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2016年2月25日 大川 晶子

移住を通じて、自分の人生をデザインする「移住フェス−ゼミ編−」レポート

2016年1月31日(日)、東京都中央区日本橋の「サイボウズ株式会社」で、移住について考えるイベント「移住フェス」が開催された。

イベントを主催したのは、代表の東信史さんを中心に活動しているプロジェクトチーム「エリアル」。エリア(地域)のリアル(本音)を伝えていくことで、すでに都会から地方へUターンやIターン「している人」と「したい人」とを繋いでいる。

4回目となる今回は、ゼミ形式でモヤモヤを形に

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最近は内閣府の調査によると、20代の約40%が「田舎に住みたい」という結果が出ていて、移住に関する興味・関心が高い状態。しかし、移住に関心があるが、何から始めていいかわからなかったり、収入などの面で不安があったりする人、自分らしい生き方を真剣に考えたい人など、次の一歩を踏み出せずにいる人が多いのが現状だ。そこで「移住フェス」ではこれまで、移住に興味のある方や移住を促進している自治体と開催し、さまざまな悩みや思いなどを語り合ってきた。

今回で4回目となる「移住フェス」の参加者は、これまで移住のイベント何回か参加したことある人が7割、初めて参加する人が3割ほどの割合。

はじめに、自己紹介タイムが設けられ、席の周りの人とグループになって「移住フェス」に参加した理由、今どんなことに興味を持ったり活動したりしているのかを話し、参加者同士交流をはかっていた。

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始めの挨拶で「とりあえずじゃなく、これができるから一緒にやろうよと言えるような繋がりが生まれたり、モヤモヤを形にしていったりして欲しいと思います」と「エリアル」代表の東信史さんが語ったように、今回は「移住ゼミ(仲間づくり)をやろう!」をテーマに開催。ゼミのチームをつくり、次回開催の3月27日(日)にもう一度集まって、課題解決のためにどんな動きをしたかなどを発表する。

9名のゲストによるプレゼンテーション

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続いては、9名の登壇者によるプレゼンテーションが各7分で行われた。

トップバッターは「信州移住計画」の山田崇さん。長野県塩尻市の市職員として働きながら、2015年6月に「信州移住計画」をスタートさせた。「元ナンパ師」の公務員という肩書きで有名な山田さんは、全国各地で面白いコラボやイベントを積極的に開催している。「塩尻で解決できることは各自治体にも応用できるのではと考え、まずは塩尻市のリアルな課題を解決し、全国へ広めるべく活動しています」と山田さん。

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2人目は、「おやっとさぁ〜(お疲れさま)」と鹿児島の言葉で登場した「鹿児島移住計画」の安藤淳平さん 。福島出身だが、Y(嫁)ターンで鹿児島に移り住んでいる。4月には「鹿児島移住ドラフト会議」という、移住に興味のある人と移住者を呼び込みたい地域とのマッチングシステムを企画中。「『いつかあの街に住みたい』の『いつか』を今デザインしています」と安藤さん。「覚悟のいる移住なんていらないんです。でも3度くらい変えていこうという意識で」と、活動のスタンスを話してくれた。

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3人目は、「宮崎ひなた暮らしUIJターンセンター」の黒木聖一郎さん。移住を考えている人の一番の悩みどころであるお金や仕事について、実際の移住収支比較などを解説してくれた。これまで「ふるさと宮崎人材バンク」を通じて27名入社決定しているという。黒木さんは「生活費は保証しませんが、選考旅費の助成と選考アドバイスが付いてきます」とサポート体制をアピール。実際にその手厚いサポートで、「ふるさと宮崎人材バンク」への登録からわずか35日で宮崎の企業に就職した人がいるという話には、参加者皆驚いていた。

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4人目は、地域のたからもの探しプロジェクト「たからさがし。」の宮ヶ原真衣さん。友人と学生時代に熊本を拠点にヒッチハイクで九州・中国地方を中心に旅をしていた際に「宝は誰かの日常にある」ということに気づき、「だから私たちの日常にもあるはず」と活動している。「旅に出ると悩みとかがなくなるので、地域ごとの美しい景色がダイレクトに伝わってくるんです。」と宮ヶ原さん。日常のなかにたくさん宝が眠っていることを教えてくれた。

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5人目は、株式会社リゾートノート・取締役の唐品知浩さん。日本で唯一の別荘専門の不動産サイト 「別荘リゾート.net」を運営する唐品さんは「地方には面白い物件があってそれを紹介したいです。」と話し、その一例をスライドで紹介してくれた。また、「小屋部」など、業界の慣例や常識にこだわらず、これからの仕組みをプロも素人も一緒になって課題解決しようという「〇〇を面白がる会」の活動を紹介するとともに、とにかく面白がって活動することの大切さを教えてくれた。

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6人目は、「岩手×東京会議」の高橋和氣さん。岩手県内の行政機関やNPOとして活動し、東京でコミュニティをつくってコミュニティに人をつなげることで、首都圏で岩手と関わる人をどんどん増やしているという。「関わる人が増えることで、定住移住などを促せるので、その間を取り持つ役割をしています」と活動内容を話してくれた。

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7人目には、「ココロココ」の奈良織恵編集長が登壇。「今は移住やローカルがバブルな状態です。」と話すと、会場全体が納得の様子。「そのため、地域おこし協力隊の獲得競争も激化しています。自治体側も業務内容や勤務形態などを差別化してきていますし、移住希望者向けの人材育成やゼミ形式のイベントも増えているので、そういった活動を紹介しています。」と、仕事を通じて感じた移住の現状を参加者に伝えた。

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8人目は、1年前の「移住フェス」には参加者として参加していたという「日本食べる通信リーグ」の江守敦史さん。仕事で訪れたさまざまな地域の状況を見て、地域に自身の編集力を生かしたいと考え、移住フェスで出会った「食べる通信」の運営に加わった。東北から始まった「食べる通信」の全国展開を担当し、現在は26もの地域に広がっている。「『食べる通信』は、つながるというコミュニティを売っているんです。」と江守さん。最近気になっているのは、多拠点、空き家、狩猟、資本主義の次だという。

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最後は、『ソトコト』編集部の橋本安奈さん。「東京で働くことに疑問を持つ人が多くなってきていて、そこにおかしいと思う若者が移住を始めています。」と、さまざまな事例を取材してきた中で実感していることを伝えてくれた。また、注目の動きとして、自分と縁があったところに移住する「R(ルーツ)ターン」が増えているという。「東京での何万分の一でなく、地方の数百分の一になって生き甲斐を見つけるのもいいのでは?」 と提案してくれた。

■「居・職・住」のテーマ別セッションでリアルを深める

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ゲストプレゼンテーションの後は、休憩を挟んでテーマ別セッション。ゲストと参加者が「居・職・住」の3グループから専門分野や興味のあるグループに分かれ、地方移住や地方と関わりを持つにはどう動いたら良いかなど、具体的な課題について話し合った。

「居(コミュニティ)」のグループでは、そもそも人と繋がっていればコミュニティなのか? という疑問から始まり、移住を考える中でのコミュニティの大切さなどが話し合われた。

「職(仕事)」のグループに集まったのは、実際に移住した人や親が移住した人、都会から地方に移住したいと思っている人などさまざまな立場の人。地方での仕事には「就業」「起業」のほかに「継業」があり、人と人とをつなぐ「継業」のニーズが高まっているというアドバイスがあった。

「住(住まい)」のグループでは、なぜここに来たのか、いつ移住するかなどを話し合い、移住は永住? 短期? そもそも何のためにそこに住むのか? など様々な視点での話し合いが行われた。

仲間を作りアクションをおこす

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最後は、それぞれ興味のあるキーワードを紙に書き、自分の書いたものと近いキーワードの人たちとグループをつくり、そのキーワードについて実際に行動に移すというワークショップが行われた。

その結果、次回までに秩父の物件を探す「ビフォーアフターアフター」、各地域のおせっかい事情を探す「チームOSEKKAI」、地域に眠る小商いを探す「小商い研究所」、47都道府県の面白い人や場所のリストを作る「てんごてんご」、とにかく具体的に動いてみる「チームもやっと」、20年後どのように変わっていくのかを研究する「ここラボ20」の6つのチームと活動予定が出来上がった。

次回は2ヶ月後に活動内容を発表

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移住に興味がある方が、移住に携わる方や移住した先輩に移住のリアルを教えてもらいながら、今後自分自身がどうしたいのかを考える場となった今回の「移住フェス」。ゼミ形式で、仲間とともに行動に移すところまで落とし込めたので、参加者は皆ワクワクした様子で会場を後にしていた。

次回は2016年3月27日(日)に、実際に各チームがどんな活動をしたのか発表する。会が終了した直後から動き始めているチームもあり、どんな発表となるかが楽しみだ。

 

大川 晶子
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大川晶子

大川 晶子1986年、静岡県三島市生まれ。エディター・ライター。 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科(近代建築史専攻)を卒業し、住宅やインテリア雑誌の編集部を経てフリーランスとして活動しています。たくさんの人・もの・ことに触れてその魅力を伝えることで、一人でも多くの方の暮らしをより豊かなものにできたらと思っています。

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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