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2017年5月5日 Furusato

メガネのまち、鯖江へ。広がる仲間たちの輪と描く未来の姿とは

メガネや漆器、繊維と古くからものづくりが盛んな福井県鯖江市河和田(かわだ)地区。特にメガネは国産の9割以上がこの地で作られており、「鯖江といえばメガネ」と言われるほど、その品質には定評があります。そんな「メガネ」に魅せられて、2010年にこの地にやってきたのが、大阪府出身の今川心平さん。大学を辞めて飛び込んだメガネ職人の世界、そして仕事の枠を超えたさまざまな活動について語っていただきました。

 

河和田アートキャンプで出会ったメガネづくりの奥深さ

中学は剣道部、高校はソフトテニス部と、身体を動かすことが得意だった今川さん。スポーツのほかにも、ものを作ることが好きだったことから美術系の大学を志望し、入学した京都精華大学ではプロダクトデザインを学んでいました。
今川さんが河和田でメガネと出会うきっかけとなったのが、2007年の「河和田アートキャンプ」。京都や奈良の学生たちが毎年夏の間、鯖江市河和田地区で共同生活をし、地元の職人たちと交流しながらアート作品を生み出すという取り組みです。有志のプロジェクトなので、大学の単位が取れるわけではありませんが、普段関わることのないほかの学部の人たちと仲良くなる機会を作りたいと、大学1回生の夏に初めて河和田の地に足を踏み入れました。

河和田の風景

「河和田を初めて訪れた時の印象はあまりないんです。日本の田舎ってこういう感じなんだろうなぁと。ただ、人口4,400人の小さなまちなのに、ものづくりの工房があちこちにあるのは珍しいと思いました。漆器一つとっても木地をつくる工房、漆を塗る工房、蒔絵の工房など分業されていてとても興味深かったですね。」

河和田ではさまざまなものづくりの現場を見学させてもらったという今川さん。なかでもメガネ作りの現場を訪れた時に、これまで抱いていたものづくりのイメージが一新したと言います。

「ものづくりの産地というと、何十年も経験を積んだ仙人のような職人たちがコツコツと仕事をしているイメージがあったのですが、ここの現場では若い人たちがメガネを作っていたんです。あ、こんなかっこいい働き方ができるんだな、と思いました。」

眼鏡づくりの風景3

一枚一枚職人さんがフレームにヤスリをかけ、バフと呼ばれる大きなフェルト地を回転させながら光沢のあるピカピカのメガネを生み出していく。そんなメガネづくりの現場で、今川さんが思い出したのは、高校時代に買ってもらった「黒縁メガネ」のことでした。

眼鏡づくりに携わる経緯

「そのメガネはテンプル(メガネを支えるサイドの部分)に“made in Japan”と書いてあったんです。当時は日本製であることに特に何も感じなかったのですが、河和田のめがねづくりを見たことで、日本のメガネづくりは人の手による高い技術が根底にあるんだな、と妙に納得しちゃって。同時に、自分のやりたいことはプロダクトデザインよりも、手を動かして作ることなんじゃないか、と思うようになりました。」

メガネづくりへの興味が高まるあまり、卒業を前にしてなんと大学を辞めてしまった今川さん。先のことが何も決まっていないゼロの状態で河和田を再び訪れ仕事を探していたところ、幸いにもアートキャンプで交流のあった人たちの縁に助けられて、河和田のメガネメーカー「谷口眼鏡」で働き始めることになりました。

 

感覚を研ぎ澄まし身につける、繊細なメガネづくりの技術

谷口眼鏡の紹介

「谷口眼鏡」はメガネの産地 河和田でトップクラスの技術を持つメーカー。分業制が主流のメガネ業界の中でも自社ブランド「TURNING」を立ち上げ、長年技術を積んだ職人たちが自信と誇りを持ってメガネづくりを手がけています。

「数年はメガネすら触らせてもらえないんだろうな…。」

厳しい職人の世界をイメージしていた今川さんでしたが、なんと入社初日からいきなりメガネの蝶番の取り付けや、磨きの練習をさせてもらったそうです。 とはいえ、ちょっとやそっとでは習得できない技術であることも次第にわかってきます。

眼鏡を磨く作業

「メガネづくりには数多くの工程がありますが、その中でもなくてはならないのが“磨き”の作業です。磨きが足りないと美しいメガネにはならないし、磨きすぎるとフレームの繊細なシルエットが崩れてしまいます。この技術が仕上がりを大きく左右するんですよね。はじめの頃はいくら磨いても納得できず、なかなかうまくできませんでした。」

厚みやカーブなど、すべては自分の感覚で判断するもの。教える方も教わる方も難しいなか、今川さんは着々と技術を身につけ、メガネ職人としての経験を積んでいきました。

 

自分たちが河和田を盛り上げよう!移住者でスタートした「TSUGI」

同じ頃、河和田にはアートキャンプを経験した同世代の若者たちが、この土地に魅了されて今川さんと同じように続々と大阪から移住していました。ある人は市役所でデザイン業務に携わり、ある人は木工職人になり、またある人は学校の職員やNPO職員になり……。今川さんもしばらくはメガネ職人としての技術を身につけようと無我夢中でしたが、仕事も少し落ち着き、余裕が出てくると、河和田のリアルな現状もわかるようになってきました。

「河和田って10年後どうなっているのだろう……。」

仲間と集まり話すといつも話題にのぼるのが、河和田のこれからの話。仕事は充実しているものの、未来の話になると皆なぜか黙ってしまいます。

生産拠点が海外に移る危機感や後継者不足など、それぞれが産地に対する課題を感じていました。「それなら10年待たずとも、今から自分たちで盛り上げていけばいい!」 2013年、同じ思いを持つ移住者たちと一緒に「TSUGI」という名前で活動を始めることになりました。

TSUGIには「“次”の世代である若者がものづくりや文化を“継ぎ”、新たなアイデアを“注ぐ”ことでモノ・コト・ヒトを“接ぐ”」 という意味が込められている
▲TSUGIには「“次”の世代である若者がものづくりや文化を“継ぎ”、新たなアイデアを“注ぐ”ことでモノ・コト・ヒトを“接ぐ”」 という意味が込められている

地元の方のご好意で漆器店の一階を借り、改装。自分たちの拠点を作った
▲地元の方のご好意で漆器店の一階を借り、改装。自分たちの拠点を作った

 

「作る」から「届ける」ことで、さらにものづくりが楽しくなった

なかでも、今川さんの転機となったのは、TSUGIのオリジナル商品となるアクセサリーブランド「sur」を作ったことでした。メガネ工房に山積みにされていたアセテートというフレーム材料の端材。本来であればそのまま捨てられてしまうものを譲り受け、TSUGIの仲間が描いたスケッチを元に手探りで形にしていき、試作品づくりを重ねていきました。谷口眼鏡の社長も機材を快く使わせてくれるなど、今川さんたちの活動を後押し。若者たち、しかも移住者が始めようとしていることを応援してくれる地域の人も多く、心強かったと言います。

谷口眼鏡の谷口社長(右)と
▲谷口眼鏡の谷口社長(右)と

メガネづくりと同じくピカピカに磨いたアセテートの素材にコットンパールをあしらったピアスは、クラフトマーケットに出店すると初日で完売するほどの人気に。商品のラインナップも増え、今では全国のポップアップストアでも販売されるほど知名度も高まってきました。

今川さんたちが手がける「sur」。シンプルだがデザイン性の高いアクセサリーは若い女性を中心に人気が高い
▲今川さんたちが手がける「sur」。シンプルだがデザイン性の高いアクセサリーは若い女性を中心に人気が高い

「正直言うと、“河和田を良くしよう”とか“地域の未来”というのは自分の中では大きすぎるテーマで、具体的に考えられない部分が常にあったんです。でも、『sur』は自分のスキルを活かしながら、河和田のことも知ってもらえる。さらに、各地で出店しながらお客さんと接することで、作るだけでなく届ける楽しさを知ることができました。毎日メガネと向き合い続けていると、時にはモチベーションが下がる時もありますが、『sur』に関わることが仕事の面でも大きな刺激になっていると思います。」

「sur」について語る今川さん

 

仲間が増えた!家族も増えた!

「河和田って面白そうなことやってるやん?」と興味を持ってくれる人が訪れるようになり、どんどん仲間が増え続けているという今川さん。
プライベートでは結婚、さらに子どもも生まれるなど、身の回りの環境も大きく変わりました。

仲間とともに河和田を盛り上げていく

「もともとメガネに関わりたいという思いだけで移住したので、あまり住みやすさについて考えたことはありませんでした。福井は雪が降って寒いし、冬は天気が悪い日も多い。遊ぶところも都会の方が断然多いと思いますが、でも今、周りには面白い人たちがどんどん集まっている印象がありますね。それに、あらためて自分の住んでいる場所を見てみると、すぐそばに自然が多くて子どもをのびのびと育てられる環境ってやっぱりいいなと思います。同世代の仲間にも子どもが生まれ賑やかになっているので、これからどんな関係を作っていけるか楽しみです。」

ゆくゆくはメガネのデザイナーである奥様と一緒に自分がイチから手がけたメガネを作りたいという今川さん。たくさんの仲間とともにものづくりの産地・河和田がどんな風に盛り上がっていくのか、これからも目が離せません。

取材先

「有限会社谷口眼鏡」 メガネ職人/今川 心平(いまがわしんぺい)さん

1988年大阪生まれ。京都精華大学在学中に参加した河和田アートキャンプをきっかけに地場の手仕事に感動し、大学を中退。2010年から現職につき、メガネ職人として技術を磨いている。2013年からはものづくり+デザインユニット「TSUGI」の一員として活動を開始。オリジナルのアクセサリーブランド「sur」の製造を手がけ、全国各地でポップアップショップ「SAVA STORE」を中心に販売するなど、メガネ技術を活かしたものづくりを行なっている。
谷口眼鏡HP:http://www.turning-opt.com/
TSUGI HP:http://tsugilab.com/

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 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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