■座談会参加者プロフィール
・増田 亜斗夢さん:1987年、茨城県龍ヶ崎市出身。
東京工業大学大学院 社会工学専攻を修了後、都市計画コンサルタント事務所にて、団地再生や自治体のマスタープラン等の上位計画、地域活性化に向けた戦略検討等を行う。広域の計画づくりだけでなく、実際に人が交わるリアルな場に身を投じ、より実感値を持った様々な提案ができるコンサルタントを目指しリビタへ入社。現在は、都心のコワーキングスペース等の働く場の運営業務やその中での知見を活かし、「働く」「遊ぶ」「学ぶ」場等の企画やコンサルタント業務を地方・都心関わらず、行っている。今年度はさまざまな縁がつながり、茨城県の移住促進事業の担当も行う。
株式会社リビタ:https://www.rebita.co.jp/
・鈴木 高祥さん:1981年、茨城県水戸市出身。株式会社カゼグミ 代表/茨城移住計画 発起人。
大学卒業後、人材総合サービス企業にてコピーライター、クリエイティブディレクターとして勤務。その後、シブヤ大学の立ち上げを経て、横浜を拠点に「世代間交流」「行政・企業・NPO連携」をテーマにした街づくりコンサルティング団体「SoLaBo」を立ち上げ代表に就任。横浜市をはじめ、様々な企業連携による共創の場づくり、およびワークショップの企画・運営を行う。2018年には「茨城移住計画」や、個人や組織が変容するために必要な相互作用がおきる場を ”発酵” に見立てた「カモス会議」を主宰するカゼグミを設立。また慶応大学大学院システムデザインマネジメント研究科や「エコロジーとエコノミーの共存」をテーマにしたThink the Earthにも所属し、様々なプロジェクトを手掛けている。
・カゼグミ:http://kazegumix.co.jp/
・野堀 真哉さん:1984年、茨城県つくば市出身。「CAFÉ日升庵」オーナー。
20代前半に地方再生に興味を持ち、鹿児島で小さな卸業の活動を始めるが当時、未熟だったために、撤退。その後、WEB制作会社や保険の営業、飲食店等の仕事を掛け持ちし、現在のベースを作り、20代後半に所属した大手家電販売店でトップセールスになり、全国の販売員向けの研修講師を務めた後、独立。誰かが作った商品ではなく、地元の土地や、歴史の魅力を伝えて売りたいと考え、30歳の時に地元・筑波山で、「CAFÉ日升庵」をオープンする。現在、4年目、最初は季節の繁忙期閑散期の波に悩んだが、頼もしいスタッフにも恵まれ、「筑波山で最高の想い出を始めよう。」をキーワードに日々成長中。
・日升庵:http://www.nisyouan.com/
ふとしたきっかけで筑波山で開業した「日升庵」
このプロジェクトのテーマの一つとなった「山」とは筑波山のこと。古くから信仰の山として多くの人が訪れ栄えてきた筑波山。その中腹に、今回プロジェクトに参画したカフェ「日升庵」はあります。まずは日升庵がなぜつくばで開業に至ったのか、今回のプロジェクトに参画した経緯などを伺いました。
―野堀さんはつくば市のご出身と伺いました。
野堀:はい、つくば市の出身です。高校を出てから10年くらい東京にいたんですけど、4年前に茨城に戻ってきました。元々、茨城が魅力度最下位というのを知ってから地元を盛り上げたいというのが頭にあったんです。
―それでつくばで開業を?
野堀:初めはその場所を拠点に茨城県全体を紹介するようなお店を作りたかったんです。でも、実はお店を始める前はつくば、筑波山には全く興味がなかったんですよ(笑)。地元に戻ってきて、ふらっと筑波山を訪れた時に、ここで見た夕日がすごくきれいだったんですよね。それでここしかないと思ったんです。 それに、つくばにはつくばエクスプレス(TX)ができて、茨城の中で都内から一番来やすい観光地だったということもありますね。
―最初からこのようなカフェをやろうと思ってたのですか?
野堀:観光地に来てくれるお客さんが何を求めてるかというと、地産地消のものを味わいたい、ここでしかできない体験をしたい、地元の人と触れ合いたいというニーズがあると思うんですが、それを叶えるものは何かなと考えたら、結果的にカフェのスタイルになりました。当初は体験型カフェとして古くは献上米だったというつくばの米と茨城県が消費量1位というお煎餅に注目して、お煎餅の手焼き体験をメインにしていました。
―少しずつお店のスタイルも変えてきているのですね。
野堀:はい。あと、お店はスポーツ関連で利用されるお客さんがすごく多いんです。スポーツ終わったらゆっくりお茶したいというニーズが多いこともあり、今は本来のカフェのスタイルを目指し始めているんです。ただ、そうやってお店のスタイルを模索する中で、観光客自体が減ってきているなど、この地域ならではの課題も見えてきました。それに対してどのようにして人を呼び込んでいくかや、新しい拠点づくりだったりを考え始めてきていました。今回のプロジェクトのお話もそんな時にお声掛けいただいたものです。
増田:経緯としては、茨城県は県北、県央、県西、県南、鹿行(ろっこう)という5つのエリアに分かれるのですが、エリアごとの企業さんにお声がけしたいな、という話がありました。それで、県南地域ではつくばエリアが候補に挙がったので、つくば市さんに相談していたところ、筑波山で精力的に地域のための活動を模索している日升庵さんをご紹介いただきました。野掘さんにお話したところ、ご快諾いただいたという流れになります。
―野堀さんはその話を聞いた時はどう感じましたか?
野掘:素直に嬉しかったですね。開業から3年経ってはいますが、これからもお店を続けられなければ意味がないと思っているんです。というのも、開業した時に、この筑波山で、つくば市になる前のつくば町出身じゃない人が商売をするのが50年ぶり、と言われました。
一同:へー(驚き)
野堀:僕も驚きました(笑)。これからもこの地域を盛り上げるために、しっかりお店を続けることで、新しく活動したいという人の見本にならなきゃいけないと思っていて。この機会に茨城県で活動する人、地域で活動したい人とつながって、これからの活動に生かしていけたらと期待しています。
筑波山というフィールドをどう生かすのか
―今回のテーマである筑波山についてさらに詳しくお話しいただければと思います。少し話を戻しますが、スポーツで利用されるお客さんが多いというのは一つ筑波山の魅力や可能性になるのではないでしょうか?
鈴木:今流行ってきているスポーツバイクなどの自転車に乗る人は、起伏がある筑波山に寄るという話も聞きますよね。平坦の道だけではつまらないので起伏がある筑波山を利用するみたいです。実は自転車で周辺を走ったことがありますが、筑波山神社の旧参道はヒルクライム好きの人たちには有名なようです。僕は途中できつくて大変でしたが(笑)。
野堀:自転車のお客さんも多いですね。登山で言えば、最近はトレイルランなどの上級者から初心者までが楽しめる山でもあります。 ただ、スポーツやアクティビティという客層に合わせたお店や商材の展開ができていない、追いついていないのが現状だと思います。原因の一つとして、先ほどお話したように、外から来た人が商売をするのが50年ぶりということで、外から新しい視点があまり入っていないことはあると思います。現役のプレイヤーも高齢化しています。ほとんどがお土産屋さんなので、母数が減った客を取り合ってしまっているような状態です。
増田:確かに、今、登山ブームがあって、スポーツを軸にしたものが求められているけど、筑波山自体それに対応しきれてないのが観光客減少の一要因だというのを聞いたことがありますね。
筑波山の麓からてっぺんまで全てを楽しんでもらうために
―逆に言えば、新たな業種が入れば成功する可能性もありそうですね。筑波山の魅力や可能性はどんなところでしょうか。
野堀:もちろん、筑波山はアクティビティとしても面白いですが、もともと歴史が古く昔から神格化されていた、昔から大事にされてきた山なんですよね。自然も豊かでここにしかない珍しい植物もありますし。
増田:筑波山は百名山の高さの基準を満たしてないのに、日本百名山に選ばれているんですよね。歴史とか美しさとかそういうところで選定されているって。
野堀:そう、筑波山は関東平野を一望できる唯一の場所なんですって。筑波山の上はもちろんですが、下から見る筑波山も魅力的ですよ。麓の町並み、そこに住む人たちの営みも含めてとても面白い。全体で楽しめる場所だと感じています。
その点で、僕が思い描いているのは「日帰りしない筑波山」です。現状、早々と帰ってしまう人が多いだけでなく、ホテルに泊まった人もホテルから出歩かないという話をよく耳にします。
鈴木:僕が筑波山に来るようになって感じたのは、駅からこの山まで、そして麓の動線についても課題があるということです。筑波山から帰るバスも17時過ぎが最終です。つくばでは研究学園都市によってつくば駅周辺は人やモノが集まるのでスタートアップしやすいと言われていますし、物理的な課題はあるかも。
野堀:先ほども言いましたが、筑波山は山頂からの景色だけではなく、麓からの景色の美しさやアクティビティ、町並み、人の営み、全部含めてが魅力だということをどう伝えていったらいいかということを考えています。筑波山はリゾート地になり得るのになり得ないというところをどうしていくか。
増田:野堀さんのおっしゃる通りで、つくばは筑波山だけではなく周りの町も魅力的だと感じています。「つくば道」という『ぼくのなつやすみ』リアル版みたいな、すごく雰囲気がいいところがあって、その付近に空き家がたくさんあるのでその活用を含めて全体として機能していくようなアイデアが参加者から出るといいですよね。
―空き家というキーワードがでましたが。
野堀:空き家も課題の一つですね。空き家を活用するにも空き家を持っている人たちと交流する場所がないんです。
―そうなんですね。
野堀:そういった場所を提供するためにも、拠点としてのゲストハウスを作りたいと考えています。住んでいる人も観光客とゆっくり話す場所がなく、交流もないから発想も固まっていってしまったのかな、と思うところはあります。住人と身近な場所で滞在ができて交流が生まれ、関係性が築かれていければもうちょっと違う流れが 作れるんじゃないかと思うんです。そのためのゲストハウスを作りたいですね。今回のプロジェクトではそういう拠点づくりを含めて、アイディアを出すために僕も全力で協力したいと思います。
参加者へメッセージ
―最後にそれぞれ参加予定の方や参加を迷ってる方にメッセージをお願いします。
増田:先ほど話をした、筑波山への参詣道「つくば道」がものすごく雰囲気がいいんですよ。趣のある町並みもいい。実際の魅力のある場があってどうしようかって考えられるのは具体性がありますし、実現性が高いかと。立地的にも2拠点居住や週末起業がやりやすい環境だと思います。
野堀:何かを始めるときに何も整っていない場所の一つだと思うんですよ。都心から近くてどんどん伸び代がある場所で未来を考えていくのはすごく楽しいものになると思うので、その先の未来も一緒に考えられたら嬉しいです。ここにずっと住んでいる人だと分からない魅力を都心からきた人の目線で引き出して欲しいですね。
鈴木:実際に課題をもつ企業さんがいて、場が用意されていて、仲間がいる状態でできるのってなかなかないと思うんですよ。自分で一からやるとなると結構大変な事だと思うんです。しかも、つくばだったら都心から通える距離。様々な分野で活躍している講師陣と、仲間と一緒に、ビジネス視点、これからの暮らしかたなど話込めるのは貴重だと思います。
―お三方ともありがとうございました。
三者それぞれ違う立場から意見を交わし、筑波山の資源や課題点が浮かび上がってきました。これをプロジェクトの参加者たちがどのような企画として発展させて行くのか、今から楽しみです。県外から見たつくばのイメージ、そして茨城県出身者の筑波山のイメージは、それぞれ実際に現地を訪れることで大きな変化があるはずです。
参加者がプロジェクトだけで終わることなく、その後も日升庵や筑波山を訪れたりという関係性が続いてほしい、他のテーマを超えた関係性もできたら面白い、と様々なバックグラウンドを持つ人が集まるであろう参加者の面白い化学反応も期待しているようです。やりがいのある場として、自分の経験を試す場として、この機会に「if design project 」に参加してみてはいかがでしょうか。