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2021年11月12日 フジイ ミツコ

南房総のシェア里山で新しい自分を孵化させる!『里山インキュベーション』を体感する人たち

2020年からのコロナ禍やリモートワークの普及で「二拠点生活」や「移住」が更に身近になってきました。都心から約2時間の立地にある千葉県の南房総エリアは、都心とのちょうどいい距離感と海も山も楽しめる自然環境で、新しい生活スタイルを求める都心の人たちから注目を集めています。

その南房総で2015年からはじまったシェア里山「ヤマナハウス」。築300年の古民家のリノベーションと裏山や畑の開拓を中心に『観光以上二拠点生活未満』の活動で、6年間でたくさんの出会いや楽しみを生み出してきました。ヤマナハウスをきっかけに狩猟など新しい趣味を手に入れた人や、移住や二拠点生活をはじめた人もいます。
今回は、現在のヤマナメンバーに、ヤマナハウスの魅力と自身のヤマナライフについて話を聞きました。

狩猟女子とアドベンチャーガール

好奇心を持ってやってくる人の多いヤマナハウス。「狩猟」のキーワードに惹かれてヤマナハウスで開催されたイベントにそれぞれ参加し、メンバーとなったのが、大阪谷未久さんと岡本智夏さん。ともに20代の女性で、月例アクティビティではいつも元気に活動しています。

解体したイノシシの皮をなめす作業をする大阪谷未久さん

未久さんは大学時代から南房総エリアの農家の援農に来ていて獣害対策の必要性を感じていたそう。
「今は、害獣として駆除された野生動物の利活用を考え、皮やスカル(頭骨)などを素材として活用できないか試行錯誤しています。また、種から藍を育て、藍染にもチャレンジしています。ヤマナハウスは、窮屈なほど密接ではないのに、声をかければ必ず誰かが力を貸してくれるしなやかなネットワークでありながら流動性もあるコミュニティで、やりたいことを実現できる場だと感じますね。実は、ヤマナハウスがきっかけで移住することになり、移住後はジビエの加工に携わることになりました」

昆虫食にも挑戦する岡本智夏さん。手にしているのは茹でたジョロウグモ

智夏さんは小さいころから生き物に興味があり、現在ヤマナハウスでは「昆虫食」にチャレンジ中。
「サバイバルスキルを身に付けてアドベンチャーガールを目指しています。昆虫食はヤマナハウスメンバーになった時に、永森さんが私の話を聞いてくれて、自然の中で食べられるものを探してみたら?とアドバイスしてくれたのがきっかけ。ヤマナハウスのメンバーは、いろんなきっかけをくれて、実現のアイディアもスピードもあるところが魅力的だなと思います」

ふたりともかわいらしい外見ながら、昆虫や獣害などに興味を持ちアクティブに活動し、ヤマナライフを楽しんでいる様子。その明るさは、ヤマナハウスの活気をさらに盛り上げてくれています。

『いきつけの田舎』という感覚

1年ほど前からヤマナメンバーとなり、神奈川県大和市からヤマナハウスに通う福山幸治さんは、もともとアウトドアが好きで雑誌に掲載されていたヤマナハウスの記事を目にし、参加するようになったと言います。

作業後にくつろぐ福山さん

「ヤマナハウスは週末に遊びに行く場所という感じですね。神奈川県で仕事をしていて家族も向こうにいるのですが、月例アクティビティの日が決まっているのでそれに合わせて予定を立てています。自分で見つけた『行きつけの田舎』という感覚です」

50代でもウェルカムなコミュニティ

福山さんは現在52歳。ヤマナハウスの来た人を拒まないコミュニティの良さが気に入ったそう。
「男で50代から知り合い無しで新しく入って仲良くなれるコミュニティは、ありそうでないんですよね。ヤマナハウスはすごく雰囲気がよくて、ウェルカムムードがあり、気後れしませんでした。色々な人が出入りしていて、普通に暮らしていたら出会えない人と出会えるのも魅力ですね。強制が無く、それぞれが自分のやりたいことを相談しながらできるところがいいです。都心では逆にできないことだと思います。私はDIYに興味があったので、現在は裏山のウッドデッキづくりをメンバーと一緒にやっています。試行錯誤することも多いですが、充実感があり、楽しいですね」

相談しながらウッドデッキの作業を進める

「移住は今は特に考えていませんが、定年後を視野にいれて、自分の楽しみを見つけられたらと。そのきっかけやヒントをヤマナハウスで探していきたいですね」

大人が楽しんでいる姿を子どもに見せたい

子ども連れで参加するメンバーも少なくないヤマナハウス。中学1年生の息子を連れて参加しているのが大貫明紫(あかし)さんです。ヤマナハウスは子どもに良い影響を与えてくれていると話してくれました。

ヤマナハウスの縁側にて

「ヤマナハウスには色んな大人がいて、みんなそれぞれ楽しんでいるんですね。自分の価値基準で人生を楽しんでいる大人に子どものうちに出会って、大人が楽しんでいる様子を感じられるのは、学校では学べない大切なことだと思っています。また、メンバーは知識があるので、子どもがどんな質問をしても取り合ってくれて、なにかしら答えが返ってくる環境もありがたいです。子どもも気に入っていて、ヤマナハウスに来ることをとても楽しみにしています。
それから、倉庫を建てようとしたときに数学の知識を使うといったように、学校で学んでいることが生活につながっていることが実感できるのも良いと思っています」

実際、息子の健弥くんはヤマナメンバーの大人たちとすっかり打ち解け、裏山での虫探しや植物の観察、整備の手伝いなどを積極的に楽しんでいます。急な裏山の道を先頭を切ってどんどんと進んで行く姿からも都会での生活では得られない自然の体験を楽しんでいることが感じられました。

図鑑ではなく実物を見ながら植物の知識を深められるのは貴重な体験

「親ができることは限られているので、ヤマナハウスで自分の子育てを手助けしてもらっている気持ちもあります」と、自然がある中での子どもの成長を喜んでいるようです。

ゆっくりとどこかへ進む共同体

「私がヤマナハウスに興味を持ったきっかけは、コミュニティの形に興味があったからなんです。運営がスムーズにできているコミュニティが南房総にあると聞いて参加しました」という大貫さん。実際、他の地域でも、ボランティア系コミュニティに関わっていたそうです。
「ヤマナハウスでは誰もが、やりたいことをやるために自然に自分ができることを提供しあっているんですね。否定も賛成もなく、そのままを受け入れている感じで、ゆっくりとどこかへ進む共同体という印象です。それがスムーズな運営につながっているのかなと。多様性を認めながら調和しているコミュニティで、自分の子どもの世代にもこういったコミュニティを引き継げたらいいなと感じています」

ヤマナハウスのハーブ園でハーブの収穫

「私自身は、都心などコンクリートに囲まれた場所は地球に足をつけていない感じがしていて。大地に足をつけて地球に住んでいる実感を持てるような生活がしたいなと思っています。田舎体験と言うと人工的でどこか嘘っぽいアクティビティもありますが、ヤマナハウスでの活動は作られていない自然発生的アクティビティなので、より自然に近くいられて嬉しいです」

「誰でも一緒に」の月例アクティビティ

ヤマナハウスでは、月に1~2回土曜日に集まって「月例アクティビティ」を行っています。強制ではなく、集まれる人が集まってその時必要な整備をしながら交流する場で、基本的なスケジュールは以下の通り。

11時頃~ ヤマナハウスに集合し、各自お昼ご飯を済ませる
12時半頃~ 1~2時間ごとに休憩をはさみながら整備活動などをおこなう
16時半頃 活動終了 自由解散

7月上旬の活動日、お昼には飲食営業許可を取ったヤマナハウス「フードロス酒場」のお試し営業として猪の骨で作ったスープの「沖縄そば風猪骨ラーメン」が提供され、実は豚よりもあっさりした猪の美味しさに驚きの声があがっていました。調理しているのはヤマナメンバーでもありプロ料理人の中田さんとローカルヤマナメンバーで同じく料理人の木村さん。
いつもあるわけではありませんが、ランチや休憩時にこういったサプライズ的な催しがあるのもヤマナハウスの特徴です。

里山の恵みが集まった猪骨ラーメン

お昼を済ませたら、風が通り抜けて涼しい古民家の居間で少しだけ食休み。寝そべる人やスマホをいじる人など、リラックスムードがただよいます。 12時半を過ぎたころ、ヤマナハウス主宰の永森さんと溝口さんから今日の作業の提案。今日は、古民家側の水道から水道管を通して畑の方へ繋ぐ配管工事がメインだそうです。 みんなで外に出て、配管を通すための溝を掘っていくメンバー。お父さんと一緒に来た幼稚園児の男の子も大人と一緒に頑張ります。

自分ができることを持ち寄って作業する

また、開拓した裏山の平らなスペースにはウッドデッキが建設中。先ほど話を聞いた福山さんをはじめ、男性メンバーが基礎を作っています。炎天下での作業ですが、意見を交わしあい、真剣に取り組んでいました。 さらに、裏山の整備班も。こちらはヤマナハウス副代表でハンターでもある沖さんが同行し、裏山の様子を見に行きます。山道をふさぐ可能性のある竹などを刈りながら、獣道にしかけた暗視カメラをチェック!夜に活動する猪の姿が映っていたのでメンバーにも報告しました。

イノシシの活動跡をチェックするメンバー

そんな風に、無理なく汗をかいて作業していると、あっという間に夕方が近くなります。疲れすぎる前に作業を終了するのがヤマナハウス流。 基本的には日帰りですが、ヤマナハウス内で宿泊したり、テント泊・車中泊をするメンバーも。

偶然性が多様性を生み出す

最後に、南房総に移住して8年になるヤマナハウス代表の永森昌志さんに、活動6年目をむかえたヤマナハウスについて聞いてみました。

「ヤマナハウスには偶然性が生み出す多様性があって、その多様性が充実したコミュニティ作りの大切な要素になっていると思っています。都会にはたくさんの人がいますが、その分属性が近い人で固まりがちなんですね。ヤマナハウスに集まる人たちは、属性は関係なくそれぞれパーソナルな理由で、偶然今のタイミングでヤマナハウスに集まっているので多様性があるんです。普通に生活していたのでは出会えない人と出会える。月例アクティビティでも色んなアイディアが出て、実現していく。そこが面白いと思って参加している人が多いし、いい相乗効果が生まれていると僕も感じています」

10代~60代の老若男女が集い、一緒に活動し笑いあう

実際、ヤマナメンバーの年齢や職業、興味のあるジャンルはさまざま。 里山素材に興味のある20代の女性や夫婦で参加する60代アメリカ人男性、デザイナーで南房総に移住したての30代夫婦などなど。また、南房総に住みながら、ヤマナハウスの活動をサポートするローカルサポートメンバーもスキルや得意を生かして参加。平均して十数名で毎月活動しているそうです。

南房総は老後か別荘、だけではない

「都心から南房総へというと、いまだに別荘や老後の暮らしというイメージがあります。のんびり過ごすために南房総へ足を運ぶのも正解ですが、実際に来てのんびりしつつも、ここでしかできない何かをやるというのが一番楽しいと思います。南房総には、やりたいなと思ったことができる余白があって、僕は『里山インキュベーション』という風に思っているんですが、新しい自分を始められる場所なんですね。自己実現もしやすいんじゃないかと思います。ヤマナハウスに足を運ぶことが、その入口になれば嬉しいですね」

ヤマナハウスを運営する永森さん、溝口さん、沖さん

インキュベーションとは、ビジネスでいうと事業の創出や創業する活動を意味していますが、本来は鳥などが卵からかえる「孵化」という意味。『里山インキュベーション』の場所であるヤマナハウスは、今までと違う自分が孵化するきっかけを与えてくれる存在なのかもしれません。

取材先

ヤマナハウス

都内から車で約2時間、南房総三芳の『ヤマナハウス』。「シェア里山」をテーマに、江戸時代からつづく古民家、休耕地となっていた畑、背部にそびえる小高い裏山に少しずつ手を入れている。都心に住む人々が2拠点生活の起点として、気軽にアクセスできるような場を目指している。

https://yamanahouse.site/

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フジイミツコ

フジイ ミツコ山口県出身のフォトライター。海を愛するパートナーに連れられて千葉県南房総に移住。男児ふたりの母。個性的な人材が集まる南房総で子どもがつなげてくれたご縁がふくらみ、ライターを中心にパラレルワークを楽しんでいる。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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