めです。』

海や山など美しい自然に囲まれた北茨城市。人と自然が優しい“あんこうの本場”を訪れてみてはいかがだろうか。

取材先

あんこうの宿 まるみつ旅館

住所:茨城県北茨城市平潟町235

http://www.marumitsu-net.com/

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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