イベントスタート
プレゼンやトークセッションが行われるイベント第1部の参加者は70名ほど。うち10名ほどはweb会議ツール「Zoom」でのオンライン参加となりました。参加したのは学生から社会人、広島や東北から来た人など様々ですが、「さとのば大学」の試みに興味があり、「さとのば大学」ができたら参加したいという方がほとんど。
プロジェクトの立ち上げ、いわゆる「お勉強」を越える取り組みに
第1部は「さとのば大学」のプロジェクトを立ち上げた「株式会社アスノオト」代表取締役の信岡良亮さんによる挨拶からスタート。プロジェクトを立ち上げた経緯や概要を説明しました。
信岡さんは、人が集まる離島として知られる島根県隠岐郡海士町(おきぐん あまちょう)にIターンで移住し、持続可能な未来づくりに挑戦する「株式会社巡の環(めぐりのわ)」を設立。その後、様々な地域課題に取り組む中で「課題解決のためには田舎だけでなく、東京にも拠点を設けて、両方から未来を変える取り組みを」と東京に「株式会社アスノオト」を設立しました。
「さとのば大学」のプロジェクトを立ち上げるに至ったのには、「半分以上寝ているだけのような現行の大学システムに、最も人生の選択肢を広げられる大切な4年間を投げ捨てている場合ではない」という問題意識があったと言います。知識を持っていればよい時代はグーグルの登場で終わり、いわゆる「お勉強」を越えていくことが大切になっている時代。よく子どもに与えるべきは魚そのものでなく魚の釣り方だという話がありますが、その魚の釣り方でも遅く、新しい魚の新しい釣り方を自分で生み出す力が必要です。
「学びとは、実戦フィールドと仲間と学べる場、そして学習コミュニティ」と信岡さん。「これからは、共同作業が必要になる」と未来を見据えます。
「さとのば大学」とは? 概要や目指す学びの形を紹介
地域を旅する四年制大学「さとのば大学」。名前の由来は、見守り手の存在や、ふるさと、誰かのためなら頑張れるからというもの。
カリキュラムは、午前のオンライン講義、午後はプロジェクトの時間。そのほか、日々の暮らしの時間を通じて、価値観の違う人と暮らすことで、様々な感覚を取り入れることができます。
運営の仕組みは、現在、海士町を含む5つの地域と連携した学びの場「地域共創カレッジ」でお世話になっている地域と連携するほか、行政・企業といった受け入れ先に、コーディネーターが各地域のプロジェクトをマッチング。1年生の時期は基礎学習、2年生になったら半年ずつ地域のプロジェクトにジョイン、そして3、4年生で卒業制作的なプロジェクトを実践していく予定です。都会でなく地方で実践の場を設けるのには、都会に比べ地方の方が一人当たりの決裁権が強いので挑戦しやすいという理由から。
またロードマップとしては、2020年に準備段階として生徒数50人ほどから始め徐々に増やしていき、2025年くらいに大学としての認可を取得し開校を目指します。
大学としての認可までは、海外への留学のように、地域に各大学のコースとして単位互換制度を設けたり、社会人大学院として設立するなどのルートを経ることで実現を目指していると説明がありました。
信岡さんは目指す形について「人材の取り合いではなく、いかにたくさんいい人を育てていくかが重要。欲しい未来は、挑戦の場の循環」と話します。
このクラウドファンディングのプロジェクトは、All-or-Nothing方式。目標金額の1,000万円が集まらなかった場合は、全額返金、支援金は0円となります。これは「今回のプロジェクトが多くの方が必要と思っていただけるプロジェクトでないなら、そもそも具現化できないと思った自分なりの覚悟の現れでもあります。」とのこと。信岡さんらメンバーの想いの強さが伝わってきます。
交流会セッション① 意見を取り入れ、みんなでつくり上げる学びの場
続いては、参加者が3、4人のグループごとに分かれ、信岡さんの説明を受けて感想を話し合う場・交流会セッションが設けられました。
その中で参加者からは
・フィールド探しから生徒がやると力がつくのでは
・大学のフォーマットにこだわらずに、提携する形でやった方が可能性が広がるのでは
・「さとのば大学」で何を得られるかが人によって異なるので、それを明確にした方がよいのでは
・自分ごとだと生き生きできるので、それがキーワードになるのでは
・各地域のプロジェクトの中で正解がないとはいえ、どのレベルまでできればよいのか、基準がわかるとよい
・目標金額1,000万円の使い道がわかると応援しやすい
といった意見が発表され、それぞれの意見に対して、信岡さんから回答がありました。中でも気になる方が多かった2つの項目についての回答をお伝えします。
プロジェクトでの到達基準は、ルーブリック(※)を用いてC~Sで評価し、自分がどういう学びのステージにいて、次にどうしたらよいか、段階で言語化していく予定だそう。また、目標金額の使い道については、ソフトプログラムやコンテンツ、ワークショップの開発費、地域側の受け入れ環境整備、車など設備投資、マーケティングや広報に使用予定とのことでした。
特に「大学という形にこだわらなくてもいいのでは」という声は多くの方から聞かれるそうで、信岡さんはこれからも「さとのば大学」のあり方を様々な方の意見を取り入れながら模索していくようです。
※ルーブリック:学校教育等で用いられる評価基準表(方法)の一つ
地域で活躍するゲストを迎えてのトークセッション
一旦話題は「さとのば大学」から離れ、これからの学習のあり方に。信岡さんに加え「地域共創カレッジ」の連携地域である徳島県上勝町の大西正泰さんと宮城県女川町の小松洋介さんをゲストに迎えてトークセッションが行われました。
「さとのば大学のような方式はこれまでも教育的にあったが時代と合わなかった。資本主義が伸びている時は効率重視の農場型。今は遊牧型学習観(さとのば大学型)が合っているのでは。遊牧型は非効率でよい」と元教員の大西さん。
それに対して小松さんも「遊牧型で学び、国境や都市地域の感覚がなくなると、自己紹介なしでいきなり本題から取り組める人が増える。課題は日本全体で同じ。各地域でいろいろ体験することで、見えてくるのでは」と続けました。
これらの話を受け、信岡さんも「地域ごとのルールや固定概念は結構あるので、遊牧型学習でそれらとうまく折り合いをつけていけるようにしたい」と「さとのば大学」での学習の形に期待を込めていました。
交流会セッション② 考えを深めた上で当事者になって考える
続いては再び交流会セッションが行われました。先ほどと異なるメンバーとグループを組み、トークセッションで話題となった遊牧型学習の可能性などを踏まえて話し合うことに。
ここではオンラインの参加者からも意見を募り、
・メンターについて、地域を卒業した人、地域外にいる人がなってもおもしろいかも
・四年間の使い方について、移住した身として一年は慣れるのに必要だと感じたので、4つの地域を半年ごとで巡って最後の2年間は一つの地域という配分でもいいのでは
といった意見が発表されました。
また会場のグループからは「学習先に海外も入れてもいいかも」や、「パラダイムシフトのためには、元のパラダイムを知らないといけないので、ちょっと学んで違うと思った人や社会人が巻き込まれるのがいいのでは」といった意見が聞かれました。
「さとのば大学」のあり方に興味を持って本イベントに参加された方がほとんどでしたが、そのプログラムの魅力や学習方法の効果を知っていくうちに、「さとのば大学」をつくり「さとのば大学」で学ぶ当事者となって意見交換をしていたように感じます。
考えと交流をより深める立食交流会
第1部終了後、第2部として立食交流会が開催されました。食事やドリンクを提供してくれたのは、ケータリングなどを行う「にしむー食堂」。国産素材を使った豆腐ハンバーグ、和風ピクルス、オイルサーディンとチーズのディップ、手毬おむすび二種、チョコとパンプキンシードのパウンドケーキを、「さとのば大学」のテーマに沿って日本列島の形に盛り付けてくれました。
都合で第1部に参加できず、それでも様々な人と繋がりたいと、第2部から参加される方も。食事を味わいながら、プレゼンを聞いて感じたことや自身がやりたいことなどを話し合い、交流を深めていました。
「さとのば大学」設立プロジェクトの概要とクラウドファンディングの支援はこちらから。信岡さんの「さとのば大学」に対する思いとそれを支援する方々のメッセージが綴られています。ぜひご覧になって、支援・応援されてみてはいかがでしょうか。