憧れから手探りで始めた農業
「コトコトファーム」を営む古東篤さんは徳島県出身。常陸大宮市に移住をし、一人で農業をしています。学生時代はベトナム語を専攻し、ベトナムに1年間留学もしたという古東さん。大学卒業後は語学力を生かした仕事をしたいとの思いから、日本に働きに来るベトナム人の人材紹介の会社に就職し、大阪・名古屋・東京などで会社員生活を送っていました。
このように生まれも育ちも勤務先も “常陸大宮市”と“農業”には結びつかない経歴の古東さんですが、移住のきっかけは何だったのでしょうか?
「サラリーマンだった時から、都会で生活して子どもを育てていく自分の姿が、どうしてもイメージできなかったんです。私自身が企業戦士としてバリバリ働くというタイプでもなかったので(笑)。都会で働いていると家族との時間をつくることが難しいですし、自然があるところで子育てをしたい、生活がしたいとずっと思っていました。」
さらに古東さんのお父様が自営業で、子どもの頃にいつも父親が側にいる環境で育ったことも影響した、と言います。
「農業を始めたいと思ったのは、雑誌やテレビの“田舎暮らし”特集を見ていて、甘い幻想からやってみようかな?と思ったことがきっかけです(笑)。もちろんその後、とても苦労することになりましたが…」
会社員時代に知り合った奥様は、茨城県ひたちなか市出身。農業をするなら奥様の実家のある茨城県でやりたいと思っていたそうです。
そして前職を退職後、2010年から1年間、千葉県の農家で農業研修を受けることからスタート。翌年2011年には本格的に移住先を探し始めました。
「心配性なので、何回も農作業や現地の情報を聞きに行ったり農家さんの畑を見に行ったりしました。用事がない時でも挨拶しに行っていましたね。ある時、常陸大宮市の御前山地区のごぼう農家さんにお会いする機会がありまして、その方が“よそ者”の私にとても良くして下さったんですよ。あそこに住む○○さんに会ってこい!とか○○さんの畑を見に行け!って(笑)。当時はまだ移住を決める前でしたが、そういった生活を繰り返すうちに、地元で顔見知りの人がどんどん増えていきました。」
そして古東さんは、現在の住まいと畑を紹介してもらうなど、常陸大宮市で親しくなった地域の方々との連携体制に後押しされ、移住をして農業を始めることを決意しました。
多くの問題点と共に始まった移住生活
こうして無事に2011年に常陸大宮市に移住した古東さんですが、移住してからも問題は山積みだったそうです。
「私が今住んでいるのは、築100年以上の茅葺き屋根の古民家です。都会の人が見れば、趣があっていいね!と思われるかもしれませんが、実際に住んでみると、昔の造りなので寒いですし、茅葺き屋根からはホコリなどいろいろなものが落ちてくるし(笑)、とても大変でした。これから長く住むことを考えると、すぐに改修工事が必要な状態でした。」
古東さんは当時の苦労をこう話しました。
▲自然豊かな場所への移住
さらに古東さんはこう続けます。
「常陸大宮市は県南地域とは違って東京からは遠いですよね。当初は東京のマルシェで野菜を販売し顔を広めて、農業の販路を拡大しようと思っていたのですが、難しかったですね。」
現在は、古東さんの努力と会社員時代の人脈のおかげもあって、茨城県内の水戸、ひたちなかや東京などの関東圏をはじめ、大阪、名古屋など、全国各地のレストランから個人のお客様まで、取引先は拡大しました。
地域の人の協力が移住の手助けに
移住後大変な時期に、古東さんに優しく手を差し伸べてくれたのは地域の人たちだったと言います。
「この地域の人たちは、私のような外部から来た人間に寛容だったのでとても助かりました。地区内に同じように移住し農業を始めた人もいますし、元々住んでいた方も移住者にフレンドリーに接してくれる人が多いです。ビニールハウスの骨材を貸してくれたり、年に1、2回しか使わない農業用の機械を貸してくださったりと、金銭面はもちろん、精神的にもとても助けられていますよ。」
▲地域の方に支えられている「コトコトファーム」
人とのコミュニケーションが仕事や生活につながる魅力
地域の人たちの助けもあり農業を軌道に乗せた古東さん。移住する前と比べて変化したことが多いのではないでしょうか?
「何もかもが変わりましたね!サラリーマン時代と違って誰かに雇われてお金を稼ぐわけではないので、良い意味で仕事と生活の分かれ目が無くなったと思います。」
古東さんの農業は個人に直接販売をするスタイルのため、人と人との繋がりがダイレクトに仕事に関係してくるそうです。お互い心地よい関係性の中で仕事をしていくために、「どうやったら一緒に仕事ができるのか?」「何か助けになれないのか?」など周りの人の事を常に考えながら行動するようになったという古東さん。さらに地域の人たちと共に暮らしているという意識を自分自身が持つことがとても重要だと言います。
「ちょっとしたことですが、例えば庭草を生やしたまま手入れをしない、落ち葉を掃かない、そんな生活をしていると、『移住してきたあの人はだめだ』と思われてしまいます。その後のお互いの関係にも影響することがありますので、気をつけないといけないですね。」
農作業で忙しい毎日を過ごす古東さんのお休みは1年間に10日間ほど。そんな忙しい中でも、地元の消防団に参加して精力的に地域活動をしています。働き盛りの世代は、家と職場を往復する生活になりがちですが、消防団での活動が地域の人たちとのコミュニケーションの場を広げてくれると古東さんは話します。
「消防団は、火事や防火水槽の点検などいざという時に地域を守る、というのはもちろんですが、同じ世代の人たちと知りあえたり話したりできることが魅力的だなと思いました。人生の先輩にあたる世代の人とも話すきっかけになりますし、勉強になります。」
地域の人と積極的にコミュニケーションをとることで情報交換ができ、結果的に仕事や生活にプラスの効果が生まれているようです。
人は優しく気候は穏やか。住みやすい茨城
地道な努力の甲斐もあって地域の人とも打ち解け、穏やかで優しい人に囲まれた毎日を過ごしている古東さん。茨城の環境の良さも移住生活を支えてくれていると言います。
「常陸大宮は大雪が降ることもないですし、一年を通して気候が比較的穏やかなので、農業をするにはとてもありがたいですね。海も山も近いので魚も果物も市場より安く手に入りますし、ご近所から果物やお米などをいただくこともありますのでありがたいです! 私は美味しいものと料理が好きなので、ドラム缶を使ったピザ釜の作り方や燻製器の作り方を近所の人に聞いて、自宅でよく調理して楽しんでいますよ。地元の人は何でも知っていますし優しいですね!」
さらに移住についてこう話します。
「移住や農業は決して簡単なものではないですが、頑張った分だけ自分に返ってきますし、やりがいがとてもあります。地域の人とのお付き合いをしっかりとしていれば、田舎暮らしの良いところをたくさん経験することができ、豊かな暮らしができると思いますよ。」
最後に、古東さんの今後の目標や夢を聞いてみました。
「頑張って売り上げを伸ばして、『コトコトファーム』が地元の雇用につながる農園になればいいなと思います。そして私の姿を見て農業をやってみよう!と思ってくれる人が増えて、その人たちの見本になることができたら嬉しいですね!多くの人に、移住に興味を持ってもらいどんどんチャレンジしていただければと思います。」