「音楽好きな友人を増やしたい」との思いでレコード店をオープン
鈴木宏明さんは長野県長野市出身。大学進学で北海道、その後就職のために上京しました。学生時代は音楽好きの友人に恵まれ、毎日のように大好きな音楽に囲まれた生活を送っていたという鈴木さん。一方で、就職し会社員として働き始めると、趣味趣向が違う人々と会社という枠組みでのみつながり働いているという環境に疑問を持ったと言います。
会社員時代に鈴木さんは、趣味である音楽が多くの人と知り合うきっかけとなり、人間関係を結んでくれたと改めて感じ、自分と同じように音楽が好きな人が集まる場所を作りたいと強く思うようになりました。そして、3年間勤めた会社を退職し、レコード店を立ち上げることを決意します。
鈴木さんはまず物件探しから着手。レトロ感漂う町並みが印象的な「谷根千」と呼ばれるエリア内、文京区・根津の物件に決定しました。町並みのほかに決め手となったのは、近所に東京大学や東京藝術大学があり若者が多く暮らしていることと、地方創生などが各地で活発になる前から町の景観保全を住民主体で進めていることでした。
次に取り掛かったのは仲間集め。もちろんこれまでにショップ立ち上げの経験はなく、物件の改修方法・資金集め等々、すべて初めての状態からスタートです。鈴木さんは初めてなりに、とにかくまずは仲間を集めるため、東京大学の建築関係を学んでいる学生に物件のリノベーションを一緒にやらないかと勧誘をしたり、文京区の建築関係者が集まる団体の活動を手伝うことで立ち上げをサポートしてもらったりと様々な近隣コミュニティとつながっていきます。
また、仲間集めと同時にクラウドファンディングでの資金集めも開始。クラウドファンディングの運営会社が同じ文京区にあったこともあり、資金集めの進め方などサポートしていただいたそう。
「クラウドファンディングは約140人の方々にご支援していただきました。支援者の方々は今もイベントに来ていただくなど私にとって大切な仲間です。」
レコード店は下町のコミュニティスペース
クラウドファンディングを活用し資金調達に成功した鈴木さんは、ついにレコード店「block」をオープンさせます。文京区・根津の住宅街の一画にある店舗ビルは東京ローカル感溢れる懐かしい街並みに突如現れるモダンな造り。建物の1階はエントランス、2階はキッチンとレコード・CDの販売スペース。3階はイベント兼ワークスペースとなっています。
「レコード店という業態は、自分が持っている音楽の知識を活かせるのではと思い決めました。店名の『block』は70年代にニューヨークの若者が集う野外音楽イベント『ブロックパーティー』から名付けました。ブロックパーティーは若者がお金がないなりに工夫をして楽しんでいたそうです。blockもこの精神を大切に、できることからまずやってみようと思います。」
レコード店の少し入りにくい雰囲気を払拭して気軽に行ってみよう!と思える“日本一ハードルの低いレコード店”を目指したいと話す鈴木さん。音楽のジャンルは人それぞれでも、音楽好きがみんな気軽に集まることができる場所作りをしたいと目を輝かせます。
「ただレコードを探すだけの場所ではなく、人がたくさん集まりお客さん同士の繋がりができて、集まった人同士で何か面白いコラボレーションが生まれる、そんな場所にしたいですね。」
ローカルと都市をつなぐイベントを開催
「block」では店舗販売以外に音楽イベントはもちろん、音楽に直接関連しない「ローカル」を対象にしたイベントを手掛けるのも特徴です。鈴木さんは長野市生まれということもあり、現在、長野県出身者や長野県に興味のある人たちが集う飲食イベント「長野ゆかり飲み」を主催するなど、長野県と都市をつなぐ活動も積極的に行っています。長野県以外のローカルイベントも多数開催しており、東京にいながらローカル情報を手に入れたり、同郷の仲間ができる場としての一面もあります。
信濃町には気軽に人が集う場が必要
そして2017年からは、「ローカル」にも拠点をつくりたいとの思いから、長野県信濃町で拠点づくりが始まっています。
鈴木さんの出身地長野市からほど近い長野県の北端に位置する信濃町。鈴木さんは、ご両親が信濃町出身でご親戚の多くも在住、ご自身も幼少期に遊びに行った経験があるなど町には思い入れが強いと言います。
信濃町ではここ数年、都市との交流や移住を促進する現地体験ツアーを定期的に開催しています。鈴木さんも参加者の一人。東京など都市圏で暮らしている人々が信濃町を訪れ、名産の雪下野菜を収穫したり、地元のお母さんたちとおやきを作ったりしながら、地元の方々とも交流を深めました。鈴木さんは信濃町のことを知るほど感じたことがあると言います。
「都市からツアーに参加するなどして信濃町を訪れ交流できたとしても、その1度きりで終わってしまったらもったいない。その人達が再び信濃町を訪れることが大事。もっと交流を深めて欲しいと思いました。再び訪れやすくするには、気軽に集える場所や宿泊場所が信濃町には必要です。」
そんな思いもあり、会社員時代から信濃町で人と人をつなぐ何かを始めたい、と考えていた鈴木さんは、「たまり場」を作ることを決意。信濃町で物件を探していたところシェアハウス向きの面白い物件に巡り会います。元々華道教室と民宿だった物件は改修が必要な状態でしたが、「黒姫」駅徒歩1分と好立地でもあった為、鈴木さんは物件を確保しました。そして、町やツアーの運営をお手伝いする会社などとともに現地体験ツアーを企画します。それがリノベーションツアー「シナノリノベーション」です。
「シナノリノベーション」では、都市圏在住のツアー参加者、地域の人、関係者を交え床貼りや照明づくりなどリノベーションを行い、町内外の人が集まるスペースを作り上げました。新しく立ち上がった施設の名前は「seeds」。「seeds」は、信濃町で新しいムーブメントを産むための、種まきのようなスペースにしたい、元々華道教室として使われていたので花のようにアレンジまでこだわりたい、そして信濃町の主要産業である農業で何かトライしたいという思いでネーミング。鈴木さんの熱い思いが伝わってきます。
ただし、このツアーでリノベーションできたのはまだまだ物件の一部のみ。これからも鈴木さんの活動は続きます。
「シナノリノベーション」で生まれた次の一手
実は「シナノリノベーション」では鈴木さんにとって新たな出会いもあったのだそう。
「ツアーでの交流を通じて意気投合した二人と一緒に『メロウマシーン55』という、空間設計事業を主軸に置いたものづくりカンパニーを立ち上げます。『block』『seeds』に加え、文京区で新たにシェアハウスを立ち上げる計画もあるんですよ。今回たまたま信濃町で僕らが出会ったように、新しい会社でもいろんな方を巻き込んでいきたいですね。」