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2017年5月12日 Furusato

自分たちで何かを生み出す暮らしを求めて家族で移住

関西で結婚・出産を経て、家族で自身の生まれ故郷である神奈川県に戻り、東日本大震災を経験した鳥山百合子さん。「未来へつなげることがしたい」という気持ちが強まり、家族で高知県土佐町に移住しました。土佐町は、隣接する大川村、本山町、大豊町と合わせて「嶺北(れいほく)地域」と呼ばれています。鳥山さんは現在、移住者と地元の人たちをつなぐNPO法人「れいほく田舎暮らしネットワーク」の一員として、移住希望者のサポートをしています。

震災を機に、家族の夢を叶えようと動くことに

移住のきっかけを語る鳥山さん

神奈川県出身の鳥山さんは、結婚してしばらくは、大阪や神戸、西宮といった関西圏で暮らし、自身の保育士の仕事と子育てを両立してきました。山が好きだった鳥山さんとご主人は、“土に根差した暮らし”という夢があり、夫婦で移住先を探していたそうです。やがて長女が2歳になったころ、それまで福祉関係の仕事をしていたご主人が「未来に残す仕事がしたい」と林業を志したのを機に、一旦、鳥山さんの故郷である神奈川県に戻ることにします。
「夫は夢であった林業の仕事に就けました。私が子どもの頃は家の周りには田んぼや畑があったのですが、宅地になった所も多く、自然の中で思い切り遊べる環境で子どもを育てたいと思っていたので、少し思い悩むことはありました。」

そして起こった東日本大震災。神奈川県でも混乱が起き、スーパーには食品や消耗品を求めて人だかりができていて、売り場には商品がほとんどない状態。鳥山さんも行列に並ぶ一人でした。テレビから流れる東北での震災の様子、そして大きな被害はないけれど混乱した現状。鳥山さんは、自分自身への無力感や虚無感を感じていました。

「私が何も生み出せていない、という現実に愕然としました。そして、明日何が起きるのかわからないのであれば、それならやりたいことをしよう、と思ったのです。」
夫婦で夢見ていた“土に根差した暮らし”。いつかいつかと先延ばしにしていましたが、一歩を踏み出す決意をしました。

 

大切なことの、優先順位をつけてみる

自然を見つめる鳥山さん

それからはご主人の林業の仕事が続けられ、“土に根ざした暮らし”ができる移住先を探し始めました。そして、2011年6月に初めて高知県を訪れました。その時、鳥山さんは高知の人のあたたかさにすっかり魅了されてしまいました。
「当時はこの地域で借りられる空き家が一軒しかなくて。下見に行ったとき、隣の家の方がたまたまいらっしゃって、初めて会った私たち家族に笑顔で『来んしゃい、来んしゃい』と言ってくれたんです。そのあたたかさが嬉しくて、ここで暮らしたいと思いました」
小学校の木造校舎も自然豊かな高知を感じさせ、雰囲気もアットホーム。子どもたちものびのびと過ごせる環境とわかり、家族で移住を決意した鳥山さん。

そしてその決意を後押ししてくれる言葉に出会いました。嶺北地域の移住の先輩、川村幸司さん・ヒビノケイコさん夫妻に「大切なことの優先順位をつけてみたら?」と言ってもらったのです。この言葉により家族で“土に根差した暮らし”という大切な思いを改めて再認識。鳥山さんにとって大事な言葉となりました。

そして鳥山さんのご家族は2011年の8月に土佐町に移住をしました。

 

必要なものは、自分たちでつくる

自給自足の生活へ

鳥山さんは、移住してすぐに保育士として働かないかと声をかけられましたが、新しく始まった生活を整え、まずはこの土地に慣れ、一日一日を丁寧に暮らしていこうと家事や子育てに専念。田んぼを借りて米を育てたり、里芋などの野菜を育てたりと忙しく過ごしていました。
「野菜や果物の旬がわかるようになりましたし、近所の人たちから干し芋や干し大根の作り方も教わりました。干し大根で使う紐を藁で編んだり、籾(もみ)がらを畑に撒いたり、藁でお正月のしめ縄を編んだり。既製品を買わずに自然の中にあるものでなんでも作ることができるんだ、と感動しました。嶺北地域の運動会では、藁を使って縄を編む競技もあるんですよ」

野菜を収穫する鳥山さん

移住から半年が経ち、鳥山さんは移住するときに力になってくれた川村幸司さんが事務局長を務める「れいほく田舎暮らしネットワーク」で働くことになりました。「れいほく田舎暮らしネットワーク」は、地域で移住者と地元の人たちをつなぐ取り組みとして、年に数回「お山の手づくり市」を開催しています。もともとは、ものづくりが好きな移住者が多いことから始まった催しですが、最近では、子どもたちも参加できる「こどもマルシェ」も実施し、鳥山さんの子どもたちも参加することで楽しみながら自立心を養うきっかけになったようです。

鳥山さんの育てた野菜

現在は「れいほく田舎暮らしネットワーク」で働く鳥山さん。主な仕事は、移住を希望する人の相談に乗り、土佐町を案内して空き家を紹介、移住した後のサポートをするなど、自身の経験を存分に活かしています。

 

移住者や移住希望者に向きあう

移住希望者向けのツアーで案内をする鳥山さん
▲移住希望者向けのツアーで案内をする鳥山さん

「移住したいと来てくれた人が、悩んだり迷ったりしたとき、まずは話をじっくり聞いて、思いを知る。そして大切なことの優先順位をつけてみませんか?とお話しすることもあります。私自身が、その言葉に救われたように、誰かにとって少しでも助けになればと思っています。」
嶺北のいいところは、「みなさんがそれぞれ思いを持ち、自分のしたいことをこつこつと積み上げながら、ゆるやかに繋がっていること。その安心感が毎日のエネルギーになるんです」と話す鳥山さん。
嶺北地域は移住者が多く、この地が好きだという思いを持って、互いに協力しながら暮らしをつくっています。
「土佐町には家族や仕事仲間、ご近所の方、大切だなと思える人がたくさんいるんです。自分が幸せだなと思える場所に今いること、一番幸せですね。」

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取材先

NPO法人「れいほく田舎暮らしネットワーク」/鳥山 百合子(とりやまゆりこ)さん

神奈川県出身。結婚後、大阪市、神戸市、西宮市など関西で暮らし子育てをしながら保育士として働く。その後、家族で神奈川県に戻り東日本大震災を経験。これを機に、かねてより抱いていた未来に残すことをしたいと家族で高知県に移住。現在は、NPO法人「れいほく田舎暮らしネットワーク」で働きながら土佐町で家族5人で暮らしている。
NPO法人れいほく田舎暮らしネットワークHP:http://www.reihoku.in/

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 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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