記事検索
HOME > 移住する > Iターン >
2016年3月16日 ベリーマッチとちぎ

那須に新たなスペクタクルを。那須どうぶつ王国 総支配人・鈴木和也さん

那須の美しい自然に魅せられ、20代半ばで東京からこの地に移住した鈴木和也さんは、「那須どうぶつ王国」の開園に携わり、現在では総支配人を務める。 那須のブランド野菜や那須和牛を使った「那須の内弁当(なすべん)」の開発や、地域に密着した自転車プロロードレースチーム「那須ブラーゼン」の立ち上げなど、次々と新たなチャレンジを続ける鈴木さんに、那須の魅力、栃木の可能性についてうかがった。

那須の美しい自然にいざなわれて

那須どうぶつ王国に隣接する牧場からは、緑豊かな森や田畑に抱かれた那須の街並みを見渡すことができる。振り返れば、那須岳の雄大な山並み。今から28年前、この美しい自然に魅せられた一人の男性がいた。

「那須高原を訪れたのは、ちょうど5月の終わりごろ。360度見渡すかぎりの新緑がまぶしくて。日本にこんなに美しい場所があったんだ! ここで仕事がしたい! と強く思ったんです」

その男性の名は、鈴木和也さん。当時、東京のホテルチェーンに入社したばかりだった鈴木さんは、リゾート開発プロジェクトの視察で役員の運転手とし て那須高原を訪れた。それからというもの「現地でプロジェクトに携わりたい!」と、何度も上司に直談判。2年を経て思いは受け入れられ、鈴木さんは那須町 に移り住んだ。事業立ち上げのために最初に取りかかったのは、地元の人たちとの交渉だ。

DSC_1615

「地元の人たちと飲みに行って、膝を突き合わせてお話する機会がたくさんありました。みなさん、とても温かくて。当時、独身だったぼくにゴハンを差し入れ てくれるなど、本当によくしてくれました。那須には四季折々の美しい自然、おいしい食材、何よりも魅力的な人がたくさんいる。ぼくはそんな那須の魅力をい かした、地域に密着した施設をつくりたいと思ったんです。首都圏から訪れる人だけではなく、地元の人にも愛される動物園を」

DSC_1615

しかし、数年後、母体であるホテルチェーンがプロジェクトから撤退するという危機が訪れる。そのとき鈴木さんは十何社もの企業をまわり、自ら事業を引き継ぐ企業を見つけた。大きな壁に直面しても諦めなかったのは、「地域に密着した施設をつくりたい」という強い信念があったからだ。

 

那須の食材100%! 地元のおいしさが詰まった「なすべん」

「那須どうぶつ王国」がオープンしてからも、鈴木さんは観光協会の理事を務めるなど、地域活性化の活動に積極的に取り組んできた。そんな活動のなかから誕生したのが、「なすべん」の愛称で親しまれる「那須の内弁当」だ。

DSC_1615

「それまで『那須どうぶつ王国』で提供していた料理は、ありきたりなものばかりで。なんとかメニューを充実させたかったんです」
鈴木さんは、地元農家や酪農家、飲食店を営む人たちと協力し、2006年に「なすとらん倶楽部」を結成。那須の看板メニューを生み出すべく、話し合いを重ねた。また、地元野菜を料理に活かすために、JAにも直談判を行った。

「那須町は農業がとても盛んで、『白美人ねぎ』『美なす(ビーナス)』などのブランド野菜がたくさんあります。けれど当時は、それらの野菜はすべて 首都圏に出荷されていて、地元では流通していませんでした。そこで、JAさんにお願いに行き、戻り際何度も足を運ぶうちに、気骨ある職員の方が協力してく れるようになって、ブランド野菜の入手が可能になりました。こうして2010年に『なすべん』が誕生したんです」

現在では、「那須どうぶつ王国」を含む9店舗が、これらの地元食材を活かしたオリジナルメニューを提供している。2015年には「なすべん」の地産地消の取り組みが評価され、「農水省食料産業局長表彰」を受賞した。

 

大切なのは、自分の言葉で発信すること

その後も鈴木さんは、那須の広大な自然のなかで若手アーティストの作品を発表するアートイベント「スペクタクル・イン・ザ・ファーム」を開催するなど、那 須の魅力を積極的に発信してきた。その「発信すること」の大切さを気づかせてくれたのは、うれしい偶然の出会いだったという。

「たまたま那須にあるホテルで早稲田大学の中村好男教授にお会いして、それがきっかけで早稲田大学のスポーツ科学学術院で、ぼくたちの那須での取り組みに ついてお話させていただくことになったんです。そのプレゼンの後の懇親会で、中村先生から『那須の魅力を活かす鈴木さんの取り組みは、『那須だけではな く、日本のためにもなることだと思いますよ』と言っていただいて」

その言葉をきっかけに、鈴木さんはこれからの自分の使命に気付いたという。

DSC_1615

「地域を活性化していくためには、自分の住んでいる街を愛し、地域の魅力を徹底的に掘り下げることが重要。けれど、それだけでは十分とは言えない。大切な のは『自分の言葉で積極的に発信すること』『そして他地域と連携して輪を広げていくこと』だと、中村先生は気づかせてくれたんです」

 

地域への熱い思いが実現した、数々の奇跡

これまでの取り組みにより、来場者が順調に増えていたちょうどそのころ、東日本大震災が発生した。那須町への観光客は激減し、那須どうぶつ王国でも、スタッフを自宅待機させなければならない状況となった。

「それでも、きっと何かできることがあるはずだと考え抜き至った結論は、やはり『自分の言葉で発信すること』でした。そこで那須町観光協会の支援も頂き、 震災後も那須で頑張る人々の情報を発信するラジオ番組をスタートしたんです。また、那須の有志で「那須元気プロジェクト」を立ち上げ、震災で那須町に避難 されて来た皆様への情報提供等も行いました。さらに、那須に事業所を持つ企業が連携して協議会を立ち上げ、那須を盛り上げるさまざまな活動を、一緒になっ て行ってくれるようになったんです」

鈴木さんをはじめ有志が集まり、震災前から準備を進めてきたサイクルイベント「那須高原ロングライド」を初めて開催したのも2011年のことだ。

DSC_1615

「震災後のイベント自粛ムードのなか、『誰も参加してくれないのでは』という声もありました。でも、こんなときだからこそやらなければいけないと、あえて リスク承知の上で開催すると、なんと800人以上もの人が参加。首都圏からも多くの人が来てくれました。みなさんからの『頑張ってください!』『応援して いますよ!』という温かい言葉がうれしくて、うれしくて。涙があふれてきました」

このイベントから活動が広がり、翌年にはプロチームの「那須ブラーゼン」が誕生。2014年には、所属選手が全日本チャンピオンとなった。「那須ブラーゼ ン」は観光客や子ども向けのイベントも開催し、町を盛り上げている。また、ブラーゼンがモデルの地域密着のテレビドラマが全国放送されるなど全国にもその 輪が広がっている。

 

これからも、新たなスペクタクルを

ラジオ番組をはじめたころから、鈴木さんは「スペクタクル鈴木」というサブネームを使い始めた。アートイベントの名前にも使われた“スペクタクル”という 言葉には、人と人との交流を通し、場に大きな化学変化が起きることで、そこに感動が生まれる、「まさに奇跡的な瞬間」という意味が込められている。

DSC_1615

「自分の言葉で積極的に発信しはじめてから、活動に興味を持ってくれる人、応援してくれる人のつながりがどんどん広がり、奇跡のような出来事がたくさん起 こりました。栃木県内には、地域の魅力をいかし自分たちで楽しみながら、スペクタクルを起こしている人がたくさんいます。そんな奇跡的な瞬間を目にした若 い人たちが、さらに自分の街で新たな取り組みを始めようとしています。これからも、他地域の魅力的な人たちと連携しながら、自転車ロードレースの国際イベ ントや那須を舞台にした映画など、新たなスペクタクルを巻き起こしていきたいですね」

 

栃木県はこの春、県内各地にある「多様な働き方・暮らし方」「様々な形で地域に関われる選択肢の広さ」「魅力的なヒト・モノ・コト」を紹介するサイトとして『ベリーマッチとちぎ』をオープンさせました。

取材先

那須どうぶつ王国 総支配人・鈴木和也(すずき かずや)さん

青森県生まれ。東京のホテルチェーンに入社して4年後、那須の自然に魅せられて移住。「那須どうぶつ王国」の立ち上げに携わる。地域に根ざした動物園を目ざし、2010年には地元農家や飲食店と協力し、「那須の内弁当(なすべん)」を開発。2011年には、サイクルイベント「那須高原ロングライド」を初開催。現在は、那須の地域密着型プロサイクルロードレースチーム「那須ブラーゼン」の広報マネージャーも務める。早朝、愛車の自転車で、那須の街を走るのが日課。
●那須どうぶつ王国 http://www.nasu-oukoku.com/

●那須ブラーゼン http://www.nasublasen.com/

ベリーマッチとちぎ
記事一覧へ
私が紹介しました

ベリーマッチとちぎ

ベリーマッチとちぎあなたにぴったりの地域で、暮らし方で、関わり方で、豊かに暮らすための情報を発信する栃木県移住・定住促進サイト「ベリーマッチとちぎ」

人と風土の
物語を編む

 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

人と風土の物語を編む