記事検索
HOME > はたらく > ものづくり >
2021年10月20日 水橋絵美

オール岡谷産シルクで、地域の仲間と「新しいシルク文化」を創る!長野県岡谷市地域おこし協力隊募集

長野県のほぼ中央、諏訪湖のほとりにある岡谷市では、現在、オール岡谷産のシルク製品の開発と新しいシルク文化の創造を目指し、「岡谷シルク(http://okayasilk.jp/)」のブランド化を進めています。この岡谷市で、2年前から地域おこし協力隊としてブランド化と養蚕振興に関わっているのが、佐々木千玲さんと橋口とも子さんです。豊かな自然、受け継がれる文化、そしてものづくりへの情熱といった豊富な地域資源を生かして、ユニークな活動に取り組んでいるお二人に、お話をお聞きしました!

自然文化とものづくりが共生する岡谷市

岡谷市から望む諏訪湖と八ヶ岳

長野県岡谷市は諏訪湖西岸に位置する人口5万人ほどの街。明治から昭和初期には製糸業が盛んに行われ、生糸輸出量で世界一になるなど日本の近代化を支える存在でした。美しい生糸と製糸機械を生み出してきた高い技術力と人間力は、現在、ものづくりの現場に受け継がれ、超精密加工技術を有するものづくり集積地として発展を遂げています。岡谷にとってシルクとは、まちの歴史と文化そのものとも言えます。

2021年にオープンした「テクノプラザおかやコワーキングスペース」。市内には4つのコワーキングスペースがあり、創業を考える人やリモートワークの人などが集まる。岡谷市地域おこし協力隊の佐々木さんと話す同工業振興課の矢澤さん、同ブランド推進室の大島さん

2021年現在、岡谷市では関東、東海、関西エリアからの移住相談が急増中! コロナ禍でテレワークやリモートワークなどの多様な働き方が可能になったこと、子育てや退職後の暮らしを考えて自然豊かな長野県に注目している人が増えていることなどが、その理由として挙げられています。2019年から岡谷市地域おこし協力隊を努める二人も、もちろん移住者。「岡谷シルク」のブランディングと情報発信を任務とする佐々木さんと、養蚕振興を担当する橋口さんは、ともに東京からの移住でした。佐々木さんは、岡谷市に移住後にびっくりしたことがあると言います。

桜越しに見える残雪の八ヶ岳

「移住する前は自然豊かなところで機織りをしたいと思っていたのですが、移住してみたら家のすぐそばに大きなショッピングモールがあったんです。あれ!?私が思ってた田舎と違うぞ! って(笑)。でも、近所に商業施設があるということは、都会と変わらず暮らしやすいので、思った以上に良かったです。あとは自然環境のすばらしさに感動しました。湊という地区から見える諏訪湖の景色が最高です! 春は桜越しに、秋は紅葉越しに八ヶ岳が見えて、きれいな空の色が湖面に反映されるんです。空気の美しさが風景の美しさなんだな、と思います。田舎暮らしに憧れている人が最初に移住する場所として、岡谷は非常におすすめです!」

佐々木さんは岡谷絹工房で地元のお母さんたちと染色や機織り体験ツアーを企画する

 

オール岡谷産「岡谷シルク」プロジェクト本格始動!

のこぎり屋根と煙突がシンボルの岡谷蚕糸博物館ーシルクファクトおかやー

明治から昭和初期にかけ、世界最高品質の生糸と高い技術力で国内外で高く評価されてきた岡谷市。欧米では「SILK OKAYA」、国内では「糸都(しと)岡谷」と呼ばれ、その後は精密機械工業が飛躍的に発展したことで「東洋のスイス」とも呼ばれてきました。こういったものづくり精神の背景にあったのは、「美しいものづくりと美しい人づくりの両軸があったからこそ」と佐々木さんは言います。

諏訪式操糸機など貴重な操糸機が展示されている岡谷蚕糸博物館ーシルクファクトおかやー

「シルク産業の全盛期においては、市外から働きに来る若い工女さんたちが製糸業を支えてくれていたので、岡谷市の人々は工女さんを大切にし、教育の時間や余暇のための施設をつくったり、帰省の際には特産の土産を持たせるなどして人材育成に力を入れてきました。現代では、現代では岡谷蚕糸博物館ーシルクファクトおかやーhttps://silkfact.jp/)を中心に、製糸にまつわる資料・史料を保存・展示するとともに、蚕を飼育して地元の学校に譲ったり、併設の(株)宮坂製糸場で糸繰りの様子を公開するなど、世界でも稀なシルクによる教育を実践しています。」(佐々木さん)

宮坂製糸所の「銀河シルク」を岡谷絹工房が染めた糸

岡谷市内で養蚕、製糸、製品化まで一貫した体験学習を行うことができるのは、非常に貴重です。この恵まれた環境を生かして「想像力」と「創造力」を養う教育にも関わっていってほしいと、岡谷市と岡谷蚕糸博物館、三沢区民農園、(株)宮坂製糸所、岡谷絹工房とが連携して、養蚕から製糸・商品化までの講座「担い手育成プログラム」も実施しています。

「養蚕ボランティア」参加者を桑園に案内する橋口さん

養蚕担当の橋口さんは岡谷市で30年ぶりに養蚕農家を復活させた三沢区民農園の皆さんが中心となって行っている年2回(春秋)の養蚕や桑株の育成に協力し活動しています。橋口さんのモットーは「良い桑が良い蚕、良い繭を作る」。橋口さんに養蚕との出会いと協力隊に応募したきっかけをお聞きしました。

「良い桑が良い蚕、良い繭を作る」 大切に育てられた桑を食べる蚕

「2008年より大学で絹についての勉強(絲作り、機織り、染色)を始め、それと同時に養蚕を学べる環境を得ることができました。その経験から蚕の魅力や養蚕の技術の奥深さ、その道具、文化、産業の背景もトータルで素晴らしいことだと感じるに至ります。卒業後も養蚕を続けていきたい思っていたところ、養蚕とブランディングの活動をミッションとした岡谷市地域おこし協力隊募集を知り、応募に臨みました。」

養蚕担当の協力隊と活動をともにするブランド推進室の大島さん

移住する際は、新たに取り組むプロジェクトのことはもちろん、慣れない土地になじめるのか、といったことが気になることもあると思います。岡谷市の場合は、工業集積地として、もともと県外から移住する転勤族も多いことから、日常的に移住者を受け入れる環境が整っています。養蚕に理解のある方が多く「応援しているよ」と声をかけてもらったことや、野菜のお裾分けをもらったことなど、地域の方との温かい交流が、これまでの活動で印象に残っている、と佐々木さんも橋口さんも話してくれました。

国有形文化財「旧山一林組製糸事務所」を「岡谷絹工房」として活用

現隊員の任期は令和3年度末まで。佐々木さんと橋口さんに卒業後の構想についても教えていただきました。
「ブランドコンセプトと岡谷ならではのシルク製品のアイディアが固まり、『岡谷シルクブランド協議会』も立ち上がりました。シルクは美しい繊維というだけでなく、約20種類のアミノ酸を含むタンパク質繊維で人の肌や健康に良い機能面にも注目が集まっています。また、全てが無駄にならず、最後は土に還る自然に優しい循環型の素材でもあります。『岡谷シルク』第一弾の製品としては、オール岡谷産の手織り風呂敷を作る予定です。風呂敷は1枚の布で様々なものを包む日本の伝統文化であり、地球環境に配慮したサスティナブルなアイテムでもあります。そこに岡谷が誇りにしている製糸の歴史と人を育むというストーリーを込めていきます。協力隊卒業後は岡谷市で起業して、岡谷シルクの製品化やブランディングに携わる仕事を継続したいと思っています。」(佐々木さん)

「地域の皆さんで、より良い養蚕ができるように見守りたいと思っています。協力隊卒業後に自身の養蚕ができる環境については、現在検討しています。」(橋口さん)

三沢区民農園の蚕室で。三沢区民農園の片倉さん(左端)、市職員、佐々木さん(2列目左)、橋口さん(右端)

最後に、後任の方へのメッセージをいただきました。
「岡谷シルクのブランド構築は始まったばかりなので、新しいシルク文化やシルク産業を発信していく仲間になっていただきたいです。3年間養蚕を学んで、その後起業されるという夢を持ってきてくれたらいいな、と思っています。一緒に楽しみましょう!」(佐々木さん)

「三沢区民農園の養蚕はスタートラインに立ったばかりです。三沢の皆さんと市職員さんとともに温かな現場を育てていってください。そして、ご自身も養蚕家にチャレンジしていただきたいです。蚕さんと桑園、地域の皆さんをよろしくお願いいたします!!」(橋口さん)

養蚕&産業振興プロジェクトの仲間を募集しています!

産業振興およびシティプロモーションの隊員をサポートする工業振興課の矢澤さん

岡谷市では、養蚕振興に関わる隊員のほか、「テクノプラザおかやコワーキングスペース(https://www.city.okaya.lg.jp/technoplazaokaya/index.html)」を運営しながら、関係人口やビジネスマッチングの創出、シティプロモーションに携わってくれる隊員も募集しています。岡谷市の産業振興の一層の強化を目指し、地元企業や市職員と一緒に取り組んでいただける方のご応募をお待ちしています。

水橋絵美
記事一覧へ
私が紹介しました

水橋絵美

水橋絵美長野県中野市出身。編集者・ライター。「ちょうどいい田舎」中野市で、コワーキング&シェアスペース「まちのアトリエ」を運営。 思いやり(Imagination)・創造力(Creation)・アート(Tech+Art)の出会う場所を紹介します。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む