なぜ今「半島」?
かつては“海上交通の要”と呼ばれる文化と経済の先進地であり、地域を超えた交流も盛んだったという半島。しかし、近代化に伴い国土開発が進むにつれて経済的発展から置き去りにされ、交流は閉ざされてしまいました。また、島でも都市でもない中途半端さゆえか、実際に住んでいても「半島で暮らしている」という意識を持つ人はほとんどおらず、アイデンティティも希薄な状態です。
そんな半島をあえて面白がるヒントを「半島人」たちに聞いてみよう、そして実際に魅力を感じてみよう。今回のキックオフイベントは、そんな思いを元に企画されました。
会場は、“泊まれる出版社”「真鶴出版」
会場となったのは神奈川県の真鶴半島。川口瞬さんと來住(きし)友美さんご夫婦が営む、ゲストハウス「真鶴出版」の2号店。JR「真鶴」駅から徒歩7分、半島の東側に向かって道をゆっくり下り、真鶴特有の細い路地を進むと、気持ちの良い日差しが明るく差し込む建物がありました。
ご夫婦で出版物をつくりながら、宿も運営しているという一風変わったこの出版社。真鶴の人々の暮らしを丁寧に伝える移住促進パンフレットや、名物の“ひもの”と交換できる引き換え券つきの本『やさしいひもの』の制作など、地域に根ざしたユニークな出版物をつくる一方で、宿泊者向けに街案内をするなどリアルな体験も届けています。これももしかしたら、半島らしい自由な暮らし方なのかもしれません。
開始時間が近づくと、参加者の皆さんが集まってきました。
まずは自己紹介タイム!
まずは、参加者の皆さんの自己紹介タイム。ゆかりのある半島を挙げていただき、地図パネルにピンを立ててもらいました。週末だけ知多半島でキャンプを楽しんでいる方や、いつか移住してみたい方、自身や結婚相手の出身地で縁を感じている方など、様々な形で半島との接点を持つ方が来場されていました。
「日本の輪郭を形作っているのは半島である」
自己紹介が終わり、会場の半島熱が徐々に高まってきたところで、歴史や文化の視点から俯瞰した「半島のあらまし」について、「株式会社アール・ピー・アイ」の岩崎尚子さんにご講演いただきました。国土交通省が推し進める、半島などの条件不利地域の振興に10年も携わって来られた“半島の先生”です。
注目されづらい存在である「半島」を、メディアの運営やイベントの企画などを通して見つめ続けてきた岩崎さん。成り立ちや歴史を紐解きながらおっしゃっていたのは、「日本の輪郭を形作っているのは半島である」ということ。明確な定義がなく、掴みきれない存在だった半島をこう表現されていたのが印象的でした。
岩崎尚子さん(「株式会社アール・ピー・アイ」)
東京生まれ・東京育ち・東京都在住。(財)日本システム開発研究所在籍時代から半島振興事業に携わる。条件不利地域の振興をテーマにしつつ、ヒト・コト・モノ・シクミに関するプランニング、マネジメント支援を行っている。最近は東京都の島にも進出中!
「多様な文化が享受できる暮らし」
岩崎さんのお話のあとは、3人の半島人のトークが続きます。まず登壇されたのは、房総半島で、ライター活動からイベントのプロデュースまで幅広い分野で活躍されている東(ひがし)洋平さん。地域に根付いた歴史や文化を全身で感じ、楽しみながら暮らしている様子が、なんとも自然です。さらにそうした文化や歴史を、同じ半島の端と端や、半島同士で対比できるのも「半島であること」の魅力の一つであると語られていました。
東洋平さん(ライター):房総半島
1984年生まれ千葉市育ち。大学で哲学を学んだのち南房総へ移住。フリーペーパー制作やイベントを開催していたところ館山市観光協会でライターをすることになり、取材や調査から館山・南房総のオリジナリティは「黒潮」の北限域であることを知る。同時に神話時代に阿波から黒潮に乗って安房へ至ったとされる忌部(いんべ)氏に関心を抱く。忌部氏の足跡を辿ると同じ地名が半島に多い。黒潮の文化は海路の道標として半島でつながっていたのかもしれない。これまで無印良品のサイト「ローカルニッポン」で南房総エリアの執筆を担当し、地域発の体験予約サイト「AWANO」で体験プランナーを務め、そのほかイベントのプロデュースや米栽培など新しい働き方を実践中。南房総について書いた記事は150本以上。
「意識しないと来ない場所。だからいい。」
次に登壇されたのは、2015年に東京から真鶴半島に移住し、今回のイベントの会場も提供してくださった、「真鶴出版」の川口瞬さん。普通なら通り過ぎてしまう、意識しないと来ない街・真鶴を選んだ理由は、二つ。町のコミュニティを魅力に感じたことと、街並みを守る条例「美の基準」があったことだそう。「真鶴出版」は、宿泊した人と地域の人との繋がりを作ることで、地域コミュニティの入り口となっているようです。
川口瞬さん(「真鶴出版」):真鶴半島
1987年山口県生まれ。大学在学中に渋谷の本屋兼出版社、SPBSにてインターン。卒業後、IT企業に勤めながら働き方をテーマとしたリトルプレス『WYP』を発行。2015年より神奈川県真鶴町に移住。“泊まれる出版社”「真鶴出版」を立ち上げる。
「地域の資源を“守る”から“生かす”へ」
最後のゲストは、紀伊半島から。地域おこし協力隊として、自給自足の村・和歌山県那智勝浦町色川地区に移住し、茶畑や棚田の管理など地域に密着した活動を行なっている千葉さん。人があまり来ない場所だからこそ、地域ならではの行事や風習が残っていると実感されているそうです。また、そうしたものに触れていく中で、“守る”だけでなく、その先の“生かす”というところまで意識したいと語られていました。
千葉智史さん(色川よろず屋 共同店主、ライター):紀伊半島
1984年、北海道生まれ。編集制作会社での生協のカタログ編集を経て、2015年和歌山県那智勝浦町色川の地域おこし協力隊に。地域活動のサポートをしながら、田んぼ、お茶、畑、狩猟など、地に足ついた暮らしを目指して、緩やかに奮闘中。唯一残る地域商店「色川よろず屋」の共同店主として、都市と農村をイコールでつなげられたらという思いで活動を開始。
半島おやつの時間
4人のゲストのお話が終わったところで、半島おやつ(半島で売られているおやつ)がテーブルに並びました。アジの形をしたかわいい「あじサブレ」や、南房総名産のびわが練りこまれた「プチロール」、津軽半島の「津軽鉄道石炭クッキー」など、いずれも個性派ぞろい。
初めはみなさんそれぞれに自分が暮らす半島の話や、今面白そうな半島の情報交換などをしている様子でしたが、途中で「半島を面白がるための切り口にはどんなものがあるか」や「半島学会員としてこれからどんな活動をしていけるか」といったお題が投げかけられると、自然と全員で一つの輪になり思い思いに意見を出し合う場面も見られました。
第二部は、真鶴の街へ
みんなが打ち解けたあとは、「真鶴出版」の川口さんと來住さんの案内による、街歩きツアーへ出発です。「真鶴出版」さんに宿泊すると、このツアーがもれなくついてくるそうですよ。
「背戸道(せとみち)」と呼ばれる細い路地をすいすい通り抜けて、この街に暮らす人でも見逃してしまいそうないくつもの見所を楽しく紹介してくださいました。
街なかに残る「古井戸」や「木製の電柱」といった昔の名残が感じられるものを、「昭和の忘れもの」と表現されていました。
街で出会う住人の方たちはとても暖かく優しく、思わず「またこの人に会いに真鶴に来たいな」と思わせられる風景も。
真鶴の大きな特徴である、「美の基準」という条例に守られてきた歴史や風景、人々の暮らしを、約1時間半の街歩きを通して体感することができました。
一緒に「半島づきあい」はじめませんか
「半島暮らし学会」は、今回のキックオフイベントを皮切りに、万博やサミットといった半島のキーパーソンや半島に興味のある人同士がリアルな場で繋がることのできるイベントを、定期的に開催していきます。イベントを通して発掘された“半島を面白がる視点”は、オフィシャルサイトにストックされていく予定ですので、そちらもどうぞお楽しみに。
そしてこの記事を読んで、少しでも「半島意識」を刺激された方は、ぜひサイトからご連絡ください。いろんな半島の魅力を一緒に掘り下げてみませんか。
※4人の半島人(岩崎尚子さん、東洋平さん、川口瞬さん、千葉智史さん)のトーク内容は、別記事にて詳細なレポートを公開予定です。