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2018年3月13日 ココロココ編集部

都会と田舎の両方を知れば、人はもっと自由に、クリエイティブになれる。南房総の魅力を発信しながら、田舎での新しい生き方を体現する東洋平さん

地元の人々が言う「南房総」とは、館山市と南房総市だけではなく、木更津市、鴨川市なども含む広いエリアのこと。今回はこの「南房総」を元気にするために、ライターとしてメディアで情報発信を行い、市民参加型のマルシェ「北条海岸ビーチマーケット」で企画を担当し、田んぼも耕し、ヒップホップバンドのトラックメイカーとしても活躍する、“スーパーマルチ南房総人”こと、東洋平さんをご紹介したい。

千葉市出身で都内の大学を出ながら、北条海岸の美しさに心を奪われ、卒業後すぐにこの地に移住したという東さん。現地で出会った奥さんと家庭を持ち、プライベートは3歳の子育てに奔走する日々だと話す。未知の場所に飛び込んで、現地の人々の輪に入り込み、今では自ら人をつなげる役割を担う 。そのバイタリティの源や移住までの経緯、南房総の魅力について、奥さんが営むカフェ「TSUMUGI」でお話を伺った。

音楽がつないだ南房総との縁。自分を受け入れてくれるそうだと感じた場所

千葉市のベッドタウンで、会社員と専業主婦という家庭に生まれた東さん。なぜ、大学卒業後、すぐに館山に移住することになったのだろうか。

「僕は6人兄弟の5番目なので自由にやらせてもらって、大学から東京に出て、そのまま大学院に進みました。専門は哲学だったんですが、哲学ってすごく話題が広くて、言ってみれば「物事の本質を捉え、課題を解決するための方法」が詰まっていると思うんですよ。その中で地方の問題について話すことも多くて、たとえば哲学で「幸福」を議論した時に、「東京よりも地方のほうが幸福度が高そうだな」と考えることもありました。」

東洋平さん

大学で哲学を学ぶ中で、地方に対する興味を持ち始めた東さんが、南房総に出会ったきっかけは、学生時代に夢中になった音楽だったという。

「学生時代は「音楽バカ」で、東京ではライブばっかりやっていたし、防音室にバンド仲間と一緒に住んでいました。僕らは2007年くらいに「Still Caravan」(スティルキャラバン)というバンドを立ち上げて、本気で音楽で身を立てていこうとしていたんです。その活動の中で館山のレコーディグエンジニアさんと出会って、レコーディングのために、この北条海岸線沿いにあるスタジオに来ました。」

初めて北条海岸に来たときの感動は、今でもよく覚えているそうだ。

東洋平さん

「こんな風に手を広げて、「気持ちいーい!」ってやっていました。千葉市にも海岸はありますけど、全然違うんです。広くて、静かで、「なんだか自分を受け入れてくれそう」って感じがしました。夕日もハンパじゃなく綺麗で、「こんな景色の中で生きていけたらいいな」って思いましたね。
で、そのレコーディングエンジニアさんに「もう来ちゃいなよ」って言われて、「はい、行きます!」みたいな感じで、来ちゃったわけです(笑)。」

そのレコーディングのときに、今回の取材場所でもあるカフェ「TSUMUGI」も訪れて、現在の奥さんである静子さんとの出会いも果たしたという東さん。音楽がきっかけで南房総に移住した東さんが、今の本業であるライターとして活躍するようになった経緯についても伺ってみた。

南房総地域だけで100人以上を取材!

「こっちに越してきて最初の頃は、地域の人たちと一緒にフリーペーパーを作っていました。僕にとって初めての執筆経験だったんですが、それがきっかけで、館山市の観光協会から声がかかって、「たてやまGENKIナビ」というサイトの仕事もやらせていただくようになりました。ライターを名乗るようになったのは、その頃からですね。ただ、当時のライター仕事は短期のものだったので、ほかにも農業法人やIT企業など、いろんなアルバイトを掛け持ちしていました。」

ちょうどその頃、良品計画(MUJI)が「ローカルニッポン」というWEBメディアを立ち上げ、南房総エリアを重点地域のひとつに取り上げたいという話があり、そのライターとして東さんに白羽の矢が立った。
東さんは、それをきっかけに自営業として届け出を出し、本格的にフリーランスのライターとしての活動を始めたという。

ローカルニッポンのトップページ

▲東さんが執筆した南房総の記事が「ローカルニッポン」に掲載中

「ローカルニッポンで書き始めてもうすぐ3年ですが、最初の1〜2年は月に4本ほど担当していたので、南房総地域の人だけで100人以上は取材させていただいたことになります。対象は団体、個人などいろいろですが、「日本の未来を作るのはローカルだ」というのがサイトの趣旨なので、南房総の地域課題解決のためにいろいろ取り組んでいる方ばかりで、すごく勉強になりますね。」

“複業型ライター”の推進で、地方の新しい働き方を提案

最近では、自身がライターとして活躍しているだけではなく、「地方の新しい働き方」の一環として、クラウドソーシングサービス「ランサーズ」を使ったライター育成のプロジェクトにも関わっている。

「数あるクラウドソーシングの仕事の中でも、ライターは比較的入りやすい仕事で、地方在住の子育て中の主婦層など、働く時間を固定できない方が「スキマ時間」を活用しやすいんですよ。2015年から、ランサーズと南房総市がクラウドソーシングを活用した「新しい働き方講座」を始めることになり、僕も「地域ディレクター」や「講師」というかたちで関わらせていただいてます。」

ランサーズ「新しい働き方講座」の様子

▲ランサーズの講座で講義中の東さん

ライターの仕事は、インターネット経由で全国から仕事を受けることができるため、地方在住者の副業として注目されているのだという。もともと執筆経験のない参加者も多いが、皆がライターとしての仕事ができるレベルに持っていくために、受講生がチームになって取り組みを進めているそうだ。

「実は、チームの中には子育て中の主婦以外にも農家が本業という人もいるんですが、僕はこれも地方の働き方の新しい形だと思うんです。農閑期のスキマ時間を「複業型ライター」で補填することができれば、地方で暮らせる可能性はもっと広がると思っています。」

イベント、音楽、農業まで!南房総のマルチプレイヤー

東さんの活動は、本業のライター業だけではとどまらず、イベント企画から農業まで、実に多岐に渡っている。

「北条海岸で年に数回開催されるイベント「北条海岸ビーチマーケット」の企画運営を2016年から担当しています。ライターとしての仕事の中で、地域のいろんな人に会っているので、その「地の利」を生かせば、イベント企画もスムーズに進むのではないかということで、任せていただくようになりました。」

北条海岸ビーチマーケット

▲北条海岸ビーチマーケットの様子

2017年11月のイベントでは、天候にも恵まれ、合計3300人の来場者があった。海岸沿いの駐車場と高台の広場を会場とし、さまざまなお店の出店や音楽のステージのほか、第一回「SUP(スタンドアップパドル)」大会ともコラボレーションし、非常に盛り上がったそうだ。
「今後もSUP大会との連携は続けていきたいと思っていますし、ほかにも食とか文化とか、いろんな要素を絡めた企画を立てて、もっと面白いイベントにしていきたいですね。」

移住のきっかけとなった音楽活動についても、最近の状況を伺った。

「実は数年前に、自分も含めてメンバーが結婚や子育てに入り、少し低迷していた時期があったんですが、サウンドトラックを作ってきたメンバーに「このメンバーで、生音とサンプ リングを融合した生バンドの音楽をやろう」と声をかけるとみんな乗ってくれて、それからまた盛り返してやっています。」

2014年に館山市の「城山ジャズフェスティバル」に出演したことがきっかけでデモテープを送り、レコード会社の所属バンドとなり、現在は全国をライブで回ったり、各地の音楽イベントに出演するなどして活動を続けている。

Still Caravan演奏風景

▲Still Caravanライブの様子

「僕の役割は「トラックメイカー」と言って、まあ、「変な音」を出す人なんですが(笑)。個人的には最高にカッコいい音を出しているバンドだと思っているので、「Still Caravan」で検索してみてください。先日EPを発表して、今3枚目のCDも制作しているところです。僕自身はライターの仕事がめっちゃ忙しい時期もあったりして、みんな任せになっちゃう時もあるんですけど、音楽は僕のライフワークなので、これからも続けていきたいと思っています。」

さらに、無農薬のお米作りもされているという東さんに、田んぼを始めたきっかけを伺った。

田植え

「僕自身がアトピー持ちで、親も食べ物にはこだわってくれたので、もともと食や農には関心があり、いつか自分で食べ物を作ってみたいという思いはありました。すると田んぼオーナー制度をやっている方と出会い、また地元出身と移住者の若者でチームを結成することになり、館山市内で田んぼを借りて、オーナー制度を始められることになったんです。2014年から2016年までの3年間、都会から来る方に沢山参加して頂きました。除草剤を使わずに、「田車」という伝統的な除草機を使ったり、竹で土台を組んで天日干しにしたり、こだわって作ってましたね。収穫まで参加してもらい、オーナー分を持ち帰ってもらいました。」

2017年は運営スタッフそれぞれの仕事が忙しくなり田んぼオーナー制度は実施できなかったそうだが、東さんと仲間の2名で、お米づくりは続けている。

「自然しか無い」環境が生み出すクリエイティブな暮らし

東さんの活躍分野に共通するのは「地域の魅力の発信」だという。南房総の魅力を発信するために、自分の興味・関心のあること、好きなことをやっていった結果、現在のような活動内容になったそうだ。そんな東さんが感じている南房総の魅力について伺った。

「いろいろあるんですが、まずは、「海と山が共存している」という部分です。どこに住んでいても、15分以内には海に出られる。都心から90分という距離感も絶妙で、2拠点生活にも移住にも適していると思います。地元の人も移住者に慣れていますから、外からでも入りやすいと思いますよ。」

東洋平さん

「あとは「地域の課題を解決しようと動いている人がいる」ということですね。僕が100件以上取材する先があったくらい、南房総にはそういう人がたくさんいるんです。そういう人たちは、絶望感や焦燥感で動くんじゃなくて、この状況の打破を「面白い」と思ってやっているんです。この「ワクワク感」みたいなものがいいですね。」

さらに、移住後の暮らしについてこのように語ってくれた。

「南房総に移住して、東京にいた時のパターン化された生活から、すごいクリエイティブな暮らしに移行しました。そういう風に感じている移住者は多いと思います。都会は利便性も高いし、遊ぶ場所も沢山あるんですが、閉塞感や制限もありますよね。その点、田舎は自然がブワーっとあって、言ってみれば「自然しか無い」んです。それがいいし、開放感につながっているんだと思います。」

都会と田舎、どちらにもそれぞれの良さはあるので、一概に「どちらがいい」といえるものではない。そういう点でも、“東京から近い田舎”である南房総での2拠点居住や移住は合理的なものなのだという。

「東京から出ることで東京の良さがわかり、その逆も。客観的な視点を持てる土地として、南房総はすごくいい場所だと思いますよ。」

東洋平さん

取材先

東洋平さん

地域ライター/サウンドエンジニア

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ココロココ編集部

ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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