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2017年3月16日 Furusato

家族と一緒に叶えた夢。人の温かい地域でゲストハウスをオープン

田中麻美さんは静岡県生まれ。小中学生時代はお父様の仕事の為、何度も転校を経験する中で、栃木に暮らした時期もありました。その後、進学や就職のため県外で暮らしていましたが、2011年の東日本大震災をきっかけに現在の実家がある栃木県への移住を決意。2013年11月には、栃木県那須町芦野の里山にゲストハウス「DOORz」をオープンさせました。田中さんはなぜこの土地でゲストハウスを始めようと思ったのか、移住までの経緯や田中さんが感じる栃木の魅力について話を伺いました。

転校の多かった学生時代。震災を機に栃木移住を決意

「私は、子どもの頃から転校が多い家庭で育ちまして、『どこが出身です!』って言えないくらいなんです(笑)。両親は静岡出身ですので静岡生まれということになるのですが、父の仕事の関係で横浜や千葉、青森など小学校4校、中学校2校を転校しました。栃木に初めて来たのは、私が10歳の時に父が那須塩原に家を建てたことがきっかけでした。」

それから田中さんは、宇都宮の高校に進学、大学は岐阜の薬科大学に進みました。大学卒業後は愛知県の病院に就職し、約5年半の間、薬剤師として勤務したそうです。

栃木に戻ることを決意したのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。当時、田中さんは愛知県の病院から派遣され奄美大島で働いていましたが、ご両親は那須塩原の家を拠点に福島県で働いていました。「大きな揺れや津波、原発事故で福島が大変なことになっているのを聞いて、両親や友人のことが心配で、いてもたってもいられなくなりました。これは栃木に戻らなければ、と。」

 

ニューヨーク旅行での出会いが、夢の後押しに

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田中さんは仕事を辞めて栃木県に戻り、那須塩原の家でご両親と共に生活を始めました。家族と共に過ごすことの大切さを感じながら充実した毎日を送っていたそうです。そんなある日、ニューヨークに旅行に行った際に、田中さんの人生を変えるきっかけがありました。

「ニューヨークで日本人だけのゲストハウスを訪れて、生まれて初めて“ゲストハウス”というものに泊まりました。そこで夢に向かって進んでいる若い宿泊者達をみて、私も本当にやりたいことをやろう!って思ったんです。日本に戻ってからも、そのゲストハウスの雰囲気が忘れられず、私もゲストハウスをしてみたいと思うようになりました。」

帰国後、さっそく田中さんは栃木県でゲストハウスができる場所を探し始めました。那須のローカルイベント「アースデイ那須」でスタッフとして、2013年からは実行委員として継続的に関わり、展示やシンポジウムのボランティアで活動していた田中さんは、まわりの仲間たちにもゲストハウスを始めることについて相談するようになりました。「当時は、とにかく『ゲストハウスをしたい!』っていろんな人に話してましたね(笑)。知人でカフェを経営している方がいて、その方から(ゲストハウスを開くなら)芦野はいいところだから一度来てみたら?と紹介してもらいました。」

tochigi_003▲「Doorz」の畑

足を運んだ芦野の景色や地域の人の優しさ、自然と触れ合うことができる環境の良さが気に入り、田中さんはこの地でゲストハウスを開くことを決めました。しかしながら、物件探しには相当な苦労をしたそうです。 「空き家はたくさんあったのですが、持ち主に辿り着けなかったり、持ち主の家庭の事情で話が頓挫してしまったり、うまくいかなかったですね。今の物件を見つけるまでに1年近くかかりました。」

 

芦野出身のご主人や地域の人たちのサポートで夢を実現!

「DOORz」の物件は、田中さんがイベントや祭りの手伝いをするうちに仲良くなった地域の人たちから紹介された古民家の一つだったそうです。田中さんにとって、物件を探すにあたり、頼りになったのがご主人の佐藤達夫さんです。

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「当時はまだ結婚をしていなくて、私たち夫婦は「アースデイ那須」の実行委員同士でした。主人が芦野出身でして、主人にゲストハウスを始めたい!と話をしたら、ゲストハウスって何?面白そう!って前向きに考えてくれたのが大きかったと思います。主人のお母さんも、地域の人に話を通してくれたり大家さんに繋いでくれたり。たくさん助けてもらいました。」

こうして無事に物件を見つけることができた田中さんでしたが、物件の改装も当時は大きな問題だったそうです。

「物件の状態は比較的綺麗で、少し手入れをすれば大丈夫かな…、という感じでしたが、何よりも人が長年住んでいなかった家の空気感は重たいものがありました。リビングの砂壁をはがし、漆喰を塗ったり、キッチンの床に杉板を貼ったりしました。浴室はタイルの床を壊し、元の浴槽を撤去してユニットバスをいれて。トイレは廊下だったところを仕切って、個室を作り設置しました。当初は現在の姿になるとは想像もつかなかったですね。」と当時の苦労を振り返ります。

tochigi_005▲リノベーションでゲストハウスへと生まれかわった

佐藤さんと協力して芦野での古民家探しやリノベーションなど、幾多もの困難を乗り越えて晴れて「DOORz」を2013年11月にオープンさせた田中さん。そして、お二人は開業後の2014年の3月に入籍されました。自然の恩恵をいっぱいに受けて生活ができる環境こそがゲストハウス経営の魅力の一つだそうです。

「ゲストハウスの隣には畑がありまして、主人と義母が野菜をたくさん作っているのですが、自分たちで野菜を作ることができるのは、本当にありがたいことだなあと実感しています。スーパーなどで野菜を買うと、値段の変動を気にしなければいけなくて金銭面でも大変ですし、種類をたくさん揃えるのも一苦労ですよね。自分で作っていると、金銭面でも助かるということはもちろんあるのですが、ゲストに、『ウチで作った野菜です!』とお出しできるのが嬉しいですし、『美味しいね!』って言っていただけた瞬間がとても幸せですね。」

 

地域全体に見守ってもらっているような安心感

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「地域の方とのコミュニケーションの深さも、この土地での生活に楽しさをプラスしてくれます。」と田中さんは話をしてくれました。

「よく外でたくさんの布団を干していると、『今日はお客さんいっぱい来るんだね!頑張って!』とご近所さんが声をかけてくれるんですよ(笑)。私たちを家族のように大切にしてくれていて、とても安心感があります。特に今年、子どもが生まれてからは、地域に子どもが少ないこともあってか、地域全体が私たちを大切に見守ってくれている感じです。私自身はいわゆる“よそ者”ですが、まちのみなさんに温かく接していただいているのでとても助かっています。」

地方への移住は、近所付き合いなどを心配する人も少なくありませんが、ちょっとした心遣いでその不安も解消されていくのではと、田中さんは話します。

「建物をリノベーションして「DOORz」が完成した際に、地域のみなさんをお呼びしてお披露目会をしました。みんなでバーベキューをやったんですが、その会のおかげで、交流が深まるきっかけができたように思います。」

また、地域の人との定期的なコミュニケーションも大変重要だそうで、ご主人は毎月、集落の集まりや草刈りに出席し、地域の行事には家族で参加するよう心がけているそうです。 田中さんのここに住みたい!という強い想いと、地域の人たちとのコミュニケーション、更に芦野出身だったご主人と出会いで始まった「DOORz」は、今では多くの人が訪れる人気のゲストハウスになりました。

 

自然の中で子育てに専念できる魅力的な環境

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現在、「DOORz」の営業は、育児のため土曜日のみとなっています(開業時は、金・土・日の週末営業)。朝夕の食事は田中さん夫妻とお客さんが共同で作り、一緒に楽しむという、ゲストハウスならではのスタイルです。さらに毎週土曜日の夕食は、宿泊者でなくても一品を持ち寄って食事に参加できる「おうちごはんの会」を開催しており、お客さんと地元の人がここに自然と集まり食事を囲みながら交流をして賑わっています。

そんな忙しくも賑やかな週末とは別に、平日には田中さんは薬剤師としてパート勤務をし、ご主人の佐藤さんは、ウェブ制作やデザインの仕事をしています。お客さんがいない平日の生活についても話を聞いてみました。

「現在は育児休業中なので、日々子育てに奮闘しています。自然の中で子どもをおもいっきり遊ばせてあげられる環境はとても良いことだと思いますし、ご近所さんもいつも気にかけてくださっているので嬉しいですね。よく子どもを抱いて近所の自然の中をのんびりと散歩したり、畑にいるおばあちゃんたちとおしゃべりしたりしています。もちろん子育て支援センターに行ってお母さん達と情報交換したりもしていますよ。おかげさまでとても充実した毎日を送っています。」

 

「DOORz」を地域の“輪”の一つにしていきたい。

tochigi_008▲広々と気持ちの良い環境にある「Doorz」

田中さんは栃木に移住し、今までの時間を気にする生活から一転、季節を身近に感じる暮らしを満喫しているそうです。そして「DOORz」を今後もこの地で長く続けて地域に根ざしていきたい、と目を輝かせて話をしていたのが印象的でした。

「ゲストハウスを大きくしよう、手広くしていこうとは考えていません。外部から芦野にお客さんが来る入口として、地域の方と連携して、細々とでもいいので続けていきたいですね。まず「DOORz」に来ていただければ、芦野のカフェや温泉、酒屋さんなどを紹介することができます。「DOORz」と地域との輪が自然に生まれ、その結果、まちが活性化されて全体的に良い効果が生まれるといいなと考えています。」

田中さんのような移住者が、地域の人と連携して「DOORz」という場を運営してくれていることは、外から訪れる人、移住を検討している人にとっても心強いですね。

 

自然の豊かさ、人の温かさを感じることができる栃木

最後に、栃木に移住を考えている方に向けて、田中さんにメッセージをお伺いしました。

「栃木県は電車でも車でも東京から近くて、東京と仕事を両立したい人にもお勧めです。どこに住んでも自然の豊かさを感じることができるし、実際に住んでみるとなかなかおもしろい、そんな場所です。また、何かビジネスをするのであれば、まだ作り込まれていない、かつ観光地ではない場所に住んでみるのもいいと思います。地域の一つ一つのコミュニティが小さいのもいいところで、人が集まる場所やイベントへ行けば、約束しなくても友達に会えることも多いですね(笑)。移住したら、地域の行事に参加したりして、人とのつながりを作っていくことも大事だと思います。水も米も野菜も空気も美味しい、海以外は何でもある栃木県に是非来ていただきたいです。」

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取材先

ゲストハウス「DOORz」オーナー / 田中 麻美(たなか あさみ)

静岡県生まれ。静岡県出身の両親のもと、小中学校時代は横浜や千葉など多くの転校を経験。宇都宮市の高校卒業後に岐阜県の薬科大学に進学、後に愛知県の病院に薬剤師として勤務する。2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに現在の実家がある那須塩原市に戻り、ニューヨークへの旅をきっかけに2013年11月に那須町にゲストハウス「DOORz」をオープンさせた。

那須ゲストハウスDOORz http://www.ghdoorz.com/
Facebook https://www.facebook.com/ghdoorz/

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