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2021年1月7日 ココロココ編集部

ハンター養成講座が大好評!地域課題の掛け算で、首都圏と地方のニーズを繋ぐ「南房総2拠点ハンターズハウス」

東京都心から高速バス利用でわずか90分。房総半島の先端部を占める南房総市・館山市の一帯は、年間を通して温暖な気候に恵まれ、海もあり里山もあり、ほどよい田舎感もあり、都市部在住者から「2拠点生活」の適地として注目されています。
そんな房総半島の先端で、2020年11月から「南房総2拠点ハンターズハウス」という取組みがスタートしました。「都市部在住者が3ヵ月間南房総での2拠点生活を送りながら、狩猟者になるためのプログラムを学ぶ」というこの企画。
今回は全6回講座のうちの第2回目の様子を取材し、主催者に企画背景や狙いなどを伺いました。

3ヵ月間、2拠点生活をしながら、狩猟を学ぶ講座

2020年12月、南房総の里山のふもとに、東京をはじめ首都圏に暮らす老若男女15名が集まりました。

「南房総2拠点ハンターズハウス」は、その名の通り”ハンター”と”ハウス”を結びつけた、地域おこしの取組みです。

南房総エリアで年々深刻化しているイノシシによる獣害。地元猟師の高齢化と人手不足。そして、新型コロナウィルスの影響で、利用客が激減した岩井海岸の民宿街。

これらの地域課題を掛け合わせて、都市部に住む”ハンター”を対象に狩猟講座を開催し、その講座期間中に、岩井海岸の民宿を”ハウス”として活用してもらうというもので、参加者は、全6回の狩猟講座を受けられるほか、講座期間中最大30泊まで、提携先の民宿に宿泊することができます。

弓なりの海岸線が美しい岩井民宿街。2019年の台風、2020年からの新型コロナウィルスの影響で大きな打撃を受けた

「狩猟」というニッチな分野で、金額も一式15万円と決して安くはないにも関わらず、定員を大幅に超える申込があったといいます。

実践で学ぶ「括り罠」の掛け方

取材した第2回の講座で行われたのは、今回のプロジェクトでキーアイテムとなる「罠」のレクチャー。参加者は、見慣れないワイヤーとプラスチックの部品を手に奮闘していました。

今回の講師で、合同会社アルコの沖浩志さん

すでに狩猟免許を取得済という参加者も数名いましたが、実際に罠を手にするのは初めてという方がほとんど。今回の講師をつとめる合同会社アルコの沖浩志さんをはじめ、地元猟師さんがサポートし、丁寧に指導します。

参加者の中には若い女性も

平地での練習を終えた参加者たちは、実際にイノシシの被害に悩む里山へ。今回は、地元の方の協力により、民家の裏山を実践の場として提供していただきました。
庭先から裏手の山に入っていく途中、「ほら、あそこに道がある」などと、獣道の見分け方を教わり、現場の様子をみながら、狙いを定めて罠を仕掛けていきます。
「右前足を狙う」「ピンポイントで踏ませるために近くに障害物を置く」「落ち葉でカモフラージュ」など、想像していたよりも細かく緻密な作業なのが印象的でした。

ワイヤーまでしっかりと隠し、「イノシシの目線」で不自然さがないか確認する

昼からスタートした講座でしたが、練習・実践を繰り返しているうちに、あっというまにあたりが暗くなり終了。ほとんどの参加者は、「ハンターズハウス」の宿泊場所となっている岩井の民宿に宿泊し、翌日、ふたたび仕掛けた場所を見て回るのだそうです。

この「罠を見回る」という行為が、この企画のポイントのひとつ。参加者が繰り返し南房総に通う理由となり、提携先の民宿を滞在場所とした「2拠点生活」につながっていきます。

「実践の場がない」「つながりが欲しい」都市部ハンターのニーズ

今回の講座が、あっという間に定員オーバーになったことからもわかるとおり、都市部で狩猟に関心を持つ人は確実に増えているようです。
練習の合間、参加者の方々に話を聞いてみました。

「狩猟免許をとったが、東京では実践できる場がない」
「ジビエに興味があって、解体までをやってみたいと思っていた」
「免許はまだ持ってないがいずれ取りたい。仕事はリモートなのでどこでもできるし、南房総に滞在しながら学べるのがよい」
など、参加した理由は人それぞれ。

ある参加者からは、
「コロナ以降、東京を離れたくて、今は那須の方に住んでいます。狩猟免許は取得済ですが、地元との関係性がないので、実践の場がないんです。今回の講座で、沖さんが間に入ってくれて、地元の人とのつながりをつくってくれるのはすごく良い。関係性ができたらこっちに移住してもいいかもとも考えてます。」
と、将来的な移住も考えているというコメントもありました。

やはり、単に狩猟技術を習得するだけでなく、地域とのつながりや仲間ができること、繰り返し通えるフィールドができることに価値を感じている人が多いようです。

地域課題の「掛け算」が企画の原点

そもそも、今回のプロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか?
プロジェクトの企画者3名に、お話を聞きました。

東京から南房総へ移住し、シェア里山「ヤマナハウス」を主宰する永森昌志さん、埼玉県の不動産会社に勤めながら、鴨川などで宿泊事業を展開しており、現在は木更津在住の横山知由さん、そして今回の講座講師をつとめる合同会社アルコの沖浩志さん。

シェア里山ヤマナハウスを主宰、南房総市公認プロモーターである永森昌志さん

永森さんは、3年ほど前から、沖さんと一緒にヤマナハウスで「はじめての狩猟講座」という単日の狩猟講座を開催していました。
その後、共通の知り合いを通じて横山さんと出会った永森さんが、狩猟を専門とする沖さんと、空き家・不動産を専門とする横山さんを引き合わせたことから、今回の企画がスタートしたといいます。

永森さん「僕はこれまで、移住とか起業支援とかイベント運営など、どちらかというとソフトの部分をやってきたんですけど、最終的に「不動産」っていうハードが、絶対に必要になってくると思っていて。横山さんとは、「空き家を活用して何かできないか?」っていう情報交換をしていました。一方で、ヤマナハウスで沖さんと活動する中で、南房総にある「狩猟」「獣害対策」というコンテンツが、実はすごく集客力があるということに気づいて、なんとかくっつけられないかなと。そこで、ふたりを引き合わせて、3人で「地域課題掛算組合」という任意団体を結成し(現在、有限責任事業組合を登記手続き中)、獣害×空き家という地域課題の掛け算で新たな企画を考え始めました。」

不動産、空き家活用などを専門とする横山さん

横山さん「ただ空き家は、(空き家があっても市場に出てこない、顕在化しないなど)すぐに活用をスタートするのは難しい問題もあって。そんなとき新型コロナが流行してきて、民宿街が大きな打撃を受けているという話があり、「今回は空き家ではなく、民宿を活用しよう」というプランになったんです。」

永森さん「南房総市観光協会が興味を持ってくれて、声掛けしてくれたことで、民宿組合の協力を得られたのは大きかったですね。移住者である自分たちだけでは難しい調整をしてもらったことで、地元の民宿を巻き込んだ企画にすることができました。」

このようにして、当初は「獣害×空き家」で考えていた企画が「獣害×民宿街」となり、具体的に進行することになったのです。

講座を通じて、地域とのつながりをつくってもらいたい

今回の講座のメイン講師であり、獣害対策の専門家でもある沖さんに、あらためて南房総の獣害の現状や企画意図について聞きました。

沖さん「今シーズンは特に、獣害が本当に深刻なんです。単純にイノシシの捕獲数が増えています。原因のひとつは、2019年の台風15号の復興作業で昨年の冬に捕獲活動ができなかった期間があること、もうひとつはイノシシの餌になるマテバシイというどんぐりが凶作で人里へ降りてくる頻度が上がっていることです。」

さらに、ハンター数の減少も、イノシシ増加の一因となっているのではないかと沖さんはいいます。
一方で、東京などの都市部では、今回の講座参加者のように、狩猟免許を取得したものの、実践の場がない「ペーパーハンター」も増えてきています。

沖さん「実は、東京都在住の人でも、千葉県で登録すれば、南房総で猟をすることはできるんですよ。でも地元の方からすると、勝手に来て猟をして帰っていく人は、知らない人なので不安なんですね。そこを変えるには、やはり地元とのつながりをちゃんとつくってもらって、どこの誰が来ているかが分かるようにして、「じゃあここだったらやっていいよ」っていう場所を用意できるようにしないと。」

勝手に山を荒らすハンターには来てほしくない。しかし、ハンター数は減少し、イノシシ駆除は待ったなしの状況にある―。このジレンマを打開するのが、今回の講座の目的のひとつだと沖さんはいいます。

沖さん「地元の人たちも、人手不足なのは分かっているし、新しく来てくれる人は必要だとは思っているんです。でも、全く知らない人は受け入れられないので、そこを繋ぐのが自分たちの役目だと思ってます。やっぱり、何度も通ってもらって、仲良くなってもらうことが必須なんです。銃での猟だと日帰りで、半日やって終わりなんですけれど、罠猟は仕掛けた後も、見回りをしないといけない。当然、地元の人の協力がなくてはできないし、定期的に通う必要もあるので、今回のような民宿利用や、将来的な2拠点や移住といったテーマとも相性が良いと考えています。」

講座参加者には、「仕掛けた罠の見回り」という定期的に通う理由ができ、合計30泊分の民宿宿泊の権利も与えられているため、2拠点生活をしながら罠猟を学ぶ環境が整っているというわけです。

また、地域とのつながりをつくるため、毎回講座の後には交流の場が設けられています。提携先の民宿に場所を提供してもらい、参加者・地元狩猟者・スタッフがその日の講座について振り返ったり、南房総について話したりする懇親会も、この取組みの重要な要素となっています。

沖さん「今日の講座も、表向きは狩猟技術を教える講座ですが、実は地元の人とのつながりをつくるという裏目的があって、むしろそっちの方が重要ともいえるんです。なので、できるだけ地元の方とも交流してもらう時間をつくるようにしています。何度も通って、地域を気に入ってくれて、2拠点・移住へと繋がってくれるのが、最終的なゴールだと考えています。」

「南房総2拠点〇〇ハウス」として、狩猟以外のテーマへの展開も

今回の講座は、この後「解体と精肉」「加工肉作り」「皮や骨の加工」「調理」という内容で、2021年2月まで続いていきます。また、この「南房総2拠点ハンターズハウス」という取組みは、今後は毎年のレギュラーコンテンツとして継続し、2021年の冬にも、再び実施する予定とのこと。

また、永森さんたちは、今後のこの仕組みを狩猟以外のテーマにも展開し、「南房総2拠点〇〇ハウス」というプラットフォームにしていきたいと考えているそうです。

永森さん「実は姉妹サービスで、「南房総2拠点“3カ月”ハウス」というのもやっています。これは今回のプログラムから狩猟を外した形のもので、5万円で民宿に15泊できるというプランなんですが、2拠点や移住を本気で考えていて、お試ししたいという方におすすめです。次の展開としては、この「3カ月ハウス」をベースにして、狩猟のほかにも、農業、木こり、釣りなどの講座をオプションとしてつけられるようにしたいですね。」

今後も、地域課題の掛け算によって、「2拠点ファーマーズハウス」「2拠点フィッシャーズハウス」などの新しい企画がどんどん生まれてくるようで、非常に楽しみですね。

永森さん主宰のヤマナハウスでは、不定期で「はじめての狩猟講座」という初心者向けの単日講座を開催しているほか、沖さんのプライベート狩猟レッスンなども用意されています。

また、南房総には関心があるけれど狩猟はちょっと…という方も、ヤマナハウスでは狩猟以外のイベントや、里山整備の月例活動など、さまざまな関わり方が用意されているので、ぜひホームページをチェックしてみてください。

取材先

南房総2拠点ハンターズハウス

都市部在住者が3ヶ月間南房総での2拠点生活を送りながら、狩猟者になるためのプログラム

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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