スポーツを通じた地域へのにぎわい創出が狙い
岩手県では2016年に「希望郷いわて国体・希望郷いわて大会」が開催され、スポーツ施設の整備や改修、スポーツボランティアの活躍など、有形・無形の様々な遺産がもたらされました。盛岡市のスポーツツーリズム推進室では、これらを未来に引き継ぐため、スポーツによる地域のにぎわい創出をテーマに様々な取り組みを行っています。
さらに2017年3月には、盛岡市とその周辺の7市町と連携した「盛岡広域スポーツコミッション」(以下、コミッション)を設立。地域内施設情報の国内外への発信、スポーツ合宿の誘致を中心としたスポーツツーリズムなどの取り組みを推進していくことになりました。
8市町の中でも中心的な盛岡市にとってはスポーツの話題には事欠かず、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けてカナダのホストタウンとなり、水球チームとラグビーチームのキャンプの受入れが決定していること、2015年に「世界最大のラフトレース」としてギネス世界記録に認定された「盛岡・北上川ゴムボート川下り大会」、岩手をホームとするプロスポーツチームの存在などは、好材料です。
そこで今回募集する地域おこし協力隊(以下、協力隊)には、盛岡広域圏の市町やスポーツ関連団体と連携しながら、ポテンシャルのある施設の有効活用を考え、スポーツを通じた交流人口の拡大に向けて行動していく、いわば戦略と営業の両方の役割が期待されています。
求められるのは盛岡広域が持つスポーツ資源の魅力を引き出す新たな視点と行動力
盛岡市には独自のサービスとして2016年3月から始まった「スポーツ・パル」があります。スポーツをする人、支える人両方に向けた無料の会員制サービスで、対象は盛岡市民でなくともかまいません。登録するとスポーツイベントの開催情報やボランティア募集について情報が届くほか、スポーツ施設を利用したり、ボランティアとして参加したりするごとにポイントがたまります。ポイントは協賛企業のグッズと交換できるのですが、利用者も協賛企業もまだ少ないため、運営には改善の余地があります。
ここで、今回の協力隊が籍を置くことになるスポーツツーリズム推進室の佐々木歩美さんに話を聞きました。
「スポーツ・パルは、協賛企業を募ったり、各施設で普及してもらって会員を増やしたり、テコ入れしたいことはあるのですが、なかなか手が回らない状態です。コミッションの運営についても、立ち上げて1年弱の新しい組織であり、まだまだ手探りの部分がたくさんあります。盛岡広域のスポーツツーリズムのあるべき姿を、協力隊の方と一緒に考えていければと思っています。」
盛岡市内にあるスポーツ施設、さらに国体で会場となった施設というのはどういうものがあるのか、うかがいました。
「国体で使われた施設にはいいものがたくさんあります。なかでも通年使えるアイスリンクは国内的に貴重です。カーリングも練習できて、2014年ソチ冬季五輪のカーリング日本代表・苫米地美智子さんが勤務しています。そういうこともあって、アイスリンクの冬場の利用率はかなり高いです。また、岩手県営運動公園の登はん競技場には、既存のリード壁、ボルダリング壁のほか、2018年3月にはスピード壁が新たに整備されます。2018年6月には国内初の大会となる第1回スポーツクライミングコンバインドジャパンカップが開催される予定となっており、注目度の高い施設です。今は、ボルダリング・ジャパンカップを史上最年少で優勝した盛岡市出身の伊藤ふたば選手の存在もあって、競技人口が増えつつありますから、大会誘致しやすい施設があるという点は活かしていきたいところです。」
「今後具体的に進めていきたいプロジェクトもいくつかあります。例えば市民とプロスポーツとの交流では、子供たちと選手が触れ合える機会をつくりたいです。プロスポーツチームとしては協力的なので、着任される協力隊の方にはそのコーディネートなども担っていただけるとありがたいですね。」
まだその価値を十分に発揮しきれていないハード、ソフトをどう活用していくか。協力隊に求められるのは、スポーツに関心があるということだけでなく、現状を分析し、次の一手が打てることのようです。
伝統工芸の職人が集う「盛岡手づくり村」を中心とした地域一帯に、再び観光で活気を!
盛岡市内にある「盛岡手づくり村」(以下、手づくり村)は、温泉郷としても知られる繋(つなぎ)地区の入り口、御所湖(ごしょこ)のほとりにある観光施設で、小中学生の修学旅行先や、外国人観光客など年間約40万人が訪れます。
盛岡広域の市町や県からの出資などで設立された団体、公益財団法人盛岡地域地場産業振興センター(以下、センター)が運営しており、敷地は、お土産が買えて休憩もできるセンターの建物、岩手の伝統的な建築様式「南部曲り家」、職人の制作風景が見える「手づくり工房」(以下、工房)の3つのゾーンで構成されています。工房には、伝統工芸や民芸品の職人や、南部せんべいや盛岡冷麺など郷土食の製造工場など11業種15軒が軒を連ねており、一部の工房では製造体験も可能です。
30周年記念を迎えた2016年度にも40万人を超える来場者数を維持していますが、長期的にみると減少傾向にあります。周辺には車で5分の繋温泉、もう少し足を伸ばせば小岩井農場があるという好立地にある手づくり村は、繋地区の観光拠点としてさらなる飛躍が期待されています。
職人は健在。課題はどこに?
そこで盛岡市は手づくり村を中心とした繋地区一帯の観光を盛り上げるべく、協力隊を募集しています。古くから観光エリアとしてにぎわってきた繋地区に活気を取り戻すために必要なことは何か。手づくり村を担当するものづくり推進課の村井聡さんに話を聞きました。村井さんは2年間かけて「盛岡広域圏における地域資源の活用の可能性について」というテーマで全国の伝統産業についてリサーチし、報告書にまとめたこともあり、日常的に南部鉄器や漆器などの伝統工芸品を愛用しています。
「手づくり村には、盛岡の伝統工芸品として知られる南部鉄器以外にも、そのルーツが盛岡市外にあるものも集まっています。岩谷堂箪笥や竹細工などがそうです。ここには盛岡とその周辺地域の匠の技が集っていますが、それだけでも珍しいことです。しかも、ここに工房を構える職人や企業は、観光用の営業拠点であるだけではなく、普段からこの工房が制作・製造の現場なのです。世代交代も進んでいる工房も多く、今後の発展に期待しています。」
手づくり村の集客は開業時より減少しているようですが、若手職人が定着しているということから、もう一度活気を取り戻すチャンスはありそうです。村井さんに、現在手づくり村が抱える課題についてうかがいました。
「工房は制作・製造風景を見られるだけでなく、そこで買い物もできますし、体験も可能。施設の趣旨としてはそういった職人の風景に触れてもらいながら、買い物をしてほしい。ですからお客様にはできるだけ敷地内を回遊してほしいのですが、なかなかうまくいっていません。冬場は集客が減るなど、季節変動もあります。」
「こういった現状を踏まえながら、協力隊の方には手づくり村を中心とした繋地区全体への訪問者数増加に必要なことを、関係者とともに様々な視点で考え、取り組んでいただきたいです。手づくり村はセンターが管理運営を行っていますが、工房による組合もありますから、まずはそこに所属する職人さんや企業の方々と顔を合わせ、岩手の伝統工芸や手仕事について知ることから始めていってほしいですね。」
応募を検討している方へ
最後に、2つのポジションのそれぞれ受入れ担当となる盛岡市職員の皆さんに、メッセージをいただきました。
佐々木さん「何でも言い合えて相談できる部署で、わきあいあいとしています。なかなかほかには見かけない雰囲気だと思います。盛岡広域をスポーツで元気にするため、一緒にがんばりましょう。」
坂本室長「2020年の東京オリンピックに向けて、盛岡市はカナダのホストタウンになりました。盛岡市内のスポーツ施設はカナダ側からもいい施設だと評価をいただいています。協力隊の方には新しい視点、新しい感覚で、外から見て感じる盛岡の良さを発信してもらえたらと思います。」
村井さん「職人さんはひたむきに取り組んでいる方ばかり。その姿勢や作品の魅力を外に伝えていってほしいですね。伝統工芸や手仕事に関心があって、人と関わりながら、巻き込みながら、企画やプロジェクトをともに進められる人にぜひ応募をしてもらいたいです。」