東京から千葉、そして那珂川町へ。体の「養生」を伝える・つくる「小鮒農園」
「小鮒農園」は、小鮒拓丸さん、千文さんご夫婦がはじめた小さな農園。定番野菜をはじめ、西洋野菜やハーブを農薬化学肥料を使用しない栽培が特徴。全ての先人の農家農法に敬意を払いつつ、「里山の地域資源を活かし、循環する農業」を目指して、すべての命とつながり、「共に生きる」をテーマに経営しています。千葉県での農家研修を経て、独立と同時に那珂川町にやってきたお二人、主に拓丸さんが畑担当、千文さんは台所担当として活動されています。
千文さんは、2014年に移住、就農する際に地域おこし協力隊に着任、マクロビオティックや薬膳料理の知識・経験を生かして、ゆずの商品づくりや女性向けの食事ケア事業などを担当。現在は、引き続き「小鮒農園」の台所担当として農食一体を軸に、子育て支援の一環で自治体向け産前産後養生事業や、風土と私たちの命になじむ養生法を伝える活動を行なっています。そんな中、最近新しくスタートさせたのが、『十二ヶ月の養生便』です。
那珂川から届ける「十二ヶ月の養生便」と「台所養生共室」
小鮒さん:「移住してきた当初はここの風土を知ることと技術を習得しなければいけないこともあり、3年間くらいは試行錯誤を繰り返し、土地に合った野菜を探して出荷をするという感じでした。4年目を迎えるにあたり、若い時の病気がきっかけで養生やセルフケアの方法を学んできましたので、令和元年という節目の年の5月11日からセルフケアと野菜をセットにした『十二ヶ月の養生便』を開始しました。」
里山の風土に培われた「有機野菜」と「薬膳的養生」を融合させた野菜セットは、専門的な知識や調理技術がなくても台所養生(家庭でのセルフケア)に活用できる定期便。箱を開けた時に感じる人と里山の温かさも、小鮒さんが大切にしているポイントです。
小鮒さん:「季節の養生や里山の香りを感じて頂きたいので、お花も一緒に添えています。心もほろっとなるような、届いたら今月も頑張ろう!って思えるような野菜を厳選しています。」
旬の養生情報やオススメのレシピを書いた『旬の養生コラム』も同封。畑で採れた旬の野菜を小鮒さんがその場でスケッチして作成しています。
また、ご自宅でもある古民家では月に一度「台所養生共室」を開催しています。暮らしのまんなかにある台所で養生できたらという願いからはじまった「台所養生共室」。自ら健やかなこころとからだを養う方法を体感できる場になっていて、町内や近隣の市町村、東京都内からも受講者が訪れているそう。
小鮒さん:「健やかなこころとからだを作るには畑と台所が一体になっているのが大切。旬の野菜を主役に食事をすることは理にかなったことです。これは薬膳の考え方にも一致していて心身を整える効能も期待。旬の野菜を食べて健やかな心身をつくるというシンプルなあり方を野菜を通してお伝えしていきたいですね。」
就農する場所としての那珂川町の利点は
那珂川町は雪が少なく、ハウスさえあれば通年で野菜を栽培することが可能。那珂川町の暮らしやすい気候が、『十二ヶ月の養生便』や『台所養生共室』など農園経営にはプラスに作用しています。また、栽培した野菜を首都圏へ届ける際、宅配便を翌日配送できるアクセス性もメリットだと話していました。
「今までは宇都宮や首都圏への販売がメインでしたが、『道の駅ばとう』でも有機野菜の販売が可能になります。今後は那珂川町に観光に来てくれた人はもちろん、地域の人にももっと気軽に野菜が買えるようにしていきたいです。道の駅の限定メニュー『猪肉の薬膳カリー』の監修もさせていただきましたので、ぜひご賞味ください。那珂川町は全てが里山エリアのコンパクトで美しいまち。町内には有機農家が10軒ほどあり、情報交換やみんなで食事をするなど交流も多いですし、苗を失敗してしまった時には農家同士で助け合ったりするなど、人と人との距離が近いのも特徴です。何かあったら気軽に相談ができますし、子育て世代にも暮らしやすくおすすめです。」
就農を考えている人にとっては、移住し就農した先輩が何人もいることは安心。また、コンパクトなまちだからこそ、身近なコミュニケーションが必要ですが、子育てや農業などを行う上ではすぐにサポートしてもらえる環境は心強いポイントです。
一方で、生活するためにも1次産業や2次産業と小商いなど、いくつかの仕事やなりわいを持っておくこと工夫も必要だとおっしゃっていました。
気張らない「こだわり」を提供するイタリアンレストラン「toto」
「toto(トト)」は大きな石窯で焼く無農薬野菜を使ったピザが人気のイタリアンレストラン。地元の契約農家採れたての無農薬野菜や「さくらポーク」などの地元の豚肉・牛肉・鶏肉を使った自家製ピザが自慢です。オーナーの村山類さんは東京出身の移住者で、奥様のかなこさんは那須烏山市の出身。お二人にオープンまでの経緯をお聞きしました。
類さん:「東京の店で料理人として修行をした後、3年ほどイタリアへ渡り帰国しました。その後も都市部を転々として勤務。私は海や山などでアウトドアやキャンプするのが好きでしたので、自然や生産者が近い宇都宮市など地方都市で店を出したいと思っていました。」
かなこさん:「実家が近いこともあり結婚を機にこちらに戻ってきました。物件を探していた時にたまたまここを見つけ、内覧をしたら、改装が必要な状態でしたが何かキラキラしたものを感じまして…。ここだねーって決めちゃいました。」
こうして初めて訪れた那珂川町で「toto」をスタートさせたお二人。当時の心境は複雑だった様子。
類さん:「宇都宮で物件を探していましたので…、不安といえば不安でしたね。」
かなこさん:「ここには友人も知り合いもいなかったのでわからないことばかりでした。オープン当初は来店した地域の方にご飯はないの?とかメニューは何を聞いてもナポリタンとか(笑)。東京との温度差を感じた時もありました。移住して暮らすことで、時間はかかりましたが様々な方と知り合えたので、今の暮らしはとても楽しいですよ。」
「toto」は2011年のオープン当初は火曜日定休の11時から21時までの営業していましたが、現在は夜の営業がない上に日曜日定休。飲食店では異例の営業スタイルですが、那珂川町ならではの暮らしがそこにはありました。
かなこさん:「高知県に住むオーガニック生産者の友人の家に一週間くらい遊びに行ったのですが、その時友人が、せっかく来るなら仕事片付けておくね!って一緒に過ごす時間を作ってくれたんです。それに衝撃を受けまして、休みすらない自分たちの今の生活に疑問を抱くようになりました。何のために那珂川町に来たのかをあらためて考えるきっかけになったと思います。」
類さん:「田舎じゃないとできない営業スタイルに変えていきました。東京だと家賃や従業員の問題で飲食店は休みがなかなか取れませんが、ここではそれが可能。どう生きていくかの方法、時間の使い方を考えました。」
那珂川町だからこそ可能にした飲食店の新しいあり方は、お二人の暮らしにもプラスに。契約農家や友人など自然に近隣自治体にも知り合いが増えていき、そのつながりをもとに、月1回那珂川流域で開催される「ナカマルシェ」を仲間と一緒に企画・運営しています。
かなこさん:「『ナカマルシェ』は、”手づくり・地場もの・からだにやさしい”がコンセプトのマルシェで、会場では地元の食材や作家さんのクラフトなどが販売されています。仲間を増やそう!面白いことをやろう!と考えてみんなで楽しくゆるく開催しているのも特徴です。お店ではなかなかお客さんと話せないので、ゆっくり話しができる貴重な機会でもあります。」
つながりのできた農家さんの食材は「toto」の店頭でも販売。新鮮な食材を求めてお店を訪れる人もいるといいます。
オーガニック、からだにやさしい食材、手づくりなど、お二人が大事にされていることは、肩ひじを張ることでも、高級でも、贅沢なことでもありません。それは、食材のことを知る、季節のものを食べる、自然とのつながりを感じるといった単純なことなのだと、村山さんは話してくれました。
今後は那珂川町に様々なジャンルの飲食店が増え、外から町に遊びに来やすい環境ができればと期待するお二人。近い将来は那珂川町でワインバーの開店を計画中とか。楽しそうに町のことを話すお二人は、すっかり那珂川町に溶け込んでいる様子でした。
まちの暮らしを見てみませんか?
那珂川町は決してアクセスのいい環境でありませんが、まちを魅力的に感じるかどうかは、都市部との距離ではなく、那須烏山市や大田原市などの近隣自治体を含めた生活圏が、自分のしたい暮らしに合っているかどうかにあるのではないでしょうか。
このまちの農と食、そして那珂川や美しい里山の風景、アクティビティ。「こころとからだにやさしい」、そんな暮らしができるまちだと感じました。
那珂川町を知り、体感できるセミナー・ツアーが開催
詳細は下記ページをご覧ください。
セミナー
2019/9/21(土):テーマ「農」×「食」
2019/10/19(土):テーマ「なりわい」
那珂川町を体感する日帰りツアー
2019/10/13(日):テーマ「農」×「食」
2019/11/9(土):テーマ「なりわい」
2020/3/21(土):テーマ春の那珂川で感じる「農」「食」「なりわい」