人と人、地域をつなぐ架け橋に
「里山ホテル ときわ路」は、「国民年金保養センター」だった建物をリノベーションして造られた、茨城県常陸太田市の里山の中にあるホテルだ。ここは里山にある自然や暮らしの恵みを編集して常陸太田から世界へ里山の魅力を伝えるライフスタイルホテルである。
そんな「里山ホテル ときわ路」で受付などの一般的なホテル業務をこなしつつ、広報の仕事も幅広く行うという石川さん。広報の仕事とはどのような事を行うのだろうか?
『現在ホテルは、正社員9名とパートさんで運営しています。私は受付などの接客業務も行いますが、広報や商品開発も担当していまして、取材の対応や地元の農家さんと連携をして宿泊プランを作ったり、地元で面白いことをしている人とイベントの企画などをしています。』
「里山ホテル ときわ路」では、スタッフ一人一人に「役職名」ではなく「係名」が与えられているのが特長のひとつだ。スタッフの得意な分野や役割を、農作物の成長の過程を連想して名付けられるという。石川さんの係名は「つなげる係」だ。
『私は地域おこし協力隊として茨城県常陸太田市の里美地区(旧・里美村)に移住しました。その時に「ルリエ」というチーム名で、地域と地域、人と人をつなぐことをコンセプトに活動していました。「ルリエ」はフランス語で「つなぐ」という意味で、地域おこし協力隊時代の想いを引き継いで人や地域をつなぐお手伝いをして働きたいな、と思いまして、そう名付けてもらいました。』
そのほかにはどんな係名があるのか石川さんに伺ってみた。
『蕾・花・果実を増やし、大きく育てる為に摘果作業を行うことをイメージして、業務全体の効率化を図る「摘果(てきか)係」やアイディアを綺麗に咲かせて実現させる「咲かせる係」、星空案内人の資格を持つスタッフには「照らす係」など、係名を見るだけでも面白いですし、お客様との会話のきっかけにもなっています。』
人と自然が支え合う里山の暮らし
ほかのホテルとは一線を画すユニークな視点でスタッフィングを行い、独自の視点で里山の魅力を発信しながら多くのお客様を魅了している同ホテル。「里山3.0」という里山との新しい関わり方についても提案している。
『自給自足が原点である昔ながらの里山での共生的な暮らし方が「里山1.0」、活用が減りコストセンターとして里山を保護・保全している現代的な在り方が「里山2.0」になります。そして「里山3.0」はそれよりももう一歩先にあるもの。里山にある自然を活かして、現代だからこそ実現できる人の営みと自然の生態がともに支えあう生き方。人と自然の共存共栄をテーマにしています。当ホテルはそんな「里山3.0」の考え方を基盤として、この地での暮らしの機微を垣間見る「里山体験」の提供に注力しています。』
スタッフの趣味や特技、地域とのつながりを活かした数々のユニークな宿泊プランも「里山体験」を提供する一環。同ホテルの人気の秘密だ。
『お客さまに薪割りをして頂くと宿泊料が割引になる「薪割り割プラン」や、木の実やどんぐり、ぶどうの枝をつかったオーナメントづくりが楽しめる「森のワークショップ」が人気ですね。館内のディスプレイや各部屋のキーアクセサリーも、近くのブドウ園から頂いたブドウの枝を使って作ったものなんですよ。』
『そのほか、里山ホテルの創業者と、里山ホテルに関わるスタッフの誕生日を、ご宿泊の皆様に祝ってもらい割引になる、ちょっと変わった「誕生日割?!」もあります(笑)スタッフが増えれば増えるほど対象日が多くなりますね!(笑)里山ホテルらしい、みんなが楽しめるプランをこれからも考えていきたいと思っています。』
地元愛が移住の後押しに
現在、「里山ホテル ときわ路」で広報や宿泊プランの発案など日々奮闘をしている石川さん。実家はつくば市で学生時代は、東京都内に住んでいたそうだ。常陸太田市と直接関係のない彼女がなぜ移住を決めたのだろうか?
『もともと就職して茨城に戻ってこようと思っていました。就職活動は県内の企業を中心に、実家のつくば市から都内の会社に通う選択肢も含めて探していました。ところがなかなか希望するような会社が見つからなくて…。その時に地域おこし協力隊の募集を見つけまして、なんか面白そう!って。私の通っていた大学とフィールドワークの授業で連携が取れていて、大学のバックアップもあって移住を決断しました。』
『赴任地である里美地区に移住して3年間活動しました。私の主な仕事は情報発信で、地域の魅力や情報をブログやフェイスブックなどのSNSで発信したり、紙媒体にして配布して広報活動を行っていました。その時のつながりで茨城大学の学生とも連携が出来るようになり、学園祭で里美地区の物産をPRして頂いたりもしましたね。3年間の活動を続けるうちに大変多くの人にお世話になりましたし、里美地区を居心地良く感じていました。
▲地域おこし協力隊として活動中の頃。「ルリエ」メンバーとの1枚
その後、地域おこし協力隊時代の仲間の知り合いの紹介でこのホテルの仕事に偶然たどり着いたんです。里山ホテルは活動した里美地区の雰囲気にも似ていて、里山の知恵に触れることがでます。さらに、お世話になってきた人とこれからも関わることができる点も、常陸太田市内で就職した理由の一つです。』
地域にゆかりはないが移住を考えている方へ、ご自身の体験を踏まえてアドバイスもいただいた。
『移住を考えている方は、まず自分がどういう生き方がしたいのか?どういう暮らしがしたいのか?をしっかりと考えるのが大事です。自分に田舎暮らしが向いているのか。都会暮らしが向いているのか。そして実際に、現地に足を何度も運んでみる。田舎暮らしへの漠然とした憧れを抱いているだけでは実際移住してからギャップがあると思うので、体験ツアーなどで現地の人と実際に交流してみるのもオススメです。』
地元の人と一緒につくることに意味がある
「里山ホテル」は常陸太田市の活性化のため里山での暮らしの魅力を発信しながら、地域との連携に取り組んでいる。現在も地域密着型のユニークな宿泊プランを計画中だ。
『これまでに地元の人と共に作ったプランもあります。地元の鉢物農家と一緒につくった、母の日を祝う宿泊プランはお客様から好評でした。また、常陸太田市には「水府コイノボリプロジェクト(SCOI(スコイ))」というグループがありまして、毎年5月に竜神大吊橋で開催される「竜神峡こいのぼりまつり」で使用されたこいのぼりの中で、破れたり処分されたりしてしまうものを再利用し、こいのぼりの頭からシッポまでをアートにしよう!と活動されています。そのこいのぼりの生地を分けていただき、里山ホテルでもオリジナルエコバッグ作りのワークショッププランを作りました。正解がなく自由に作るので初めは戸惑っている方が多かったですが、作りはじめると皆さん夢中になって、小さなお子様から大人まで幅広く楽しんでいただくことが出来ました。』
協力が得られたおかげで、このプランは県内外への訴求効果が高く、参加者が非常に多かったという。
▲水府コイノボリプロジェクトでエコバッグを作成
『地元の人たちと宿泊プランを作る時には、地域の人たちの声に積極的に耳を傾け、地域のコミュニティを尊重しつつ慎重に話を進めることが、とても重要なポイントなんです。』
そんな石川さんの根底にあるのは、やはり協力隊時代に気付いた「里山の魅力」だ。 『地域おこし協力隊時代とは違った形ですが、今は里山ホテル ときわ路」からユニークな宿泊プランを発信するということが、同じ里山の魅力を伝えることになれば嬉しいです。』
石川さんをはじめとするホテルのスタッフ、地域の人の協力体制から「里山ホテル ときわ路」は、皆が気軽に来ることができる場所、良い思い出を作って帰ることができる場所として着実に地域に浸透している。
食の宝庫、常陸太田
「里山ホテル」がある常陸太田市は、山と緑に囲まれた穏やかな自然が自慢のまちだ。常陸秋そばは大変人気で、ブドウ、りんごなどの栽培も行われ、年間を通して食材に恵まれている。竜神大吊橋、里美牧場などの観光スポットも人気だ。また、旧市街地の鯨ケ丘商店街はレトロな街並みが残されており、古い蔵や建物を利用したギャラリーや駄菓子屋、カフェ、レストランなどがオープンし新たな魅力が賑わいを呼んでいる。
石川さんは、『常陸太田市は古き良き里山の自然があり田舎暮らしが楽しめる場所です。住む人は優しい方が多いですし、食べ物も水も空気も美味しいです。ちょっと足を伸ばせば海もありますし、買い物をする場所もあります。もちろん都会と比べれば不便と感じる部分もあると思いますが、近所付き合いがしっかり残っていて、娘のように可愛がってくれる地域の方がたくさんいる安心感があります。それは私にとってスーパーが近くにあるよりも価値のあることだと感じています。』と常陸太田市の魅力について語る。
常陸太田市に実際に来て、街を肌で感じ取ってみることが、常陸太田市の良さを感じることができる近道になるに違いない。是非一度、里山の街常陸太田市に足を運んでみてはいかがだろう。