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2018年12月5日 ココロココ編集部

復興から創生へ。福島県独自の「復興支援専門員」が行う、移住希望者と地域のマッチングとその想い

最長3年間の任期で、地域内の課題解決や協力活動を行う「地域おこし協力隊」。2009年度に創設されて以降、その数は4,860人(2017年度調査)にまで増加しており、総務省は2024年度までに8,000人にまで増やす方針を立てています。2017年度の調査では、隊員の約6割が任期終了後も同じ地域に定住しており、募集する自治体にとっては有効な移住・定住施策としてその活用方法等が拡大。様々な理由で地方への移住を考えている都市住民にとっても、自らの希望やスキルに合う募集職種の選択肢は広がっているといえます。その反面、受入体制や任期後の定住への支援など、募集する自治体によって大きな差が出ていることも課題となっています。また、配属された地域や活動内容とのミスマッチが起こることも少なくありません。
地域おこし協力隊希望者と自治体・地域の両者の関係がうまくいくためには、どのようなマッチングを行うべきなのでしょうか。様々な自治体で試行錯誤されていますが、今回は福島県の取組をご紹介します。

注目される地方移住と地域おこし。
一方で新たな問題発生も。

福島県では、今年度から地域おこし協力隊に興味・関心がある方や実際に応募を検討している方が、県内の地域おこし協力隊を募集する市町村を訪問し、現地での活動体験や、先輩隊員・地域住民と交流ができる体験ツアーを企画。活動内容と地域についてより深く知り、着任後の円滑な活動につなげるのが狙いです。第一回目は湯川村、第二回目となる今回は塙町での開催です。企画担当の福島県復興支援専門員・瀧口直樹さんを訪ね、県内の地域おこし協力隊の現状や体験ツアーについてお話を伺いました。

「県内では、117名の地域おこし協力隊員が活躍中(2018年10月現在)で、首都圏等に限らず、県内からも、地域おこし協力隊には多くの応募があります。この体験ツアーは、地域おこし協力隊の定着率アップが大きなテーマです。」

瀧口さん

最近では、テレビや雑誌等で地域おこし協力隊の活動が取り上げられる機会も多く、隊員志望者も増加しています。しかしながら、新たな問題も発生。最長3年間の任期を全うできずに離れていく隊員も増えているといいます。

「田舎暮らしに馴染むことができなかった。」、「自分がやりたいことがここではできないと思った。」などその理由は様々。「高い志を持って地域に来たのにもったいない…。」残念そうに話す瀧口さん。せっかく着任したのだから、地域をもっと好きになって、定着・定住して活躍して欲しい、そんな思いから体験ツアーが企画されました。

「現地で活動を体験したり、着任して3年間住む地域の人と触れ合ったりして、より活動のイメージをリアルなものにして欲しいです。」

「県ではこれまで、都内で「ふふふカフェ」と題した交流イベントを開催し、地域の紹介、隊員募集を行っていますが、机上の話が中心になり、参加者が現地をイメージしにくいことが難点。こういったイベントだけでなく、活動がリアルに体験できるツアーへの参加は、地域や活動内容を知るのに有効だと考えています。」と瀧口さんは話します。

セミナー等で興味を持ってもらった参加者を体験ツアーに誘導していく手法はほかの自治体でも行われていますが、福島県の取り組みの独自性はどんなところにあるのか、まずは実際に体験ツアーを見に行ってみました。

着任後の活動イメージをよりリアルに体験!

ダリア

福島県塙町は、中通り地方南部に位置する自然豊かな町。塙町では2名の隊員が既に活動しています。協力隊の活動は、町の花である「ダリア」の栽培や出荷作業、都市部からの農業体験の受入支援など。ダリアの栽培を通じて地域の活性化に携わり、地域の大きな力になっているといいます。

ダリアの栽培の様子

10月13日(土)に行われた「塙町で開催!福島県地域おこし協力隊現地見学・体験会」は、ダリアの栽培体験や、先輩隊員から生の声を聞き・地域住民との交流ができる日帰りの体験ツアー。午前中は、協力隊の活動拠点である竹活用交流施設で、地域おこし協力隊の活動紹介などのオリエンテーションが行われ、参加者はダリア栽培の圃場を見学しました。続いて昼食を兼ねての地元農家「塙町メロン組合」のみなさんとの交流会。

午後からはメロン組合のみなさん、協力隊員2名とともに農業体験。地域独自の取組みである竹パウダー活用して栽培したさつまいもの収穫、町の特産品であるダリアの切花・花束づくり体験を行い、参加者は積極的に質問をするなど熱心に取り組んでいました。体験会の最後は、ダリアの花束づくりに挑戦。楽しかった今日一日の思い出を花束にして、帰路に着きました。

ダリアの花束づくり

「都市部に住んでいると、なかなか収穫を体験することがないですよね。」地場産業を経験することは地域を知り地域を好きになる最良の方法ではないか。」と瀧口さんは話します。実際に着任される際は、この日に交流した地域の方々と活動を共にするとのことで、体験はかなり実践的。参加者は、よりリアルに着任後の活動をイメージしている様子でした。

“福島愛”が芽生える3年間の活動を徹底サポートする
福島県の「復興支援専門員」

今回の体験ツアーを企画・運営した復興支援専門員が行っているのは、「地域おこし協力隊」や「復興支援員」の①募集活動の支援、②活動の支援、そして③定住に向けた支援です。①募集段階では、首都圏などでの募集イベントや今回のような体験ツアーを企画・運営し、②着任後は、隊員向けのスキルアップ研修や、受入先である自治体等を対象とした研修の実施などで積極的にサポート。さらに、③隊員が任期後も定住できるよう幅広い支援を行います。このような募集から活動中、そして定住までの支援と、包括的に関わることで、多様なサポートと情報提供が可能になります。
これは福島県独自の取組で、着任後の隊員が安心して地域協力活動に臨める土壌づくりへの本気度が伺えます。
また、復興支援専門員が広域的に支援活動を担うことで、様々な自治体や組織と連携し、よりきめ細やかな支援を行うことができるそうです。

「原発事故から時が経つにつれて県内には帰還者も増え、福島県は復興から創生への道を着実に進んでいます。そこで移住定住を促進し、福島をより豊かにする取組を行いたいと思っています。地域おこし協力隊は大切な移住者。多くの人に福島に来ていただき、地域を盛り上げていただければと思います。」と瀧口さん。

このような復興支援専門員のサポートにより、任期後に定住しなかったとしても、隊員の福島愛によって新しいつながりが生まれているといいます。

「着任して福島の良さを知り、福島を愛してくださり、任期を満了した隊員の多くは、OB・OGとなっても県内外で福島の良さを外部へ発信してくれています。そうした人達のおかげで福島の魅力が伝わって福島のファンが増えるなど関係人口が拡がっていくと、嬉しいですね。」

ピンクの花

復興支援専門員のこれからの役割は

瀧口さんは、今後の復興支援専門員の役割についてこう話します。

「地域おこし協力隊の人数をむやみに増やせば良いということではありません。募集から着任して活動するまで、スムーズに導くことができるように、我々は地域と担い手となる方の橋渡しを行うことが求められます。」

今後は、現在運営している募集・情報サイト「ふくしまで働く-地域の担い手-」内で、地域での暮らしや仕事、任期後の展望がイメージできるようなコンテンツの拡充などを積極的に行っていくとのこと。地域の情報発信の内容の充実と正確さに重きを置き、希望者と地域をさらに結び付けられるよう進めていきたいと考えているそうです。

「福島は良い意味で“田舎”。田舎って温かいですよね!都会では味わうことができない、福島ならではの良さがたくさんあります。また、地域おこし協力隊の場合、田舎暮らしがしたい、という単純なものではなく、地域を盛り上げたいという明確な意思を持って移住する“意”住です。現在県内で活動している隊員は、皆そのような志を持った頼れる存在の方ばかり。みんなで福島を盛り上げていきましょう!」

強い想いを持って活動する復興支援専門員のサポートと、それによってつながる地域の担い手づくりの輪。福島県ならではの取組は始まったばかりですが、今後の動きに注目です。

福島の人たち

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ココロココ編集部

ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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