カヌーと共に過ごす毎日が現実に
常陸大宮市を流れる、清流「那珂川」。天然の鮎や鮭が遡上し、小魚が飛び跳ねる那珂川で、カヌー・カヤックを中心とするアウトドアアクティビティツアーを開催しているのが「ストームフィールドガイド」だ。県内はもちろん首都圏からも多くの人が訪れており、1度体験するとハマってしまう人も多いようだ。
『カヌー・山岳ガイド・レスキューの有資格者がインストラクターとして案内しています。安全にゆっくりカヌーを楽しみたい方、スポーツとしてカヌーを習ってみたい方も大歓迎ですよ。』そう話す山本さん。
同店ではプロショップとしてアクティビティだけではなく、カヌーの販売、技術講習や安全講習、キャンプ装備やBBQセットのレンタル、キャンプ装備の販売も行っているそうだ。また、カヌー経験者向けのレンタルカヤックと上流への搬送も行っているというから驚きだ。茨城県北エリアにおけるアウトドアの強い味方である。
現在は、常陸大宮市在住だが、埼玉県三郷市が出身だという山本さん。一見、里山暮らしとは縁もゆかりもないように思えるが、どのような経緯で常陸大宮市に移住することになったのだろうか。
『ずっとサラリーマン生活をしていまして、社会人になっても学生の頃からやっていたカヌーを楽しんでいました。ここ那珂川は大好きでいつも来ていましたね。』と当時を懐かしそうに思い山本さんは話す。
『那須高原を源流とする那珂川は、ダムのない本物の川と言われていまして、本物の自然に出会えるのが最大の魅力です。』那珂川の魅力を山本さんはこう語った。
カヌーを愛する者として、プロショップの拠点として山本さんにはここ那珂川以外の選択肢は無かったという。
『私は、一年中カヌーをしていたいんですよ(笑)ここは冬になっても雪があまり降らないですし、里山がいっぱいあります。美しい自然に囲まれていますが雪山には決してならない。だから本物の自然とともに一年中カヌーを楽しめる場所なんです。なかなか無いんですよね、そういう場所って。たくさんの魅力がある那珂川をもっと皆さんに知ってもらいたいなあと思っていたのもあって、ある時、やろう!と思い切って移住し、店を始めたんですよ。』
そしてカヌーを愛する山本さんの夢が現実となり、通い詰めた大好きな那珂川の河川敷にプロショップ「ストームフィールドガイド」をオープンさせたのが2010年だった。しかし、店を始めて軌道に乗りかけた翌年の2011年、東日本大震災がここ常陸大宮市を襲う。
震災が生活を一転させ、アルバイト生活も
『ものすごい揺れが2分以上続きました。ガラスが割れたり物が倒れてきたり、もう勘弁してくれ!って。カヌーや家財を必死に抑えて揺れが収まるのを待っていました。揺れが収まってからが本当の試練でした。生活が振り出し以下になってしまいましたね。』と山本さんは当時を振り返る。今までの温和な表情が一転、悔しそうな表情だった。
水や電気などのライフラインは寸断され、世間は観光などの娯楽に対して一気に自粛モードに。予約でいっぱいだったGWや夏休みも9割以上がキャンセルになってしまったそうだ。
『収入源がなくなってしまったので、この仕事の後に夜アルバイトをしてなんとか食いつなぎました。諦めてしまうという選択肢があったかもしれませんが、東北地方の被災地の皆さんはもっと大変だろう、死ぬわけじゃないし頑張ろう!という気持ちでした。』と当時の苦労を語った。
那珂川の雄大な自然と共に遊べる、カヌーの魅力
震災を乗り越え、現在は多くの人が訪れるようになり、カヌーやカヤックはもちろんラフティングなども好評だ。GWなどの大型連休、夏休みになると予約でいっぱいになるという。
体験ツアーに参加する客は、20代から50代と幅広く、夏休みや連休はファミリーで楽しむ人も多いそう。カヌーは初めてという初心者の人でも、スタッフが丁寧に操作練習から指導してくれる。
『昔、テレビでカヌーに乗っていてひっくり返ってしまうシーンが多く放送されていましたが、あのようなことはまずありません(笑)。とても安全な乗り物なので、初めての方でも安心して楽しんで欲しいですね。』
同店の体験ツアーについて、詳細を山本さんにご説明頂いた。
『カヌーが初めての人の為に午前中に操作練習と説明を行い、午後は那珂川の6~7kmの距離をツーリングできる「那珂川1日カヌー」が人気ですね。難しいテクニックは必要なくて思いっきりレジャー感覚で遊べますよ。また、安全に那珂川の川下りを楽しむことができる、「那珂川ファンボート」も人気です。6月からはホタルを見ながら川面を漂い幻想的な空間が体験できますよ。』
その他、安全装備を身につけて渓谷の清流を歩いて冒険できる「シャワーウォーク」など同店には、那珂川や県北の自然を楽しむことができる魅力あるツアーが満載だ。どのツアーも濡れても良い服装と靴さえ準備してくれば、誰でも気軽に参加できるのが嬉しい。
日々、体験ツアーや店の運営に奮闘する山本さん。カヌーを始めたのが高校生時代とのことなので、人生のほとんどをカヌーと共に過ごしているといってもいいだろう。山本さんをそこまで夢中にさせるカヌーの魅力とは何なのだろうか?
「自然に生かされている!」と感じることができる瞬間
『私にとってカヌーは、スポーツというよりは移動手段の一つという認識ですね。カヌーに乗らないと見ることのできない景色に出会うことができる、そこが魅力です。思い立ったら、人の手が入っていないフィールドに行き大自然に囲まれ自分がそこに居る…素晴らしい体験ですよ。』カヌーの魅力を語る山本さんに力が入った。
更に山本さんは、こう続けた。
『カヌーは水の上で楽しむものなので、一歩判断を間違えれば危険と表裏一体の面も備えています。そこを的確に乗り越えることによってまたとない充実感を味わうことができる乗り物です。私たちは自然に生かされているんだ!と感じることができる、そんな瞬間が魅力ですね。」
ここ常陸大宮市からは、海も山もどこへ行くにも1時間圏内とアウトドア好きには最高のロケーションだ。少し時間があるからカヌーをしよう、山に行こう、海に行こう、そんな自由なライフスタイルを送ることができるのが、この土地の魅力であり、仕事のモチベーションにつながっているという。
県外から移住してきた山本さんにとって常陸大宮市の魅力は、語り尽くせないほどだという。しかし元々地元に住んでいる人となると、身近すぎてその魅力に気づかないという人も多いのが現状だ。
山本さんは、地元の魅力をより多くの人に知ってもらうために、インターンシップ制度の活用に注目している。
那珂川の魅力を伝える若い力
水戸市出身で県外の大学に通う学生をインターンシップ制度で受け入れたことがあるという。地元茨城出身の学生を受け入れた理由を伺った。
『旅行に行くと外国の人は自分の国自慢をしますが、日本人ってそういう話はあまりしませんよね。それは日本人同士にもあることで、特に若い人は自分の地元のことを話せない、地元の良さにについて話すことができない人が圧倒的に多いと感じています。そのまま都会に就職や進学をしても、地方で生まれ育った利点を生かすことができないだろう…、そう思いました。』
『インターンの学生さんは、ここでの活動を通し、那珂川や常陸大宮を好きになってくれました。いっぱい良い思い出を作ることができたのではないかと思います。』
その後インターン生は大学に戻り、同級生に那珂川の魅力、常陸大宮の魅力を積極的に伝え、多くの友人を夏休みなどに連れてくるようになったという。インターン生の採用がこの土地のPRに一役買った結果となったのだ。
『今、そのインターン生は店のスタッフとして働いてますよ!』と山本さんは嬉しそうに語った。
地元農家とのコラボレーションが地域活性のきっかけに
インターン生の受け入れの他にも、地域との連携も重要視しているという。
『毎年1月から、県北では御前山の陽光に恵まれたとても美味しいと評判のイチゴ狩りが楽しめるので、地元のイチゴ農家さんとタッグを組んで、イチゴ狩りと冬のアウトドアを満喫できるツアーを企画しています。イチゴをいっぱい食べたあとは、那珂川くだりを楽しんで、川にすむ魚の観察や魚採りなど、地元の大自然で1日遊んでもらっています。お互いの業種が盛り上がり地域全体が活性化される、そんな取り組みです。その他、秋には収穫祭などと連携してツアーを企画していますので楽しみにしていてください。』と今後の展望を語った。
茨城県北エリアは現在、地元の人たちが率先して地域を盛り上げていこうという動きが活発だ。
『地域に根ざす店として地域活性の取り組みや学生、企業の研修の場としても同店を活用して県北地域を盛り上げていきたい。』と山本さんは今後の意欲を語った。
那珂川や久慈川などの清流が流れ、美しい里山風景のほのぼのとした良さが魅力の常陸大宮市。何もかもが整っている都会とは違い、何もしなくていい、そんな贅沢な時間の使い方ができる街である。
様々な自然と人との出会いが自分を成長させてくれる、常陸大宮市はそんな街ではないだろうか。