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2018年2月15日 岩手移住計画

東北の「自伐型林業」先進地・陸前高田 三陸の海を育む山の仕事

太平洋に向かい南東に開けた広田湾を囲むようにして広がる陸前高田市。養殖棚の広がる青い海や広田湾の牡蠣に代表される海の幸のイメージが強いですが、じつは面積の8割は山。広大な山林が生み出す森の養分が清流として知られる気仙川によって運ばれ、豊かな漁場が育まれているのです。
そんな海と山の資源が豊富な陸前高田市は震災後、「自伐型林業」の普及を通じた地元木材の活用に取り組んでいます。そのパイオニアとして、林業の道を歩き始めた移住者夫婦がいます。

漁業のまちの自伐型推進 地域資源で新しい仕事を

陸前高田市が「自伐型林業」に取り組み始めたきっかけは東日本大震災でした。市役所内部でも「今ある資源を活かして魅力的な雇用を生み出そう」との機運が高まり、2015年度から市民向けに「自伐型林業」を知ってもらうための講演会、翌年度からはより実践的に学ぶための講習会などを企画、開催してきました。

研修会の様子

▲市が主催した自伐型林業の研修会

陸前高田だけでなく日本全国の山には木材や燃料として利用できる木がたくさんあります。日本では、戦中から戦後まもない時期にかけて大量の木材が必要とされたために全国で大量の木が伐採され、1950年ごろから伐採跡地にスギなどの針葉樹が植林されました。その時期に植えられた木が今、ちょうど利用に適した太さに成長していますが、国産材需要は低迷、山林の多くはきちんと手入れがされずに放置されているという現状があります。

山林

▲地域おこし協力隊が間伐に取り組んでいる山林

「自伐型林業」は、高額な重機などにコストを掛けずチェーンソーや軽トラックなどを使って少人数で間伐作業を行えることから、これまでの一般的な林業と比べて小規模に始めやすく、また、ほかの仕事との兼業や農業の副業などとして多様なライフスタイルを実現する可能性を秘めていることから、「地方創生の鍵」とも言われ注目されています。

「木が好き」夫婦が移住 自伐型林業

発祥の地・高知から全国に広まっている「自伐型林業」ですが、東北では陸前高田が早くから注目し導入を検討してきました。「自伐型林業推進協会」(以下、自伐協)から講師を招いた現場研修などを通じて、自身が所有する山の手入れをしたい市民や山の仕事に関心のある市民の学ぶ機会を増やすのと並行して、自伐型林業に取り組むロールモデルをつくるために地域おこし協力隊の制度を活用することにし2016年から採用活動を開始、男性2名、女性2名の計4人が着任しています。

地域おこし協力隊

▲市役所担当者の蒲生さん(左)と打合せをする平山さん夫婦

4人はいずれも20~30代で、うち3人は林業経験はありません。自伐協の講師や地元のベテラン林業者のもとで指導を受けながら、日々、現場で技術を身につけているところです。平山直(なお)さん、朋花さん夫婦も2人とも林業は初めて。しかも採用面接の日に生まれて初めて陸前高田を訪れたと言います。
林業も初めて、陸前高田も初めて、の2人が移住に踏み切った背景には陸前高田市役所農林課の若手、蒲生(がもう)夏生さんの熱意がありました。自伐協主催のイベント会場で協力隊募集のPRをしていた蒲生さんが、来場していた直さんに猛アタック。内装の仕事で集成材や合板を扱っていた直さんは、木材そのものを活かす無垢材に魅力を感じるようになり、「人よりも寿命の長い木や山を次世代に伝えていくための技術を身につけたい」と自伐協のイベントに参加していました。「陸前高田というと津波のイメージしかありませんでしたが、蒲生さんの話を聞いて、復興に向かって新しいことをやろうとしているまちで新しいことに挑戦できるのはおもしろいと思いました」と直さん。

平山さん夫婦

▲愛車の軽トラにチェーンソーを積み現場に入る平山さん夫婦

当時いっしょに暮らすパートナーだった朋花さんの「まだ東京でやりたいことがある」という思いを尊重し、その時は移住には踏み切らなかった直さんでしたが、数ヶ月後、「やっぱり、陸前高田で自伐型林業をやりたい」と朋花さんに打ち明けました。
朋花さんも木が好きという思いは直さんと同じ。家具職人のもとで木工を習うなど、「いつかは自分たちで伐った木で家具をつくりたい」という思いを持っていました。
「やっぱり行きたい」という直さんの言葉に強い覚悟を感じ、入籍した上で2人で陸前高田に移住することを決めました。

地域活動でも活躍

2017年5月に着任するやいなや、蒲生さんら農林課職員から熱烈な歓迎を受けた2人。

結婚と移住のお祝い

▲林業にちなんでブッシュドノエルで結婚と移住を祝ってもらった2人

市役所サポートのもと、チェーンソーや刈払機を扱うために必要な資格を取得し、現在は自伐協の講師による研修のほか、陸前高田市や周辺で間伐を行っている地元の林業者のもとで毎日、山林に入り、チェーンソーを使って木を倒す作業や丸太を運び出す作業などをしながら働いています。直さんは「技術はもちろんのこと、少しずつではありますが、毎日どれくらいの木を伐り出せば2人で生活していけるのかが分かってきました」とやりがいを感じている様子。朋花さんも「協力隊の任期が終わるまでに、2人で助け合いながら陸前高田の山をきれいにして、その木を使って家具がつくれるようになりたいです」と目を輝かせます。
現在の住まいは市内中山間部の矢作(やはぎ)町生出(おいで)という集落の中にある元教員住宅。地区の消防屯所の隣にあることから、直さんはおのずと消防団にも入ることになり、消防団や地域の飲み会に呼ばれたり、近所の方から米や野菜をもらうこともしばしば。「これぞ田舎暮らし」といった生活を夫婦で楽しんでいます。

盆踊り

▲盆踊りで実行委員長を務めた直さん(左)

しかもなんと直さんは移住してそうそう8月に行われた生出地区の盆踊りで実行委員長を務めたのです。この盆踊りは35年ぶりに復活したもので、地域の人たちが来たばかりの直さんを盛り立てて開催にこぎつけました。

「チーム」で自伐型林業を推進したい

現在は4名で構成される林業分野の地域おこし協力隊。陸前高田市は現在、さらに3名を募集しています。自伐型林業の推進を中心にしながら、地元企業とも連携しながら間伐材の新しい活用方法を考えたり、木質バイオマスエネルギーの導入の提案といった役割も期待されています。市も今後、地域の林業関係者と連携しながら、協力隊や地元の山林所有者が伐採した木を薪などとして販売できる仕組みを作りたいという構想も持っており、伐り出した木材の販売先も増えそうです。

平山さん夫婦と蒲生さん

▲「チームでがんばりましょう」と呼びかける平山さん夫婦と蒲生さん(左から)

蒲生さんは「協力隊ひとりひとりの方向性に合わせて柔軟にサポートするよう心がけています。将来、どういう風に林業をやっていきたいのか、じっくり話をして一緒に考えましょう」と呼びかけます。直さん・朋花さんは「来るまではたくさん不安もありましたが、陸前高田の人たちはみんなあたたかくて来てみて安心しました。私たちといっしょのチームとして楽しく山の仕事に取り組みましょう!」と新しいメンバーを待っています。

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岩手移住計画

岩手移住計画岩手移住計画は、岩手にUターン・Iターンした人たちの暮らしをもっと楽しくするお手伝いをし、定住につなげていくために活動している任意団体です。県内各地で、「岩手移住(IJU)者交流会」と題したイベントを開催しているほか、岩手県などが主催するUIターンイベントにメンバーが参加し、移住希望者の相談にも対応しています。首都圏と岩手をつなぐ活動にも力を入れています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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