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2019年8月1日 ココロココ編集部

美しい里山がはぐくむ那珂川町の「こころとからだにやさしい」暮らし<前編>

栃木県那珂川町は、栃木県の東部に位置し、北を大田原市、南を那須烏山市、そして東を茨城県と接する人口約17,000人の小さなまちです。まちの中心部である「那珂川」沿いの平地と、美しい里山や山間地に集落が点在しています。まちを南北に流れる「那珂川」は、関東でも有数の清流で、鮎釣りが楽しめるスポットとして観光客にも人気。また、町北部にある小砂地区が、「日本で最も美しい村」連合に栃木県内で初めて加盟するなど、昔ながらの地域資源を守ろうと住民による地域活動が続けられている地域でもあります。 そんな那珂川町を訪れ、里山の美しい風景、このまちのキーマンや移住者にお話しを聞いて回ります。

那珂川町の地域資源

那珂川

約6割を山林が占める那珂川町は、町内を20本以上の川が流れ、そのなかでも清流「那珂川」は天然鮎の遡上が多い川として知られます。その特性を生かし行われる梁漁(「やな(梁)」と呼ばれる、木や竹ですのこ状の台を作った足場を川の中に設置して遡上する魚を待つ漁)は、時期には多くの観光客を集めます。 地域内外に人気のイノシシ肉「八溝ししまる」や、伝統的な「小砂焼き」などの特産品、隈研吾氏が設計した「馬頭広重美術館」、馬頭温泉郷などの地域資源も豊富。春から夏を中心に、年間を通して開催されるイベントも多くの人で賑わいます。

町有地を20年の無償貸与!?

町の概要を学んだところで、まずは、2017年に新庁舎となった町役場を訪れ、お話しを伺います。訪れた「企画財政課なかがわぐらし推進係」は2019年4月に新設された部署で、移住や空き家対策に取り組んでいます。 那珂川町の産業は農業や林業などの第一次産業、製造業や建設業などの第二次産業、卸売・小売業などの第三次産業など働き口は豊富。しかしながら生活利便性やより多くの仕事を求めて若い人は都市部へ流出し、高齢者が街を支えている少子高齢化の現状も。町の人口も年々緩やかに減少していることから、課題解決に向けた新たな仕組みづくりが急務になっているのです。

そこで、町では定住・交流人口の増加のために2008年度から、約1ヘクタールの町有地に10区画を整備し、町外在住者に無償で20年間貸与する「高手の里」事業をスタート。家屋は新築する必要がありますが、1区画150坪以上あり、家庭菜園などにも利用可能です。「高手の里」には、「田舎暮らし体験住宅」も整備されており、実際に生活し田舎暮らしや町の魅力を体験することができます。

この空き家、手前の畑と奥の住宅・納屋など全てで約600万円とのこと…!

定住対策の中でも、町が力を入れているのが空き家対策。町内には歴史ある古民家が点在していますが、空き家も現在300軒ほどあり、町の美しい景観を維持していくためにも、空き家バンクの整備が進められています。「なかがわぐらし推進係」の取り組みについて、係長の佐藤康隆さんにお話を伺いました。

佐藤さん

佐藤さん:「当係は、空き家対策や地域振興の分野を全般的に行っています。空き家の情報をよりスムーズに希望者へ情報提供できる仕組みづくりのため、空き家バンクやホームページの整備もしっかりと行なっていく予定です。また郊外に住むお年寄りが買い物等の便が良いエリアへ住み替えも想定しており、行政としても空き家相談に関するセミナーを開催したり、チラシなどによる住民への発信を積極的に行っていくところです。まずは“役場に相談する”ということが認知されるよう努力したいですね。」

この部署で、空き家の掘り起こしや住民への啓発を行っている地域おこし協力隊の癸生川(きぶかわ)桃子さんは、古民家をきっかけに那珂川町へ移住したといいます。

癸生川さん

癸生川さん「もともと東京で働いていましたが、古民家暮らしに憧れていて、物件を探していたところ、町内の物件と出会いました。それ以降、週末など休日には町内で過ごしていたのですが、協力隊として活動することとなり、移住し現在も古民家に暮らしています。景色が綺麗で過ごしやすく都心とは別世界。車さえあれば、スーパーもコンビニもあるので暮らしやすいですよ。今暮らしている家は茅葺きなので、これをどのように葺きなおすか、茅をどうするかなどの問題はあるのですが(笑)」

佐藤さん:「町内には、選ばなければ仕事もたくさんあります。そうでなくても、テレワークが可能な業種の方は、長閑な那珂川町で健康的に仕事をして生活の基盤をしっかり作ることもできると思います。那珂川町に興味があれば『なかがわぐらし推進係』にぜひお越しください。」

那珂川町役場

2011年の東日本大震災で被害を受けたため新築した新庁舎は地元の八溝杉を使用した温かみのあるつくり

地域を見守る堀江住職に聞く、地域の魅力と課題

乾徳寺

次に訪れた「乾徳寺」は、那珂川町で550年間の長きにわたって地域を見守っている禅寺。境内や裏山には四季折々の草花が咲き誇り、柔らかい光が差し込む空間に思わず癒されます。ここでは、地域の子ども向けのイベントや、町外からのツアー客を受け入れて写経・座禅体験を行うなど、地域内外に開かれ愛されています。しかし、以前は地域の人から「暗い」「何するとこなの?」と言われることもあったといいます。幼少時代から那珂川町で暮らし、44代目の堀江住職に那珂川町の魅力についてもお話を伺いました。

堀江住職

堀江住職:「お寺を地域の人たちに広く開放して、座禅会や花観音巡りを開催しています。きっかけは “お寺は暗くて敷居が高い”と地域のおばあちゃんからお聞きしたこと。とてもショックでしたね。そこで、私が住職になったのを機にスローガンを決めました。一つは環境整備。スギやヒノキの木々で暗いイメージだったので紅葉いっぱいの紅葉寺にしよう!と決めました。二つ目は現代版寺子屋をつくること。三つ目はホッとする環境の提供です。夏休みには週一回「子供禅」を開いていまして、子どもたちを集めての座禅や写経体験、地域の職人さんたちにも協力していただき、お地蔵様づくりや宿泊体験、相撲大会などを行なっています。静けさを楽しみ、蝉や鳥の鳴き声、風の音に耳を傾けて自然や人とつながることで自分を見つめ直し、生かされることを再発見できる時間になればと思っています。」

街の魅力を伺うと、川のせせらぎ、空気や水の綺麗さ、鳥の鳴き声も身近で街全体がセラピーロードのよう。「おじゃ(お茶)でも飲んでいきな!」と気さくで温かい人と人との交流も魅力の一つで、居心地が良く生きる原動力を実感する場所だと話す堀江住職。 戦後の幼少期の頃を、街は人で溢れていて大変な時期だったが、みんながにこやかな顔で過ごしていたと那珂川町の昔を懐かしそうに話していたのも印象的でした。

移住者に聞く「こころとからだにやさしい」那珂川町①「菜花の庄」庄山さん

ここからは、那珂川町で様々な暮らしを実践する移住者のもとを訪れることに。 まず最初に訪れたのは、片平地区にある築120年以上の古民家を改装した農園民泊施設「菜花の庄」。オーナーの庄山政男さんは、ずっと憧れだったという里山暮らしを叶えるため東京から移住してきました。古民家では宿泊のほか、田植えや稲刈り、野菜収穫などの農業体験や、和製木船に乗っての鮎釣り体験など、那珂川町ならではの暮らしを体験できるのも魅力です。宿泊は1日1組限定の完全貸切で広い古民家をゆったりと自由に利用できます。

菜花の庄

庄山さん:「テレビで『高手の里』が紹介されていまして、いいなあと思ったのが移住のきっかけです。訪れてみると現地は360度里山風景がある最高の場所。昔から自然が好きでスキーやパラグライダーなどのスポーツもしていましたし、ペンション経営が長年の夢でした。『高手の里』の話はご縁がなくなってしまったのですが、諦めずに那珂川町の中古物件をネットで調べている時に、この古民家を見つけました。」

庄山さんは移住前から下調べや打ち合わせを繰り返し、2015年に移住。古民家は1年かけて改装し同年に「菜花の庄」をオープンさせました。玄関を入ると土間の向こうには自在鉤に鉄瓶をつるした囲炉裏があり雰囲気満点。

囲炉裏

庄山さん:「古民家を見て昔こんな家に住んでいたよって懐かしんでくださるお年寄りや、喜んでくださる外国人旅行者などに好評を頂いています。囲炉裏を囲んで食事をして、普段話すことができなかったことを語り合うことができたという宿泊者からの嬉しい声もありました。」

「菜花の庄」の特徴の一つが、自身の経験から興味を持ったという自然食や食事療法の知識をもとにつくられる、こだわりの食事。有機農法、無農薬無化学肥料で育てられた自家菜園や地元農家からの食材を使用した体に優しい自然食を提供していて、食の楽しさ優しさを感じることができます。

庄山さん

庄山さん:「無農薬で栽培した野菜を使って、自然食を中心にした家庭料理を提供しています。良い食は体に良い効果をもたらしますので、旬の野菜を中心に味付けを工夫してお出ししています。より多くの方に食べていただけたら嬉しいですね。」 また食生活や食習慣を見直すきっかけにもなるがん・生活習慣病の予防食の提供も可能。食事以外にも、広い室内を生かして、50人程度の小規模なライブやヨガイベントなどを開催するなど楽しみを共有する機会づくりにも取り組んでいます。 今後は食事メニューを充実させていくこと、地域の暮らし・文化をアクティビティとして継承していきたいと話していました。

「後編」に続きます

 

栃木県那珂川町の暮らし・仕事情報を知れるイベント・日帰りツアーを開催中!

セミナー
2019/9/21(土):テーマ「農」×「食」
2019/10/19(土):テーマ「なりわい」

那珂川町を体感する日帰りツアー

2019/10/13(日):テーマ「農」×「食」
2019/11/9(土):テーマ「なりわい」
2020/3/21(土):テーマ春の那珂川で感じる「農」「食」「なりわい」

 

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ココロココ編集部

ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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