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2015年12月9日 ココロココ編集部

地域の作法がわかるコーディネーターを育成する「株式会社あわえ」

徳島県の南部に位置する美波町は、サーフィンができて伊勢エビやアワビといった魚がとれる海や山、きれいな川がすぐそばにあり、アクティブな人やグルメにとって魅力的な地域。

しかし一方で、近年の過疎化が著しい地域でもある。

美波町の地域再生を支援しようと2013年に「株式会社あわえ」が創業した。「あわえ」とは、「裏路地」という意味を持つ徳島県美波町の方言。暮らしの本質が詰まった路地裏を企業名に掲げる同社の事業は、企業誘致や起業促進、移住・定住支援、エリアリノベーション、人材育成・・・と幅広いが、すべての根底に流れているのは、地域の作法を体得した地域コーディネーターのサポート力だ。

同社が大切にしていることは、「その地域ならではの作法をまずは自分自身が体得してこそ、人や企業の支援ができる」ということ。

『半X半IT』を実践する

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「株式会社あわえ」が生まれたきっかけは、東京にあるIT企業サイファー・テック株式会社が美波町で第一号のサテライトオフィスを開いたこと。社長の吉田基晴さんは、東京と地方の2拠点を行き来しながら美波町の地域に溶け込むうちに、その地域の細やかな課題に気付き「企業として力になれないか」と思いはじめる。

また、同業他社が多い東京では埋もれがちで人材募集が困難な中、田舎ならではの環境を活かした生き方や働き方が提案できないかと考え「半X半IT」という標語を掲げ人材募集を行った。

その結果、趣味を大切にする人材が多く集まるようになった。

間もなくしてサテライトオフィスの運営を通じて感じた「地方の可能性」や「地域の課題」にビジネスの可能性を感じ2013年「株式会社あわえ」を設立することとなる。

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社屋は、築100年を超える元銭湯「初音湯」の建物をリノベーションしていて、番台や靴箱、浴槽のタイルといった町の銭湯の記憶を残す建築となっている。その半分はコミュニティスペースとして町の人々に開放して、学校帰りの子どもたちや主婦のおしゃべりスペースとなる。

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2015年に古民家をリノベ—ションした「Work and Play+ 戎邸」は、大型モニターやWi-Fi環境などビジネス環境の整った一棟貸しのサテライトオフィス体験施設。

企業は一定期間、ここにオフィスを構えることで、地域の方々との交流を深めていただき地方の魅力を最大限感じていただけるよう建物・サービスに配慮がされている。 また地域ビジネスに興味の有る方が起業に際して利用するケースも有るという。



自らの経験値が他の企業や人の支援に生きる

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「株式会社あわえ」の社員は社長を入れて8名で、そのほとんどがUIターンや県外出身者。創業メンバーの山下拓未さんは、「みんな遊び好き」という点が美波町のいいところだと話す。

「海が近いので、土地の方達は昔から釣りやサーフィンを楽しんで来た方が多く、年齢が親子程違うオッチャンとも釣りやサーフィンの話題で話が盛り上がります。また日々の生活や地域の祭事、仕事等の場面毎に個々人の役割や立場が変わるので、そういう都市部とは違うコミュニティが僕にとっては面白く感じます。」

と話す山下さん。

一方で、地域に関わるうちに、最初は「なぜこんなことをしなければならないんだろう」と思っていた地域ならではの作法が徐々に理解できるようになった。実は、その経験や培った人間関係が「株式会社あわえ」の企業誘致や起業促進、移住・定住支援といった各事業を行う糧となっている。

一般的に、初めて訪れた地域にすんなり溶け込むことは難しい。そんなとき、地域に顔が利く人からの紹介が免罪符のように作用する。

入社1年目の小池佐季子さんは同社事業の一つである、広報ができる人材を育成するプログラム「美波クリエイターズスクール」を終了したのちメンバーになった。

「もともとは、研究していた酪農の現場をかっこよく撮りたくて、映像編集技術が学べるこのスクールに応募したんです。初めて暮らす土地なので、人間関係を構築しなければならないと思っていましたが、みなさん気さくに受け入れてくださったので、とてもありがたいです」 と小池さんは語る。



地域コーディネーターとして大切なこと

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生活の環境を整えることはスムーズな起業に繋がる。「株式会社あわえ」が行う移住支援は、主に美波町でサテライトオフィスを構える社員が対象。空き家を探すといったハード面だけではなく、地域コミュニティの紹介を通じて目に見えないが大切なことを伝えることで移住後もスムーズに地域に溶け込めるようサポートしている。

例えば、小さな子どもがいる家族が美波町に移住し、起業した際には、地元の子育てコミュニティに入りやすいようにさまざまな配慮をする。

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「地域に溶け込んでいくには叩くドアの順番があって、その順番を守ればとても暮らしやすくなります。私たちが自らの経験でその順番を体得しているからこそ、移住された人と地域との関わり方をみながら適切にフォローできるのです」

そう話す山下さんも、移住したてのころは「ここでサーフィンがしたい」と言うと地元の人から「あと1〜2年待ちなさい」と言われたことがある。これも遊びのルールのひとつ。

他にも「続けられないことは軽く引き受けるな」など、地元の人から教えてもらった作法は多い。そうして祭りなどのお手伝いをかって出るうちに、この地域に受け入れられる過程を実感していった。

「小さなことが実はとても重要なので、移住された人には一つひとつを伝えています」

自分の経験を財産にして他の人や企業の支援をする。どの地域に行っても地域コーディネーターの核は変わらない。



株式会社あわえ では、サービス産業生産性協議会が実施している「地域コーディネーター養成研修」の研修生を受け入れている。

地域でチャレンジするための“作法”を学べる貴重な機会だ。

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ココロココ編集部

ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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