パラキャリって?
主催の高村さんは、普段は医療系出版社の編集者。
パラキャリとはパラレルキャリアの略で、キャリアを2つ以上の軸足を持って展開しようという新しい働き方です。高村さんは2018年からそれを推進する活動をするためにパラレルキャリア研究所を立ち上げました。
「編集者を目指して出版社に入ったら、最初編集部門に配属されなかったんです。そこで、プロボノで本の編集のお手伝いをし、電子書籍の本を出したらAmazonランキングの海外部門1位を取ることができました。本業の仕事じゃなくてもキャリアって積めると気づき、パラレルキャリアを広める活動をしています。」と高村さん。
どうして志賀高原に?
今回、二拠点居住について語るのは、自らも志賀高原と横浜の二拠点居住を実践しながら、志賀高原でのリゾートテレワークを支援している井戸聞多さん。元々は東京生まれ東京育ちでメーカーに就職し、横浜に勤務しながら商品開発等を担当していました。小学生のお子さん2人のパパでもあります。
2019年より住民票を移して志賀高原に移住、きっかけは大学時代に出会った奥さんが志賀高原の老舗ホテル「幸の湯」の跡取り娘だったということで、将来的に実家に帰るつもりだという話を受けたことだそうです。幸の湯のコンセプトは、「故郷の無い方もいらっしゃい」ということで、お客さんの9割はリピーターだそう。
「お客さんと従業員が食堂に集まって二次会が始まり、お互い好きな酒を持って来ては振る舞い合うなど、故郷に帰ってきたかのような雰囲気が名物となっていますね。」
志賀高原で有名なのはスキーということで、最近では世界でも珍しいスキーシミュレーターを設置、プロのスキー選手を育てる試みもしているのだとか。
「スキーシミュレーターのある宿は他の誰もやっていなかったんです。今始めれば先行者利益が取れるだろう、今やるしかないだろうと、構想してから2ヶ月くらいで導入しました。」
様々な取り組みをされているようですが、リゾートワークに注目したきっかけは何だったんでしょうか。
「横浜に住んでいるときは楽しかったがすごくストレスも感じていたと思います。人工の構造物に囲まれ、規則正しく生活しなければならない。お酒を飲みに行ったり、運動したりしてリフレッシュしていました。志賀高原の自然の中に身を置いて働いてみると、ゲームでいうと戦いながら“自然回復”しているような感じがしました。」
冬のスキーはもちろん、夏には湖でのSUP、沢を滑り降りるキャニオニング、マウンテンバイク、焚き火しながら星を眺めるなどアクティビティも充実。秋は紅葉が綺麗で、一年間飽きない遊びが充実しているという志賀高原。戦いながら自然回復!という言葉にも、思わず納得です。
本業はほぼフルリモートで継続
横浜にも家を残し、月に2,3回ほど行ったり来たりする生活ということですが、どうやって勤務を続けながらそのような働き方を実現したのでしょうか。
「月に数回までリモートOKという制度をフル活用し、それを超えた日数は外出扱いにできるよう上司と交渉しました。最寄りのコワーキングで仕事することも外出になるので、最寄りにコワーキングスペースhiroenを作りまして、志賀高原で仕事しながら、自分に最適な環境を作っているイメージですね。」
上司には恵まれたという井戸さん。社内に成果で評価される文化があり、自身もその制度がうまく活用できるよう行動しながら、信頼関係を作っていったそうです。
星空に一番近いコワーキング
井戸さんが最近始められたのが、前述の日本一星空に近いコワーキング「hiroen」。 コンセプトは「仕事と遊びを同じ場所でやりませんか」です。
個室の会議室、作業スペース、リラックススペースと目的に合わせて色々なスペースを用意、Wi-Fiも完備して、大自然の中で仕事が出来るようなスペースだそう。
「家族で来ても、お父さんが志賀高原で仕事が出来るので、休暇後も帰る必要がないんです。今までの普通の旅行と比べて長く滞在できますよね。企業からしても、こっちでイベントや集合研修もできるし、自然での遊びを通じてチームビルディングも出来る。色んな活用の可能性がありますね。」
場所は標高1500mに位置する志賀高原の玄関口。公共交通機関を使っても東京からなら3時間以内で来られるということで、ペーパードライバーの高村さんも安心の様子。早期には自分で事業をしている方やフリーランスの方々が二拠点目として借りていたり、観光で来たついでに仕事をして帰るといった使われ方が多かったようですが、最近は大手企業の方も増えて来たそう。テレワークの需要は広がっているようです。
知らない土地に溶け込む秘訣
現地に飛び込んだ方が、そこで仕事を見つけたり、地域に溶け込んでいくためにはどうしたらいいでしょうか。井戸さんの場合は、最初知り合いがいないということで、地域の協会や組合に顔を出して繋がりを作り、ちょっとずつ仕事を作って行ったそうです。
「いろんな人を紹介していくれる良い兄ちゃんみたいな人がどこの地域にもいるので、そういう人にイベントとか紹介してもらって顔を出していくのが良いと思います。」
本業では、プロジェクトをマネジメントするような役回りになることが多いという井戸さん。志賀高原でも、様々なプロジェクトを立ち上げて周りを巻き込んでいるようです。
「誰もやったことないけど、チーム組んでやっちゃいますかという感じで取りまとめることを始めました。会社の中の、この人にはこう言っとこうみたいな世渡りの感覚が田舎でも通じたので、上手く取り入って物事を進めることができましたね。物事を前に推進していく力が重宝されました。」
ただ、誰かと知り合うために旅行したり、どこか場所に飛び込むというのはハードルが高いと感じる人も多そうです。そこで井戸さんが新たに始めようとしているのが、”広縁会”というオンラインイベントや、“OMOコワーキング”。
「物理的な距離を超えてオンラインの中でも知り合うきっかけを作れれば、東京にいながらも、志賀高原の人たちと仲良くなってもらうことができるはず。その先にはリアルな場所があるので、そこで知り合った人に会いに来たり、一緒に遊んだり仕事をしたりといったことが起きるといいですよね。」(注:OMOとは「Online Merges with Offline」の略称。ネット上とネット以外の店舗などの垣根を超えることを表すマーケティング概念。)
住んではいないけどよく通っていたり、住んでいる人のことをよく知っていたりする人のことを関係人口と言う、と高村さん。
「知り合いを作って、一泊だけでも住んでみる。住んでみて分かることもたくさんある。住まいと別の地域にまずは関係人口としてかかわりながら、世界を広げていくというのもオススメです。」
OMOコワーキングとは!?
先ほどOMOコワーキングという言葉が出てきました。どんなものなのでしょうか。
「リアルなコワーキングスペースだと、自分1人で仕事してても、誰かやってきたり、どうもこんにちはーって感じで挨拶ついでに会話が生まれたりしますよね。仕事しているときに、ちょっとノイズがあると広がりがある。Remoというサービスを使って、そういった環境をオンライン上で再現しています。」
集中して仕事をするときは、ホテルの do not disturb のタグのように、今話しかけてもOKかどうかをアイコンで表示できるようにしてあるそう。
「在宅で籠っていると喋る機会がないじゃないですか。でも、用件があるわけでもないのににちょっと今電話いいですか?っていう連絡するのはめっちゃ重い感じがして苦手なんです。そうじゃなくて、いるなーって思って偶然声かけて雑談したりできるのはすごい魅力だと思います。」と高村さん。
オンラインでもオフラインでも、隔たりなくhiroenのコミュニティに参加できる状態を目指すそうです。
今後のリゾートワークはどうなる??
外出自粛がいつまで続くか見通せない昨今。井戸さんは、その間に人々の常識も変わっていくはずで、なんでもオンラインで済むようになり、本当にオフィス行く必要があるのか、今の家に住み続けるか、考え直す方が増えると予測します。リゾートテレワークをしながら住みやすい場所を探したり、行脚しながらの生活も広まりそうです。都会の人に移住先・二拠点先の候補にされるチャンスが日本全国の田舎に回ってくる中で、hiroenとしては、山の中で四季を感じる暮らしに魅力を感じた人が来てくれたらと語ります。
「志賀高原に人が来るってことが、ぼくの満足に繋がります。hiroenを土台として、みなさんが自分で自分のライフスタイルを形作っていってもらう手助けができれば良いなと思っています。」
Remoを使ったオンライン交流会!
お二人の対談の後は、OMOコワーキングでも使われる「Remo」を使ったオンライン交流会。テーブルがいくつもある画面が表示され、好きなテーブルをダブルクリックすると、そこに参加している人たちと交流することができます。hiroenのマネージャーさんが各テーブルごと散らばり、交流をリードしていました。
hiroenマネージャーの一人、森山正明さんは「リアルな交流会より、密度の濃い交流会になりました。名刺交換をせず、交流する人のバックグランドがSNSからすぐわかり、オンラインならではの良さを感じました」と会を振り返ります。森山さんは、教育事業やラジオパーソナリティとして活躍しながら、東京、シンガポール、香港でワールドワイドにパラレルキャリアを展開してきたそうです。志賀高原も拠点に加える理由や今後の展望についてお伺いすると、
「新型コロナの影響によって、これまでの都市集中型の社会モデルから、多極分散型の社会になると思います。そして急速に進むオンライン化が、多極分散型の社会を後押しすることになるでしょう。都市で住むメリットが減り、それより「食」の生産地に近いところが居住する場所としてスポットを浴びるようになると思います。志賀高原は「食」の生産地である長野県に位置し、四季折々の魅力あふれるアウトドアもあり、さらに歴史ある温泉街・渋温泉も抱えています。志賀高原でのリゾートテレワークは、いいところしかないですね。」と、明るい展望を見出しているそうです。
働き方がオンライン中心になれば、どこに住んでどこで働くか、というライフスタイルの自由度も上がっていきそうです。自分のライフスタイルを見直してみて、二拠点居住やリゾートテレワークもありだなと思われた方は、ぜひオンラインでもオフラインでもhiroenに遊びに行ってみてください。
▽イベントの様子を、グラフィックレコーダーの斉藤まなみさんが描いてくださいました。グラフィックレコーディングは、議論の内容をその場で絵にして可視化するスキルです。