本がつなぐコミュニティ。千葉県最南端のブックマーケット「あわぶっく市」を紡ぐ人たち

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毎年秋に開催される「あわぶっく市」は、本屋の数が少ない千葉県南房総の安房(あわ)地域で、本好きたちが自慢の蔵書を販売する野外ブックマーケットです。

どんな人たちが、どんな本を販売し、どんな人たちが訪れ、どんな出会いが生まれているのか。あわぶっく市を紡ぐ人たちと、本がつなぐ安房のコミュニティを紹介します。

「本に特化して何かやりたい」からはじまったもの

あわぶっく市の発起人である前田浩彦さんは、妻で翻訳者の吉田奈緒子さんとともに2006年7月に南房総へ移住しました。移住前は都内の本屋で働いていたこともある前田さんですが、「本よりも音楽の方が好き」と言い切ります。

「その割に本の量がまぁ、レコードのように増えていくっていうか…。聴き方と読み方が同じだよね」という吉田さんの突っ込みに対し、
「まあね。気になることを掘り下げていくのは、何でも同じじゃないですか。関係する物事を調べて、横に広がっていったり縦に広がっていったり。本も音楽も同じで、ルーツは何なのかって探っていくのが好きなんです」と前田さん。

地域のイベントで「本に特化して何かやりたい」と思った前田さんは、「ひまつぶしがらん堂」という屋号で本屋として出店しました。本のテーマは「人生を踏みはずす本」。
この本を読めば、人生観が変わる!というような本が集められている、ということなのでしょうか?

ひまつぶしがらん堂の本の山

「基本的に本はだいたい全部『人生を踏みはずす』にあてはまると思います。どんな人でも、本を通して違う価値観にぶつかるじゃないですか。それでスルーする人もいれば、影響されて人生を変えちゃう人もいる。本にはそれだけの力があると思います。」

ひまつぶしがらん堂は、毎月新月の日に鴨川市内で開催される地域マーケット「awanova(あわのば)」に出店したり、テーマを決めた本をリンゴの木箱に入れて、地域のカフェに設置したりしながら活動しています。

awanovaに出店中のひまつぶしがらん堂

前田さんが月に一度主催している「非資本主義の可能性をさぐる~大人の読書会 まるやま」は、2021年4月で59回目 を迎えます。本に特化したこれらの活動の積み重ねによって、本好きな人たちとのつながりが広がっていきました。

本と出会う場がなければ、つくっちゃえ!

移住してから、安房地域の本屋が潰れていく様子を目にしてきた前田さん。

「ブックマーケットをやることによって、本屋を補うくらい本と出会える場所をつくれたらなと思いました。本好き人口が増えたら、本を読む人の底上げにもなるし。そういう場をつくれば自分も本と出会えるから、自分の欲求が一番強いのかもしれません。」

その欲求に賛同した仲間12人は“ぶくぶくコレクティブ”と名乗り、あわぶっく市開催に向けて動き始めます。2017年11月、読書の秋に第1回目をawanovaで開催する予定としていましたが、屋外イベントゆえに雨天により中止。翌年3月のawanova会場でリベンジを果たし、 20店の素人古本屋で300冊を超える本がやりとりされました。

あわぶっく市に出店中のひまつぶしがらん堂で、接客をする前田さん

2回目からは、 シェイクスピアの生家などが復元された古いヨーロッパの雰囲気漂う「道の駅ローズマリー公園」に会場を移して開催しています。

本の売買だけでなく、本にまつわるイベントや飲食店の出店も会場を盛り上げてきました。
青空読書会では、吉田さんが翻訳した『無銭経済宣言―お金を使わずに生きる方法』(著=マーク・ボイル/発=紀伊國屋書店)を取り上げたり、絵本に登場するお菓子を地元のカフェが再現したり。鋸南町在住の版画・絵本作家である今井俊さんによる版画ワークショップや、アイルランド音楽の演奏、ちんどん屋も登場しました。

版画のワークショップ

本を通して人が出会い、語らう場所

第3回あわぶっく市は2019年11月、千葉県を中心に大きな被害をもたらした令和元年房総半島台風の2ヵ月後に開催されました。

携帯電話を持たない前田さん夫婦の連絡手段は、パソコンのメールか固定電話。台風の影響で光回線が使えなくなり、3週間通信手段が途絶えました。復旧してから、「やれそうかな」という思いよりも「やりたいな」という思いの方が勝っていたと前田さん。それでも「みんなが被災しているときにやってもいいのか」という迷いがありました。

台風後、ブルーシートで屋根が覆われた家が目立った当時の様子

迷いながらの開催でしたが、蓋を開けてみたら2回目よりも来場者が多く、「復旧作業の合間に来てほっと一息つけた」と喜びの声が多数届きました。「どうだった?」「大丈夫だった?」などの会話があちらこちらから聞こえてきて、安否確認の場にもなっていたようです。
安房地域以外からの参加も含めて31店が出店し、1日に800冊の本が新たな持ち主の手へと渡りました。

2020年の第4回あわぶっく市は、新型コロナウィルスの影響でイベントが開催しにくい時期でした。悩んだ末イベントやワークショップを中止し、出店者を安房地域の3市1町に限定して開催しました。結果、前年以上に多くの来場者でにぎわったのです。

「予想より来場者が多く、密になりそうで少し怖かったのですが、それってやっぱり人が求めていたっていうことだと思うんです。ブックマーケットというよりは、人が人と会いたいっていう場に、去年と今年はなっていたのかもしれません」と前田さん。

世界の児童書をテーマにした「マイペンライ」の店主と話し込むお客さん。店主はスペインタイル作家でもある

気になるお店はあるかな?あわぶっく市をのぞいてみよう

前田さんに誘われて第2回から出店している「Libros+(りぶろすぷらす)」の小宮寿夫(としお)さん。南房総市千倉町で本に囲まれたワインバー「リブロス」を経営していましたが、惜しまれつつ閉店。リブロスプラスは、ワインバーリブロスとその仲間という意味で名付けられました。

今回の“プラス”は10年来の友だち、野秋とも子さん。新聞記者だったお連れ合いの仕事関係の本、釣り、食べ物の本を持参。杉並区で図書館司書をしていた小宮さんは、テーマを決めずに持参した本を並べていました。

「Books &Crafts 翠(すい)」の店主白石由美子さんは、元編集者。あわぶっく市のスタッフで、第1回目からの常連出店者でもあります。オンラインショップ「和雑貨 翠」を運営しており、ブックカバーや文具などとともに、工芸とアートの本や、巣立った娘さんが残していった本を販売。

印象に残ったお客さんについて聞いてみると、陶芸の本を購入した若い夫婦と話しているうちに、その奥さんが作った器を最近購入していたことに気がついて、お互いにびっくりしたのだとか。

「手に取る本によって人のバックグラウンドがあらわになり、そこから交流やご縁が広がっていくのも、あわぶっく市の醍醐味だと思いました」(白石さん)

初出店「にじいろ書店」の百田恒児さんと明由美さんは、撮影や広告制作の会社「レインボープロダクション」を経営しています。仕事柄たくさん持っていた写真集と、趣味の音楽関係の本やCDを販売。

写真専門誌を手にした若者が「勉強します!」と言って購入したとき、「誰かの役に立つことがうれしく思いました」と恒児さん。手にする本と見た目とのギャップがあって、その意外性を発見できるのがおもしろいのだとか。

発酵して、つながる、広がる安房のコミュニティ

あわぶっく市の主催団体「ぶくぶくコレクティブ」の由来について、「個人でやるのはいやだ、みんなでやれたらいいなと思って『コレクティブ』という言葉を付けました」と話す前田さん。「ぶくぶく」は「book」にも取れるし、集まった仲間の思いが発酵して「ぶくぶく」と音を立てているようにも取れます。

あわぶっく市のロゴマーク

ほぼ毎回あわぶっく市に足を運んでいるという、南房総で農業をしている女性。最初のころは気になる本を片っぱしから購入してしまい、最後まで読めなかったという経験から、「今日は作家を絞って、詩集を買おうと思って来ました」と目を輝かせました。

たまたま訪れたという東京在住の学生は「古本が好きなのでよく古本市に行くけど、探しても見つけられなかった本がまさかここにあるとは!」と驚きとともにうれしそうに話してくれました。

各店舗を順番に回り、店主との会話と値段交渉を楽しみながら30冊の本を購入したという男性もいました。

「にゃんにゃん探偵事務所」の店主がデザインした、猫の塗り絵を手にする女の子

大人の読書会があり、ひまつぶしがらん堂があり、あわぶっく市があり、それらに関わる仲間と訪れる人たちがいて、本と人との輪が横に縦にと広がっていって、どんどん発酵している、本を通したコミュニティ。

ぶくぶくぶく…。
どうぞこの発酵の味をテイスティングしに、安房へと足を運んでみてください。

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あわぶっく市

今の世の中、ネットでピンポイント買いはできますが、それでは偶然の出会いがなかなかありません。たまたま見つけた本でその後の人生が変わってしまう、本はそんな力を秘めています。
出会う場がなければ、作っちゃえ!ということで、 野外ブックマーケット「あわぶっく市」を開催しています。

https://www.facebook.com/awabookichi/

鍋田 ゆかり

鍋田ゆかりNABETA-Yukari

国内・国外を放浪したあと、千葉県南房総に漂着。築百年余りの古民家を改修しながら、犬、猫、ヤギとの生活を満喫中。田んぼや畑だけでなく、“暮らしから生まれる百の仕事をこなす”百姓を目指している。日本全国に拠点を持つADDressの家守としてアドレスホッパーたちを迎えつつ、自らもショートトリップを楽しんでいる。

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