2拠点居住や起業の最適地として注目の南房総市
千葉県の房総半島の最南端に位置し、温暖な気候と山も海もある風光明媚な場所として知られる南房総市。さらに「東京湾アクアライン」を使えば、東京から車で約70分とアクセスも良いことから、2拠点居住や起業の最適地として人気が高まっている。
今回の参加者は、ほぼ皆さん南房総市に行ったことがあるという。2拠点居住関連のイベントでは若者の参加者が目立つが、今回は年齢層が幅広く、まずは2拠点居住から始めて起業や退職後の移住も視野に入れている方も多いのかもしれない。
まずは、主催者挨拶として南房総市商工課課長補佐の中村学さんが「ストレートに移住・定住してくださいということにこだわらず、この会を通して南房総市の事を知っていただき、接点をつくったり足を運んでもらったりと、2拠点移住を検討してもらえれば嬉しいです」と参加者の皆さんに挨拶をし、イベントスタート。
南房総市の魅力を地元出身の市職員がPR
イベントのコーディネーター・永森昌志さんが司会となり、参加者が周りの席の方といくつかのグループになっての自己紹介を行う「アイスブレイク」の時間が5分ほど設けられた。永森さんは、会場の「HAPON新宿」の共同創設者でもあり、南房総市で2拠点居住を実践中だ。
「アイスブレイク」では参加者同士、普段何をしているかや今回参加した理由などを思い思いに話し打ち解けたことで、その後リラックスして登壇者の話を聞くことができたようだ。
続いて、南房総市和田地区出身の南房総市商工課・真田英明さんによる、南房総市の紹介が行われた。
「都心部からのアクセスがいいにもかかわらず、こんなにも美しい自然があることから、南房総市に勝手に“東京湾のローカル”と名称をつけました」と真田さん。 色とりどりの花が植えられている路地の様子や海岸から見る夕日、里山の自然など、真田さんが撮影した南房総市の風景が映しだされると、会場の皆がその美しさに見入っていた。
7つの町と村が合併し、南房総市が誕生し2016年で10年目。合併後10年で人口は約11%減り、高齢化率や耕作放棄地や空き店舗は増える一方だ。 しかし、真田さんは「南房総市には面白い個性豊かなプレイヤーがいて、何かが起こりそうな可能性があります。南房総市の強みを生かして地域活性の循環を生み出そうとしています」と今後の取り組みについて話した。
南房総市では起業家向け支援を行っている。詳しい支援内容については「南房総市 企業・起業家誘致サイト」に掲載されているので、そちらをご確認いただきたい。
最後に、「南房総市は、東西に海、そして中央には山があり、里山の原風景が残っていることから、これも私が勝手に“自然のコンパクトシティ”とも呼んでいます」と真田さん。 南房総市は一年を通して過ごしやすい温暖な気候のため、路地花栽培が盛んで、日本酪農発祥の地がある。豊富な農産物と水産物があることから、市内には全国最多の8箇所の道の駅があることなど、南房総市の魅力や取り組みについてPRした。
週末のみの南房総暮らしから、NPO法人を立ち上げ里山に恩返し
続いては、南房総市で新しい働き方や暮らしを実践する先駆者によるゲストスピーチが行われた。
1人目は、2007年から東京と南房総と2拠点居住を家族で実践している馬場未織さん。
3人の子どもの母親で、都市・建築ライターとして活動する馬場さんは、著書に『週末は田舎暮らし~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』などがある。 馬場さんは「ニッチな話題だから売れるのかなと思ったんですけど、話題になって韓国版と台湾版も発行されたんです。世界的に2拠点居住が注目されているんではないでしょうか」とその反響の大きさを伝えてくれた。
東京生まれ東京育ちの馬場さんが2拠点居住を行うきっかけとなったのは、息子さんが大の虫好きなこと。図鑑で見た虫などを実際に見たいとせがまれるうち、「おじいちゃん・おばあちゃんがいなくても田舎をつくればいい!」と、さまざまな場所を訪れ虫たちと触れ合える田舎候補を探した。 その結果、東京からドアツードアで1時間半の南房総市に8700坪もの土地を手に入れ、平日は東京で働き、週末は南房総市で過ごす暮らしをスタートさせることになった。
「2拠点居住は、体験する暮らし・考える暮らしです」と馬場さん。 一帯を里山に囲まれた南房総の住まいで暮らしていて感じたのは、「豊かさとは、一代限りでは創り出しえないものに支えられている感覚」と、自然の尊さを伝えてくれた。
馬場さんは、里山から恩恵を受けてばかりではなくお返しをしたいと、2011(平成23)年に、現在ではNPO法人した「南房総リパブリック」を設立。 京都目黒区にオープンした「洗足カフェ」(現在は別オーナーが運営)で南房総の食材を使用したり、自然学校「里山学校」や「空き家活用プロジェクト」を開催したりと、さまざまな南房総のある暮らしを広めて里山を守っている。
これから2拠点居住を予定している参加者に対して馬場さんは、「例えば武雄市の図書館のように、都市生活者が欲する田舎暮らしと地元の欲する田舎は異なるんです。2拠点居住をする方は、都市と田舎の両方の理解者として活動していくべき」と語った。
南房総市にある資源を生かして、新しい価値を生み出す
2人目は、「シラハマアパートメント」の運営及び管理する多田朋和さん。もともとは45年前に建てられた近くのホテルの社員寮を、カフェ・不動産・アートを融合したものをつくりたいと改修した。
房総半島最南端の白浜海岸近くに建つ「シラハマアパートメント」は、1階がカフェとガラス工房、2階がゲストルームと学習塾、3・4階がシェアハウスになっている。 「冬きれいに晴れると屋上から伊豆七島が見えるんです」と多田さん。
シェアハウスの住人は、オープン当初は近隣からの住人が多かったが、最近は2拠点居住を実践している人が多く、都内や横浜などの方が多いという。 ゲストハウスはテレビがなく、この場所ならではの波の音を聞きながらゆっくりと眠りにつけることが魅力だ。
多田さんは今後の活動予定として、近くにある廃校を良品計画のサポートによりリノベーション予定だという。 日本で初めてのモデルケースで、校舎をシェアオフィスと飲食スペースと宿泊スペースに、校庭を菜園付きの小屋にする予定で、良品計画が小屋をデザインする。
そのほか、2015年から農家資格を得て葡萄の木を植えて将来的にワイナリーを企画中。さらに、猟銃資格も取ってジビエ料理も提供できたら、新しい南房総の特産になるのではと目論んでいる。仕事としてではなく、自身がやりたいように活動しながら、南房総エリアを盛り上げている。
トークセッション「(仮)2拠点な仕事と暮らしの創り方」
続いて、永森さんが司会となり、ゲスト2人へ質問するトークセッションへ。
永森さん:2拠点ライフは仕事暮らしどんなバランスですか?
馬場さん:2拠点居住開始当初は毎週末家族で行っていましたが、子どもが大きくなるにつれてスタイルが変化しました。現在では南房総に平日も行くようになったりして東京と南房総の比率が7:3と南房総で過ごす割合が多くなりました。
多田さん:シェアハウスの住人さんは、都市と南房総の比率が8:2 くらいみたいです。白浜でストレスを解放させて都市へ戻っていくようです。初期費用40,000円ほどで住めるのでハードルは低いと思います。
永森さん:南房総での活動が仕事になっていったプロセスを教えてください。
馬場さん:最初はプライベートでしたが、地域の人とかかわるようになり、ここ2、3年で南房総での仕事がメインになりました。
多田さん:仕事っていう風に思ったことがなく、これをやったら面白そうだなとかこれをやりたいと思ったことをトライアンドエラーでやっている事の延長です。
途中、参加者からの質問タイムも設けられた。
参加者:私は、最初は逃避として鋸南町と東京で2拠点居住を始めて5年経ちましたが、今では土日があるから月曜日から仕事に打ち込めると感じています。皆さんは実際どうですか?
多田さん:シェアハウスに住んでいるクリエイターさんは、ストレスがかからない状態でつくるといいものがつくれると言っていました。南房総は都心にアクセスがよく、光ファイバーなど整備されているので、2拠点居住をするには全国的にみてもいい場所だと思います。
参加者:2拠点居住はいいが、南房総でも仕事がないと南房総の未来がないのではないでしょうか? ブームに終わらず、人々が南房総に定着するにはどうしたら良いと思いますか?
多田さん:南房総市に対して、南房総市と2拠点居住する方への交通費負担や住民票移す方へは補助金を出すなどしたほうが良いのでは? と提案しています。また、カーシェアリングなど交通の便も改善するべきだと思います。
馬場さん:どの地域もほぼ高齢者で20年後にすべての集落を残すのは難しいので、取捨選択しないと厳しいですね。どう小さくきちんと残すかが課題です。
そして最後に、永森さんから2つの質問が。
永森さん:南房総にはどんな仕事がありますか?
多田さん:探せばいくらでもあります。“都市部の生活水準を保ちつつスタイリッシュな仕事”というのは南房総にはないので、ITと農業を掛け合わせるなど、自分でつくるしかないですね。「テスラモーター」という電気自動車があるのですが、「シラハマアパートメント」に「テスラモーター」の充電器があるんです。「テスラモーター」が普及することで、充電器がゆくゆくは仕事になるんじゃないかと思っています。なんでもできるのが南房総の魅力なので、仕事を既存のものに求めるのではなく、新しいスタイルをつくるのが良いのではないでしょうか。
馬場さん: 今日後ほど「南房総drinks」で料理を振舞ってくださる木村夫妻のような感じがいいんじゃないでしょうか。房総のチベットと呼ばれる鋸南町の端で料理屋「こころ」を営む木村夫妻は東京生まれで、東京江戸川区で日本料理屋を営んでいたんですけど、7年前に移住したんです。
この質問には南房総市の真田さんも回答。
真田さん:現状は一次産業と三次産業が主で、求人倍率が高いのは介護・医療、観光です。南房総の食材を使って飲食店を経営したい、ゲストルームをしたいという問い合わせは多いです。
永森さん:最後に改めて、南房総の魅力を教えてください。
多田さん:絶対的な自然 都心から2時間くらいで行ける場所でこんなに自然豊かな場所はない。それを踏まえて何もないのが魅力です。
馬場さん:こんなに近いのにこんなに田舎なことですね。あと、南房総の人が好きです。「房州人は肋骨が1本足りない」と昔から言われているように、恵まれた環境のこの辺りでは、食べるのに困らないため働かず、のんびりした人柄です。それが他の者を受け入れるではないでしょうか。
南房総の魅力を食して味わう
最後は、皆さんお待ちかね!「南房総drinks」の時間。
先ほど馬場さんから紹介があった南房総市で料理屋「こころ」を営む木村哲詞さん・優美子さん夫妻による、鋸南町の道の駅で仕入れてきた食材を使った料理が振舞われた。
食事は、木村さんの友人が作ったという赤米のおにぎりや鋸南町の漁港で上がった魚料理、菜の花とニンジンの白和え、自家製のベーコンを使った豆腐のキッシュなど。飲み物は、千葉県の地ビールや日本酒、有機の玄米茶、木村さんの家の庭の夏みかんを80個しぼったというジュースなどが並んだ。
乾杯の音頭は、南房総市の企画政策課・松田浩史さん。 会場からは「濃厚!」「おいしい!」といった声が聞こえ、皆談笑しながら箸を進めていた。
南房総の魅力を味わい、さらに南房総への思いが高まった中で幕を閉じた今回のイベント。
2016年3月13日(日)には南房総市での現地フィールドワークが行われる予定だ。 今回参加された方も参加されなかった方も、ぜひ3月の現地フィールドワークに参加してみてはいかがだろうか。